異世界は流されるままに

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
174 / 190
第8章:春、急カーブと思っていたらまさかのクランク

第9話:どうも腑に落ちないレイ

しおりを挟む
 レイはライナス一家のところで一泊することになっていました。普通なら授爵を記念するパーティーがあるはずですが、レイの授爵は急すぎて、パーティーまでは行われないことになったのです。
 レイとしても、そのほうがありがたかったようですね。もしかしたら国王が配慮してくれたのではと思ったようですが、普通なら授爵記念パーティーは盛大に行われます。パーティーをしないことは珍しいんです。

「レイ、よかったな」
「授爵、おめでとう」
「おめでとうございます」
「ありがとう。兄さんも義姉ねえさんもおめでとうございます」
「ああ。ありがとうな。これはレイのおかげだ」

 ハリエットはあれからすぐに第三子を妊娠しました。お腹はかなり目立っています。

「レイ、どうかしたのか?」

 そのハリエットのお腹を見るレイの表情に何かを感じたのでしょう、ライナスは気を遣うように問いかけました。

「どう言ったらいいのか、貴族の心構えをハンクス侯爵から教えられまして……」

 レイは素直に答えることにしました。結婚と子作りを急かされたと。罰則はないものの、急がないと困ることになるぞと。それを聞いたライナスとハリエットは首をかしげました。

「それが問題なの?」
「いえ、問題ではないんですよね。嫌なわけでもないんです。ただ、自分としては、独り立ちして一年ちょっとですし、まだ早いかなと」
「早くはないと思うわよ」

 悩む理由がわからないとハリエットは言います。ちょうどいい相手がいて、結婚に障害がないのなら、結婚するのが貴族の家に生まれた者にとっては常識だからです。
 もちろん好き嫌いはあるでしょう。ライナスもハリエットも成人前から何人かとお見合いをしました。しかし、長男でない彼には嫁ぎたがらない女性が多く、長男でなくてもいいという女性の中でハリエットが選ばれました。二人の恋愛はそこから始まりました。
 そのような話を聞いたレイは、自分の考えをどう説明すればいいかわかりません。レイには社会人は三年働いて一人前という、就職当時に聞いた考えが染み付いています。現実には入社半年で転職した同期が転職先で成功しましたので、成功する人は成功するし、しない人はしないとわかっています。それでも、次々と仕事を変えるのはレイには無理でした。
 彼は自分の考えがこの世界では通用しないとわかっています。しかし、そう簡単には考えは変わりません。普通に冒険者を続けるつもりだったので、代官を頼まれた際も少し悩んだくらいなのです。領主については代官の延長というくらいで割り切って考えました。しかし、そこに結婚と子供の話が飛び込んできたのです。

「俺からすると、お前は考えすぎだと思うぞ。恋人たちは嫌がっていないだろ?」
「みんなは早くてもいいと思ってますね」

 レイの頭には「いつでもどうぞ」と言いながらバンバンとお腹を叩くラケルの姿が浮かびました。

「宰相の言葉じゃないが、無理やり押し込まれたくないなら今の恋人たちと結婚すればいいだけだろう。まだ遊んでいたいというなら話は別だが」
「そういうわけでもないんですよね。自分の覚悟の問題だとは分かってるんですねど」

 まだまだ遊びたいから結婚したくないという独身貴族のようなことは言いません。

「覚悟なんてしてもしなくても同じだと思うぞ。どうせ結婚するなら早い方がいい。遅くていいことなんて一つもないはずだ。あとは領民がどう思うかだな。まだゼロだとは思うが」
「領民集めはこれからですね。集まってくれるかどうか」

 それを聞いてライナスはうなずきました。

「なかなか結婚しない領主と、たくさんの妻を持っている領主。どちらが安心して暮らせる町を作るかと考えたら、俺は後者だと思うぞ。しかも、妻たちがみんな仲がいいとなれば、揉め事も少ないだろうしな」

 貴族の正室と側室の仲がいいというのは珍しいことです。妻たちから見れば、勝者と敗者だからです。ところが、レイのところはパーティーがそのまま家族になるわけで、仲がいいのです。レイの中ではシーヴが一番なのですが、全員を大切に思っているのは間違いありません。
 貴族ではありませんが、レックスのところも同じですね。アンナとリリーの女性二人組にレックスが加わりました。レックスに助けられたステイシーとレイラがそこに加わりました。
 一つ言えることは、レイもレックスもお人好しで、集まるメンバーもお人好しが多いということです。これで他を蹴落としてリーダーの愛情を独り占めしようと考える女性がいたら、おそらく事情は変わっていたでしょう。レイやレックスなら、そのような相手には手を出さないでしょうが。
 レイは今の自分の状況が理想的だとわかりました。ライナスの言葉はストレートなだけに、どことなく納得しきれていなかったレイにしっかりと届きました。

「戻ってからみんなと話をすることにします」
「ああ、遅くていいことはないが、焦ってもいいことがないだろうからな。話をした感じではみんな真面目そうだったから問題ないだろう」
「ええ。素晴らしい恋人ばかりですよ」

 それは本心からの言葉でした。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...