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第6章:夏から秋、悠々自適
第14話:豊胸大作戦
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「やっぱり胸です?」
「いや、納品だから」
本日の夕方、レイは白鷺亭へ納品に出かけていました。自前でパンダを解体するようになり、肉が余るようになったからです。そして、白鷺亭に行くということは、マルタと顔を合わせることを意味します。ラケルはマルタと仲が悪いわけではありませんが、常にあの大きな胸を羨ましがっています。
それともう一つ、ラケルは鼻が利きます。マルタがレイに抱きついていたことがわかってしまうのです。
「レイ、どうせならお店でバストアップ用の薬とかグッズとか売り出したら?」
「いや、バストアップ用っていっても……」
レイはバストアップ用のグッズも薬もまだないと言いかけましたが、前にはなかった豊胸薬という薬が頭の中に浮かびました。
「豊胸薬というのが作れるようになった」
その瞬間、パーティーの一部がざわつきました。
「旦那様」
「ご主人さま」
バストアップと聞いてシャロンとラケルが動きます。
「胸は大小どちらが理想ですか?」
「大です? 小です?」
「究極の選択はやめてくれ。サイズにこだわりはないって」
「それでも小さいよりは大きいほうがお好みですよね?」
「そりゃどちらか選べと言われればな」
そう言いながらレイは、シャロンの控えめな胸に目をやります。
「薬といっても、体質を改善するだけのものだからな」
その豊胸薬の成分を調べてみると、結局は女性ホルモンの分泌を促進し、必要によっては補い、さらに美容成分を配合したものです。血行促進効果もあります。
そもそも、乳房は脂肪と乳腺でできています。脂肪を増やさなければ胸は膨らみません。その胸を支えるのが靱帯と筋肉です。だから胸を大きくするには、まず上半身に筋肉をつける必要があります。
この世界には様々な薬がありますが、サプリというものはありません。薬事法もありませんので、体に対して何か効き目があるものはすべて薬と呼ばれます。
「それですと、しっかりと食べて運動すれば、胸は大きくなりやすいということですか?」
「大雑把に言うとそうだな。一応それに向いた栄養を補える薬ということになる」
「お願いします」
さっそくシャロンは腕立て伏せを始めました。その隣でラケルも同じように筋トレをしています。巨大な盾とウォーハンマーをブンブンと振り回すラケルに筋トレをする意味があるのかどうかは分かりませんが、少しでも効果があってほしいと祈るレイでした。
「どこまで効き目があるのか分からないぞ」
「それでもかまいません」
「大丈夫です」
シャロンとラケルは目を輝かせています。その期待に応えたいレイですが、薬というかサプリのような豊胸薬にどこまで効果があるのかは疑問です。
「サンドフロッグの舌、ホーンラビットの角、スピアーバードの肝臓、グレーターパンダの膵臓……」
「ねえ、それって精力剤じゃないの?」
「一部は共通だな」
体を整えるという点ではどれもこれも似通っています。豊胸剤に使う素材は、一部が精力剤と共通です。
「胸は乳腺と脂肪だ。そこを大きくするには脂肪を増やすしかない。そうすると他の部分にも脂肪が付く。胸だけ大きくするのはなかなか難しい」
「「「他の部分……」」」
「だからその下にある筋肉と靱帯にしっかり胸を支えさせることで、より大きく見せることができる」
薬やサプリだけで胸を大きくしようというのは最初から不可能な話で、そのための土台作りこそが大切です。胸にだけ脂肪を付けることは不可能です。胸にも脂肪が付きます。他は運動で落とすしかありません。
「私も手伝いますね」
「助かる」
パーティーで【調合】スキルを持つのは、レイとシーヴとシャロンの三人です。スキルがなくてもスクリは作れますが、同じ薬を作るにしても、【調合】持ちのほうが効果の高い薬が作れます。
サラとケイトが素材の重さを量って分けていきます。レイはシーヴと並んで、いつものように乳鉢で潰していきます。潰した素材を鍋に入れながら、レイは「あっ」と口にしました。
「どうしたんですか?」
「いや、体力回復薬と違って、濃すぎたら体に悪いんじゃないかって思ったんだ」
「今さらの気もしますが」
「そうそう、今さらだよ。媚薬だって大丈夫だったんだし、ひどくても鼻血くらいで済むんじゃない?」
日本と違って、この世界の人の体はかなり丈夫になっています。
「それで、器具ってどんなのがあるんだ? プッシュアップバーなら作れると思うけど」
「直径か四〇センチくらいかなあ、ピラティスサークルとかシェイプアップリングとか呼ばれるのがあったよ。それを両手で押したり、太ももに挟んだりして鍛えるんだけど」
サラは両手で使い方を示しながら説明します。
「素材がなあ。適度な反発力があって壊れにくいって……なんかあるか?」
ピラティスサークルには直径四〇センチほどのリング状の器具で、素材としては繊維強化プラスチック(FRP)がよく使われます。それに変わる素材はなかなかありません。
「レイ、ハードアルマジロの甲皮はどうですか?」
「ああ、あれか。硬さ的にはちょうどいいかもしれないな。直径四〇くらいなら、円周が一二〇か。それだけあるか?」
「今日の個体ならあると思いますよ」
ハードアルマジロは硬いのです。加工してレザーアーマーの素材として使われます。レイの鎧は最初から使っているハードアルマジロの甲皮を金属で補強したものです。
レイはハードアルマジロの甲皮を取り出しました。一番大きな部分で、一五〇センチはありそうです。
「でも、これだけじゃ持ちにくいよな」
試しに幅三センチ、長さ一五〇センチを切り出してみました。それをリング状にして仮固定したものの、どうも不安定で使い心地が悪そうです。
「細いのをたくさん束ねたらどうなりそう?」
「束ねるというか、より合わせたらいいかもしれないな」
細く切ったハードアルマジロの甲皮がバラバラにならないように、編み込むようにして束ねていきます。弾力がある素材に苦労しましたが、なんとか直径四〇センチほどの弾力のある輪っかができました。
「どこかで見たな、この形」
「お正月の輪飾りじゃない?」
「ああ、あれか。これはちょっと大きいけどな」
しめ飾りには、地域によって、かける場所によって形がいろいろあります。ここにあるのは輪飾りという、まん丸に近い形のものです。
「おめでたい感じはなくなるけど、これを巻くよ」
「ああ、そっちは頼む」
サラが手触りをよくするために、サンドフロッグの皮を巻くようにして縫っていきます。
「どうだ?」
サラは手に持って押したり引いたりしています。
「う~ん、ほどよい感じ?」
「ほどよいというのは?」
「普通の人ならいいと思うんだけど、たぶん私たちが使ったら壊れると思う」
「……そうだったな」
このパーティーは全員が上級ジョブです。サラやケイトは当然のこと、シーヴでもかなり腕力があります。パーティー内では腕力がないほうというだけです。シャロンは戦いには向いていませんが、メイド超という上級ジョブですので、やはり力そのものはあります。掃除には筋力が必要ですからね。
「こういうのもありますよってサンプルにしたらいいんじゃない?」
「そうだな。それなら……重い素材でプッシュアップバーみたいなダンベルでも作るか」
「鉄ですか?」
「いや、金だ」
レイが手に入れることにできる素材で一番重いのが金です。ゴールドゴーレムだったニコルの体がそのまま残してあります。
「ニコル。こういう形にしてくれるか?」
ペカ
ニコルはかつての自分の体を使ってゴールドゴーレムになると、両手の先を巨大なダンベルの形にして切り離しました。
「おお、なかなか重いな」
「どれどれ。なかなかいい感じですね。ものすごく贅沢なダンベルですけど」
金貨と同じ成分です。鉄の倍以上の重さがあります。
そんなこんなで、成功することも失敗することもありますが、家があるので、人目を気にせずにいろいろと試すことができるんです。
◆◆◆
「あれ? ランクが上がった」
「どれの?」
「薬剤師ギルド。いつの間にかBだった。いつ上がったんだ?」
素材の売却時にちらっと見るくらいで、書かれている内容まで目を通すことがほとんどなくなりました。
「私は変わってないね」
「私は……薬剤師ギルドがCになりましたね」
「わたくしは冒険者ギルドがCになりましたわ」
「私はレベルが四、冒険者ギルドがC、薬剤ギルドがDになったようです」
冒険者としてのレベルですが、これは全員が四になっています。
冒険者ギルドのランクは、レイがC、サラがC、シーヴがB、ラケルがC、ケイトがC、シャロンがC。薬剤師ギルドは、レイがB、サラがC、シーヴがC、ラケルがD、ケイトがE、シャロンがDになりました。商人ギルドは全員がIのままです。使っていませんからね。
「いや、納品だから」
本日の夕方、レイは白鷺亭へ納品に出かけていました。自前でパンダを解体するようになり、肉が余るようになったからです。そして、白鷺亭に行くということは、マルタと顔を合わせることを意味します。ラケルはマルタと仲が悪いわけではありませんが、常にあの大きな胸を羨ましがっています。
それともう一つ、ラケルは鼻が利きます。マルタがレイに抱きついていたことがわかってしまうのです。
「レイ、どうせならお店でバストアップ用の薬とかグッズとか売り出したら?」
「いや、バストアップ用っていっても……」
レイはバストアップ用のグッズも薬もまだないと言いかけましたが、前にはなかった豊胸薬という薬が頭の中に浮かびました。
「豊胸薬というのが作れるようになった」
その瞬間、パーティーの一部がざわつきました。
「旦那様」
「ご主人さま」
バストアップと聞いてシャロンとラケルが動きます。
「胸は大小どちらが理想ですか?」
「大です? 小です?」
「究極の選択はやめてくれ。サイズにこだわりはないって」
「それでも小さいよりは大きいほうがお好みですよね?」
「そりゃどちらか選べと言われればな」
そう言いながらレイは、シャロンの控えめな胸に目をやります。
「薬といっても、体質を改善するだけのものだからな」
その豊胸薬の成分を調べてみると、結局は女性ホルモンの分泌を促進し、必要によっては補い、さらに美容成分を配合したものです。血行促進効果もあります。
そもそも、乳房は脂肪と乳腺でできています。脂肪を増やさなければ胸は膨らみません。その胸を支えるのが靱帯と筋肉です。だから胸を大きくするには、まず上半身に筋肉をつける必要があります。
この世界には様々な薬がありますが、サプリというものはありません。薬事法もありませんので、体に対して何か効き目があるものはすべて薬と呼ばれます。
「それですと、しっかりと食べて運動すれば、胸は大きくなりやすいということですか?」
「大雑把に言うとそうだな。一応それに向いた栄養を補える薬ということになる」
「お願いします」
さっそくシャロンは腕立て伏せを始めました。その隣でラケルも同じように筋トレをしています。巨大な盾とウォーハンマーをブンブンと振り回すラケルに筋トレをする意味があるのかどうかは分かりませんが、少しでも効果があってほしいと祈るレイでした。
「どこまで効き目があるのか分からないぞ」
「それでもかまいません」
「大丈夫です」
シャロンとラケルは目を輝かせています。その期待に応えたいレイですが、薬というかサプリのような豊胸薬にどこまで効果があるのかは疑問です。
「サンドフロッグの舌、ホーンラビットの角、スピアーバードの肝臓、グレーターパンダの膵臓……」
「ねえ、それって精力剤じゃないの?」
「一部は共通だな」
体を整えるという点ではどれもこれも似通っています。豊胸剤に使う素材は、一部が精力剤と共通です。
「胸は乳腺と脂肪だ。そこを大きくするには脂肪を増やすしかない。そうすると他の部分にも脂肪が付く。胸だけ大きくするのはなかなか難しい」
「「「他の部分……」」」
「だからその下にある筋肉と靱帯にしっかり胸を支えさせることで、より大きく見せることができる」
薬やサプリだけで胸を大きくしようというのは最初から不可能な話で、そのための土台作りこそが大切です。胸にだけ脂肪を付けることは不可能です。胸にも脂肪が付きます。他は運動で落とすしかありません。
「私も手伝いますね」
「助かる」
パーティーで【調合】スキルを持つのは、レイとシーヴとシャロンの三人です。スキルがなくてもスクリは作れますが、同じ薬を作るにしても、【調合】持ちのほうが効果の高い薬が作れます。
サラとケイトが素材の重さを量って分けていきます。レイはシーヴと並んで、いつものように乳鉢で潰していきます。潰した素材を鍋に入れながら、レイは「あっ」と口にしました。
「どうしたんですか?」
「いや、体力回復薬と違って、濃すぎたら体に悪いんじゃないかって思ったんだ」
「今さらの気もしますが」
「そうそう、今さらだよ。媚薬だって大丈夫だったんだし、ひどくても鼻血くらいで済むんじゃない?」
日本と違って、この世界の人の体はかなり丈夫になっています。
「それで、器具ってどんなのがあるんだ? プッシュアップバーなら作れると思うけど」
「直径か四〇センチくらいかなあ、ピラティスサークルとかシェイプアップリングとか呼ばれるのがあったよ。それを両手で押したり、太ももに挟んだりして鍛えるんだけど」
サラは両手で使い方を示しながら説明します。
「素材がなあ。適度な反発力があって壊れにくいって……なんかあるか?」
ピラティスサークルには直径四〇センチほどのリング状の器具で、素材としては繊維強化プラスチック(FRP)がよく使われます。それに変わる素材はなかなかありません。
「レイ、ハードアルマジロの甲皮はどうですか?」
「ああ、あれか。硬さ的にはちょうどいいかもしれないな。直径四〇くらいなら、円周が一二〇か。それだけあるか?」
「今日の個体ならあると思いますよ」
ハードアルマジロは硬いのです。加工してレザーアーマーの素材として使われます。レイの鎧は最初から使っているハードアルマジロの甲皮を金属で補強したものです。
レイはハードアルマジロの甲皮を取り出しました。一番大きな部分で、一五〇センチはありそうです。
「でも、これだけじゃ持ちにくいよな」
試しに幅三センチ、長さ一五〇センチを切り出してみました。それをリング状にして仮固定したものの、どうも不安定で使い心地が悪そうです。
「細いのをたくさん束ねたらどうなりそう?」
「束ねるというか、より合わせたらいいかもしれないな」
細く切ったハードアルマジロの甲皮がバラバラにならないように、編み込むようにして束ねていきます。弾力がある素材に苦労しましたが、なんとか直径四〇センチほどの弾力のある輪っかができました。
「どこかで見たな、この形」
「お正月の輪飾りじゃない?」
「ああ、あれか。これはちょっと大きいけどな」
しめ飾りには、地域によって、かける場所によって形がいろいろあります。ここにあるのは輪飾りという、まん丸に近い形のものです。
「おめでたい感じはなくなるけど、これを巻くよ」
「ああ、そっちは頼む」
サラが手触りをよくするために、サンドフロッグの皮を巻くようにして縫っていきます。
「どうだ?」
サラは手に持って押したり引いたりしています。
「う~ん、ほどよい感じ?」
「ほどよいというのは?」
「普通の人ならいいと思うんだけど、たぶん私たちが使ったら壊れると思う」
「……そうだったな」
このパーティーは全員が上級ジョブです。サラやケイトは当然のこと、シーヴでもかなり腕力があります。パーティー内では腕力がないほうというだけです。シャロンは戦いには向いていませんが、メイド超という上級ジョブですので、やはり力そのものはあります。掃除には筋力が必要ですからね。
「こういうのもありますよってサンプルにしたらいいんじゃない?」
「そうだな。それなら……重い素材でプッシュアップバーみたいなダンベルでも作るか」
「鉄ですか?」
「いや、金だ」
レイが手に入れることにできる素材で一番重いのが金です。ゴールドゴーレムだったニコルの体がそのまま残してあります。
「ニコル。こういう形にしてくれるか?」
ペカ
ニコルはかつての自分の体を使ってゴールドゴーレムになると、両手の先を巨大なダンベルの形にして切り離しました。
「おお、なかなか重いな」
「どれどれ。なかなかいい感じですね。ものすごく贅沢なダンベルですけど」
金貨と同じ成分です。鉄の倍以上の重さがあります。
そんなこんなで、成功することも失敗することもありますが、家があるので、人目を気にせずにいろいろと試すことができるんです。
◆◆◆
「あれ? ランクが上がった」
「どれの?」
「薬剤師ギルド。いつの間にかBだった。いつ上がったんだ?」
素材の売却時にちらっと見るくらいで、書かれている内容まで目を通すことがほとんどなくなりました。
「私は変わってないね」
「私は……薬剤師ギルドがCになりましたね」
「わたくしは冒険者ギルドがCになりましたわ」
「私はレベルが四、冒険者ギルドがC、薬剤ギルドがDになったようです」
冒険者としてのレベルですが、これは全員が四になっています。
冒険者ギルドのランクは、レイがC、サラがC、シーヴがB、ラケルがC、ケイトがC、シャロンがC。薬剤師ギルドは、レイがB、サラがC、シーヴがC、ラケルがD、ケイトがE、シャロンがDになりました。商人ギルドは全員がIのままです。使っていませんからね。
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