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第2章:冬、活動開始と旅立ち
第15話:戦略的撤退と日和見主義
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「それじゃ、乾杯!」
「「乾杯」」
三人がそろったところで、レイはエール、向かいにいるサラとシーヴはミードで乾杯をしました。乾杯が終わると、すぐにサラがシーヴに向かって前のめりになります。
「今さらだけどさ、シーヴさんから見て、私たちって冒険者としてどう?」
「どう?」という非常に曖昧な聞き方をされ、シーヴは少し考えます。
「そうですね。冒険者としては非常に優秀なお二人だとは思いますけど、レイさんの話し方は丁寧すぎる気がしますね」
「丁寧すぎですか」
「冒険者の基準からすると、ですが」
シーヴは冒険者として、あるいは冒険者ギルドの職員として、これまで多くの男性を見てきましたが。この世界の男性は、おおむね大雑把な話し方をするものです。
もちろんこの国には王族・貴族・平民・奴隷という身分制度があります。もちろん〝切り捨て御免〟のような横暴は認められていませんが、上下関係は場合によっては極端に厳しくなります。それでも平民同士での会話では、年齢に関係なくほとんどがタメ口です。サラの話し方がわりと普通ということになります。
レイは貴族の息子なので、話し方がどうしても貴族のそれになってしまいますが、場合によってはかなり偉そうに思われることもあります。
シーヴがそう説明すると、みるみるうちにレイのテンションが下がっていきます。
「偉そう……」
「あ、いえ、やりすぎるとそう受け取られることもあるということです。サラさんと話しているくらいでちょうどいいですよ」
ショックを受けたレイを見て、慌ててシーヴがフォローをしました。
丁寧な言葉遣いが悪いわけではありませんが、丁寧すぎると慇懃無礼に思えます。王族や貴族、豪商相手でなければ、もっとくだけた話し方で大丈夫だと。
ギルド職員のシーヴと話をしているとおかしく聞こえないかもしれませんが、レイの話し方は冒険者としては珍しいくらい丁寧で、育ちがいいのが丸わかりです。それはダニールも言っていましたね。
「口調なあ……」
「はい。周りにいる人がみんなサラさんだと思えば、自然とくだけた話し方になりませんか?」
「周りがみんなサラ?」
「この世界が私だらけ。サラの惑星」
さすがにそれは嫌だなとレイは思ってしまいました。誰も彼もがノリと勢いだけで生きていそうです。
「でも口調を変えるんならさあ、みんなでラフな話し方にしない?」
「みんなでか?」
「そう。呼びかけくらい楽にしていいと思うんだけど。特に今は旅の途中だし」
ここには冒険者ギルドの上司も同僚もいません。ざっくばらんでいいのではないかとサラが提案しました。そしてシーヴに耳打ちをしました。シーヴはそれを聞いてうなずいています。
「それもそうですね。仕事が始まるまでは楽に呼び合いましょうか」
「それじゃ私はシーヴって呼ぶから。レイもそう呼んだら?」
「それでは私はお二人をレイ、サラと呼びますね。レイも私にもっと楽に話しかけてください」
「わかった」
年上の女性を呼び捨てにするのには抵抗がありますが、そこまで言われたらレイとしてもこれまでと同じような話し方はできません。
「それなら……シーヴ」
「はい、ダーリン♪」
「ゲホッ」
思わぬ一言にレイが咳き込み、サラが大笑いしました。
「あ~、おかしかった~。でもホントに言うとは思わなかったよ」
「私だってたまには冗談くらい口にしますよ」
先ほどサラが耳打ちしたのはこのことだったようですね。そのシーヴは、普段はすました顔をしていますが、今は珍しく笑っています。ギルド職員はなかなか大変ですからね。ストレス発散も必要でしょう。
「あ、そうそう。樽のお風呂を用意してるんだけど、シーヴもよかったら入る? ここはお風呂はないみたいだから」
桶に入れた水とタオルで体を拭くだけの風呂場は用意されていますが、使えるのは水だけです。お湯は別料金になっています。
「え、いいんですか?」
「もちろん。魔法の練習も兼ねて用意したやつだから」
サラのマジックバッグはそこまで大きくありませんので、野営で使う道具や食料品、そして万が一の事態に備えて、水の入った樽が一つ入っているだけです。
レイのほうは余裕があるので、何かしら使い道はあるだろうと、大小様々な大きさの樽に水とお湯、その他にも食材などを入れています。
「二人がよければ喜んで使わせてもらいます」
「そうそう、みんなで裸の付き合い」
「いや、俺は部屋にいないからな」
さすがにシーヴが風呂に入っているのに自分がそこにいるのは問題がありそうなので、レイは風呂の用意をしたら酒場にいようと思っていました。
「いても大丈夫じゃない? ヘタレだから」
「ヘタレって言うなよ」
そうは言いますが、実際にレイはヘタレに近いですよ。そのことは自分でもわかっています。
「でもこんな美少女とずっと一緒だったのに一度も手を出さなかったでしょ?」
サラは「にしし」と笑いながらレイを茶化します。それを見たシーヴは不思議そうな顔をしました。
「あの、お二人はそういう関係ではなかったんですか?」
「う~ん、どっちかっていうと、レイの好みは私みたいな可愛い系美少女じゃなくて綺麗なお姉さんなんで」
もちろんレイはサラが嫌いではありませんが、サラは彼のタイプではありません。面と向かってそれをサラに言ったことはありませんが、長年の付き合いから、サラにはそれがわかっていました。
「シーヴなんて、もろタイプでしょ?」
「言うなよ」
「でも好みのタイプの女性を前にすると緊張して余計に丁寧になるんだよね」
「だからバラすなって!」
二人の言い合いを聞いていたシーヴは、どこか腑に落ちた顔をしました。
「レイの話し方が私とサラ相手で違うのはそういうことだったんですね」
「まあレイは年上に対しては身分に関係なく丁寧だから、半分はそうってことかな。執事のブライアンさんは、レイと話をすると背筋が伸びる思いがするって言ってたね」
「サラと話をするのに丁寧な言葉遣いをしても意味がないからな」
レイの記憶が戻って以降、屋敷の中は別として、サラはレイを相手にかなりくだけた言葉遣いをするようになりました。
一方で、レイは貴族の息子として教育を受けていますので、外に向かってあまり雑な話し方はできません。できるのはサラを相手にしたときくらいのものです。
「それならレイ、私がタイプなら、一緒に寝ませんか?」
「ブフッ!」
予想もしていなかった方向からの攻撃に、レイは思わず吹き出します。口の中のエールを飲み込んだ直後だからよかったものの、もう少し早ければ危なかったですね。正面のサラが。
「あ、それいいかも。一人部屋って楽しみ。何しようかな~」
「もう決まりか? ていうかシーヴだって冗談だろうし」
「いえ、必ずしも冗談というわけでは。ギルドで会ってからまだ一か月半ほどですけど、好ましい男性だと思っていますよ」
「……それはどうも」
レイは頬のあたりをぽりぽりと掻くしかありません。
「ただ、私はオグデンのギルドで仕事がありますので、いずれお二人とはお別れになるでしょう」
「そっか~、オグデンでお別れだよね。しばらくはオグデンにいても、いずれは王都にも行きたいしなあ」
「でしょう? ですからレイとは一夜限りの関係くらいがちょうどいいんです。実際にはあと六日もありますので、その間だけでも男女の仲を楽しみましょうか」
「生々しすぎるから、それ以上はやめてくれ」
どうやらレイは冗談を口にするシーヴに弱いようでした。
◆◆◆
「あ~~~、これはいいですね~~~」
「いいでしょ?」
サラとシーヴがそれぞれ樽風呂に入っています。普段はキリッとしたシーヴが、今だけは完全にゆるみきった表情を見せています。もちろんレイには見えません。
さすがに樽を床に直置きはできません。床の上に木の板を並べ、その上に防水シート代わりのオークの皮を敷き、水がこぼれても問題ないようにしてあります。
さらに二つの樽の周りには、目隠しのための囲いがされています。
「やっぱり火魔法と水魔法が使えるといいですね」
「レイも覚えられたし、シーヴも練習したら? ジョブに関係なく覚えられる魔法でしょ?」
覚えたとはいっても、レイの使える【水球】と【火球】は前に飛びません。【水球】は蛇口から出る水のように垂れ流しで、【火球】はガスバーナーのように火が噴き出すだけです。
「私にも【火球】と【水球】はあるんです。でも魔力が多くありませんから、お風呂のために魔力を使うのもどうかと」
「そっか、種族の関係もあったね」
「ええ、獅子人に限らず、獣人は全体的に魔法と相性が悪いですからね。でも野営の際に枯れ葉に火をつけるくらいはできますよ」
獣人は魔法が使えないわけではありません。でも魔力量が少なく、魔法の扱いそのものが苦手です。
山羊人族のように例外的に魔力が多い種族も存在しますが、おおむね同じレベルの人間の二割から三割程度しかありません。
その代わりに力が強く、耳も目も鼻も優れています。少ない魔力を身体強化系のスキルに使うほうがよほど効果的です。
「ところでね、レイ」
サラがニヤニヤしながらレイに話しかけます。もちろんレイには囲いの向こうにいるサラの表情は見えませんが、長年の付き合いから、サラの表情が手に取るようにわかってしまいました。嫌な雰囲気がビシビシとしていますが、返事をしないわけにはいきません。
「どうした?」
「レイはこのあとどっちの樽を使うの? 私の?」
「それとも私の入った樽ですか?」
「あー」
ここでシーヴが乗ってくるとは、レイには思ってもみませんでした。どちらの名前を口に出すほうがよりダメージが少ないかを想像して、それから結論を口にします。
「……新しいのを出す」
「うわ、日和った。シーヴ、チキンがいるよ、チキンが」
「ここは度胸を見せてほしいところですね」
「違う。マナーの問題だ。どうせ樽はいっぱいあるんだから、それぞれ一つずつ使えばいいだろ?」
もちろんサラもシーヴも冗談を言っているのはレイにもわかっています。それでも反論したくなったんですよね、思わず。
「「乾杯」」
三人がそろったところで、レイはエール、向かいにいるサラとシーヴはミードで乾杯をしました。乾杯が終わると、すぐにサラがシーヴに向かって前のめりになります。
「今さらだけどさ、シーヴさんから見て、私たちって冒険者としてどう?」
「どう?」という非常に曖昧な聞き方をされ、シーヴは少し考えます。
「そうですね。冒険者としては非常に優秀なお二人だとは思いますけど、レイさんの話し方は丁寧すぎる気がしますね」
「丁寧すぎですか」
「冒険者の基準からすると、ですが」
シーヴは冒険者として、あるいは冒険者ギルドの職員として、これまで多くの男性を見てきましたが。この世界の男性は、おおむね大雑把な話し方をするものです。
もちろんこの国には王族・貴族・平民・奴隷という身分制度があります。もちろん〝切り捨て御免〟のような横暴は認められていませんが、上下関係は場合によっては極端に厳しくなります。それでも平民同士での会話では、年齢に関係なくほとんどがタメ口です。サラの話し方がわりと普通ということになります。
レイは貴族の息子なので、話し方がどうしても貴族のそれになってしまいますが、場合によってはかなり偉そうに思われることもあります。
シーヴがそう説明すると、みるみるうちにレイのテンションが下がっていきます。
「偉そう……」
「あ、いえ、やりすぎるとそう受け取られることもあるということです。サラさんと話しているくらいでちょうどいいですよ」
ショックを受けたレイを見て、慌ててシーヴがフォローをしました。
丁寧な言葉遣いが悪いわけではありませんが、丁寧すぎると慇懃無礼に思えます。王族や貴族、豪商相手でなければ、もっとくだけた話し方で大丈夫だと。
ギルド職員のシーヴと話をしているとおかしく聞こえないかもしれませんが、レイの話し方は冒険者としては珍しいくらい丁寧で、育ちがいいのが丸わかりです。それはダニールも言っていましたね。
「口調なあ……」
「はい。周りにいる人がみんなサラさんだと思えば、自然とくだけた話し方になりませんか?」
「周りがみんなサラ?」
「この世界が私だらけ。サラの惑星」
さすがにそれは嫌だなとレイは思ってしまいました。誰も彼もがノリと勢いだけで生きていそうです。
「でも口調を変えるんならさあ、みんなでラフな話し方にしない?」
「みんなでか?」
「そう。呼びかけくらい楽にしていいと思うんだけど。特に今は旅の途中だし」
ここには冒険者ギルドの上司も同僚もいません。ざっくばらんでいいのではないかとサラが提案しました。そしてシーヴに耳打ちをしました。シーヴはそれを聞いてうなずいています。
「それもそうですね。仕事が始まるまでは楽に呼び合いましょうか」
「それじゃ私はシーヴって呼ぶから。レイもそう呼んだら?」
「それでは私はお二人をレイ、サラと呼びますね。レイも私にもっと楽に話しかけてください」
「わかった」
年上の女性を呼び捨てにするのには抵抗がありますが、そこまで言われたらレイとしてもこれまでと同じような話し方はできません。
「それなら……シーヴ」
「はい、ダーリン♪」
「ゲホッ」
思わぬ一言にレイが咳き込み、サラが大笑いしました。
「あ~、おかしかった~。でもホントに言うとは思わなかったよ」
「私だってたまには冗談くらい口にしますよ」
先ほどサラが耳打ちしたのはこのことだったようですね。そのシーヴは、普段はすました顔をしていますが、今は珍しく笑っています。ギルド職員はなかなか大変ですからね。ストレス発散も必要でしょう。
「あ、そうそう。樽のお風呂を用意してるんだけど、シーヴもよかったら入る? ここはお風呂はないみたいだから」
桶に入れた水とタオルで体を拭くだけの風呂場は用意されていますが、使えるのは水だけです。お湯は別料金になっています。
「え、いいんですか?」
「もちろん。魔法の練習も兼ねて用意したやつだから」
サラのマジックバッグはそこまで大きくありませんので、野営で使う道具や食料品、そして万が一の事態に備えて、水の入った樽が一つ入っているだけです。
レイのほうは余裕があるので、何かしら使い道はあるだろうと、大小様々な大きさの樽に水とお湯、その他にも食材などを入れています。
「二人がよければ喜んで使わせてもらいます」
「そうそう、みんなで裸の付き合い」
「いや、俺は部屋にいないからな」
さすがにシーヴが風呂に入っているのに自分がそこにいるのは問題がありそうなので、レイは風呂の用意をしたら酒場にいようと思っていました。
「いても大丈夫じゃない? ヘタレだから」
「ヘタレって言うなよ」
そうは言いますが、実際にレイはヘタレに近いですよ。そのことは自分でもわかっています。
「でもこんな美少女とずっと一緒だったのに一度も手を出さなかったでしょ?」
サラは「にしし」と笑いながらレイを茶化します。それを見たシーヴは不思議そうな顔をしました。
「あの、お二人はそういう関係ではなかったんですか?」
「う~ん、どっちかっていうと、レイの好みは私みたいな可愛い系美少女じゃなくて綺麗なお姉さんなんで」
もちろんレイはサラが嫌いではありませんが、サラは彼のタイプではありません。面と向かってそれをサラに言ったことはありませんが、長年の付き合いから、サラにはそれがわかっていました。
「シーヴなんて、もろタイプでしょ?」
「言うなよ」
「でも好みのタイプの女性を前にすると緊張して余計に丁寧になるんだよね」
「だからバラすなって!」
二人の言い合いを聞いていたシーヴは、どこか腑に落ちた顔をしました。
「レイの話し方が私とサラ相手で違うのはそういうことだったんですね」
「まあレイは年上に対しては身分に関係なく丁寧だから、半分はそうってことかな。執事のブライアンさんは、レイと話をすると背筋が伸びる思いがするって言ってたね」
「サラと話をするのに丁寧な言葉遣いをしても意味がないからな」
レイの記憶が戻って以降、屋敷の中は別として、サラはレイを相手にかなりくだけた言葉遣いをするようになりました。
一方で、レイは貴族の息子として教育を受けていますので、外に向かってあまり雑な話し方はできません。できるのはサラを相手にしたときくらいのものです。
「それならレイ、私がタイプなら、一緒に寝ませんか?」
「ブフッ!」
予想もしていなかった方向からの攻撃に、レイは思わず吹き出します。口の中のエールを飲み込んだ直後だからよかったものの、もう少し早ければ危なかったですね。正面のサラが。
「あ、それいいかも。一人部屋って楽しみ。何しようかな~」
「もう決まりか? ていうかシーヴだって冗談だろうし」
「いえ、必ずしも冗談というわけでは。ギルドで会ってからまだ一か月半ほどですけど、好ましい男性だと思っていますよ」
「……それはどうも」
レイは頬のあたりをぽりぽりと掻くしかありません。
「ただ、私はオグデンのギルドで仕事がありますので、いずれお二人とはお別れになるでしょう」
「そっか~、オグデンでお別れだよね。しばらくはオグデンにいても、いずれは王都にも行きたいしなあ」
「でしょう? ですからレイとは一夜限りの関係くらいがちょうどいいんです。実際にはあと六日もありますので、その間だけでも男女の仲を楽しみましょうか」
「生々しすぎるから、それ以上はやめてくれ」
どうやらレイは冗談を口にするシーヴに弱いようでした。
◆◆◆
「あ~~~、これはいいですね~~~」
「いいでしょ?」
サラとシーヴがそれぞれ樽風呂に入っています。普段はキリッとしたシーヴが、今だけは完全にゆるみきった表情を見せています。もちろんレイには見えません。
さすがに樽を床に直置きはできません。床の上に木の板を並べ、その上に防水シート代わりのオークの皮を敷き、水がこぼれても問題ないようにしてあります。
さらに二つの樽の周りには、目隠しのための囲いがされています。
「やっぱり火魔法と水魔法が使えるといいですね」
「レイも覚えられたし、シーヴも練習したら? ジョブに関係なく覚えられる魔法でしょ?」
覚えたとはいっても、レイの使える【水球】と【火球】は前に飛びません。【水球】は蛇口から出る水のように垂れ流しで、【火球】はガスバーナーのように火が噴き出すだけです。
「私にも【火球】と【水球】はあるんです。でも魔力が多くありませんから、お風呂のために魔力を使うのもどうかと」
「そっか、種族の関係もあったね」
「ええ、獅子人に限らず、獣人は全体的に魔法と相性が悪いですからね。でも野営の際に枯れ葉に火をつけるくらいはできますよ」
獣人は魔法が使えないわけではありません。でも魔力量が少なく、魔法の扱いそのものが苦手です。
山羊人族のように例外的に魔力が多い種族も存在しますが、おおむね同じレベルの人間の二割から三割程度しかありません。
その代わりに力が強く、耳も目も鼻も優れています。少ない魔力を身体強化系のスキルに使うほうがよほど効果的です。
「ところでね、レイ」
サラがニヤニヤしながらレイに話しかけます。もちろんレイには囲いの向こうにいるサラの表情は見えませんが、長年の付き合いから、サラの表情が手に取るようにわかってしまいました。嫌な雰囲気がビシビシとしていますが、返事をしないわけにはいきません。
「どうした?」
「レイはこのあとどっちの樽を使うの? 私の?」
「それとも私の入った樽ですか?」
「あー」
ここでシーヴが乗ってくるとは、レイには思ってもみませんでした。どちらの名前を口に出すほうがよりダメージが少ないかを想像して、それから結論を口にします。
「……新しいのを出す」
「うわ、日和った。シーヴ、チキンがいるよ、チキンが」
「ここは度胸を見せてほしいところですね」
「違う。マナーの問題だ。どうせ樽はいっぱいあるんだから、それぞれ一つずつ使えばいいだろ?」
もちろんサラもシーヴも冗談を言っているのはレイにもわかっています。それでも反論したくなったんですよね、思わず。
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〈あらすじ〉
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