元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
242 / 273
第十六部:領主になること

ナディアの仕事、そして従魔たちの家

しおりを挟む
 元シスターのナディア。生まれてすぐに教会に預けられ、去年の初め頃まではシスターをしていた。この屋敷の披露パーティーの直前で働きに来るようになったシスター九人のうちの一人だ。仕事はきちんとしているけど、一六歳という年齢のわりに落ち着きがないように思える。この世界の基準では。
 貴族なら八歳くらいで社交が始まるので、そのあたりで大人扱いされ始めるけど、結婚するのはもう少し後が多いから、大人と呼べるのは一二歳くらいからだ。平民でも一二歳から一五歳くらいで大人と見なされる。仕事が見つかればそれくらいの年齢で働きに出る。だから若くても大人びていることが多い。もちろん例外も多い。ナディアがそうだった。
 彼女のことは年齢のわりに幼くて落ち着きがないと思っていたけど、その彼女が俺の従魔になってしまった。フランが調べたところ母親がサキュバスだと。サキュバスは人間よりも長命だからやや幼く感じていたのかもしれないということだ。
 サキュバスは魔物と考えられている国もあれば亜人と考えられている国もある。要するに境目らしい。とりあえず人間よりも長命、そして夢魔という種族のせいか、やや賑やかというかヤンチャというか男に絡むというか、そういう感じらしい。
「マスターマスター、従魔はまずマスターに抱かれるということをアルベルティーヌさんたちから聞きましたが」
「いやいや、従魔にしたから抱くわけじゃないぞ」
 結果として従魔たちを抱いたのであって、従魔にしたから抱くとか、抱くための従魔にしたとか、そういうことじゃない。

 ◆◆◆

 結局ナディアを従魔の一人として扱うことになった。種族としては人間だからおかしなことになるけど、ナディア自身が望んでいるから仕方がない。でもしばらくは様子を見ながらということになる。メイドとしての仕事があるからだ。
 メイドで従魔というわけの分からない状態になったけど、給料を受け取るなら仕事をしてもらわないといけない。単なる従魔なら仕事はないから給料も出ない。アラクネたちに関しては、いずれその技術を役立ててもらうことになるだろうからその際には何かしら支払う必要があるだろう。
 とりあえずナディアの新しい仕事は俺と従魔たちの連絡役ということに決まった。従魔たちは屋敷の裏に建てたスキュラたちの家にいる。さすがに全員が入るには狭いから、アラクネたちの家とセイレーンたちのための池を作り始めている。それが完成したら屋敷にいる俺と従魔たちとの間で走り回ってもらうことになるだろう。
 化身アバターや複体や分身の一人を向かわせてもいいんだけど、俺が何人もウロウロすると、俺の本隊がどこにいるのか使用人たちには分かりづらくなる。「旦那様は?」「さっき外へ向かわれた」「いや、それは分身じゃないか?」「でも執務室にはいらっしゃらなかったぞ」なんてことになりかねない。
 実際には全部俺だからどれに声をかけても同じなんだけど、使用人たちにはそうではないらしい。だから積極的に化身アバターや複体や分身を使うのは夜の生活の時だけだ。

 ◆◆◆

「しかし向こうに行けばここを使う頻度は下がりそうだけど……作らないわけにはいかないな」
「ありがとう、マスター」
 俺は裏庭に穴を掘ってプールを作ろうとしている。セイレーンたちがリラックスする場だ。ここはセレンの代官邸の池とは違ってきちんとプールにしている。レーンはないけど二五メートルプールくらいの大きさだ。深さもそれなりにしてあるけど、片側には学校のプールのようにステップを作った。ある方が水から上がりやすいだろう。
 そのプールの三分の一ほどを家で覆った。そちらはセイレーンたちの家の一部になる。家の三分の一がプールに乗っかったような見た目だ。船宿とは違うけど、あんな風に水にせり出したようになっている。
 彼女たちは元々水辺で暮らす種族で、完全に水から出ることは少ない。海や池や川の浅瀬部分で暮らしている。もちろん簡単に屋根や壁で覆って、他人が入らないようにしていたそうだ。そうやってもし危険が近づけばすぐに逃げられるようにしていた。その環境をできる限り再現しようとしている。
「テーブルや椅子などは用意しておくぞ」
「それはお願い。水の中では食事はできないから」
 彼女たちは見た目は人魚だけど、生活全てが水の中というわけでもない。だから小屋の中は水から上がれるようになっている。
「このあたりはもう少し浅くてもいいかも」
「そのままでは鱗が削れるかもしれないから敷物を入れるぞ。どれだけ持つか分からないけど」
 セイレーンたちは寝る時にベッドを使わない。その代わりに一五センチから二〇センチ程度の浅い水たまりのようなところで体を横にして眠る。自然界なら草などを敷けばいいけど、ここはプールの縁だ。だから草の代わりにゴムのシートを入れた。
「マスター、これって強度はどれくらい?」
 アミタリアがゴムのシートをつついていた。
「そこそこはあるけど強くはないぞ。横になっても体を痛めないためだけのものだ」
「激しすぎるとすぐにダメになるかなって」
「その時は穴を塞げば大丈夫だ」
 ゴムは高価だ。俺にとっては安いとは言え、ポンポン買ってポンポン捨てるようなものじゃない。だから穴が開いたら塞げばいい。どうしようもなくなれば新しい素材を考えたらいい。
 アラクネたちにそれっぽいシートを作ってもらうのも一つの手だ。ただ彼女たちの出す糸は軽い。ゴムのように伸びる糸は出せるけど、そのままでは浮いてしまう。そこをどうするかだ。

 ◆◆◆

「これくらい広いと助かります」
「それなら天井を少し高めにして、これで二階建てでいいか?」
「はい、よろしくお願いします」
 セイレーンたちのプールを作りつつアラクネたちの家も建てている。こちらは仕事場でもあるので建物を広めにすることにした。
 アラクネたちは上半身は人間の女性と変わらない。下半身は八本の脚を持つクモ。その脚のうち前側の二本から四本を器用に使い、腹から出した糸を器用に丸めて糸玉を作ったり編み物をしたりする。糸玉は直径一メートルを超えることもあるので、仕事場にする部屋はできるかぎり広い方がいいということだった。
 ただしその糸玉自体は非常に軽いので、床が抜けるとか、そういうことはない。ただ単に場所を取るだけだ。それも彼女たちが持つスキル【収納(針仕事)】を使って片付ければ問題ない。
 建物そのものはスキュラたちの家をもう少し広くして二階建てにしたもの。スキュラたちは自分たちで山小屋風の家を建てたけど、こちらは俺が作っている。アラクネたちはスキュラたちよりも弱いからだ。
 スキュラたちは下半身が六匹の大型犬なので、丸太でも何でも持てさえすれば運んでいける。重機だ。ブルドーザーだ。でもアラクネたちの下半身はクモの脚だけなので、そこまで頑丈じゃない。要するに馬力が全然違う。

 ◆◆◆

「ナディアは俺とこの三つの家、それとトゥーリアのところを行ったり来たりして、何かあれば報告してくれ」
「分かりました」
 大きさも形も違う家が三つ、屋敷の裏に建つことになった。
「マダコたちはセイレーンたちと一緒でいいな?」
「「「(コクコク)」」」
 最初はこれが持っていたコップとスキュラたちの間を往復していたけど、気がついたらセイレーンたちと一緒にいた。真水でも海水でも問題ないらしいけど、マダコたちには水が必要だからセイレーンたちと一緒の方が落ち着くらしい。
「いずれは領地の方に引っ越すことになる。向こうでも家を建てるから、しばらく今の家で過ごしてみて、それで問題点がないかをチェックしてくれ」
「「「はい」」」
 屋敷の裏もまだ十分なスペースがあるけど、従魔の家ばかり増えればそのうちパンクするだろう。そんなにダンジョンにばかり行くつもりはないけど、すでに今の状態だって想定外だ。そうなったら今後はどうなるか。従魔たちのマンションでも建てるか? 屋上にプールがあるリゾートホテルのような形の。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた
ファンタジー
 起きると、そこは森の中。パニックになって、 周りを見渡すと暗くてなんも見えない。  特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。 誰か助けて。 遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。 これって、やばいんじゃない。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...