元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十五部:勇者の活躍

恩賞

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「シュウジ殿、連絡は受けている。まさかほぼ同時に二つのダンジョンが暴走スタンピードを起こすとは思わなかった。助かったとしか言いようがない」
「いや、どうせ対処するなら一度の方が楽だ。終わって帰ってきてまた別のところではバタバタするだろう」
 俺にできないレベルのものを押し付けられればそりゃ困るけど、どうにかできるレベルのものならまとめて片付けた方が楽だ。そこまで大変なことじゃなかったけど五分一〇分で終わることじゃない。終わったと思って王都に戻ったらまた起きたって、誰だって嫌だろう。
「それで今回の報酬だが、あの領地はどうだろうか? ギャエルもシュウジ殿には領地があってもいいのではないかと言っている。もちろんまだ発表はしていないが、シュウジ殿が引き受けてくれれば今日のうちにでも公表したい」
 ルブラン侯爵か。あの人は最初は俺を警戒してたんだよな。使用人の契約の件とか。異世界からやって来た素性の分からない男を勇者として扱うわけだ。慎重にならざるを得ない。俺が彼の立場でも警戒はするよなあ。いきなり王宮で魔法をぶっ放したりしないか、とんでもない要求をしたりしないか。気を張っていたのは理解できるから、それについて文句を言ったことはない。だからってことはないと思うけど、それ以降はかなり便宜を図ってくれる。
「あの領地って、ルニエ子爵領か?」
「そうだ。今でこそ子爵領だが、その前は伯爵領だった。広さはそこそこあって、見てもらって分かったと思うがダンジョンが二つある。貴殿なら管理できるだろう」
 一つは普通の洞窟型のダンジョン、もう一つは階ごとに川と海が交互に現れる魚介類のダンジョン。たしかに魚介類が豊富なのは嬉しい。嬉しいけど領地持ちか。俺でなくてもよさそうな気もするけどな。前回の報酬は一時金だった。そちらでもいいんだけど。
 ラヴァル公爵家の収入は今のところはコワレ商会の売上だけだ。ミレーヌたちがデザインした女性向けの商品やイネスたちが作った薬や美容液など。他には俺が偶然作ったら売れたオブジェなどだ。
 俺が作るものは貴族が見栄を張るためのものだ。貴族たちから搾り取るつもりはないけど、それを庶民向けの商品の価格を下げるために有効に使わせてもらう。要するに貴族向けの商品は高くし、庶民向けの商品の価格をギリギリまで下げる。もちろん美容液でも品質が違うから、全く同じものを値段を変えて売っているわけじゃない。高級品と廉価品を用意しているだけだ。
「他に誰か相応しい貴族はいないのか? 俺でなくても務まりそうなものだが。そもそも俺には領地経営の知識はないぞ」
 領主になるのが嫌なわけではないけど自由度は下がるだろう。
「それは分かっている。だがこれまでに届いた報告では、あの領地は子爵がかなり好き勝手にやっていたからガタガタになっている。もちろん余としても子爵に何度も注意をしてきたのだが、領民たちの不信感が高いらしいのが厄介なところでな」
「国に対する不満が高まっているとか?」
「ああ。国が何もしてくれなかったとな。よほどひどくなければ国は貴族の領地のことには口を挟まない。それは昔からだ。だが反乱でも起こされたらたまったものではない。それに南には都市国家群がある。それぞれの国は小さいが、戦力としては冒険者を中心にかなりレベルが高い」
 都市国家は一つの町とその周辺地域だけで一つの国になっている小さな国で、このフレージュ王国の貴族領一つ一つよりもさらに小さい。そのような小さな国がたくさん集まって商業活動を中心に栄えている。
 都市国家群はこの大陸の中央にあるので、東西や南北に移動するにはここを通らなければならない。北のフレージュ王国から東のカロシュ王国に行く時でも、その時にいる場所によっては都市国家群を通った方が早いこともある。東西南北の四つの国と隣接していて、商売を行うにはちょうどいい。しかも山に囲まれた地域なのでダンジョンが多い。その素材も取り引きの対象になっている。
 都市国家群の大陸の中央部分を四つの国のいずれかが支配下に置けば経済を支配することができるだろう。でもそれをやろうとする国はない。ダンジョンが自分の国の倍以上あるからだ。
 たしかにダンジョンは魅力的だけど、放っておくと大変なことになる。あえて火中の栗を拾うつもりはない。四か国ともそう考えて、この大陸で一番面倒な部分には手を出さなかったために今のような状況になっている。
「だからシュウジ殿にその近くにいてほしいということもあるのだ」
「話は分かるが、領主にならなくても連絡があればトゥーリアに乗せてもらって移動できるが?」
 王都にいて南部で何かあればすぐに駆けつけることができる。町に接近されるまで気づかないなんてことはありえない。人が一日で移動できる距離なんてたかが知れている。鳥を使って連絡するくらいの時間はあるだろう。
「それはそうなのだが、都市国家群に対する牽制の意味もあるのだ」
 不穏な言葉が聞こえた。
「牽制ってまさか戦争でもするつもりか?」
「いやいや、そう簡単にするつもりはない。だが都市国家群はダンジョンへの冒険者の派遣が収入の大きな柱の一つになっている。ここ数年はダンジョンがやや活発になっているようで、派遣料がかなり高くなっているのだ」
 ダンジョンが暴走スタンピードを起こさないようにするためには定期的に底の方まで潜って魔素マナをひっ掻き回す必要がある。長年その役割を都市国家群に委ねてきたフレージュ王国は、そのせいもあって自前の冒険者の数が少なくレベルも低い。だからどうしても外部に頼りがちだ。
 派遣とは関係なくやって来る冒険者もいるけど、ダンジョンの底にまで潜ってもらうためにはそこそこの人数が必要だ。そうなると出費が嵩む。向こうは調子に乗って依頼料を引き上げる。それでも依頼があるからだ。
「このあたりで一度正常な範囲に戻したいのだ」
 これは極端な話だけど、俺がスキュラたちと一緒にこの国にある一五個のダンジョンに順番に潜ればいい。二日で潜って二日で戻る。俺たちだけなら特に問題なく一番下まで潜れるはずだ。さらに極端な話、スキュラたち五人だけでもこれまでのダンジョンなら制覇できる力は十分になる。でもそうなると都市国家群に応援を頼む必要はなくなる。あちらさんとしては四か国から冒険者の派遣を頼まれていたのが三か国に減ることになる。収入も減るだろう。
 俺のことは大々的に発表されていたので、他の国にも知られている。大々的に発表したからな。短期間に三つのダンジョンの暴走スタンピードを押さえ込んだ俺がダンジョンのある領地の領主、しかも都市国家群に隣接する料理の領主になれば、向こうとしても依頼料を下げざるを得なくなる。もちろんアドニス王も依頼料を格安にしろと迫るつもりはなく、以前と同じ程度まで下がればそれでいいそうだ。それでも一悶着ありそうなんだけどな。面倒ごとが増えるかもしれないけど……。
「分かった。引き受けよう」
「よろしく頼む。経営に口を挟むことはない」
「やったことはないが、やるからには口の挟みようがないほどしっかりと経営してみせよう」
 俺にできることならやろう。アドニス王の旗幟きしになると決めたからな。大変そうならダンジョンはフランに手伝ってもらえばいい。領地の方は……タイスに聞けばいいか。侯爵家の跡取りになるために勉強していたようだからな。
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