元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第九部:教えることと教わること

使用人の結婚事情(二)

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 最初ブランシュを使用人として雇うつもりはなかったけど、自分の食い扶持は稼ぎたいということだからシュザンヌとセリアの相談役という立場にした。上級使用人扱いとし、それなりの給料を払うことになった。
 ダヴィドとブランシュは別館の方で暮らし始めた。朝夕の食事はそちらで取ることになっている。食材に関してはブランシュの給料から引くということにして、厨房係のレイモンに伝えてから持ち帰るという形になった。

 ◆◆◆

 さて、今のところ結婚すると言った使用人は他にはいない。いずれ何人かは俺の妻なり愛人なりになるだろうけど、それを除いてその気がありそうなのがアルバンだ。先日のベックへの行き帰りで聞いたところでは、どうも相手がいるらしい。でも結婚という話まではしていないそうだ。これを機会にそういう話をしたらいい。
 うちの使用人たちは基本的に若い。俺の召喚が成功してから急遽集められたそうで、五〇代後半のダヴィドを除けば男性はジスランとジョアキムとレイモンが三〇代、他は一〇代後半から二〇代か。女性はオレリーとシュザンヌが三〇代前半、他は一〇代前半から二〇代。そう考えれば結婚しててもおかしくない使用人はたくさんいる。
 アルバンによると、俺が結婚すればその後に結婚する者が出てくるんじゃないかということだけど、別に俺よりも前でもかまわない。むしろ待たれる方がプレッシャーになる。さっさと結婚しろと言われてるみたいだろ?
 俺は結婚したくなくて一年後と言ったわけじゃない。ミレーヌの試験がどれくらいかかるか分からないから、とりあえず来年としただけだ。試験そのものはあっという間に終わってしまったけど、合格が出るまでに長ければ五年ほどかかるらしいからな。とりあえず結婚式は来年の年明けを予定している。俺が召喚されてちょうど一年後だ。分かりやすくていい。
 結婚事情に関して言えば、貴族なら一〇歳より前から社交が始まり、相手が見つかれば婚約から結婚という流れになる。
 男性で長男の場合は一〇代のうちに結婚するのが普通だ。子供を作るのが一番の仕事だと言われる。だから早ければ早い方がいい。結婚が遅い上に子供ができないと困ることになるのは自分だからだ。
 女性は一〇代で結婚できなければ売れ残り扱いになる。そうなると正室として迎えられることは滅多にない。良ければ何番目かの側室、あるいは繋がりのある商家に嫁いで平民になる。悪ければ高齢の貴族の後妻だろうか。それが貴族の結婚事情だ。
 平民はそこまで厳しくはない。一〇代半ばから後半くらいで結婚することが多いけど、二〇代まで相手を探すことも珍しくはない。でも条件は年々悪くなるのは貴族と同じだ。
 そして貴族が平民の妻を娶ることはほとんどない。これは妻の実家から嫁ぎ先に持参金を渡すことになるからだ。これはかつてこの大陸で戦争が多かった時代の名残らしい。
 貴族の多くは領地を持つ。領地を敵から守るためには騎士や兵士を雇わなければならない。特に剣の腕に自信のない貴族は、自分の代わりに兵士を率いる騎士が絶対に必要になる。だから信用できる者に騎士の称号を与え、場合によっては小さいながらも土地を与え、領地経営を手伝わせることがある。自分の娘を嫁がせることもあるそうだ。
 要するに貴族は金がかかる。毎年国から一定額が貰えるけどそれだけじゃ足りない。商会を経営するけど、経済は水物だ。どう転ぶか分からない。だから確実に手に入る持参金は馬鹿にならない臨時収入になる。それに貴族同士の繋がりを維持するのも重要だ。
 そういう前提があるなら、平民の娘を妻にすることにはメリットは少ない。裕福な商家でもない限り、持参金はないか、あっても僅かだ。それに妻の実家が経済的に困ったら援助しなければならない。むしろデメリットの方が大きい。だから平民の娘が貴族の嫁いでも周りからいい目で見られないことが多い。そして自然と貴族は貴族、平民は平民と分かれるようになった。
 実際に平民の妻がいるのはケントさんを含めて数人ほどで、しかも全員が商家の出身ということになる。本当に普通の平民はいない。おそらく俺が唯一になるだろう。
 俺が手を出した相手で貴族なのはリュシエンヌのみ。ミレーヌは守護天使扱いの女神、エミリアは王都から半日のところにある町の商家出身、イネスは西部の山沿いにある小さな町出身、ジゼルは北の海沿いにある漁村出身。バリエーションが豊かだな。
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