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第十部:家族を持つこと
使用人の追加
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「そろそろ追加を考えた方がいいな」
「そうですね。メイドや庭師を中心でいいしょう」
「御者もいてもいいと思うぞ」
「そうですね。いつまでも変わりをさせるわけにもいきませんか」
少し長めだった社交シーズンが終わった。領地持ちの貴族たちはほとんどが領地に戻り、王都にいるのは俺のような王宮で仕事がある者が中心だ。
もちろん「はい、それでは今年の社交シーズンは終了です」とアナウンスがあるわけじゃなくて、それぞれ三々五々帰っていく。だから気がつけば終わっていた。
領地を持つ貴族にとっては王都の屋敷は一年の三分の一程度を過ごすための場所で、主に社交のために使われる。貴族にとってメインは領地の方だ。だから王都の方は臨時で雇われる使用人も多い。
彼らは冬から春にかけての一定期間という条件で雇われ、それ以外の間は別の仕事を探す。だから春になれば仕事を探す者が増える。使用人といっても上級使用人は少ない。それは領地の方から連れてくるからだ。
もちろん領地の方も王都の方も空にすることはできないから、メンテナンスのためにある程度の数は残される。それに主人は戻るけど妻はしばらく王都に残るということもある。だから家によっていつまで雇うかはバラバラだ。
今年は一月以上遅くなったけど、例年なら四月に入れば口入れ屋には仕事を探す者たちが殺到する。今年はそこに求人を出した。いつまでもルブラン侯爵の世話になることもできないからだ。
男性使用人は執事の部下になり、女性使用人は家政婦長の部下だ。侍女などの一部の仕事は家政婦長の部下ではなく、対等な立場になる。ただし雇用と解雇を含めて全てを取り仕切るのが執事ということになる。
今回、ダヴィドとブランシュが求職者の面接を担当する。ダヴィドはキッチリとした性格で、ブランシュは優しそうなマダムに見せかけて鬼軍曹だ。メイドらしくない態度を取れば鼻の穴に潰した生の唐辛子を擦り込むと言ったくらいだ。
あれからメイドたち、特にジゼルを除く最初からいた六人は昼間は真面目になった。でもブランシュがいない時間帯は前と変わらないな。
口入れ屋といっても貴族向けもあれば庶民向けもある。ダヴィドは貴族の屋敷での仕事を斡旋する口入れ屋のいくつかに求人を出した。俺は採用にも面接にも口を出さない。ダヴィドとブランシュがOKを出せばそれでいい。
口入れ屋を通して雇う場合、何人かから選ぶという方法は使わない。紹介された者を雇うだけだ。五人面接してその中で一人ということじゃない。条件が合う者だけが紹介されるからだ。もちろん「五人集めてほしい。その中から三人雇う」と頼めば集めてくれるけどいい顔はしないそうだ。
最終的には、庭師ユーグを筆頭庭師とし、その部下として新しい庭師が三人。御者マルクの部下として御者助手が二人。菜園の手入れをする菜園管理者にフィルマンとアンヌの夫婦。馬と馬車を増やすので、馬番のトビを馬房管理者にして、その部下に新しい馬番が二人。荷運びのブリスの部下として新しい荷運び兼雑役夫が五人。この五人は庭師の手伝いもする。
それ以外には牛と山羊を飼うことになったので、ミルクメイド兼キッキンメイドにアデリアとエディトの二人。そしてハウスメイドが七人。
ハウスメイドはまさかのOPQRSTUだった。オルガ、ペリーヌ、キリーナ、ロクサーヌ、ソランジュ、テレーズ、ユルシュルの七人。
「ここまで来ればAからZまで揃えるべきでしょう。その後は欠員が出た際に追加すればよろしいでしょう」
「採用を任せたのはこちらだ。今後も任せる。でもXっているのか?」
「探してみせます」
「誰でもいいわけじゃないぞ。きちんと働ける者を雇えよ?」
おかしな者を雇うとは思えないけど、目的は手段を正当化しないぞ。
「もちろんでございます。おかしな者を雇ってしまったのなら、夫の鼻に唐辛子を詰めましょう」
ブランシュは思った以上にユーモアがあった。
さて、今さらだけどうちは使用人が多い。先に言っておくと、いや、今さらかもしれないけど、どこもかしこも普段はこんなに多くはない。多くの貴族には領地があるからだ。
ケントさんやリュシエンヌの父のアズナヴール伯爵のように、領地がない場合は王都の屋敷を大きくする傾向がある。それなら俺はというと、以前のラヴァル公爵が金と地位に物を言わせて屋敷の周囲の土地を買い占めてでっかい屋敷を建てたからだ。さらに別館もある。
ケントさんのところで六〇人、アズナヴール伯爵のところも五〇人はいる。どちらも領地を持たない伯爵で、その分だけ屋敷が大きい。
普通の伯爵なら王都の屋敷はそこまで大きくないので二〇人もいれば十分らしい。社交シーズンには領地から使用人の一部を連れてくるからだ。だから使用人に家族がいることを好まない主人が多い。
領地がある場合、領地の方には家令を置き、自分の代行をさせる。自分は王都に来て社交を行い、シーズンが終われば領地に帰る。それが彼らにとっての普通だ。
ずっと王都にいれば楽だろうと思うけど、領地をずっと離れれば、息子や使用人たちが余計なことを考えると思う貴族は多い。実際にクーデターが起きて息子に当主の座を追われる貴族もいるらしい。
そんなことはけっして多くはないけど、それでも数年に一度くらいはどこかで何かがあるらしく、明日は我が身と思って社交シーズンが終われば一度領地に帰って領民たちに姿を見せるのがこの国の貴族の普通だ。
いや、正直なところ、領地を貰わなくてよかったと思う。三分の一を王都、三分の二を領地って面倒じゃないか? 俺なら割り切ってどっちかにいるけどな。でも貴族の跡取りだって、五〇や六〇で継ぐよりも若いうちに継ぎたいか。それならクーデターも仕方ないのか。
「そうですね。メイドや庭師を中心でいいしょう」
「御者もいてもいいと思うぞ」
「そうですね。いつまでも変わりをさせるわけにもいきませんか」
少し長めだった社交シーズンが終わった。領地持ちの貴族たちはほとんどが領地に戻り、王都にいるのは俺のような王宮で仕事がある者が中心だ。
もちろん「はい、それでは今年の社交シーズンは終了です」とアナウンスがあるわけじゃなくて、それぞれ三々五々帰っていく。だから気がつけば終わっていた。
領地を持つ貴族にとっては王都の屋敷は一年の三分の一程度を過ごすための場所で、主に社交のために使われる。貴族にとってメインは領地の方だ。だから王都の方は臨時で雇われる使用人も多い。
彼らは冬から春にかけての一定期間という条件で雇われ、それ以外の間は別の仕事を探す。だから春になれば仕事を探す者が増える。使用人といっても上級使用人は少ない。それは領地の方から連れてくるからだ。
もちろん領地の方も王都の方も空にすることはできないから、メンテナンスのためにある程度の数は残される。それに主人は戻るけど妻はしばらく王都に残るということもある。だから家によっていつまで雇うかはバラバラだ。
今年は一月以上遅くなったけど、例年なら四月に入れば口入れ屋には仕事を探す者たちが殺到する。今年はそこに求人を出した。いつまでもルブラン侯爵の世話になることもできないからだ。
男性使用人は執事の部下になり、女性使用人は家政婦長の部下だ。侍女などの一部の仕事は家政婦長の部下ではなく、対等な立場になる。ただし雇用と解雇を含めて全てを取り仕切るのが執事ということになる。
今回、ダヴィドとブランシュが求職者の面接を担当する。ダヴィドはキッチリとした性格で、ブランシュは優しそうなマダムに見せかけて鬼軍曹だ。メイドらしくない態度を取れば鼻の穴に潰した生の唐辛子を擦り込むと言ったくらいだ。
あれからメイドたち、特にジゼルを除く最初からいた六人は昼間は真面目になった。でもブランシュがいない時間帯は前と変わらないな。
口入れ屋といっても貴族向けもあれば庶民向けもある。ダヴィドは貴族の屋敷での仕事を斡旋する口入れ屋のいくつかに求人を出した。俺は採用にも面接にも口を出さない。ダヴィドとブランシュがOKを出せばそれでいい。
口入れ屋を通して雇う場合、何人かから選ぶという方法は使わない。紹介された者を雇うだけだ。五人面接してその中で一人ということじゃない。条件が合う者だけが紹介されるからだ。もちろん「五人集めてほしい。その中から三人雇う」と頼めば集めてくれるけどいい顔はしないそうだ。
最終的には、庭師ユーグを筆頭庭師とし、その部下として新しい庭師が三人。御者マルクの部下として御者助手が二人。菜園の手入れをする菜園管理者にフィルマンとアンヌの夫婦。馬と馬車を増やすので、馬番のトビを馬房管理者にして、その部下に新しい馬番が二人。荷運びのブリスの部下として新しい荷運び兼雑役夫が五人。この五人は庭師の手伝いもする。
それ以外には牛と山羊を飼うことになったので、ミルクメイド兼キッキンメイドにアデリアとエディトの二人。そしてハウスメイドが七人。
ハウスメイドはまさかのOPQRSTUだった。オルガ、ペリーヌ、キリーナ、ロクサーヌ、ソランジュ、テレーズ、ユルシュルの七人。
「ここまで来ればAからZまで揃えるべきでしょう。その後は欠員が出た際に追加すればよろしいでしょう」
「採用を任せたのはこちらだ。今後も任せる。でもXっているのか?」
「探してみせます」
「誰でもいいわけじゃないぞ。きちんと働ける者を雇えよ?」
おかしな者を雇うとは思えないけど、目的は手段を正当化しないぞ。
「もちろんでございます。おかしな者を雇ってしまったのなら、夫の鼻に唐辛子を詰めましょう」
ブランシュは思った以上にユーモアがあった。
さて、今さらだけどうちは使用人が多い。先に言っておくと、いや、今さらかもしれないけど、どこもかしこも普段はこんなに多くはない。多くの貴族には領地があるからだ。
ケントさんやリュシエンヌの父のアズナヴール伯爵のように、領地がない場合は王都の屋敷を大きくする傾向がある。それなら俺はというと、以前のラヴァル公爵が金と地位に物を言わせて屋敷の周囲の土地を買い占めてでっかい屋敷を建てたからだ。さらに別館もある。
ケントさんのところで六〇人、アズナヴール伯爵のところも五〇人はいる。どちらも領地を持たない伯爵で、その分だけ屋敷が大きい。
普通の伯爵なら王都の屋敷はそこまで大きくないので二〇人もいれば十分らしい。社交シーズンには領地から使用人の一部を連れてくるからだ。だから使用人に家族がいることを好まない主人が多い。
領地がある場合、領地の方には家令を置き、自分の代行をさせる。自分は王都に来て社交を行い、シーズンが終われば領地に帰る。それが彼らにとっての普通だ。
ずっと王都にいれば楽だろうと思うけど、領地をずっと離れれば、息子や使用人たちが余計なことを考えると思う貴族は多い。実際にクーデターが起きて息子に当主の座を追われる貴族もいるらしい。
そんなことはけっして多くはないけど、それでも数年に一度くらいはどこかで何かがあるらしく、明日は我が身と思って社交シーズンが終われば一度領地に帰って領民たちに姿を見せるのがこの国の貴族の普通だ。
いや、正直なところ、領地を貰わなくてよかったと思う。三分の一を王都、三分の二を領地って面倒じゃないか? 俺なら割り切ってどっちかにいるけどな。でも貴族の跡取りだって、五〇や六〇で継ぐよりも若いうちに継ぎたいか。それならクーデターも仕方ないのか。
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