元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十六部:領主になること

王都での引き継ぎ

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「シプリアン殿、中途半端になってしまったが、後のことを頼む」
「しっかり務めさせていただきます」
 俺はアドニス王の頼みで領地を持つことになり、そのために年内で社会政策大臣を辞めることになった。基本的に大臣は宮中伯、つまり領地を持たずに王宮内で仕事をする貴族が務めることがほとんどだからだ。後任は副大臣のシプリアン・ロッシュが務める。彼なら問題ないだろう。
 俺は一年経たずに辞めることになってしまったけど、方向性は最初に示しておいた。おそらくそれで問題ないはずだ。それに社交で王都に来ることはあるし、【異空間】を使えばいつでも王都に来ることはできる。その時に相談があれば乗るつもりだ。どうせ一年二年で社会制度を変えられるほど甘くはない。でも少しずつでも変化があればと思っている。
 俺が辞めるのに合わせてベラも辞めることになった。これまではどちらかと言えば俺の代わりに会議に出てもらっていた。ベラは仕事が嫌いなわけじゃないけど、俺が王都にいないのに王宮で働く意味はないということだった。まあ領地に行ってもすることは多いだろう。

 さて、領地持ちになるとしなければいけないことがある。それが領都エウロードに置く商会の支店だ。むしろ領地の方がが本店になるんだろうか。まあどっちが本店か支店かはいいとして、店長を用意しなければならない。ということで王都からネリーとサビーを連れていくことになった。
「この一年の間に冒険者ギルドをクビになってコワレ商会の部門長になり、さらに支店長とは……」
「私もそうですが、さすがに展開に付いていけません」
「アンナさんを連れていくことはできないからな。二人は真面目に働いているし、全てを任せたい」
 この二人はギルドが勝手に俺の情婦にしようと考えてクビにしたようなものだから俺に責任はない。でも俺が絡んでいたのは間違いない。名前を口に出しただけなんだけどな。
 実はまだ二人には手を出してないけど、経緯が経緯だから商会の中でも俺の情婦だと思われている。だから今後はまあ、そういうことだ。そうしなければいけない事情もある。正直なところ、どうでもいいような面倒な事情だけどな。
 俺の身内でもない若い女性が店長を任せてもらえるということはだと周りからは思われる。逆にそうしておかないと余計な虫が付く。虫が付くくらいならいいけど、ネリーやサビーに取り入ってあわよくば、と考える者が出てくるそうだ。
 結局のところ、商会というのは代々貴族と繋がりがある。だから半身内のような関係になる。俺はこっちに来てまだ一年で結婚すらしてないし子供もいない。だからとなると、乗っ取りや裏切りを気にせずに任せられる相手を見つけるのが大変になる。
 アンナさんはエミリアの母親だし、ナントカッソンの支店はイネスの兄のエドガーで、領都エウロードの方はネリーとサビーを情婦にした上で任せるのが一番手っ取り早いということだ。
「ですので公爵様、さっさと二人を抱いた方がよろしいでしょう。二人もその気のようですので」
 アンナさんの言葉を聞いて二人を見ると赤い顔をしていた。
「では公爵様、近いうちによろしくお願いします」
「これまで大切に守ってきたものを公爵様に差し出せるのを誇りに思います」
「俺はそこまで大層な人間じゃないんだけどな」
 勇者で公爵というのは大した存在だけど、俺個人は単に女好きな男というだけだ。今は魔法も使えるし身体能力も高いけど、元からずば抜けた才能があったわけじゃない。
 とりあえずネリーとサビーは領地の方に連れて行くことが決まった。すると残りはイネスとエステルの二人だ。この二人は妻にはならないことに決まった。
「二人はここでそのまま働くのでいいか?」
「はい。無理を言ってすみません」
「お願いします」
「いやいや、やりたいことがあるならそれが一番いい」
 イネスとエステルは王都の商会でそのまま働くことになる。この二人は俺の妻ではなく情婦、つまり家族にはならないことを選んだ。それは問題ない。
「でもたまに激しくパンパンしてドピュドピュしてほしいです」
「それは言うなと言っただろう。イネス、ここ最近はどうだ?」
「教えてはいますが、すぐに忘れてしまうみたいで」
 子供か? いや、子供か。それに手を出した俺も俺だけど。
 とりあえず二人は商会の寮を出て、寮のすぐ隣にある家で暮らすことになった。この商会自体が貴族街と庶民街の中途半端な場所にあるから、わりと周囲に空いている土地がある。そこを買い取った。だから住環境はほぼ変わらない。今後は使用人を何人か雇うことになるけど、それは彼女たちの給料から支払うことになる。
 二人はこのまま商会で錬金術師兼薬剤師として働く。素材に関してはマジックボックス経由で渡すことにしている。ただ状況によってはパーティーから外すこともあるので、もし『シュウジのマジックボックス』が見えなければその時は少し待つようにと言っておいた。

 俺はみんなひっくるめて家族と呼んでいるけど、愛妾とか情婦とか愛人とかは本来は家族じゃない。あくまで手を出した相手というだけだ。
 妻とは正室と側室を指す。だから妻になるのは最初からその予定だったミレーヌ、フラン、エミリア、リュシエンヌ、ベラ、ワンコ、オリエ、タイス、エコ、そして最初は使用人だったオレリーやシュザンヌ、ジゼル、アネットということになる。
 貴族か平民かとかそういうことじゃなくて、あくまで仕事をしながら俺と関係を持ちたいのが情婦や愛人ということになる。だからイネスとエステル、ネリーとサビー、そしてララとロラも情婦扱いだ。俺の庇護下にはあるけど家族ではない。
 俺としては分けたくはないけど、妻が屋敷でメイドと一緒に掃除というのは問題があるし、妻が商会の寮で寝泊まりして夫は領地というのもおかしい。だからどうしても分ける必要がある。それ以外に俺と関係があって家族でない者たちもいる。それが従魔だ。

「せっかく穴を掘ったけど、トゥーリアはどうする?」
《我か? もちろん向こうに行くぞ。シュウジのいるところに我ありじゃ》
 トゥーリアが嬉しそうに寄ってきたから頬を撫でる。
「いてくれると移動が楽なのは間違いないな」
《いつでも乗ってくれ。我はシュウジの騎獣じゃ》
 いつの間にか従魔になったからなあ。でもいてくれると助かるのは間違いない。座席はないけど飛行機みたいなものだ。とにかく速い。
「みんなも行くよな?」
「「「はい」」」
「「「(コクコク)」」」
 当然だけどスキュラもアラクネもセイレーンも俺に付いてくる。マダコたちも同じだ。向こうの屋敷にも家を建てないとな。
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