元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十五部:勇者の活躍

暴走再び

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 いつの間にかそれほど暑くない暑さも少し和らいだ。そろそろ秋だろうか。夏はサン=フォアのダンジョンに行ったり実験農場を作るための町を作ったり、そんなことをしていたらいつの間にか終わってしまった。そんなある日、アドニス王から相談したいという連絡があった。

 ◆◆◆

「何度も頼むのは申し訳ないが」
「いや、いい経験という言い方には語弊があるが、まだこの国に慣れていない俺にはどんなことでも新鮮だ。喜んで向かわせてもらおう」
「それなら頼む」
 アドニス王から頼まれたのは、サン=フォアの町よりもさらに南、この国で一番南にあるダンジョンを持つセレンの町。ここで暴走スタンピードが発生したそうだ。
 この町を含むその一帯の領主はルニエ子爵で、彼には少々問題があるそうで、そのあたりの話を聞いている。
「真面目にダンジョンの管理をしていないのだ」
「ということは暴走スタンピードが多いと?」
「そうだ。一番多いだろう」
 セレンの町にはダンジョンが二つある。いや、二つになったと言うべきだろうか。いつの間にか増えたらしい。それもあって負担が大きくて投げだし、今では放置状態らしい。冒険者に依頼は出しているけど、報酬がシブいそうだ。だから集まりが悪い。
 各種ギルドの運営費は国から補助は出るけど多くは領主が支払う。要するに国が出すのは最低賃金のみで、そこに領主がどれだけ上積みするかで報酬が決まるそうだ。そして誰だって銅貨一枚でも多い方がいいと考える。そうすると領地へと誰もが向かうことになる。
 普通のダンジョンなら暴走スタンピードが起きたとしても五年くらいは落ち着く。それに魔物の数も数千で収まる。でも放置しっぱなしなら魔物がすぐ中で増えるし数も多くなる。だから早ければ半年に一度は起きるらしい。落ち着くまでに何週間もかかり、しかも半年後にまた起きることもある。
 それだけ頻繁に起きるということはダンジョン内には常に魔物が多く、暴走スタンピードが起きる前から外にが出てくることもある。その数もそれなりなので、その素材だけでもそれなりの利益になるらしい。それに味を占めたか、領地にいる兵士たちをダンジョンに潜らせることはなく、出てきたものだけを狩るようになった。
「正直腹に据えかねていてな。そろそろ降爵か奪爵にでもしようかと思っていたところだ」
「それは後でもいいだろう。それならまた現地に向かう」
「転移門を使うか?」
「いや、トゥーリアに乗せてもらう。庭で穴を掘っているだけだからな」
 トゥーリアは屋敷の庭に巣穴を掘っていた。そこそこ深い。スキュラたちがたまに覗いているそうだ。
「分かった。それなら兵士たちだけ転移門で向こうへ送ろう」
「そうしてく……」
 そうしてくれと言いかけて【異空間】のことを思い出した。あれなら兵士を一〇〇人くらいは運べるだろう。トゥーリアが入ったくらいだからな。
「今思い出したが、俺には【異空間】というスキルもある。生き物も入るから、兵士たちも運べるはずだ」
「どれくらい運べそうだ?」
「あのトゥーリアがすっぽりと入った。一〇〇人は入るぞ」
 全員が十分な広さを確保して寝るのは無理かもしれないけど、小一時間だから座るだけで十分なはずだ。照明だけは用意しておいてもらうか。中は薄暗いらしいから。
「それなら転移門で運ぶ予定だった一〇〇人を運んでほしい。転移門の方は別で使う」
「別で?」
「そうだ。エウロードの町に向かわせて子爵を捕縛させる」
「一気に強気に出たな」
 エウロードはルニエ子爵領の領都だ。
「シュウジ殿がいることで話が簡単になる」
 アドニス殿によると、この夏前に魔物の暴走スタンピードを片付けたばかりの俺がもう一度出かけなければならないという状態になったのはルニエ子爵の怠慢が原因だと糾弾するらしい。そしてこれまで改善を促したが効果がなかったということで俺が強制的に暴走スタンピードの解決とダンジョンの掃除を行うと。要するに「誰に迷惑をかけたのか分かってるよな?」って具合で引っ捕えるそうだ。
 俺としては他のダンジョンがどうなっているのかも気になると言えば気になる。暴走スタンピードを起こしている最中のダンジョンがどうなっているのか、もう一度よく確認したいからな。
「それでだな、シュウジ殿にはこれを渡しておく」
 アドニス王は何かをサラサラと書いて俺に見せた。ええっと……接収の強制執行?
「これでどうするんだ?」
 町を接収してどうするのかという話だ。
「セレンの代官はルニエ子爵の三男だと言えば分かるか?」
「父親のいいなりか?」
 結局代官は領主の一族が多い。要は利権だからな。
「それもあるが、魔物と戦っている時に後ろからブスリとやられてはたまったものではないだろう」
「それはそうだが」
 俺を刺そうとしても多分スキュラたちに襲われるぞ。俺が行くなら彼女たちも行くだろう。スキュラたちのステータスは二〇〇前後。これは近衛騎士団の女性騎士たちといい勝負ができる。しかも魔法だって使う。そんじょそこらの冒険者パーティーが敵うわけがない。
「セレンの町は暴走スタンピードが収束するまでシュウジ殿の監視下に置く。それではシュウジ殿が自由に動けないだろうから、代官の代行をさせる人材を選んでおく。代官を更迭して、代行にしばらくは代官の代わりをさせてほしい」
「分かった。国としても町としてもそちらの方がいいんだろうな」
 まともに管理されていないダンジョンを持つ町。町の住民も迷惑だろうし、国としてもそのままにしておいていいわけはないんだろう。
「それなら代行は兵士たちと一緒に集めておいてほしい。俺は一度屋敷に帰ってトゥーリアに説明しておく」
「承知した。兵士たちは練兵場に集めておく。最低でも一〇〇人は集めるので、連れていけるだけ連れていってほしい」

 ◆◆◆

「そういうことで、また暴走スタンピードを片付けるために出かける」
「危険はないと思いますけど気をつけてくださいね」
 ミレーヌが気遣ってくれるから抱きしめて唇を重ねる。暴走スタンピードやダンジョンが危険だとは思わないけど気は抜かない。俺はそう簡単に死なないはずだけど、人生には何があるか分からないからな。凶暴なドラゴンにいきなりブレスを吐かれたらさすがに熱いだけじゃ済まないだろう。
 抱きしめたミレーヌの体温を感じる。またしばらくこの感覚がないのか。複体を残していってもいいんだけど、万が一向こうで使いたくなった時に困る。その時は解除すればいいけど、ワンテンポ遅れた時に困る場合があるかもしれない。
「スキュラたちも連れていくつもりだから大丈夫だ。十分な戦力だろう」
 俺はそれだけを口にした。

 次は庭に出てトゥーリアに乗せてもらえるように話をする。そう思ってねぐらの洞窟を覗いたらスキュラたちもいた。説明が一度で済むから楽でいい。
「トゥーリア、急だけどまた背中に乗せてほしい」
《うむ、いいぞ。今度はどこへ行くのじゃ?》
「この国の南南西の端にあるルニエ子爵領だ。目的はセレンという町のダンジョンだけど、その手前にあるタイメイユという町で兵士たちと合流する」
 合流するというよりも、エウロードやセレンを差し押さえるからその情報を共有するのが目的だ。そんな話をしていると、スキュラたちがワクワク感を隠せない表情でこっちを見ていた。
「五人が俺と一緒に行くのを前提で話してるからな?」
「もちろんです!」
「どこまでもお供します!」
「例えこの先がダンジョンでもベッドでも!」
「優しくしてもらえると嬉しいです」
「私は激しくても問題ありません」
「話を少しずつ曲げるな。行くのはダンジョンだ」
 いつものことだけど、こうやって家で話しているうちに話をねじ曲げられて気づけばベッドの中ってこともある。俺が流させるだけなんだけどな。
「とりあえずこれから練兵場へ向かう。そこで兵士たちを異空間へ収納したらトゥーリアに乗って移動だ。
《よし、では参ろうか》
 洞窟から出ると俺とスキュラたちはトゥーリアの背に乗って練兵場へ向かうことにした。
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