元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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最終部:領主であること

結界の穴

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「またデルクイッソンに迷い人が現れたということです」
「またか。今週で何人目だ?」
「その報告で一三人になりました」
 エルネストから報告を受ける。今日の報告も一昨日と同じく、また迷い人が現れたということだ。ここ半年ほど迷い人が急増していた。
 迷い人とは、神による手続きを経ずにこの世界にやって来た者たちのことだ。俺やケントさんは転移者、リュシエンヌやワンコ、オリエ、母さんたちはこの世界で生まれているので転生者という扱いだ。
 迷い人は手続きを済ませていないので、この世界で暮らす準備ができていない。つまり言葉が通じないことがほとんどだ。これまでにやって来た迷い人は全員エウロードまで連れて来てもらったが、誰一人こっちの言葉は理解できなかった。でもそこはミレーヌたちに頼んでコミュニケーションがとれるようにしてもらっている。みんな言葉が通じないだけで、エルシーのように魂がボロボロになっていることはないようなので一安心だ。
「ミレーヌ、何か分かったか?」
「もしかしたら壁が活性化しているのかもしれません」
「活性化?」
 以前にも説明してもらったけど、世界は石けんの泡のような壁で隔てられている。それがいくつも隣同士にくっついている。人が別の世界に移動するにはその泡に道を作ってもらわなければならない。それが神の仕事だ。その泡に異変が起きている可能性があると。
 現在この世界にはミレーヌとフラン、それに俺という三人の神がいる。まあ俺は半人前どころか百万分の一人前だけどな。でも神になりかけている俺がバンバン女性を抱いたおかげで、神格を得た存在が増えてしまった。
 エミリアやワンコたちもまだ本物の神じゃないけど神格を得ている。人以上神以下の存在だ。一人一人の力は小さくても、数がいればそれなりの影響力がある。それに加えて従魔たちもいる。彼女たちは俺の眷属だし、元々が並の人よりも強かった。それが俺に抱かれて神の力をわずかでも持ってしまえばどうなるか。
 要するに、内部で力が溜まったせいで泡がよく動くようになり、そのせいであちこちと擦れて穴ができ、それが原因でエルシーのようにこちらの世界に人が増えた。その可能性が高いと。
 最初に突き破ったのがエルシーで、彼女はそのせいで魂にダメージが入ってしまった。一度壁に穴があいたので、そこから落ちてくるときは魂には問題がないそうだ。
「直すことはできないのか?」
「対処療法になりますね。落ちてきた場所を確認して塞ぐことならできます。でも塞ぐと、またエルシーさんのように突き破る人が出て来ます」
「それなら増えるしかないのか」
 完全に修理するのは難しい。それなら穴ができたら塞ぐという対処療法しかないけど、塞ぐとまた突き破られる可能性がある。ヘタに突き破ると魂が傷つくので、むしろ塞がない方がいい。でもそれでは落ちてくる人が増え続ける。
「根本的に解決するとなると、神の力を減らすしかないんだよな?」
「はい。私とフランさんとシュウジさん、それにエミリアさんを始めとして神格を持った者が全員いなくなれば自然と落ち着くと思います」
「俺がみんなを抱いたのが原因か。好き勝手やってきたからな」
 気になる女は順番に抱いた。気になるとは言っても、顔がいいとか、そういう気になるじゃない。性根がきれいというか、魂の輝きというか、俺も神の端くれなんだなと思うことがある。いかに見た目がよくても、クローディーヌのような女にはまったく食指が動かない。
「神が好き勝手に振る舞うのは今に始まったことではないですけどね」
「それを言っちゃおしまいだろ」
 神が地上世界にあまり来ないのは、不必要に神力が増えないようにということらしい。でも地上世界が好きでやって来ていたフランのような神もいるし、ミレーヌも俺がいてくれと言うといてくれる。
化身アバターや複体は能力的には同じですけど、本体ほど神力がありません。本体は神域で暮らし、こちらは複体を置いておくというのが一番でしょうね」
「予定を早めるか。とっとと神域に行くのがいいかもな。それでミレーヌとフランに結界を直してもらえばとりあえずは大丈夫なんだよな?」
「はい。そちらは任せてください。神としては若くても、それくらいはできます」

 ◆◆◆

「というわけで、急な話だけど、出産が終わったら本体は神域に引っ越して、複体を地上に置く形にしてほしい。特にミレーヌとフランは」
「はい。分かりました」
ワタクシも問題ありませんわ」
 化身アバターや複体とは感覚の共有はできる。我が子と離れてほしいというのは無理なお願いだとは分かっている。でもそうするのが一番なんだよな。
「俺とミレーヌとフラン以外は地上にいても大丈夫だと思う。でも今の状況が落ち着くまでは、週に二、三日くらいで我慢してほしい」
「シュウジ様、わたくしが思いますに、それは大丈夫だと思います」
「我慢できるってことか?」
「いえ」
 リュシエンヌが貴族の子育て事情を説明してくれた。それによると、妻は基本的には育児には関わらない。たまに母乳を与えることもあるが、ほとんどは使用人に任せる。
 この冬から春にかけては俺が抱いた女性全員が順次出産することになっている。二〇人ほどの赤ん坊が生まれるわけだ。そのために子守を何人も雇い、そのまとめ役としてナニー乳母を置く。子育てはナニーと子守に任せることになる。ナニーの手を離れるくらいの年齢になると家庭教師が付く。親子が顔を合わせる時間というのは、実はほとんどない。
「子育てを他人任せというのはぁ、けっこう違和感がありますねぇ」
「ホントね。アタシもお乳くらいはあげたいんだけど」
「たまにはいいと思います。ですが、付きっきりになってしまうと使用人たちの仕事がなくなります。貴族は人を使うもの。そうでなければ雇用が生まれません」
 ワンコとオリエの日本人組は若干違和感があるようだけど、リュシエンヌの言葉も間違いではない。子守として、母乳の出る女性だけでなく、一〇歳くらいの子供も雇われるそうだ。うちで働いたという実績があれば次の仕事も探しやすいだろう。
「それはそうと、ナニーは決まったのか?」
 ナニーは子育ての責任者だ。あまり適当な人では困る。
「はいはーい、私」
「え? 母さん?」
 勢いよく手を上げたのは母さんだった。ナニーの話だぞ?
「そうよ。前世でシュウジの母親だったってことになってるけど、こっちじゃ無関係だからね。私もちょっとくらいは役に立ちたいし、複体をこっちで働かせるってことで」
「それなら……いいのか?」
 まあ母さんだしな。前世はダメダメな夫ともっとダメダメな夫の浮気相手と戦って大変だったらしい。
「こっちじゃ子供を産んでないからお乳は出ないけど、そこはお乳の出る子守たちに任せるし。早く【若返り】を身に付けてシュウジに抱かれないとね。もっと徳を積まないと」
「抱かないって」

 とりあえず神域に引っ越すことは問題なさそうだ。そうなると次はタイミングの問題だな。
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