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最終部:領主であること
二代目の苦労
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「なかなかうまくいかない」
「それはそうでしょう」
エルネストが私に向かって遠慮なくそう言う。
「シュウジ様はご自身ですべてができる方でした。テオドール様はそういうわけではありません」
「それは分かっているけどなあ」
私がラヴァル公爵になったのは一二歳になった去年の終わり。父シュウジが「そろそろ引退する。家も財産もすべて置いていく」と言い、財産分与が行われた。私とは別に一〇人は爵位を受け取った。爵位が与えられなかった弟や妹たちには十分な財産が与えられた。
その財産だが、さすがは父上という内容だった。国がひっくり返るのではないかというほどの金貨があった。蓄財を趣味にするような人ではなかったが、金を使う趣味を持っていない人だった。食べることには積極的だったか。あとは女性が好きだったな。
女性好きだったかもしれないが、片っ端から口説くとか、そのようなことはなかった。「テオドール、よーく女性を見ろ。顔じゃなくて心の色だ。どれだけ見た目が綺麗でも、中身はどす黒いことは多い。母親たちをよく見ておけ」と父はよく私に言っていた。その父上は母上たちと一緒に屋敷を離れ、諸国漫遊の旅に出かけた。
私はおとぎ話のように父上の話を聞いて育った。遠くにある別の世界から呼ばれてやって来た人だと。その父が何よりも重視したのは経済力の向上と平民の地位の向上。それから戦力の強化。戦力については他国を攻めるためではなく、国内にいくつもあるダンジョンが溢れないように常に底まで潜らせるためだった。
この領地にもダンジョンが二つある。そこから得られる物資はこの領地にはなくてはならないものが多い。海から最も離れているこの国の最南端で海産物を手軽に得るにはダンジョンしかないからだ。
魚などの食材が重要なの当然として、残った貝の殻はチョークの原料として使われている。それに昆布、鰹節、冬菇はダシとして食卓に欠かせない。このあたりは父が広めたものだと言われている。
「それよりも縁談が届いております」
「またか……」
エルネストの手には一〇通ほどの書簡があるのが見えた。私が爵位を継いでから、定期的に届くようになった。
「こればかりは仕方ありませんな。お嫌なら二〇人ほどお相手を見つけて他を断ればよろしいかと」
「二〇人?」
「テオドール様は公爵です。それくらいは押し込もうとするものですよ。ごきょうだいの人数を考えればお分かりでしょう。シュウジ様もあの状態でしたので断っておられました」
「何十人もいるからなあ」
元王女だった母上との間に生まれたのは私を入れて三人。義母たちとの間の子供は一〇〇人は超えないが、普通に考えれば多いだろう。
同じ父を持つという点では、父の従魔たちの娘も私の妹になる。そこも入れればきょうだいの人数は軽く四桁に達するだろう。もはや一つの町だな。
その従魔たちは最初のころは魔物とされていたが、最近では新しい種族だとみなされている。それはそうだ。普通に会話ができるし、大人になればスキルを使って人間とまったく同じ姿になれるそうだ。魔物のスキュラは妖艶な女性の下半身が凶悪な犬になっているが、うちにいるスキュラは少女の腰から子犬が生えた姿だ。遊んでいると疲れが吹き飛ぶ。
「テオドール様、妹様たちと遊ぶのはあとになさってください。まずはどなたとお会いになるかをお決めください。王女殿下は外せません」
「分かったよ」
私は手元にある一二通の手紙を見て、どれから開けようかと思いを巡らせるのだった。
◆◆◆
息子には苦労をかけるだろうけど……まあ命を失うほどじゃない。頑張れ。男ならそれくらいは耐えられるはずだ。それに公爵家の当主ならある程度は無茶を言えるだろう。お前は国王の従兄だからな。
あれから俺には子供が生まれた。結婚式から一年少々で全員が妊娠して出産するという、おめでたすぎる状態だ。それでも問題がなくはない。俺たちは年をとらないからだ。
そのままでは年をとらないが、〔不老化〕のチェックを外せば年をとることはできる。でも妻たちがそれを望むかといえばそうではなかった。女性は誰でも若くありたいからだ。だから別の方法を考えた。それが複体の見た目を老けさせるという方法だ。
神専用の化身、人が使える複体や分身は、そのままでは今の自分と同じ見た目の体を作るだけだ。フランは髪の色を変えていたが、それくらいならできる。だが妻たちは見た目そのものを変えることに成功した。そこまで大げさなものではないのかもしれない。まず最初にできたのがワンコだからだ。
「シュウジくんに初めて抱かれた時の見た目ですよねぇ」
ワンコがそう言って俺に見せたのは、あの土砂降りの日に俺の家で見せたあの姿だった。週末にゴム三箱の時代のワンコだ。その姿を見たら我を忘れて頑張ってしまった。それを知った妻たちが、複体と分身の姿を変える方法を次々と身に付けた。
「シュウジさんが抱いた相手は、みなさんおかしな状態になりますね」
「本当ですわ。普通なら考えられません」
女神二人がそう言うのなら間違いないのだろう。俺だけでなく、妻たちもおかしい。結局見た目を変えられると分かって以降、俺たちは領地を離れる準備をした。どうせいつかは離れなければならないからだ。
もう一つは世界を包んでいる壁というか結界というか、それが痛んでしまったということだ。ミレーヌとフラン、そして神になりかけの俺。そこに俺に抱かれて神の力を持ち始めた妻たち。これだけいれば神の力が溜まる。それが世界を包む壁を動かし、隣の世界の壁と摩擦が起きた。世界の壁が摩擦で傷むなんてと思ったけど、実際にそれで薄くなった部分があり、エルシーがそこを突き破って落ちてきた。
あれからこの領地だけで軽く一〇〇〇人を超える迷い人が現れた。穴があいた壁を通ってやって来たのでエルシーみたいに魂が傷ついていることはなかったけど、このままだと大変なことになる。そう思って隠居を早めることにした。
ちなみに俺の従魔たちだが、彼女たちも俺たちと一緒に神域に引っ越すことになった。従魔の子供たちについては、地上に残るかどうかは個人の任せることにした。一部は跡取りのテオドールに惚れ込んで残ることを選んだそうだ。まあ、あの懐き具合を見ればな。
出産が終わった妻から化身や複体を残して神域に引っ越した。これで神の力が溜まることは防げる。能力は同じでも、神の力は本体ほどではない。週に何日か、子供の顔を見るために地上に降りる以外は神域が生活の場になった。
もちろんすることをすれば子供ができる。妊娠中は地上で暮らし、出産が終われば神域に戻ってたまに地上に降りるというのが日常になった。その状態で子供たちが一定の年齢になるのを待った。そしてエコとの間にできたテオドールが一二になると俺は爵位を譲った。
テオドールが爵位を継ぐ前に俺が貰っていたのはラヴァル公爵の爵位だけではなく、追加で伯爵が三つ。子爵が四つ、男爵が三つ。フレージュ王国はあれから貴族を増やすことになったからだ。
この国はごく少数の貴族が狭いところでいろいろとやっていた。そもそも百数十しかない貴族が国を支配するというのは無理があった。それで俺が領地に移り住んで以降、国のほうでも様々な方針を立てた。その一つが貴族を増やすことだった。
あれから貴族の数は五〇〇を超えた。そしてなぜか分からないが、俺にはラヴァル公爵だけではなく、さっき言った一〇個の爵位が与えられた。それを子供たちに分け与えた。でも子供の数は一〇人どころではなかったので、爵位を貰えない子供もいたが、そこは金を与えて頑張れと言った。世の中は金か地位があればどうにかなるものだ。
「それはそうでしょう」
エルネストが私に向かって遠慮なくそう言う。
「シュウジ様はご自身ですべてができる方でした。テオドール様はそういうわけではありません」
「それは分かっているけどなあ」
私がラヴァル公爵になったのは一二歳になった去年の終わり。父シュウジが「そろそろ引退する。家も財産もすべて置いていく」と言い、財産分与が行われた。私とは別に一〇人は爵位を受け取った。爵位が与えられなかった弟や妹たちには十分な財産が与えられた。
その財産だが、さすがは父上という内容だった。国がひっくり返るのではないかというほどの金貨があった。蓄財を趣味にするような人ではなかったが、金を使う趣味を持っていない人だった。食べることには積極的だったか。あとは女性が好きだったな。
女性好きだったかもしれないが、片っ端から口説くとか、そのようなことはなかった。「テオドール、よーく女性を見ろ。顔じゃなくて心の色だ。どれだけ見た目が綺麗でも、中身はどす黒いことは多い。母親たちをよく見ておけ」と父はよく私に言っていた。その父上は母上たちと一緒に屋敷を離れ、諸国漫遊の旅に出かけた。
私はおとぎ話のように父上の話を聞いて育った。遠くにある別の世界から呼ばれてやって来た人だと。その父が何よりも重視したのは経済力の向上と平民の地位の向上。それから戦力の強化。戦力については他国を攻めるためではなく、国内にいくつもあるダンジョンが溢れないように常に底まで潜らせるためだった。
この領地にもダンジョンが二つある。そこから得られる物資はこの領地にはなくてはならないものが多い。海から最も離れているこの国の最南端で海産物を手軽に得るにはダンジョンしかないからだ。
魚などの食材が重要なの当然として、残った貝の殻はチョークの原料として使われている。それに昆布、鰹節、冬菇はダシとして食卓に欠かせない。このあたりは父が広めたものだと言われている。
「それよりも縁談が届いております」
「またか……」
エルネストの手には一〇通ほどの書簡があるのが見えた。私が爵位を継いでから、定期的に届くようになった。
「こればかりは仕方ありませんな。お嫌なら二〇人ほどお相手を見つけて他を断ればよろしいかと」
「二〇人?」
「テオドール様は公爵です。それくらいは押し込もうとするものですよ。ごきょうだいの人数を考えればお分かりでしょう。シュウジ様もあの状態でしたので断っておられました」
「何十人もいるからなあ」
元王女だった母上との間に生まれたのは私を入れて三人。義母たちとの間の子供は一〇〇人は超えないが、普通に考えれば多いだろう。
同じ父を持つという点では、父の従魔たちの娘も私の妹になる。そこも入れればきょうだいの人数は軽く四桁に達するだろう。もはや一つの町だな。
その従魔たちは最初のころは魔物とされていたが、最近では新しい種族だとみなされている。それはそうだ。普通に会話ができるし、大人になればスキルを使って人間とまったく同じ姿になれるそうだ。魔物のスキュラは妖艶な女性の下半身が凶悪な犬になっているが、うちにいるスキュラは少女の腰から子犬が生えた姿だ。遊んでいると疲れが吹き飛ぶ。
「テオドール様、妹様たちと遊ぶのはあとになさってください。まずはどなたとお会いになるかをお決めください。王女殿下は外せません」
「分かったよ」
私は手元にある一二通の手紙を見て、どれから開けようかと思いを巡らせるのだった。
◆◆◆
息子には苦労をかけるだろうけど……まあ命を失うほどじゃない。頑張れ。男ならそれくらいは耐えられるはずだ。それに公爵家の当主ならある程度は無茶を言えるだろう。お前は国王の従兄だからな。
あれから俺には子供が生まれた。結婚式から一年少々で全員が妊娠して出産するという、おめでたすぎる状態だ。それでも問題がなくはない。俺たちは年をとらないからだ。
そのままでは年をとらないが、〔不老化〕のチェックを外せば年をとることはできる。でも妻たちがそれを望むかといえばそうではなかった。女性は誰でも若くありたいからだ。だから別の方法を考えた。それが複体の見た目を老けさせるという方法だ。
神専用の化身、人が使える複体や分身は、そのままでは今の自分と同じ見た目の体を作るだけだ。フランは髪の色を変えていたが、それくらいならできる。だが妻たちは見た目そのものを変えることに成功した。そこまで大げさなものではないのかもしれない。まず最初にできたのがワンコだからだ。
「シュウジくんに初めて抱かれた時の見た目ですよねぇ」
ワンコがそう言って俺に見せたのは、あの土砂降りの日に俺の家で見せたあの姿だった。週末にゴム三箱の時代のワンコだ。その姿を見たら我を忘れて頑張ってしまった。それを知った妻たちが、複体と分身の姿を変える方法を次々と身に付けた。
「シュウジさんが抱いた相手は、みなさんおかしな状態になりますね」
「本当ですわ。普通なら考えられません」
女神二人がそう言うのなら間違いないのだろう。俺だけでなく、妻たちもおかしい。結局見た目を変えられると分かって以降、俺たちは領地を離れる準備をした。どうせいつかは離れなければならないからだ。
もう一つは世界を包んでいる壁というか結界というか、それが痛んでしまったということだ。ミレーヌとフラン、そして神になりかけの俺。そこに俺に抱かれて神の力を持ち始めた妻たち。これだけいれば神の力が溜まる。それが世界を包む壁を動かし、隣の世界の壁と摩擦が起きた。世界の壁が摩擦で傷むなんてと思ったけど、実際にそれで薄くなった部分があり、エルシーがそこを突き破って落ちてきた。
あれからこの領地だけで軽く一〇〇〇人を超える迷い人が現れた。穴があいた壁を通ってやって来たのでエルシーみたいに魂が傷ついていることはなかったけど、このままだと大変なことになる。そう思って隠居を早めることにした。
ちなみに俺の従魔たちだが、彼女たちも俺たちと一緒に神域に引っ越すことになった。従魔の子供たちについては、地上に残るかどうかは個人の任せることにした。一部は跡取りのテオドールに惚れ込んで残ることを選んだそうだ。まあ、あの懐き具合を見ればな。
出産が終わった妻から化身や複体を残して神域に引っ越した。これで神の力が溜まることは防げる。能力は同じでも、神の力は本体ほどではない。週に何日か、子供の顔を見るために地上に降りる以外は神域が生活の場になった。
もちろんすることをすれば子供ができる。妊娠中は地上で暮らし、出産が終われば神域に戻ってたまに地上に降りるというのが日常になった。その状態で子供たちが一定の年齢になるのを待った。そしてエコとの間にできたテオドールが一二になると俺は爵位を譲った。
テオドールが爵位を継ぐ前に俺が貰っていたのはラヴァル公爵の爵位だけではなく、追加で伯爵が三つ。子爵が四つ、男爵が三つ。フレージュ王国はあれから貴族を増やすことになったからだ。
この国はごく少数の貴族が狭いところでいろいろとやっていた。そもそも百数十しかない貴族が国を支配するというのは無理があった。それで俺が領地に移り住んで以降、国のほうでも様々な方針を立てた。その一つが貴族を増やすことだった。
あれから貴族の数は五〇〇を超えた。そしてなぜか分からないが、俺にはラヴァル公爵だけではなく、さっき言った一〇個の爵位が与えられた。それを子供たちに分け与えた。でも子供の数は一〇人どころではなかったので、爵位を貰えない子供もいたが、そこは金を与えて頑張れと言った。世の中は金か地位があればどうにかなるものだ。
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