元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十六部:領主になること

屋敷の中でのあれやこれや

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 案内の途中で従魔たちがやって来たので、引き続き屋敷の裏を見てから中に入ることにした。

「さっきいたのがスキュラとアラクネとマダコだ。全員俺の従魔ということになる」
「たくさんいるのですね」
「たまたまダンジョンで仲間にした。もう一種族、セイレーンがいる。そこの水の中だ」
 プールの際まで行くとセイレーンたちが浮かんでいた。浮かんだまま寝ているのかと思ったら薄目を開けていた。
「あ、マスター、おかえり」
「ただいま」
 この子たちはある意味では自由だ。
「あれから問題はなかったか?」
「特には。ノンビリできていいってみんなで話してたくらい」
 特に問題なかったようで、また背泳ぎの要領でプールに戻っていった。

「これから屋敷の中も見てもらうが、広いだけで普通の屋敷だ。ただメイドたちはここで働くこともあるから覚えておいてくれ」
「「「はい」」」
 荷運びの少年二人はどうするか。そのあたりはダヴィドとエルネストが決めるだろう。今の段階ではエウロードの門番たちはエウロード専任にする。馬番たちも同じだ。他は必要に応じて王都とエウロードを移動してもらう。

「外から見ても大きかったですが、中に入るともっと大きく感じます」
「ここは大ホールだから特にそうだろう」
 一度しか使ってないけど、五〇〇人くらいでパーティーができるホールだ。体育館並みだからな。
「こんなところで働いてみたいです」
 そんな声が聞こえた。今日のところは物見遊山だからいいけど、何もしなくてもホコリが溜まるぞ。ここを掃除するのは自分たちだからな。それが分かっているのかどうか。
 エウロードの屋敷にもホールはあったけど、領地の屋敷で何百人も招いてパーティーをするということはならしいい。町の有力者を集めるにしても数十人がせいぜいだ。屋敷は大きくてもこんなに大きなホールはない。
 この屋敷に初めて来た時、何かに使えるんじゃないかと思ったけど、結局使い道が見つからなかった。
 それから屋敷の中をぐるっと回って、それから使用人の部屋などを案内したけど、特におかしな設備があるわけじゃない。全体的に天井が高くて広いだけだ。目新しさは少ないだろうな。
「これを使えるんですか⁉」
 そう思っていたらメイドたちが風呂に感動していた。使用人たちにも使える風呂があるからだ。そういえばエウロードにはなかったか。
 昔のラヴァル公爵が問題児だったのは間違いないけど、使用人に対しての扱いが悪くなかったことも間違いない。少なくともケチではなかった。使用人のために立派な建物を建てていたくらいだ。それが他人に見せつけるためのものだったとしても。
 使用人棟には狭いながらも風呂があって汚れを落とすことができる。俺としても使用人が臭うのは嫌だから、風呂があって助かったと思っている。
「夜間は非常時に備えて二人が本館で待機することになっている。それ以外は順番に風呂に入って休んだらいい」
「休んでいいんですか⁉」
 そんな声が出た。休まずにどうするんだ?
「夜に寝なければいつ寝るんだ?」
 昼に寝るわけにもいかないだろう。
「いつ用事を申し付けられるか分かりませんでしたので夜中は起きていました。三分以内に来なければ罰がありました。昼間に仕事の合間に交代で仮眠を取るくらいでした。エルネストさんが来てからは夜に寝られるようになりましたが……」
「ひょっとして……俺がいた間も起きていたのか?」
「いえ、旦那様は大丈夫だろうとエルネストさんが言いましたので……」
「ああ、さすがに寝ているところを起こして喜ぶような趣味はない」
 もしかしてメイドが少なかったのは、逃げ出したからなのかもしれないな。
「俺としては夜番なんて必要ないと思うが、万が一に備えてと言われればそれに従わなければいけない。そういうことで月に一度くらいは当番がある。夜番が終わればその日それ以降は休みということになっている。
「お休みですか?」
 そうか、それもなかったか。
「ああ、他の貴族のことは知らないが、来年からこの屋敷では毎週一日は完全に休みになる。みんなに一斉で休まれると困るから交代でということになる。つまりいつも誰かが休みの日だ」
 有給と言っても理解できないだろうからそういう言い方になる。それ以外に年に一〇日、年間で合計七〇日の休みを無理やり取らせることになっている。
「休んでも怒られないんですか?」
「そこが俺にはおかしく思える。無理して働いて体調を崩したら周りに迷惑をかけることになる。それでは意味がないだろう。その前に休んで体調を整えるのも立派な仕事だ」
 不眠不休と酒と病気で寝込んだ俺が言うのもおかしいけど。
 詳しく聞くと、ルニエ子爵はいわゆる暴君タイプ。無理なことを命じて心を折って喜びを得るというどうしようもないタイプだったらしい。それをどうにか乗り切ったか、あるいは辞めた仲間の代わりに入ったのがあの屋敷にいた使用人たちということらしい。息子のオラースもそういうのが好きそうな顔をしていた。一見すると好青年に見えたけど。
「使用人を痛めつけても意味がない。屋敷を維持するには使用人が必要だ。俺一人でできるわけじゃない」
 やろうと思えばできるけど、それは言わぬが花というものだろう。
「俺にとっての使用人というのは大きな意味での家族みたいなものだ」
「ということは旦那様は私の夫のようなものですか?」
「全然違う。大きな意味でと言っただろう。使い潰すとかそういうことはしないということだ。体調を崩せば薬を与えて休ませるし、無茶はさせない。雇っている間はきちんと面倒を見る。ああ、ペリーヌ、ちょっと来てくれ」
 メイドのペリーヌがいたので労働環境などを説明してもらうことにした。
「前のお屋敷では……一〇人ほどがベッドもない地下室に詰め込まれ、寒いと口にしたら頭から水をかけられて外に放り出され、食事は硬くなったパンを冷たいままのスープに浸して食べ、……ううっ……」
「思い出させて悪かった」
 思わず抱きしめて慰めてしまった。
 この子は社交シーズンが終わったら解雇されたメイドの一人だ。誰とは言わないが、かなり悪い環境で働かされていたらしい。それでも文句を言えないのが期間労働者の悲しいところだ。
「いえ、今は暖かいお部屋にベッドもあります。ご飯も毎日お腹いっぱい食べられます。できれば旦那様のお情けもお腹いっぱい頂きたいところですが」
「それはまた別の話だ」
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