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第十六部:領主になること
エウロードの屋敷にて
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屋敷の中でゆっくりと話をすることになった。俺のことは後でもいいとして、とりあえずララとロラを紹介しなければならない。
「ここに連れてきたのは俺の情婦で楽士をしているララとロラだ。二人はこの屋敷にいることもあればいないこともある」
「畏まりました。後ほどここにいない者たちにも伝えておきます」
「頼む」
ここでララとロラの二人を俺の寝室で休ませることにした。やっぱり初めて空を飛ぶというのは精神的に疲れるようだ。俺の寝室にしたのもすぐに抱くためじゃない。今のところ俺の部屋しか決まっていないからだ。フラフラしている二人を無理やり抱くほど俺は性格が悪いわけじゃない。
まずは使用人の把握か。
「エルネストにはここで働く期限などはあるのか?」
「いえ、特には。旦那様が新しく執事をお雇いになれば、そこで終わりということになっております。また王都に戻って財務省で働くことになっております」
「ああ、財務省か」
「はい。税のことなどもありますので」
現ラヴァル公爵領、元ルニエ子爵領。領地はそれなりに広い。広いということは町も村も数が多い。そうなると税を集めるのもそれなりに大変な作業になるということだ。役人を派遣して農地の広さを調べ、一定の基準を超えないように指導する。以前はそうだった。そのあたりは少し変えようと思う。そして変えるとなれば忙しくなるはずだ。
「ちなみに他の町ではなくここに来た理由は何かあるのか?」
「私はこのエウロードの生まれでございます。かつて実家は商売をしておりましたので、この町にはある程度詳しい自信がございます。どうやらそれで選ばれたようです。他の町の代官代理も、できる限りその地域で生まれ育った者が選ばれたようです」
「そうか。それなら今後は俺に雇われてくれ。家令を任せたい。俺には領地経営の知識は全くない。金勘定が得意なら全面的に任せる」
「ありがとうございます。全身全霊を持ってお仕えいたします」
ダヴィドは領地経営については未経験らしい。基本的には主人の側に仕える従者だったそうだ。王宮では使用人のまとめ役の一人として働いていた。
「ちなみに使用人は何人残っているんだ?」
「私も含めて総勢で一八人になります。これは御者や馬番、門番なども含めてでございます」
「一八人か。それでは足りないな?」
「下働きはおりますので、どうにか屋敷は維持できております。ですが今後旦那様にお客様がある場合など、こちらでの社交で困ることが多くなるかと思われます。御者がおりませんし、そして奥様方のお世話をする侍女は一人もおりません」
エルネストの下に荷運びが二人、馬番が二人(夫婦)、門番が五人、メイド長が一人、メイドが七人。これで全部。
「料理人や菓子職人などの厨房関係の者がおりません」
子爵と一緒にクロだと見なされた上級使用人がゴッソリといなくなったんだろう。残ったのはシロの下級使用人ばかり。
「先に雇っておくことも考えましたが、旦那様の伝手もあるかと思い、一人も新しく雇っておりません」
「そうだな。一応心当たりはある」
料理人はオーブリーかジスランのどちらか、あるいはキッチンメイドのロズリーヌを連れてきてもいいか。かなり腕を上げたと聞いた。下働きではもったいないとオーブリーが言っていた。菓子職人はジョアキムか、職を変えたセザールか。セザールもなかなかのものだ。
連れてくるんじゃなくてこっちで雇うのもありだけどな。でも王都で使用人を余らせるのもなあ。年の半分以上は領地の方にいる。それにメイド一人あたり月に中銀貨二枚、日本円ならザックリと一〇〇万円くらいだ。執事や料理長などの上級使用人になるとその二倍から三倍。そして住み込みだからメイドは衣食住、上級使用人も職住には金がかからない。全部こちら持ち。
メイドに比べて執事が安く思えるかもしれないけど、これは狭き門というやつで、その地位にあること自体に価値があるからだ。だから給料そのものはそこまで高くはない。でも何々家の料理長だったという肩書きは次の仕事を探す時に有効だし、独立して店を開くときには宣伝になる。「パリの三つ星レストランで修業した」ってのと同じだ。
それ以外にも働きぶりを褒めて何かを与えることがある。
上級使用人たちは俺の服を作る時に一緒に採寸して仕立てさせた。デザイン的には貴族服と違って大人しいけど、質としては最高級品になる。
女性の使用人たちも同じで、やっぱり妻たちのドレスを作るのに合わせて大人しめのデザインで作らせる。その他にもアクセサリーを妻たちから与えさせる。
男性か女性化に関係なく、給料だけではなく褒め言葉と一緒に物を与えることで、きちんと働きぶりを見て評価していることを伝えるわけだ。そうすれば真面目に働く。鼻にトウガラシを詰められるのは……評価が下がるな、一応は。
王都の方には男女合わせて下働きだけで五〇人以上いる。さらにダヴィドたち上級使用人もいるから、人件費だけで年に中金貨が何枚も飛んでいく。日本円で一億は軽く超える。まさかあの屋敷を処分するわけにもいかないだろう。空き家にすることもできないし、不在の間はダヴィドに任せることになる。使用人はある程度こっちに連れてくる方がいいだろうな。
「王都にあるルニエ子爵の屋敷の方で残った使用人はいないのか?」
もちろん王都にも屋敷がある。そこまで大きくないはずだけど、管理する使用人はいるはずだ。社交前だったとはいえ、誰もいないってことはないだろう。
「そちらの方は……」
「やっぱり問題ありか?」
「はい。領地で領民から金を巻き上げていたわけですので……」
「ああ、王都で派手に使っていたわけか。それなら全員クロだったんだな?」
「詳しくは聞いておりませんが、おそらくそうでしょう。もし王都のルニエ子爵邸にいた者が訪ねて来た場合は絶対に信用せずに捕縛しろと宰相閣下から厳命されております」
「よっぽどだったんだな」
それならそちらで残った使用人を雇うのはナシだ。そうなると……異空間を使った移動方法があるわけだから、ある程度は融通するしかないな。王都の屋敷はダヴィドとブランシュ、それと新しく家政婦長になるセリア、領地の方はエルネストとメイド長に任せ、それ以外は二つの屋敷を行ったり来たりして管理させる。社交の時期は王都、それ以外はエウロードの方を優先させる。ある程度は融通しないと無駄だけが増える。一度ダヴィドとエルネストを交えて話し合いをした方がいいな。
「ここに連れてきたのは俺の情婦で楽士をしているララとロラだ。二人はこの屋敷にいることもあればいないこともある」
「畏まりました。後ほどここにいない者たちにも伝えておきます」
「頼む」
ここでララとロラの二人を俺の寝室で休ませることにした。やっぱり初めて空を飛ぶというのは精神的に疲れるようだ。俺の寝室にしたのもすぐに抱くためじゃない。今のところ俺の部屋しか決まっていないからだ。フラフラしている二人を無理やり抱くほど俺は性格が悪いわけじゃない。
まずは使用人の把握か。
「エルネストにはここで働く期限などはあるのか?」
「いえ、特には。旦那様が新しく執事をお雇いになれば、そこで終わりということになっております。また王都に戻って財務省で働くことになっております」
「ああ、財務省か」
「はい。税のことなどもありますので」
現ラヴァル公爵領、元ルニエ子爵領。領地はそれなりに広い。広いということは町も村も数が多い。そうなると税を集めるのもそれなりに大変な作業になるということだ。役人を派遣して農地の広さを調べ、一定の基準を超えないように指導する。以前はそうだった。そのあたりは少し変えようと思う。そして変えるとなれば忙しくなるはずだ。
「ちなみに他の町ではなくここに来た理由は何かあるのか?」
「私はこのエウロードの生まれでございます。かつて実家は商売をしておりましたので、この町にはある程度詳しい自信がございます。どうやらそれで選ばれたようです。他の町の代官代理も、できる限りその地域で生まれ育った者が選ばれたようです」
「そうか。それなら今後は俺に雇われてくれ。家令を任せたい。俺には領地経営の知識は全くない。金勘定が得意なら全面的に任せる」
「ありがとうございます。全身全霊を持ってお仕えいたします」
ダヴィドは領地経営については未経験らしい。基本的には主人の側に仕える従者だったそうだ。王宮では使用人のまとめ役の一人として働いていた。
「ちなみに使用人は何人残っているんだ?」
「私も含めて総勢で一八人になります。これは御者や馬番、門番なども含めてでございます」
「一八人か。それでは足りないな?」
「下働きはおりますので、どうにか屋敷は維持できております。ですが今後旦那様にお客様がある場合など、こちらでの社交で困ることが多くなるかと思われます。御者がおりませんし、そして奥様方のお世話をする侍女は一人もおりません」
エルネストの下に荷運びが二人、馬番が二人(夫婦)、門番が五人、メイド長が一人、メイドが七人。これで全部。
「料理人や菓子職人などの厨房関係の者がおりません」
子爵と一緒にクロだと見なされた上級使用人がゴッソリといなくなったんだろう。残ったのはシロの下級使用人ばかり。
「先に雇っておくことも考えましたが、旦那様の伝手もあるかと思い、一人も新しく雇っておりません」
「そうだな。一応心当たりはある」
料理人はオーブリーかジスランのどちらか、あるいはキッチンメイドのロズリーヌを連れてきてもいいか。かなり腕を上げたと聞いた。下働きではもったいないとオーブリーが言っていた。菓子職人はジョアキムか、職を変えたセザールか。セザールもなかなかのものだ。
連れてくるんじゃなくてこっちで雇うのもありだけどな。でも王都で使用人を余らせるのもなあ。年の半分以上は領地の方にいる。それにメイド一人あたり月に中銀貨二枚、日本円ならザックリと一〇〇万円くらいだ。執事や料理長などの上級使用人になるとその二倍から三倍。そして住み込みだからメイドは衣食住、上級使用人も職住には金がかからない。全部こちら持ち。
メイドに比べて執事が安く思えるかもしれないけど、これは狭き門というやつで、その地位にあること自体に価値があるからだ。だから給料そのものはそこまで高くはない。でも何々家の料理長だったという肩書きは次の仕事を探す時に有効だし、独立して店を開くときには宣伝になる。「パリの三つ星レストランで修業した」ってのと同じだ。
それ以外にも働きぶりを褒めて何かを与えることがある。
上級使用人たちは俺の服を作る時に一緒に採寸して仕立てさせた。デザイン的には貴族服と違って大人しいけど、質としては最高級品になる。
女性の使用人たちも同じで、やっぱり妻たちのドレスを作るのに合わせて大人しめのデザインで作らせる。その他にもアクセサリーを妻たちから与えさせる。
男性か女性化に関係なく、給料だけではなく褒め言葉と一緒に物を与えることで、きちんと働きぶりを見て評価していることを伝えるわけだ。そうすれば真面目に働く。鼻にトウガラシを詰められるのは……評価が下がるな、一応は。
王都の方には男女合わせて下働きだけで五〇人以上いる。さらにダヴィドたち上級使用人もいるから、人件費だけで年に中金貨が何枚も飛んでいく。日本円で一億は軽く超える。まさかあの屋敷を処分するわけにもいかないだろう。空き家にすることもできないし、不在の間はダヴィドに任せることになる。使用人はある程度こっちに連れてくる方がいいだろうな。
「王都にあるルニエ子爵の屋敷の方で残った使用人はいないのか?」
もちろん王都にも屋敷がある。そこまで大きくないはずだけど、管理する使用人はいるはずだ。社交前だったとはいえ、誰もいないってことはないだろう。
「そちらの方は……」
「やっぱり問題ありか?」
「はい。領地で領民から金を巻き上げていたわけですので……」
「ああ、王都で派手に使っていたわけか。それなら全員クロだったんだな?」
「詳しくは聞いておりませんが、おそらくそうでしょう。もし王都のルニエ子爵邸にいた者が訪ねて来た場合は絶対に信用せずに捕縛しろと宰相閣下から厳命されております」
「よっぽどだったんだな」
それならそちらで残った使用人を雇うのはナシだ。そうなると……異空間を使った移動方法があるわけだから、ある程度は融通するしかないな。王都の屋敷はダヴィドとブランシュ、それと新しく家政婦長になるセリア、領地の方はエルネストとメイド長に任せ、それ以外は二つの屋敷を行ったり来たりして管理させる。社交の時期は王都、それ以外はエウロードの方を優先させる。ある程度は融通しないと無駄だけが増える。一度ダヴィドとエルネストを交えて話し合いをした方がいいな。
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