元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十五部:勇者の活躍

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「「「外だ~~~~~っ‼ 眩しっ‼」」」
「二度目だぞ。懲りろよ」
 スキュラたちが全力で外に走り出て両手で顔を覆った。この子たちの目は暗いところでもよく見える。アラクネたちも同じらしい。今の俺も【暗視】がレベル五になったから普通に蛍光灯のある廊下くらいの感じでダンジョンの中を歩ける。
 一番最初は暗視カメラみたいに緑色だったけど徐々に色が薄くなっていった。レベル五でこれならもっと上がればどうなるかが気になる。
「とりあえず町に戻る。ここに入ってくれ」
 俺は異空間を開けると従魔たちを中に入れて最後に俺も入った。するとすぐに出入り口ができ、複体が頭を突っ込んで話しかけてきた。
「ここは西門からすぐのところだ」
「そうか。助かった」
「それじゃまたな」
 複体はそう言い残すと姿を消した。もう少し近くを見回るそうだ。
 俺はスキュラたちとアラクネたちを連れてセレンの町に戻った。

 ◆◆◆

「とりあえず一番下まで潜った。これで大丈夫なはずだ」
「ご無事で何よりです。この代官邸の隣にある離れを使えるようにしてあります。ゆっくり体を休めてください」
「ああ、そうさせてもらおう。あ、そうだ、ダンジョンの中で得た素材を帰る前に渡そうと思う。もうしばらくこの町に滞在するから、その間に解体できる人材を集めてくれ」
 サン=フォアでは手の空いた冒険者たちを雇ってひたすら解体させていた。何千体もあるからそう簡単に終わらないだろう。【ストレージ】に解体機能があるけど、俺がするよりも冒険者たちにさせた方が金が回る。
「ありがとうございます。それでしたら明後日以降にお願いします」
「分かった。また場所を指定してくれ」
 俺はディディエと別れると代官邸を出た。

 出たところでスキュラたちとアラクネたちが待っていた。全員を連れて中に入ると少々手狭だからな。そのまま一〇人を引き連れて少し離れた場所にある離れに入る。さすがにそのままの格好で暮らせるほど広くはないので全員に人の姿になってもらった。
 アラクネたちはそのままでは下半身丸出しになるので、下着とスカートを穿かせた。とりあえず手持ちのものを渡したけど、アラクネたちならいずれは自分で作るだろう。
「とりあえずアラクネの五人も王都の屋敷に来るのでいいよな?」
「「「はい、お世話になります」」」
 慎ましいというかお淑やかというか……やっぱり旅館の若女将だ。よし、帰ったら着物を着せよう。
「マスターのお屋敷に着きましたら、私たちも何かお役に立てることがあればいいのですが」
「役に立つか……」
 スキュラたちは犬たちの散歩も必要だから屋敷の庭を走り回ることが多い。他にはトゥーリアの穴掘りに付き合うのがほとんどで、たまに庭で草抜きをしているのを見ることもある。町を作るのに土起こしをしてもらったことはあるか。アラクネの仕事かなら糸だろうな。
「糸を出すだけじゃなくて布も織れるんだったな?」
「はい。自分で出した糸で織ることができます。仕立てもできます。編み物も得意です」
 家庭的ってステータスにあったからな。
「アラクネの糸ってどれだけの長さで出せるんだ?」
 あの糸玉を考えればかなり長いだろう。ミシンで使うくらいの細さで直径一メートルくらいの玉だからな。
「自分の出した糸なら途中から繋ぐこともできます。途中から色を変えることもできます」
「自由自在か」
 一人で製糸から縫製まで可能。糸の長さには際限がない。しかもストックしておけるからな。
「それならすでに紡いである糸を使って織るのはできるか?」
「できますが、おそらく遅くなります」
「そうなのか?」
「はい。自分たちで必要な糸を出す方が早いですので」
 彼女たちは人間と同じような二本の手と、細かな毛の生えた八本の足のうちの何本かを使って織る。その際に足を道具のように使う。自分だけでもササッと織れるけど、何種類もの糸が必要なら最初にそれだけの種類の糸を用意しておくか、糸の数だけ集まって織るそうだ。
「例えば縦方向に伸びるとか、逆に横方向に伸びるとか、あるいは全方向に伸びるとか、縦糸横糸の種類を変えることで様々な布が織れます。糸を繋ぐことで簡単な構造なら切ったり縫ったりせず、最初から仕立てることもできます。この服もそうですね」
 アリエーナが着ている服は上からスポッと頭を通すチュニックで、これは糸を出しながらそのまま仕立てたそうだ。なるほど、糸を繋ぐだけじゃなくて接着することもできるのか。それは凄いな。
「ちなみにこういうものは織れるか?」
「この形ですか。これは足を通すものですか?」
「そうだ。女性向けのタイツやストッキングだ」
 五人は俺が簡単に書いたデザイン画を見て少し考えた。手が動いているのを見ると、どうやって編もうかと考えているんだろう。
「はい、大丈夫です。試しに作ってみます。色などで何か希望はございますか?」
「そうだな……薄くてツヤがあって伸縮性があるのが一番いい。倍くらいに伸ばして穿く感じにしてほしい。色は黒がいいな」
「はい、分かりました」
 そう言うと五人は揃ってどこかから編み棒のようなものを取り出すと無言で編み始めた。速っ! あっという間につま先から膝、腰、それからまた膝、つま先へと編み上げられた。できたのは黒いストッキング。カブトムシが張り付いても破れなさそうだ。
「それじゃ人の姿になってまずこれを穿いた上から今のタイツを穿いてみてくれ」
「これは下着ですか?」
「そうだ。下着の上にこれを穿いてくれ。穿いたら足を組んで座ってくれるか?」
「「「こうですか?」」」
 五人は揃って長い足を組んだ。美脚とはこういう足を指すのだろう。
「いかがですか?」
「うむ。素晴らしい」
「ありがとうございます」
 やや短めのスカートから覗く黒い艶やかなストッキングが、大人の雰囲気を出しているアラクネたちに似合う。パーフェクトだ。着物もいいけど秘書スタイルも似合うだろう。悩むところだ。
「マスターはこのような服装がお好みですか?」
「好みだな。ただ誰でもそれを身に付ければいいわけじゃない。似合うかどうかが問題……だけど……」
 向こうからスキュラたちの視線が俺に突き刺さっていた。
「一度試してみるか?」
「「「もちろんです!」」」
 スキュラたちは大人っぽくなりたいようだけど、黒いストッキングよりも白いタイツの方が似合うだろう。ニーハイでもいいけどな。
「スキュラたち用にもう一度編んでくれるか?」
「同じものでよろしいですか?」
「いや、スキュラたちには白くてもっと厚いものにしてくれ」
「厚くなりますと伸びにくくなりますので、もう少し大きめに作りますね」
 アラクネたちはまた下半身をクモに戻すと、次は白い糸を出してタイツを編み始めた。完成したスキュラたちはショーツを取り出すとそれを穿いてからタイツに足を通した。そしてスカートを穿く。
「「「マスター、どうですか?」」」
「ああ、可愛いぞ」
 サムズアップで応える。
「「「キャー!」」」
 相変わらず女子だ。スキュラたちは見た目よりも幼い。無理して大人っぽくならなくてもいいと思うけどな。
「アラクネたちも今後は裸を見られないように、上に着る服をもう少し長めにしてくれ。スキュラたちのようにスリットを入れれば姿を元に戻しても問題ないだろう。下着やスカートなどはマジックボックスのロッカーにまとめて入れたらいい。自分たちの収納でもいいけど」
「「「そのようにいたします」」」
 さすがに人前で下半身丸出しはマズいから、せめて太ももくらいまで隠せるくらいの服を着せたい。スキュラたちの服はすでに対策済みだ。サイドスリットの入った膝丈ロングシャツだから、太ももは見えるけど大事な部分は見えない。そのまま下半身を犬に戻しても破れたりしない。アラクネたちは着物や秘書スタイルも似合うと思ったけど、深いスリットを入れるならチャイナドレスもいいかもしれないな。
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