元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十五部:勇者の活躍

その頃のラヴァル公爵邸と商会

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 お菓子を入れておくと言ったからには忘れないうちに用意はしておこう。こういう場合、後でやろうと思うと忘れるからな。とりあえずこのあたりにはスキュラとアラクネのおやつのバウムクーヘンとフィナンシエ、それと紅茶を入れておくか。
 帰ったらミレーヌをパーティーに入れて……いや、今ここで入れればいいか。その前に【ミレーヌ:Lv♡♡♡】で連絡するか。いきなりだとビックリするかもしれないからな。

(ミレーヌ、今いいか?)
(はい、大丈夫ですよ)
(【マジックボックス】のレベルを上げていたらパーティーで共有できるようになった。これからミレーヌを入れてみる。最初ちょっと違和感があるかもしれないから注意してくれ)
(分かりました)

 それから「ミレーヌ(連絡用)」と書いた箱を用意する。これは俺とミレーヌにしか開けられない。そして箱は同じものしか入らないという制限があるから、手紙を入れたら手紙しか入らない。手紙くらいのサイズならいくらでも入る。ミレーヌは屋敷を代表してもらうから、箱は五つほど用意しておくか。

====================

[シュウジ]
[アルベルティーヌ、ブランディーヌ、クレマンティーヌ、デルフィーヌ、エグランティーヌ]
[アリエーナ、ビエターナ、カロリーナ、ディディアーナ、エルカーナ]
[ミレーヌ]
[イネス]
[    ]

====================

 ついでにイネスも入れておいた。素材のやり取りが簡単になる。箱の一つに「イネス(連絡用)」と書いて連絡用にする。これは俺とイネス専用だ。このマジックボックス内の共有された箱の中にある素材は好きに使ってもいいという手紙を入れておこう。ここは手紙のみだ。それ以外の箱もいくつか用意する。

(どうだった?)
(最初に少し違和感がありました)
(そうか。屋敷にいるみんなとのやり取りはミレーヌ用の箱を通すのでいいか?)
(それで大丈夫です。みなさんから何か連絡がある時はそこに入れておけばいいですか?)
(それで頼む。ただ箱は同種のものしか入らないから、手紙は封筒に入れてくれ)
(それではそうやってみなさんに伝えておきますね)
(頼むよ、ミレーヌ。愛してるよ)
(私も愛してます♪)

 この会話用のスキルは便利なんだけど、これに頼り過ぎちゃダメな気がするから最近はほとんど使っていなかった。夜中にコッソリと声をかける時くらいだな。
 話が終われば次はイネス用の箱に中身を入れる。一つにはエステル用のマシュマロを大量に入れておく。商会でもマシュマロは作られてるんだけど、エステルは俺が作った方が美味しいと言ってくれるからな。ただ「シュウジ様の白いのが欲しいです」という言い方をそろそろやめさせたいんだけど、なかなか直らなくて困っている。

 ◆◆◆

「シュウジさんから連絡がありました」
 ミレーヌは昨日シュウジから連絡があったことを朝食の場でシュウジの妻たちに報告していた。
「シュウジさんが持っている【マジックボックス】のスキルがパーティーメンバーと共有できるようになったそうです」
 屋敷の方はミレーヌ、商会の方はイネスがパーティーに入っているので、この二人を経由してシュウジと手紙や物のやり取りができるようになった。
「もしシュウジさんに伝えたいことがあるなら、手紙を書いて封筒に入れて渡してください。逆にシュウジさんが私たちに渡したいものが入っているかもしれませんので、その時は私が責任を持って渡すべき人に渡します」
 それを聞いたベランジェールが小さく手を挙げた。
「何ですか?」
「わざわざ封筒に入れなくてもいいのではないですか? 今さら見られて困ることはないと思いますが」
「ああ、それですか」
 ミレーヌは【マジックボックス】というスキルについて説明することにした。
「【マジックボックス】というスキルは、物を入れるための箱を作るスキルですが、これは一つにつき一種類のみという制限があります。つまり『便箋が入った封筒』と『便箋』は別物となりますので一緒には入れられません」
「そういうことですか。それでは封筒に便箋以外を入れた場合も一緒に入らないということですか?」
「そうなります。お金を入れれば『お金の入った封筒』になります」
 次に手を挙げたのはリュシエンヌだった。
「【マジックボックス】では本と艶本えんぽんは一緒の場所には入らないということですか? わたくしも【マジックボックス】か【異空間】を身に付けたいと思っているのですが」
「本の内容についてはスキル側ではチェックはしないと思います。どちらも『本』として扱われるはずです。そうでなければ手紙も全く同じ筆跡、同じ文面でなければ一緒には入りませんから」
「そうですか。安心いたしました。それではSM物でも人妻物でもBL物でも一か所に入れることができるということですね?」
「ま、まあそうですね」
 ミレーヌが引いた。ミレーヌを引かせた相手の名前にリュシエンヌも名を連ねることになった。
 ちょっとやそっとでは動じないミレーヌを引かせたのはこれまではイネスくらいだった。「寝不足はお肌の敵ですよ。目の周りに隈もできますから」とイネスの体を心配するミレーヌに向かって、「薬が隈に効くかどうかは寝不足になってみないと分かりませんので」と言ってのけたことがあった。

 ◆◆◆

「ひゃうっ‼」
「イネスさん?」
 シュウジがミレーヌと話をしていた頃、商会では当然背筋に走った痺れにイネスが飛び上がった。
「一体何が……って、あれ?」
 自分の体に違和感があってあちこち調べてみると、視界の端に『シュウジのマジックボックス』という文字が見えた。そこに意識を向けるとイネスの目にいくつかの箱が見えた。
「これはシュウジ様の……手紙?」
 いくつかの箱は中が見え、その一つに「イネスへ」と書かれた手紙が入っているのが分かった。取り出して読んでみると、「共有」と書かれた箱の素材は好きに使っていいこと、「イネス(連絡用)」と書かれた箱の中身は連絡の手紙を入れること、「イネス(お菓子)」と書かれた箱の中身はエステルと一緒に好きに食べていいことなどが書かれていた。
「エステルさん、これはシュウジ様からです」
「あ、シュウジ様の白いのです」
「マシュマロですよ」
「はい。シュウジ様の白いマシュマロです」
「……」
 そろそろマシュマロくらい覚えてくれないだろうかと先生役のイネスはマシュマロを渡しながら思った。
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