元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
186 / 273
第十四部:それぞれの思惑

正室選び(二)

しおりを挟む
「そう言ってもらえるのはぁ嬉しいんですけどぉ、私にはぁ向いてないと思うんですよぉ」
「向き不向きだけならそうだろうなあ」
 犬人になってかなり動きが速くなったけど、それでも遅いからな。夜の動きはあんなに激しいのに、どうして歩くのとかは遅いんだろうな? 世界の七不思議の一つにカウントしてもいいと俺は思う。他の六つには、どうしてミレーヌはこんなに可愛いのかとか、どうしてエミリアの腰はこんなに俺を魅了するのかとかが入っている。まあ俺が決めるとほぼエロだな。
「それにぃ私は平民ですしぃ振る舞いとかも適当ですよぉ。リュシエンヌさんの方がぁいいんじゃないですかぁ?」
 ワンコがリュシエンヌの方を向いて確認する。たしかにワンコはエミリアと違ってペコペコと頭を下げたりしなかった。でもそれは頭を下げるタイミングを逃しているだけで、基本的に性格は小市民だ。だから向き不向きという点ではリュシエンヌが一番貴族の娘らしいだろう。爵位的にも伯爵家なので妻たちの中では一番上だ。
「たしかにわたくしなら問題ありませんが、貴族であればベランジェーヌさんやオレリーさんでも問題がないのではないですか? 爵位が高い方がいいならわたくしがいいのかもしれませんが、シュウジ様と並んで立つならもう少し背のある方でもいいと思います」
「背はそれほど関係ないと思うけどな」
 まあリュシエンヌはジゼルと並んで背が低い。でも背はあまり関係ないだろうけどな。リュシエンヌは一四三センチか。俺が一八四センチだから四〇センチ以上差がある。ジゼルが一番低くて一四〇センチだ。ミレーヌが一番高くて一六六センチ、フランが一六二センチ、エミリアとオレリーが一六一センチ、オリエが一六〇センチ、ベラが一五八センチ、アネットが一五七センチ、ワンコとシュザンヌが一五四センチ。ここにはいないけど、イネスはアネットと同じくらいだったか?
「私の背はそこそこだとは思いますが、特に高いわけでもありません。それに種族の点で問題があるような気がします」
「生まれるのがハーフエルフなら長命か」
「はい。子や孫の世代が嫌がることもあるそうですし、子供や孫に先立たれるのが辛いということもあるそうです」
 ベラはハーフエルフだ。長命種は相手が長命種でない限り、配偶者が亡くなり子供も亡くなり孫も亡くなり、そうなっても自分一人だけずっと残ることになってしまう。それを嫌がって家を出ることが多いのだとか。自分だけ残されると感じるのと、長生きし過ぎて子孫たちに邪険にされたくないのと両方あるらしい。寿命が長いのは羨ましいと思われることも多いけど、それはそれで大変なんだそうだ。
「背はオレリーさんの方が高いですね」
「背丈だけならそうかもしれませんが、私はこれまで使用人をしておりましたので、いきなり正室では困ります」
 オレリーもハッキリと断った。遠慮せずに発言できるあたりが秘書っぽいんだろう。オレリーは他の貴族の屋敷で侍女をしていた。その前は別の仕事もしたそうだ。オレリーの場合は色々と運が悪かったと考えるべきだろう。そもそも貴族の令嬢が使用人をするというのもそこまで多くはないと思うから、あまり気にしなくてもいいと思うけどな。
「エミリア様はいかがですか? 生まれは平民かもしれませんが、一〇〇年ぶりに勇者召喚に成功されたことですし、ミレーヌ様でなければ一番向いていらっしゃるかと。それにコワレ商会の商会長の娘様でもいらっしゃいますし、立ち振る舞いもご立派になられました。それらの点を考えても申し分ないかと」
「私ですかあ?」
 エミリアは俺がこっちに来て初めて抱いた相手だ。思い入れは十分にある。あの腰を他の男たちに見られるのはちょっと許せないな、というのは冗談だけど、まあそれくらい大切な相手だ。だから正室でも全然問題ない。でもミレーヌがそれとなくエミリアに聞いたところ、「いえいえ、私が正室なんてとんでもない」と断られたそうだ。控え目だからな。
「たしかに立ち振る舞いは問題なくなったとは思いますが、それでも公爵家の正室というのは……」
 エミリアの眉が下がった。
「重いか?」
「はい、正直に言えば。お側に置いてもらえるだけで十分ですので」
 やっぱり断られた。初めてエミリアを抱いた時のことだけど、俺が抱くのはあの迎賓館にいる間だけだろうとエミリアは勝手に思っていた。だから俺が側にいてほしいと言ったら泣いて感謝された。こんないい女を手放す男なんていないだろう。
「そうなると残りはジゼルかアネットかオリエかシュザンヌ——」

 ブンブンブンブン

 四人が揃って首を横に振った。そんなに重いか? 重いんだろうなあ。俺がもし女で普通の家に生まれたとして、例えばいきなりファーストレディーになってくれと言われたら……やっぱり腰が引けるだろうなあ。ラッキーと思えるほど図々しくはないな。
 一応言っておくと、俺は図々しいかもしれないけど、これでも周りを見て判断してるからな。空気を読まずに好き勝手言ってるわけじゃない……と思う。他の貴族相手に少し偉そうに言ってるのは、公爵の俺が下手したてに出ると下級貴族がやりにくいということをルブラン侯爵やリュシエンヌから教わったからだ。できればピエールさんやケントさんくらい気軽に話をしたいんだけどな。

 とりあえずこの件についてはその日のうちに結論は出ず、引き続き話し合いをするということになった。でもこのままズルズルいって、ギリギリになってクジで決めようという話になり、当たりを引いたエミリアが真っ青な顔をするのが目に浮かぶようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...