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第十一部:家族がいるということ
母の到着と礼拝堂、そして裏の話
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「これからよろしくお願いします」
屋敷にやって来た母さんが頭を下げた。使用人たちには事情を説明済みだ。前回訪問の際に昔話をしたら向こうの世界で親子だったことが分かったと。さすがにみんな驚いたけど、そもそも俺が異世界から召喚されたというおかしな行為でこの世界に来たわけだから、そういうこともあるだろうと納得したようだ。
「部屋は用意してあるし、よほどの無茶じゃなければ好きにしてくれたらいい」
「礼拝堂はないよね?」
「そういえばないな。あってもいいのか」
敬虔な者は屋敷の敷地に礼拝堂を建てると聞いた。アズナヴール伯爵はそうだな。
「今さらで申し訳ないけど、エミリアもあった方がいいか?」
「私は部屋で聖像にお祈りしていましたが、あればそちらでお祈りしたいと思います」
「そうか。それなら用意するか」
まだまだ庭の手入れをしている。ちょうどまとめて木を植えた部分があって、その奥なら人目は届かない。そこにでも建てるか。
建物としては俺が召喚された場所が元礼拝堂らしいから、あんな感じでいいだろう。
「シュウジ、いい子だね♪」
母さんに抱きつかれた。
「うわっ。いきなり抱きつくなって」
「いやー、シュウジが側にいるんだなって思うとついね」
「ついじゃないだろ。うわっ、首筋を舐めるなよ!」
◆◆◆
「ここなら木があって少し奥まってるから静かだろう」
俺は母さんを連れて礼拝堂を建てる場所を探しにきた。
「広いねー。さすがは大貴族」
「いや、こんなに広くなくてもよかったんだけどな。維持管理が大変だ」
東京ドームが何個も入る。おかげで掃除も大変だけど木を植えないと殺風景だ。俺が受け取った時はとりあえず片付けるだけ片付けたって感じだった。
「それじゃあこの場所にお願いできる?」
「分かった。手配させよう」
分かりやすいように杭を打っておく。『礼拝堂建設予定地』と。
「ところでさあ、これって何?」
「これ?」
いきなりそんな質問をされた。母さんは指を上に向けている。そこには何もないぞ。上は空だ。
「ステータスに【愛の男神シュウジの妻】って出たんだけど」
「……出た?」
「そう。さっき出たよ」
なんで出るんだ? 何もしてないよな。母さんから抱きつかれただけで。抱きつかれて……あ、舐められたか。
「ついさっきなら、俺の首筋を舐めたからだろうな」
「あんたの首筋を舐めたら妻になれるの? しかも愛の男神って」
「それが少しややこしくてなあ」
ザックリと俺が今どういう状況かを説明した。半分神とかそういうことをだ。
「ということは、これ以上は老けない?」
「そういうことになる。一応そこまで知ってるのは俺とミレーヌ、それとベラだけだ。みんな年齢を気にする年でもないからな」
「ピチピチだもんね」
その言い方はちょっと古いと思うぞ。
「それにしてもよく気づいたな。ステータスなんてそんなに見ないんじゃないか?」
たまには見るけど、普段はほとんど無視だからなあ。見ても面白いものはないし。
「一応【警告】ってスキルがあって、ステータスの数値に変化があると頭の中で教えてくれるの。どこに変化があれば通知が来るかは設定で変えられるから、スキルに変化があった場合だけ分かるようにしてあるよ」
「そんなのがあったのか」
調べたら俺にもあった。これか。なるほど、条件はわりと細かく設定できるんだな。スキルを得た時に通知が来るようにしておくか。
「それで話は変わるけどさあ、あんたこっちに来てから敵とかできてない?」
「敵?」
「そうそう。公爵なんて高い爵位を貰って、大臣なんてなったりして、しかも美人の奥さんがいっぱい。恰好のターゲットになってない?」
「恵まれた環境にあるとは自分でも思ってるよ」
王族を除けばこれほど恵まれた環境もない。まあ大臣は余計だったけどなあ。でも日本みたいに国会があるわけじゃないし、いつも王宮にいなければいけないわけでもない。あくまで名目上のトップというだけで、お飾りでもかまわない。だから実務は副大臣のシプリアン殿に任せている。
「明らかな敵ってのはいないなあ。こっちからケンカを売った記憶もないぞ」
「それならコッソリあんたを蹴落とそうとする貴族とかいない?」
「いや、わりとみんないい人たちだ。内心は分からないけどな」
「ちぇー」
ちぇーって……。母さんがあからさまにつまらなさそうな顔をした。
「俺に敵がいる方がいいのか?」
「そうじゃなくて、敵をバッタバッタと倒す息子が見たいわけよ」
「敵なんかいない方がいいんだよ。そもそもやって来て一番上に据えられたんだぞ。いきなり国王が頭を下げたんだぞ。バッタバッタと倒す敵がどこにいるんだよ」
それでも全員が味方で仲良しなんてことはあり得ない。それは職場だろうがどこだろうが同じだ。
ケントさんやピエールさんのように好意的に接してくれる人はいるけどお互いに貴族だ。仲間と呼ぶことはできてもダチとまではいかない。親しき中にも礼儀は必要だ。それに今は二人とやり取りはあるけど、場合によっては縁を断つようなことになるかもしれない。そんなことはない方がいいけど。
「でも調査はしてるんでしょ?」
「そりゃな。何もせずにいたら単なるバカだろう」
そのための商会でもある。単なる金集めの拠点というだけじゃない。
物が動けば人と金も動く。そうなると情報も集まるわけだ。
商人は国を超えて動くこともある。ある場所でジャガイモが不作だと聞けば値段が上がることを見越して積極的に売りに行く。現地視察も重要な仕事だ。来られた側としては知られたくない情報もあるだろう。だから偽の情報も飛び交う。
さらに現地で得た情報を持ち帰って伝えるのも重要な仕事になる。場合によっては妨害も入るからある程度の武装は必要だ。エッチラオッチラ荷物を運んでいけば無事に辿り着けるわけでもない。
商会というのは誰でも作ることはできる。でも運用は難しい。アンナさんを引き抜いたのにはそういう理由がある。目端の利くアンナさんがカウンターに立って睨みを利かせれば、おかしなヤツは入ってこない。入ったとしても警備の者がいる。
偉そうに言ってる俺も、実はこのあたりはアンナさんから聞いた。店員がくすねるという話を聞いたあたりでだ。俺は諜報活動とかには詳しくない。だからそのあたりはアンナさん任せだ。
「母さんも先王から頼まれてたって言ってたっけ?」
「教会の監視ね。ちょくちょくシスターに手を出そうとするからそれを牽制するという名目で、実際には金の流れとかも調べてたのよ」
「教会の金って喜捨か?」
「それもあるし貴族からの寄付金もあるね。場所が場所だからいろんな場所から人が集まるし、そうするとロクでもない連中も集まってくるから。場合によっては他の国からもね」
教会のトップは国の重鎮でもある。上手く取り入ることができれば機密情報が手に入るかもしれない。
「だから場合によっては弱みを握った司祭を手駒に使って探らせたりとか、まあ一通りのことはみんなしてるかな。もちろん若い子たちはそんなことは知らないから言わないでね。上の一部だけだから。デジレとキトリーも知らないからね」
「そりゃ言わないって」
屋敷にやって来た母さんが頭を下げた。使用人たちには事情を説明済みだ。前回訪問の際に昔話をしたら向こうの世界で親子だったことが分かったと。さすがにみんな驚いたけど、そもそも俺が異世界から召喚されたというおかしな行為でこの世界に来たわけだから、そういうこともあるだろうと納得したようだ。
「部屋は用意してあるし、よほどの無茶じゃなければ好きにしてくれたらいい」
「礼拝堂はないよね?」
「そういえばないな。あってもいいのか」
敬虔な者は屋敷の敷地に礼拝堂を建てると聞いた。アズナヴール伯爵はそうだな。
「今さらで申し訳ないけど、エミリアもあった方がいいか?」
「私は部屋で聖像にお祈りしていましたが、あればそちらでお祈りしたいと思います」
「そうか。それなら用意するか」
まだまだ庭の手入れをしている。ちょうどまとめて木を植えた部分があって、その奥なら人目は届かない。そこにでも建てるか。
建物としては俺が召喚された場所が元礼拝堂らしいから、あんな感じでいいだろう。
「シュウジ、いい子だね♪」
母さんに抱きつかれた。
「うわっ。いきなり抱きつくなって」
「いやー、シュウジが側にいるんだなって思うとついね」
「ついじゃないだろ。うわっ、首筋を舐めるなよ!」
◆◆◆
「ここなら木があって少し奥まってるから静かだろう」
俺は母さんを連れて礼拝堂を建てる場所を探しにきた。
「広いねー。さすがは大貴族」
「いや、こんなに広くなくてもよかったんだけどな。維持管理が大変だ」
東京ドームが何個も入る。おかげで掃除も大変だけど木を植えないと殺風景だ。俺が受け取った時はとりあえず片付けるだけ片付けたって感じだった。
「それじゃあこの場所にお願いできる?」
「分かった。手配させよう」
分かりやすいように杭を打っておく。『礼拝堂建設予定地』と。
「ところでさあ、これって何?」
「これ?」
いきなりそんな質問をされた。母さんは指を上に向けている。そこには何もないぞ。上は空だ。
「ステータスに【愛の男神シュウジの妻】って出たんだけど」
「……出た?」
「そう。さっき出たよ」
なんで出るんだ? 何もしてないよな。母さんから抱きつかれただけで。抱きつかれて……あ、舐められたか。
「ついさっきなら、俺の首筋を舐めたからだろうな」
「あんたの首筋を舐めたら妻になれるの? しかも愛の男神って」
「それが少しややこしくてなあ」
ザックリと俺が今どういう状況かを説明した。半分神とかそういうことをだ。
「ということは、これ以上は老けない?」
「そういうことになる。一応そこまで知ってるのは俺とミレーヌ、それとベラだけだ。みんな年齢を気にする年でもないからな」
「ピチピチだもんね」
その言い方はちょっと古いと思うぞ。
「それにしてもよく気づいたな。ステータスなんてそんなに見ないんじゃないか?」
たまには見るけど、普段はほとんど無視だからなあ。見ても面白いものはないし。
「一応【警告】ってスキルがあって、ステータスの数値に変化があると頭の中で教えてくれるの。どこに変化があれば通知が来るかは設定で変えられるから、スキルに変化があった場合だけ分かるようにしてあるよ」
「そんなのがあったのか」
調べたら俺にもあった。これか。なるほど、条件はわりと細かく設定できるんだな。スキルを得た時に通知が来るようにしておくか。
「それで話は変わるけどさあ、あんたこっちに来てから敵とかできてない?」
「敵?」
「そうそう。公爵なんて高い爵位を貰って、大臣なんてなったりして、しかも美人の奥さんがいっぱい。恰好のターゲットになってない?」
「恵まれた環境にあるとは自分でも思ってるよ」
王族を除けばこれほど恵まれた環境もない。まあ大臣は余計だったけどなあ。でも日本みたいに国会があるわけじゃないし、いつも王宮にいなければいけないわけでもない。あくまで名目上のトップというだけで、お飾りでもかまわない。だから実務は副大臣のシプリアン殿に任せている。
「明らかな敵ってのはいないなあ。こっちからケンカを売った記憶もないぞ」
「それならコッソリあんたを蹴落とそうとする貴族とかいない?」
「いや、わりとみんないい人たちだ。内心は分からないけどな」
「ちぇー」
ちぇーって……。母さんがあからさまにつまらなさそうな顔をした。
「俺に敵がいる方がいいのか?」
「そうじゃなくて、敵をバッタバッタと倒す息子が見たいわけよ」
「敵なんかいない方がいいんだよ。そもそもやって来て一番上に据えられたんだぞ。いきなり国王が頭を下げたんだぞ。バッタバッタと倒す敵がどこにいるんだよ」
それでも全員が味方で仲良しなんてことはあり得ない。それは職場だろうがどこだろうが同じだ。
ケントさんやピエールさんのように好意的に接してくれる人はいるけどお互いに貴族だ。仲間と呼ぶことはできてもダチとまではいかない。親しき中にも礼儀は必要だ。それに今は二人とやり取りはあるけど、場合によっては縁を断つようなことになるかもしれない。そんなことはない方がいいけど。
「でも調査はしてるんでしょ?」
「そりゃな。何もせずにいたら単なるバカだろう」
そのための商会でもある。単なる金集めの拠点というだけじゃない。
物が動けば人と金も動く。そうなると情報も集まるわけだ。
商人は国を超えて動くこともある。ある場所でジャガイモが不作だと聞けば値段が上がることを見越して積極的に売りに行く。現地視察も重要な仕事だ。来られた側としては知られたくない情報もあるだろう。だから偽の情報も飛び交う。
さらに現地で得た情報を持ち帰って伝えるのも重要な仕事になる。場合によっては妨害も入るからある程度の武装は必要だ。エッチラオッチラ荷物を運んでいけば無事に辿り着けるわけでもない。
商会というのは誰でも作ることはできる。でも運用は難しい。アンナさんを引き抜いたのにはそういう理由がある。目端の利くアンナさんがカウンターに立って睨みを利かせれば、おかしなヤツは入ってこない。入ったとしても警備の者がいる。
偉そうに言ってる俺も、実はこのあたりはアンナさんから聞いた。店員がくすねるという話を聞いたあたりでだ。俺は諜報活動とかには詳しくない。だからそのあたりはアンナさん任せだ。
「母さんも先王から頼まれてたって言ってたっけ?」
「教会の監視ね。ちょくちょくシスターに手を出そうとするからそれを牽制するという名目で、実際には金の流れとかも調べてたのよ」
「教会の金って喜捨か?」
「それもあるし貴族からの寄付金もあるね。場所が場所だからいろんな場所から人が集まるし、そうするとロクでもない連中も集まってくるから。場合によっては他の国からもね」
教会のトップは国の重鎮でもある。上手く取り入ることができれば機密情報が手に入るかもしれない。
「だから場合によっては弱みを握った司祭を手駒に使って探らせたりとか、まあ一通りのことはみんなしてるかな。もちろん若い子たちはそんなことは知らないから言わないでね。上の一部だけだから。デジレとキトリーも知らないからね」
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