元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十一部:家族がいるということ

シュウジの妻であるということ

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「シュウジさんは【愛の神(下級神見習い)】となっています。すでに愛の神なのに下級神見習いという、少しややこしい立場です。人から見れば神になりますけど、神の中では見習いと見なされます」
「レアケースか?」
「いえ、頻繁ではありませんけど、あることはあります。宿題を残したまま上がってしまった飛び級、と言えば分かりますか?」
「そう言われると分かる気がする」
 つまり俺の場合は仕事が決まっているので試験はない。でも二〇〇〇年ほどは見習いの期間がある。二〇〇〇年と聞けば長く思えるけど、人の寿命の二〇倍と思えばそこまで長くはない……ことはないな。とりあえず神として仕事をしつつ、無事に二〇〇〇年が過ぎればめでたく正式な下級神になると。
「そういや外見はどうなるんだ?」
「シュウジさんは年は取りません。取ることもできますけど、その場合は普通に寿命で死んでしまいますよ」
「それなら取らない方がいいのか」
 無理に年を取る必要はないよな。神様って年寄りってイメージはあるけど、あれは仙人のイメージなんだろうな。
「ミレーヌ様、それはシュウジ様だけが年を取らないということですよね?」
 エミリアが心配そうにそう聞いた。俺とミレーヌだけが若いままで、他は年を取ってしまう。我儘かもしれないけど、それは嫌だ。だからそれはない。
「いえ、ここにいるみなさんには【愛の男神シュウジの妻】が付いていると思います。年を取りませんから寿命で死ぬことはありません」
「「「えっ?」」」
 ミレーヌがいきなりの不老宣言。驚いてないのはベラと母さんだけだ。ベラには抱いた直後にすでに話した。元々長命なベラは俺の最後を看取るつもりでいた。でもあの時ステータスを確認させ、【愛の男神シュウジの妻】と【愛の男神シュウジの眷属】の効き目を教えた。
「少し確認してみたところ、シュウジさんが『この女性は手元に置いておきたい』と思った相手にそれが付くようです」
 ミレーヌだって全知全能じゃない。そもそも下級神の一人だ。一般的なことは知ってても、恋愛事情や結婚事情にそこまで詳しくないのは仕方がない。しかも男の側の話となると尚更だった。だから少しずつ調べてもらった。
 簡単にまとめると、俺が女を抱く。その際に「この女は大切にしたい」と思いながら抱いてと【愛の男神シュウジの妻】が付くらしい。俺じゃなくても男神おがみが女を抱くとそうなるそうだ。
 そして【愛の男神シュウジの眷属】の方は神としての俺の関係者ということで、少しステータスが上がる。特に死ににくくなるそうだ。それと眷属同士は仲良くなるらしい。
 ある意味では俺がミレーヌのうなじの汗を舐めて〔神の欠片〕とやらを得たのと理屈は同じらしい。俺が女の中に〔神の欠片〕を注ぎ込むわけだ。
 これは母さんにも付いた。俺に抱きついて首筋を舐め回した時に俺の汗でも体に入ったんだろう。本人がステータスを見て俺に聞いてきたから気づいた。
「みなさんは今後は年を取りません。【愛の男神シュウジの妻】の詳細を見てください。そこの一番下を触ると〔不老化〕という項目が出てきます。今はオンになっているはずですが、それをオフにすればその間は年を取ります。各自で見た目は調節してください」
「アタシのこともそう思ってくれたんだ」
 ミレーヌが説明するとオリエがデレた。こいつはデレる時は急にデレる。そこが可愛いからついつい弄り倒してしまうけど。
「ただし不老になっても不死ではないので注意してください。【愛の男神シュウジの眷属】が付いていればステータスが上がりますから、死ににくくはなると思いますけど」

 ◆◆◆

 休憩が終わると今度は【愛の神】とは何なのかをワンコから聞くことになった。ここしばらくミレーヌにくっついて色々と聞いていたようだ。
 こいつは引っ込み思案で大人しい系サブカル好きによくありがちな、「そんなことを覚えてどうするんだ?」ってことに詳しい。でも実際は大人しくはない。動きも話し方もとろくさいから大人しく見えるだけだ。俺も最初は騙された。
「まずぅ、愛の神のはぁどちらかというとぉじゃなくてぇの方ですぅ」
「ドロドロした方だな」
 これはミレーヌからも聞いている。だからとりあえず女を抱くのが仕事だと。
「はいぃ。グッチョグチョでエロエロの方ですぅ。ヒンドゥー教にはぁプルシャールタと呼ばれるぅ、人生における四つの目的がありますぅ。道徳や倫理を表すぅダルマとぉ、富や実利を表すぅアルタとぉ、解放を表すぅモークシャとぉ、愛や欲望を表すぅカーマですぅ」
「カーマスートラのカーマか?」
「そうですぅ。カーマスートラはぁ性愛に関するぅ聖典という意味ですねぇ。性典ですねぇ」
 俺がカーマと聞いてまず思いつくのがそれだ。
「カーマを司る愛の神がぁカーマデーヴァですぅ。デーヴァはぁサンスクリットでぇ神を表しますぅ。妻のラティはぁ快楽ぅ、プリーティはぁ歓喜を表しますぅ。友人にぃ春を表すぅヴァサンタがいますぅ」
 妻も友人もなかなかいい感じだな。
「矢を射ってぇ、射られた人のぉ恋愛感情を引き起こすのがぁお仕事ですぅ。ギリシャ神話ではぁエロスぅ、ローマ神話ではぁクピドに相当しますねぇ。英語読みならぁキューピッドですぅ。釈迦の修行のぉ邪魔をしたマーラはぁカーマの別名でぇ、日本ではぁ悪魔の魔にぃ阿修羅の羅ぁという漢字がぁ充てられますぅ」
「要するにマラだな?」
「はいぃ。イチモツのことですねぇ。日本語でもぉ表現はいっぱいありますけどぉ、英語ではぁソーセージとかぁハードキャンディーとかぁ食べ物に例えることもぉありますねぇ。ちなみにぃ、フル勃起状態はぁハードオンでぇ、フニャチン状態はぁハードオフですぅ」
 相変わらずどうでもいいことをよく知ってるな。
「ねえねえ、コワタリ」
「ん? 何だ?」
 眉を寄せてオリエが聞いてきた。
「イチコってこんな子だったの?」
「イチコ? ああ」
 忘れそうになるけど、イチコは前の名前、ワンコが俺が付けたあだ名、今の名前はマルティーヌだ。
「そうだぞ。昔っからエロエロのデロッデロのグッチョグチョだ。出かける暇があるならヤってほしいって言ってたからな。週末うちに来る時は必ず最低ゴム三箱は持参してたな」
「あ、そうなんだ……って最低三箱?」
「ああ、最低三箱だ。そのうち一箱は後ろに入れてたな」
「一箱後ろ……」
 オリエが尻に手をやった。若干引き気味だ。まあオリエは保健室で寝ている俺を起こしにくるワンコしか知らないからな。いつでものほほんとして、うっかりすると俺の横で寝てしまいそうな、かなりとろくさい子だ。
 普段が省エネ気味だからかどうか分からないけど夜はよく動く。もう少し昼間頑張れよってくらいよく動く。
「二泊三日の最高記録が六箱と三つだ」
「六箱と三つ……」
「一応一箱が一〇個だぞ」
「分かってるわよ」
 普通は一〇個入りか一二個入りだけど二〇個入りもあるし、業務用だと一四四個入りとかある。さすがに一四四個入りを六箱はあり得ない。
「あいつはたまにおかしなことを言い出すからな。『車の中でぇヤってみたかったんですぅ』って免許を取って初ドライブの時に言われた」
「え~~~~?」
 まあそういう声が出るよな。
「ダメですかぁ?」
「公然わいせつ罪とか道交法違反とか、色々と問題があるわよ」
「そりゃ大丈夫だ。結局ドライブはドライブでラブホまで行った。そっちはうちのガレージを使ったから」
「う~~~~ん」
 オリエは首を傾げている。まあ良くはないよな。
「声と音は漏れたと思うけど、見られることはなかったはずだ。ガレージの前に目隠しは立てたから」
「そのせいでぇちょっとスリルがぁ足りませんでしたねぇ」
「アンタとイチコが仲良くやってたのがようやく分かったわ」
「お前だって俺と保健室で仲良くヤってただろ」
「そっちじゃないわよ!」
 オリエが吠える。もちろん分かってて言っただけだ。
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