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第十四部:それぞれの思惑
実験都市計画
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母さんと以前に話をした雇用問題。それについて会議で議題に挙げようとした途端に魔物の暴走があった。それが片付いたので少し遅くなったけど今日は現地調査に来た。
俺がいない間も部下たちはそれぞれ働いてくれていた。俺は彼らに王都から一日以内で新しい町を作れるような場所を探してもらっていた。今いるのがその場所だ。
今日は移動の時間がもったいないのでトゥーリアの背に乗せてもらい、役人たちだけじゃなくてスキュラたちも連れてきた。力仕事は得意な彼女たちだ。
「ここなら場所としては申し分ないな」
「川もありますからね」
「もったいない話だよなあ」
この国は日本のように町と町が隣同士で繋がってるわけじゃない。町を出たらずっと道だけが続いていて、その道を辿っていくとその先に町がある。北海道の内陸部に近いか? 例えば王都の東隣の町はボンになるけど、その間には何もない。ただ街道があるだけだ。ああ、街道から外れた場所に小さな集落がある場合もある。
何度も言うけど、この国では麦畑の面積によってその領地が国に払う税額が変わる。だから儲かるからといって麦ばかり育てることはできない。きちんと役人がチェックするので誤魔化すことができない。それなら何を育てるか。野菜だけで広い畑を維持するのは難しい。麦と違ってすぐに傷む。冷凍や冷蔵の倉庫があるわけじゃないからだ。基本的に収穫したら売りに出かける。しかも機械化されてないから人手が必要だ。でもそこまでの売り上げが見込めないのに人は雇えない。
王都周辺は全部直轄領だから、まあ農地については気にしなくてもいい。でもボンも含めて商業都市が多いから、農民として働く場所がほとんどないのが実際のところだ。だから農地として使えそうな場所があるにもかかわらず、実際には全く使われてこなかった。だからもったいない。
「大臣の仰ったように、ここが農地になるのなら王都からそれほど遠くないですし、労働者も助かるでしょう」
「それに麦に変わる穀物が大量に育つとすれば大きな変化がありますね」
「いずれは税制を変えざるを得ないということになりますね」
「数年でコロッと変わるとは思えないけど、まあ少しずつだな」
俺たちは王都から半日ほど、王都の南西部にある広大な土地を目の前にして話をしている。ここに集団農場を兼ねた実験都市を作ろうという計画だ。
切っ掛けは母さんの言葉だった。雇用問題と米。麦を育てる畑には税金がかかる。それなら他の作物を育てればいい。その作物が売れるようになれば税を取られない作物が市場に出回る。
麦が重要だからって麦にだけ税をかけようとするからややこしい話になる。農地全般にかけるか、それともかけないか。俺たちとしてはもう少し税制がどうにかできないかを検討している。
「それで、これが米の種ですか」
「ああ、籾と呼ぶ。麦とは違って土にそのまま蒔くことはしない。水を張った水田というところに蒔く」
日本のジャポニカ米と違って水を張って土を起こした水田にばら撒くようにするのがタイの稲作だった。日本みたいにやってもいいけど、あれはかなり手間がかかりそうだからな。この国では難しい。
「手間がかかるのですね」
「そうだな。麦に比べるとな。でもあの味になる」
「たしかに。麦ではああはいきません」
「まあこの米だけなら麦とよく似たものだけどな」
麦は主に粉にしてパンにする。別の品種はパスタになる。麦そのものを食べるのは麦粥くらいだろうか。麦飯という考えはこの国にはない。料理のバリエーションが増やしやすいのは米の方だろう。
実際に米を使った料理を用意して社会政策省で試食会をしてみた。ピラフ、ガーリックライス、パエリア、ビリヤニ、ナシゴレン、カオマンガイ、ムジャッダラ。デザートに何種類かのライスプディング。名前だけで分かると思うけど、どれもしっかりとした味付けがされた料理だ。
日本ではタイ米と呼ばれることもあるけど、インディカ米を白米で食べるのはなかなかキツい。粘り気がないし独特な匂いもある。白米で食べることをあまり想定していない米だ。そもそも炊くんじゃなくて茹でるからな。それでも米の人気が出て作るのに税が必要ないなら作りたい者は増えるだろう。
「よし、ここに町を作る。そして住みながら働いてもらう。衣食住は提供し、子供の教育もする」
「色々と詰め込みすぎてはないですか?」
「そうか? 朝から晩まで子供を働かせることの方が問題だと俺には思えるぞ。午前は働いて、暑くなったら日陰で勉強だ。それくらいでいいだろう」
雇用と税と教育、そのあたりをどうするか。それを検討した結果、一つ町を作るという話になった。住民はもちろんスラムから連れてくる。どれだけの規模にするかは未定だけど、最低でも五〇〇人、できれば二〇〇〇人。ちょっとした町くらいにしたい。
「これが成功すればよし、失敗すれば……」
「失敗したらどうされるのですか?」
「まあその分の金を俺が払って何とかすればいい」
金で解決できることは金で解決すればいい。誰が言ったのかは分からないけど、けだし名言だと思う。
正直なところ、ここに町を作って麦を育てさせればスラムからやって来た住人は救える。でもそれじゃスラムにやって来る者が減らない。米じゃなくてもいいんだけど、麦に代わる商品作物を作り、麦に偏った税制を何とかするのが目的だ。だから麦は作らない。作るのは米と野菜だ。そこから始めて、他にいいものがあれば育てさせればいい。
「それなら大量の馬車、それを引く馬や牛、そして一時的な食料。それ以外に家を建てるための材料など、二〇〇〇人が入ることを前提にして見繕ってくれ」
社会政策省としての予算はほぼこれに消えるだろう。そんなことでいいのかと思うかも知れないけど、
「分かりました。もう少し余裕は持たせないのですか?」
「いざとなれば俺がここと王都を往復すればいい。食料はいくらでも運べるからな」
「大臣をあまりこき使う真似はしたくないのですが」
最近ではかなりくだけた会話ができるようになってきた。俺がざっくばらんな話し方をするからだろう。
「そうか? 俺が生まれ育った国には『立っている者は親でも使え』という言葉がある。その時一番手近にいて使い勝手がいいやつを選んで使えばいい。とりあえず建材だけでも用意しておこう」
魔法で作られた物質はなぜか残る。【石の玉】を使えばまん丸の石の玉が残るように。だからここに城壁などの材料に使えそうな石を積んでおく。材料があれば建設は早いだろう。
「家屋用の石材って四角くていいんだな?」
「はい。あまり大きいと積み上げるのが大変ですので、これくらいでお願いします」
一辺三〇センチくらいだろうか。試しに【石の壁】で作ってみる。
「これでどうだ?」
重さは七、八〇キロくらいだろうか。人間一人分くらいならまあ何とか持ち上げられるだろう。
「今これを【石の壁】で作られたんですか?」
「ああ。三辺を同じくらいにして作るとそうなるな」
役人たちが首を傾げる。
「こういう使い方はしないのか?」
「しませんね。【石の壁】はそれこそ魔獣や盗賊の集団を止める時などに使います。そもそも普通は壁にしませんか?」
「それはそうだが、これも一つの使い道だな」
何も設定しなければ、普通は高さ三メートル、幅二メートル、厚さ二〇センチくらいの壁になる。【石の壁】だからな。でも使い方によってはブロックも作れる。小さい方が魔力の消費量も少ない。しかもとにかく硬い。
俺はしばらく【石の壁】を使ってブロックを作り続けた。
俺がいない間も部下たちはそれぞれ働いてくれていた。俺は彼らに王都から一日以内で新しい町を作れるような場所を探してもらっていた。今いるのがその場所だ。
今日は移動の時間がもったいないのでトゥーリアの背に乗せてもらい、役人たちだけじゃなくてスキュラたちも連れてきた。力仕事は得意な彼女たちだ。
「ここなら場所としては申し分ないな」
「川もありますからね」
「もったいない話だよなあ」
この国は日本のように町と町が隣同士で繋がってるわけじゃない。町を出たらずっと道だけが続いていて、その道を辿っていくとその先に町がある。北海道の内陸部に近いか? 例えば王都の東隣の町はボンになるけど、その間には何もない。ただ街道があるだけだ。ああ、街道から外れた場所に小さな集落がある場合もある。
何度も言うけど、この国では麦畑の面積によってその領地が国に払う税額が変わる。だから儲かるからといって麦ばかり育てることはできない。きちんと役人がチェックするので誤魔化すことができない。それなら何を育てるか。野菜だけで広い畑を維持するのは難しい。麦と違ってすぐに傷む。冷凍や冷蔵の倉庫があるわけじゃないからだ。基本的に収穫したら売りに出かける。しかも機械化されてないから人手が必要だ。でもそこまでの売り上げが見込めないのに人は雇えない。
王都周辺は全部直轄領だから、まあ農地については気にしなくてもいい。でもボンも含めて商業都市が多いから、農民として働く場所がほとんどないのが実際のところだ。だから農地として使えそうな場所があるにもかかわらず、実際には全く使われてこなかった。だからもったいない。
「大臣の仰ったように、ここが農地になるのなら王都からそれほど遠くないですし、労働者も助かるでしょう」
「それに麦に変わる穀物が大量に育つとすれば大きな変化がありますね」
「いずれは税制を変えざるを得ないということになりますね」
「数年でコロッと変わるとは思えないけど、まあ少しずつだな」
俺たちは王都から半日ほど、王都の南西部にある広大な土地を目の前にして話をしている。ここに集団農場を兼ねた実験都市を作ろうという計画だ。
切っ掛けは母さんの言葉だった。雇用問題と米。麦を育てる畑には税金がかかる。それなら他の作物を育てればいい。その作物が売れるようになれば税を取られない作物が市場に出回る。
麦が重要だからって麦にだけ税をかけようとするからややこしい話になる。農地全般にかけるか、それともかけないか。俺たちとしてはもう少し税制がどうにかできないかを検討している。
「それで、これが米の種ですか」
「ああ、籾と呼ぶ。麦とは違って土にそのまま蒔くことはしない。水を張った水田というところに蒔く」
日本のジャポニカ米と違って水を張って土を起こした水田にばら撒くようにするのがタイの稲作だった。日本みたいにやってもいいけど、あれはかなり手間がかかりそうだからな。この国では難しい。
「手間がかかるのですね」
「そうだな。麦に比べるとな。でもあの味になる」
「たしかに。麦ではああはいきません」
「まあこの米だけなら麦とよく似たものだけどな」
麦は主に粉にしてパンにする。別の品種はパスタになる。麦そのものを食べるのは麦粥くらいだろうか。麦飯という考えはこの国にはない。料理のバリエーションが増やしやすいのは米の方だろう。
実際に米を使った料理を用意して社会政策省で試食会をしてみた。ピラフ、ガーリックライス、パエリア、ビリヤニ、ナシゴレン、カオマンガイ、ムジャッダラ。デザートに何種類かのライスプディング。名前だけで分かると思うけど、どれもしっかりとした味付けがされた料理だ。
日本ではタイ米と呼ばれることもあるけど、インディカ米を白米で食べるのはなかなかキツい。粘り気がないし独特な匂いもある。白米で食べることをあまり想定していない米だ。そもそも炊くんじゃなくて茹でるからな。それでも米の人気が出て作るのに税が必要ないなら作りたい者は増えるだろう。
「よし、ここに町を作る。そして住みながら働いてもらう。衣食住は提供し、子供の教育もする」
「色々と詰め込みすぎてはないですか?」
「そうか? 朝から晩まで子供を働かせることの方が問題だと俺には思えるぞ。午前は働いて、暑くなったら日陰で勉強だ。それくらいでいいだろう」
雇用と税と教育、そのあたりをどうするか。それを検討した結果、一つ町を作るという話になった。住民はもちろんスラムから連れてくる。どれだけの規模にするかは未定だけど、最低でも五〇〇人、できれば二〇〇〇人。ちょっとした町くらいにしたい。
「これが成功すればよし、失敗すれば……」
「失敗したらどうされるのですか?」
「まあその分の金を俺が払って何とかすればいい」
金で解決できることは金で解決すればいい。誰が言ったのかは分からないけど、けだし名言だと思う。
正直なところ、ここに町を作って麦を育てさせればスラムからやって来た住人は救える。でもそれじゃスラムにやって来る者が減らない。米じゃなくてもいいんだけど、麦に代わる商品作物を作り、麦に偏った税制を何とかするのが目的だ。だから麦は作らない。作るのは米と野菜だ。そこから始めて、他にいいものがあれば育てさせればいい。
「それなら大量の馬車、それを引く馬や牛、そして一時的な食料。それ以外に家を建てるための材料など、二〇〇〇人が入ることを前提にして見繕ってくれ」
社会政策省としての予算はほぼこれに消えるだろう。そんなことでいいのかと思うかも知れないけど、
「分かりました。もう少し余裕は持たせないのですか?」
「いざとなれば俺がここと王都を往復すればいい。食料はいくらでも運べるからな」
「大臣をあまりこき使う真似はしたくないのですが」
最近ではかなりくだけた会話ができるようになってきた。俺がざっくばらんな話し方をするからだろう。
「そうか? 俺が生まれ育った国には『立っている者は親でも使え』という言葉がある。その時一番手近にいて使い勝手がいいやつを選んで使えばいい。とりあえず建材だけでも用意しておこう」
魔法で作られた物質はなぜか残る。【石の玉】を使えばまん丸の石の玉が残るように。だからここに城壁などの材料に使えそうな石を積んでおく。材料があれば建設は早いだろう。
「家屋用の石材って四角くていいんだな?」
「はい。あまり大きいと積み上げるのが大変ですので、これくらいでお願いします」
一辺三〇センチくらいだろうか。試しに【石の壁】で作ってみる。
「これでどうだ?」
重さは七、八〇キロくらいだろうか。人間一人分くらいならまあ何とか持ち上げられるだろう。
「今これを【石の壁】で作られたんですか?」
「ああ。三辺を同じくらいにして作るとそうなるな」
役人たちが首を傾げる。
「こういう使い方はしないのか?」
「しませんね。【石の壁】はそれこそ魔獣や盗賊の集団を止める時などに使います。そもそも普通は壁にしませんか?」
「それはそうだが、これも一つの使い道だな」
何も設定しなければ、普通は高さ三メートル、幅二メートル、厚さ二〇センチくらいの壁になる。【石の壁】だからな。でも使い方によってはブロックも作れる。小さい方が魔力の消費量も少ない。しかもとにかく硬い。
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