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第十二部:勇者とダンジョンと魔物(一)
外に出て
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糖分を補給したからか、生き生きとした表情でスキュラたちが前を走る。前足しかない犬たちだけど、なぜか足は速い。落ち着いたらどうやって走ってるのかを確認させてもらおうか。
獲物はエサにしてもいいと言ったけど、スキュラたちは俺と同じように魔法を使って魔物の目を狙った。彼女たちの誰かが倒した魔物を別の誰かが俺に渡してくれるから、俺はそれをストレージに入れる。同じ種族で、おそらく同時に作られた五人だから連携は完璧だ。誰が誰か見ただけじゃ区別か付かないけどな。
◆◆◆
「「「外だ~~~~~っ‼ 眩しっ‼」」」
外に飛び出したスキュラたちが顔を押さえて叫ぶ。俺はそのままダンジョンから外に出ると、少し離れた場所で異空間を開けた。トゥーリアが中から這い出した。
《おおっ、久しぶりのお天道様じゃ! いいものじゃのう!》
スキュラたちが伸びをする横で、トゥーリアも首を伸ばして翼を広げていた。ドラゴンって洞窟の奥にいるイメージだけどな。
こうやって全身を見ると、黒いツヤツヤした鱗を持った巨大なトカゲに角と翼が生えた姿だった。
「聞いていいのかどうか分からないけど、そんなに長くいたのか?」
《せいぜい数百年じゃろ》
「いや、長いだろ。人間なら何世代も変わってるぞ」
ドラゴンと感覚を合わせるのは無理だな。地上最強と言われる生物だ。魔物とされる世界もあれば神獣や聖獣とされる世界もある。この国では魔物でないことは間違いないが、あ……。
「ところでこれからどうするんだ?」
今さら気がついた。連れ出したのはいいとして、地上に放り出していいのか?
《シュウジのところで厄介になるのは……やはり迷惑かのう?》
遠慮がちにそう聞かれた。嫌とかそういう問題じゃない。
「俺個人はいいけど屋敷は王都だからなあ。さすがにマズいだろ。山とかはダメなのか?」
「《我は元々は人と共に暮らしておった》
「そうか……」
人間の姿になれるのなら問題ないけど、王都にドラゴンを連れていったら絶対にトラブルになる。しかも呼び方が「お主」じゃなくて「シュウジ」に変わった。
《勇者なら貴族かの?》
「ああ、シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵ってことになっている」
《シュウジはラヴァルの血筋か?》
「いやいや、召喚されたんだって。ずっと前に途絶えた公爵家を継いだだけだ」
《ああ、そう言うておったのう》
俺はラヴァル公爵家が途絶え、召喚された俺が爵位を継承したと伝えた。
「それよりも、さっきの言い方だとラヴァル公爵と知り合いだったのか?」
《頭はいいが少々ヤンチャな家系でのう、女癖が悪くて、当時我に助力を求めた時に自分のものになれと言いよった》
「なかなか豪胆だな」
《言っておくが、我は人間からすると美女らしいからのう。その姿を見せられなければ説得力もないが。まあどれだけ金を積まれてもあんな男と番になるつもりはなかったぞ》
なるほど、美女か。それはそれで興味があるけど後回しだな。
「俺も女は好きだけど、いきなり口説きはしないな。口説かれたいという女は見たら分かる」
《このダンジョンを踏破できる力があるなら、我を倒して屈服させることもできるじゃろ》
「やめてくれ。俺は穏健派なんだ」
いくらトゥーリアが美女だとしても、どこの誰が倒して自分の女にするって発想が出るんだ? 頭だけで俺よりもデカいんだぞ。
《穏健派とは聞いて呆れるのう。それなら一人でダンジョンを制覇せんじゃろ》
「……まあ結果的にそうなっただけだ。思ったよりも楽だった」
一日か二日くらい潜ってもいいかと思ったけど、結果的に底まで見てしまっただけだ。
「話を戻すけど、当時のラヴァル公爵はそんなにダメなヤツだったのか?」
《貴族なんてほとんどは単なる太った人間じゃろ。シュウジが我の立場ならどうする?》
「俺もノーサンキューだ。ただ最近は健康的な貴族が増えてるから、貴族がみんな太ってるわけじゃないぞ」
ケントさんが健康志向を広めたから、今の若い当主は普通に健康的なイケメンが多い。
「とりあえず一度サン=フォアに戻ってから考えるか。ポール殿に聞けば何かいい案が出るかもしれないしな」
《うむ。よろしく頼む。我は人が嫌がるようなことはせぬよ》
まあドラゴンは聖獣や神獣らしいからいいとして……。
「問題はスキュラたちだなあ。町に入れても大丈夫なのかどうか……」
こっちは完全に魔物だ。言葉が理解できるからかなりの高位のはずだけど。見た目は上半身が少女、下半身がモフモフの六頭の犬だから魔物って感じはしないけど、異形であることには変わらない。
「「「~~~~」」」
「「「くう~~~ん」」」
スキュラたちはお願いポーズをし、犬たちは上目遣いに可愛くアピールしている。お前ら、魔物のプライドはないんだな。最初から一欠片も見てないか。
まあ従魔になった以上は俺が面倒を見る方がいいだろう。ただ王都に連れていっていいのかどうかという問題がある。異空間に入れれば連れていけるけど、バレた時にマズいだろうな。勇者が王都に魔物を引き入れたって。
でも連絡用の鳥の魔獣は問題ないわけだ。ほれに大人しい魔物なら牛の代わりに使われることもあるらしい。とりあえずサン=フォアで確認するか。
「なあ、人の姿になるようなスキルはないのか?」
それがあれば見た目だけは問題なくなる。見た目だけな。
「どうやら【人化】というスキルはあるようなのですが、まだ使えません」
「そのうち使えるかもってことか」
どうも自分でスキルを見ると【人化】というのがあるらしいけど、使おうとすると「まだ使えません」と出るらしい。覚えたけど使えない状態だ。てことはしばらくはこの姿か。まあ犬の部分がドーベルマンみたいな顔なら怖がられるかもしれないけど、モフモフで愛嬌のある顔だ。危険でないことさえ分かってもらえれば大丈夫だろう。
「いざとなったら力技でも使うか。とりあえず町まで戻ろう」
ダメそうならとりあえず異空間に入れておいて、大丈夫そうな場所で出せばいいだろう。子供が犬を拾ってきて隠すのに近いか?
《それなら我の背中に乗ればいいじゃろう。王都まででよいか?》
「いや、ここからすぐのサン=フォアって町だ。向こうに見えるあの森の向こう側だ。森のこっち側で降ろしてくれ」
《よし、分かった》
みんなでトゥーリアの背中に乗せてもらってサン=フォアに戻る。さすがにそのまま中には入れないだろう。まずはポール殿に説明しないとな。ドラゴンとスキュラと仲良くなりましたと。
「そのまま乗って大丈夫なのか?」
《落ちるとかそういうことか?》
「ああ。風が強ければ転げ落ちるんじゃないか?」
《ふむ。人を乗せる時は結界が張られるはずじゃ。話もできたぞ》
「それなら大丈夫そうか」
ドラゴンの背中に乗って移動ってカブリオレに乗るようなもんだと思ったら、ちゃんと屋根のある車になるそうだ。
獲物はエサにしてもいいと言ったけど、スキュラたちは俺と同じように魔法を使って魔物の目を狙った。彼女たちの誰かが倒した魔物を別の誰かが俺に渡してくれるから、俺はそれをストレージに入れる。同じ種族で、おそらく同時に作られた五人だから連携は完璧だ。誰が誰か見ただけじゃ区別か付かないけどな。
◆◆◆
「「「外だ~~~~~っ‼ 眩しっ‼」」」
外に飛び出したスキュラたちが顔を押さえて叫ぶ。俺はそのままダンジョンから外に出ると、少し離れた場所で異空間を開けた。トゥーリアが中から這い出した。
《おおっ、久しぶりのお天道様じゃ! いいものじゃのう!》
スキュラたちが伸びをする横で、トゥーリアも首を伸ばして翼を広げていた。ドラゴンって洞窟の奥にいるイメージだけどな。
こうやって全身を見ると、黒いツヤツヤした鱗を持った巨大なトカゲに角と翼が生えた姿だった。
「聞いていいのかどうか分からないけど、そんなに長くいたのか?」
《せいぜい数百年じゃろ》
「いや、長いだろ。人間なら何世代も変わってるぞ」
ドラゴンと感覚を合わせるのは無理だな。地上最強と言われる生物だ。魔物とされる世界もあれば神獣や聖獣とされる世界もある。この国では魔物でないことは間違いないが、あ……。
「ところでこれからどうするんだ?」
今さら気がついた。連れ出したのはいいとして、地上に放り出していいのか?
《シュウジのところで厄介になるのは……やはり迷惑かのう?》
遠慮がちにそう聞かれた。嫌とかそういう問題じゃない。
「俺個人はいいけど屋敷は王都だからなあ。さすがにマズいだろ。山とかはダメなのか?」
「《我は元々は人と共に暮らしておった》
「そうか……」
人間の姿になれるのなら問題ないけど、王都にドラゴンを連れていったら絶対にトラブルになる。しかも呼び方が「お主」じゃなくて「シュウジ」に変わった。
《勇者なら貴族かの?》
「ああ、シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵ってことになっている」
《シュウジはラヴァルの血筋か?》
「いやいや、召喚されたんだって。ずっと前に途絶えた公爵家を継いだだけだ」
《ああ、そう言うておったのう》
俺はラヴァル公爵家が途絶え、召喚された俺が爵位を継承したと伝えた。
「それよりも、さっきの言い方だとラヴァル公爵と知り合いだったのか?」
《頭はいいが少々ヤンチャな家系でのう、女癖が悪くて、当時我に助力を求めた時に自分のものになれと言いよった》
「なかなか豪胆だな」
《言っておくが、我は人間からすると美女らしいからのう。その姿を見せられなければ説得力もないが。まあどれだけ金を積まれてもあんな男と番になるつもりはなかったぞ》
なるほど、美女か。それはそれで興味があるけど後回しだな。
「俺も女は好きだけど、いきなり口説きはしないな。口説かれたいという女は見たら分かる」
《このダンジョンを踏破できる力があるなら、我を倒して屈服させることもできるじゃろ》
「やめてくれ。俺は穏健派なんだ」
いくらトゥーリアが美女だとしても、どこの誰が倒して自分の女にするって発想が出るんだ? 頭だけで俺よりもデカいんだぞ。
《穏健派とは聞いて呆れるのう。それなら一人でダンジョンを制覇せんじゃろ》
「……まあ結果的にそうなっただけだ。思ったよりも楽だった」
一日か二日くらい潜ってもいいかと思ったけど、結果的に底まで見てしまっただけだ。
「話を戻すけど、当時のラヴァル公爵はそんなにダメなヤツだったのか?」
《貴族なんてほとんどは単なる太った人間じゃろ。シュウジが我の立場ならどうする?》
「俺もノーサンキューだ。ただ最近は健康的な貴族が増えてるから、貴族がみんな太ってるわけじゃないぞ」
ケントさんが健康志向を広めたから、今の若い当主は普通に健康的なイケメンが多い。
「とりあえず一度サン=フォアに戻ってから考えるか。ポール殿に聞けば何かいい案が出るかもしれないしな」
《うむ。よろしく頼む。我は人が嫌がるようなことはせぬよ》
まあドラゴンは聖獣や神獣らしいからいいとして……。
「問題はスキュラたちだなあ。町に入れても大丈夫なのかどうか……」
こっちは完全に魔物だ。言葉が理解できるからかなりの高位のはずだけど。見た目は上半身が少女、下半身がモフモフの六頭の犬だから魔物って感じはしないけど、異形であることには変わらない。
「「「~~~~」」」
「「「くう~~~ん」」」
スキュラたちはお願いポーズをし、犬たちは上目遣いに可愛くアピールしている。お前ら、魔物のプライドはないんだな。最初から一欠片も見てないか。
まあ従魔になった以上は俺が面倒を見る方がいいだろう。ただ王都に連れていっていいのかどうかという問題がある。異空間に入れれば連れていけるけど、バレた時にマズいだろうな。勇者が王都に魔物を引き入れたって。
でも連絡用の鳥の魔獣は問題ないわけだ。ほれに大人しい魔物なら牛の代わりに使われることもあるらしい。とりあえずサン=フォアで確認するか。
「なあ、人の姿になるようなスキルはないのか?」
それがあれば見た目だけは問題なくなる。見た目だけな。
「どうやら【人化】というスキルはあるようなのですが、まだ使えません」
「そのうち使えるかもってことか」
どうも自分でスキルを見ると【人化】というのがあるらしいけど、使おうとすると「まだ使えません」と出るらしい。覚えたけど使えない状態だ。てことはしばらくはこの姿か。まあ犬の部分がドーベルマンみたいな顔なら怖がられるかもしれないけど、モフモフで愛嬌のある顔だ。危険でないことさえ分かってもらえれば大丈夫だろう。
「いざとなったら力技でも使うか。とりあえず町まで戻ろう」
ダメそうならとりあえず異空間に入れておいて、大丈夫そうな場所で出せばいいだろう。子供が犬を拾ってきて隠すのに近いか?
《それなら我の背中に乗ればいいじゃろう。王都まででよいか?》
「いや、ここからすぐのサン=フォアって町だ。向こうに見えるあの森の向こう側だ。森のこっち側で降ろしてくれ」
《よし、分かった》
みんなでトゥーリアの背中に乗せてもらってサン=フォアに戻る。さすがにそのまま中には入れないだろう。まずはポール殿に説明しないとな。ドラゴンとスキュラと仲良くなりましたと。
「そのまま乗って大丈夫なのか?」
《落ちるとかそういうことか?》
「ああ。風が強ければ転げ落ちるんじゃないか?」
《ふむ。人を乗せる時は結界が張られるはずじゃ。話もできたぞ》
「それなら大丈夫そうか」
ドラゴンの背中に乗って移動ってカブリオレに乗るようなもんだと思ったら、ちゃんと屋根のある車になるそうだ。
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