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第十四部:それぞれの思惑
港と経済
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新しい町の名前は住民たちに決めてもらうことにした。移住が始まれば俺にできることはない。ここから先は仕切っていく役人たちと実際に働く労働者たちとスラムの住人たち。中には体が悪くて働けない者もいるけど、そこはできる範囲で何かをしてもらう。自分で選んだ道だからだ。
彼らにはスラムに残るという選択肢もあった。でも自分でスラムを出るという選択をした。俺は強制したつもりはないし、まとめ役たちにも強制はしないようにと言った。それでも六〇〇〇人以上がスラムを出ることになった。全員がスラムの住人じゃないかもしれないけど、それでもかなりの人数だ。
最初は家もないし店もない。でも少しずつ増えるだろう。王都から半日でポテンシャルは高い。むしろポテンシャルしか感じられない。ゼロからの出発だ。上手くやればそれこそ金貨が溢れんばかりに集まるような場所になる。この町をどう育てるかは彼ら次第だ。もちろん俺も協力する。でも何かあれば必ず俺が助けてくれると思われたくはない。
家はないけど雨露をしのげるようにはなっている。素材はゴブリンとコボルドだ。イネスにある程度渡したけどあり過ぎる。それでどうしようかと思ったら【ストレージ】に不思議な機能が増えていた。
中に入れていたコボルドを取り出そうとしたら「解体しますか? ウィ/ノン」と出た。だからなんでそこだけフランス語なんだよ⁉ とりあえずウィを選んだら皮、骨、肉、内蔵と分かれた。それでさらにいじってたら、皮なら皮同士、骨なら骨同士で繋げることができた。魔物の骨はそこそこ硬いから、これを細く伸ばして骨格にして周りに皮を巻いて簡易的なテントを作らせた。足りない部分はボロ布を集めさせた。長期で暮らすのには向かないけど、家ができるまでなら大丈夫だ。どうせすぐに建つ。日本と違って魔法がある。そこは丸投げだ。俺が担当するのはその手前まで。英雄待望論という言葉があるからだ。
事態が行き詰まった時には英雄が現れて解決してくれることを期待しやすい。ただ多くの場合、その先にあるのが独裁だということを忘れられがちだ。
◆◆◆
「どうしようもないな」
「申し訳ない」
「いやいや、アドニス殿が頭を下げるようなことじゃないだろう」
俺はアドニス王と話し合っている。この国の経済状況についてだ。俺は財務大臣じゃないんだけど、まあ頼まれれば話くらいは聞く。そして聞いたところ、さっきのような言葉がつい出てしまった。
フレージュ王国の面積は他の三国と同程度。いや、むしろ東西の国よりはやや広めかもしれない。でも経済基盤が弱い。
南のクロド王国は温暖な気候で作物もよく育つ。そして東の方にある大陸とは船で交易をしている。東のカロシュ王国と西のテシェル王国もクロド王国とよく似たようなものだった。フレージュ王国だけが置いていかれた状態だ。
たしかに言われてみればそうだ。例えば砂糖。この国ではサトウキビは育ちにくい。だからテンサイから砂糖を作っている。他の三国はサトウキビがメインでテンサイも作っている。だから生産量が何倍も違った。
塩も同じだ。高いなとは思った。それもそのはず、この大陸では岩塩は採れない。地球なら年間に生産される塩のうち、海水から作られるのは四分の一程度だと聞いたことがある。それ以外は岩塩や塩湖の塩を元にしていると。フレージュ王国には、ていうかこの大陸には岩塩が採れる場所や塩湖はない。そうなると塩は海水から作るしかない。でも塩田を作る場所は温暖で晴天が多い方が向いている。つまりフレージュ王国は塩田向きじゃない。そもそも北の海岸線は砂浜じゃないから塩田が作りにくい。
海水を煮詰めて作る方法もやっているそうだけど、大規模な塩田ほどたくさんはできない。
「でも立地が悪すぎるな」
「それを言われるとどうしようもない」
「地形に文句を言ってもどうしようもないな」
ケチばかり付けても仕方がない。とりあえず一つずつでも何か案を出せないか……ん?
「交易の話だけど、他の国にはできてこの国にできないのはどうしてだ?」
「北の海は荒れやすいのだ。特に海岸近くは。そうなると何日も海に出られない」
「海岸から離れるとどうなる?」
「あまり荒れることはない。海の中の地形に関係があると言われている」
「それならこうしたらどうだ?」
俺は海岸から突き出た防波堤のある港を描いた。
「ここに防波堤があればこちら側は波が穏やかになる。極端な話、ここからここまで長い防波堤を作ればかなり穏やかになると思うぞ」
「かなり大掛かりになるのではないか? 石を上手く沈めるのは難しいと思うのだが」
「そこは水棲人を雇えばいいんじゃないか?」
「は⁉ そ、そうか‼」
水の中や水辺で暮らす種族がいるならその時期だけでも雇えばいい。
「しかしだな、石を沈めると横に崩れないか? 水中で魔法を使うのはかなり難しいのだが」
「そこはケーソンというものがある」
石を運んで積むと積んでいる間に崩れることもある。それならあらかじめ大きな箱を作って運んで海に置く。その前に置く場所の土台は水棲族に作ってもらえば安定するだろう。
「なるほど。それならたしかに作りやすい」
「水棲人の中で土属性の魔法が使える者を高給で雇えばいいだろう。その後は他の港の整備もやってもらえばいい。そういう港は二つ三つあっていいと思うぞ」
「そうだな。傾聴に値する意見だった。感謝する」
「いや、俺は自分が知っていることを言っただけだ。実際にやったことはない。この世界の技術でできるかどうか分からないことが多すぎる」
◆◆◆
アドニス王は特に差別主義者というわけじゃない。でもこの国の多くは人間と獣人で、それ以外は少ない。もちろんエルフもドワーフもフェアリーもいるし、彼らはそれぞれの分野で活躍していると言ってもいい。ただ大陸の外にある国との取り引きがないのが原因かどうか分からないけど、それ以外の種族を一段階下に見るのはわりと一般的なことだ。それ以外の種族ってのは、要するに亜人のことだ。
俺は日本語で考えてしまうけど、亜という漢字は主たる者に次ぐとか準じるとか、そういう意味になる。デミヒューマンのデミは半分とか部分的という意味で、同じくフランス語のドゥミも半分やほとんど、あるいは不完全という意味で使われる。
例えば上半身が人間で下半身が馬のケンタウロス、立派な体格をした人間の頭に大きな角が生えているミノタウロス、人間の上半身に山羊の下半身と角を持つパーン、腕の代わりに翼が生えているハーピー、上半身が人間で下半身が魚のマーマンとマーメイド、二足歩行のトカゲのような姿をしたリーザードマンなどは有名だろう。
ミノタウロスは人間の顔に角がある種族だけじゃなく、牛の頭を持つ者もいるそうだ。それはもう別種族じゃないかと思うけど、どちらもミノタウロスで間違いないらしい。
そうやって考えると、うちにいるスキュラたちはカテゴリー的には魔物だけど魔物っぽくない。日報紙の記事を読んだ魔法省の役人が確認に来たけど、どうも彼女たちは普通のスキュラじゃないらしい。おそらく新種だろうと。ステータス上はスキュラだけど、ミノタウロスに二種類あるように、彼女たちも別なのではないかと。だから魔物ではなく亜人にしてもいいのかも知れないけど、今のところスキュラは魔物ということになっているから魔物にしておいてほしいと頭を下げられた。
俺としてはあの五人が亜人になった方がいいのは間違いないけど、いきなり魔物を亜人にするのが難しいことくらいは理解できる。例え言葉が通じたとしても、いきなりゴブリンを亜人だ、人に近い種族だと考えるのは難しい。せめてもう少し見た目が人間に近くなったらなあ。
ゴブリンはよく小鬼とか呼ばれることもある魔物で、尖った耳を持っている。この尖った耳というのは妖精族に共通するポイントで、エルフやドワーフ、フェアリーなども同じだ。でもゴブリンはいわゆる闇落ちした種族なので、言葉は話せないし知能も低い。
何を言いたいのかというと、分け方というのは人や地域や時代によって変わるので、Aだと思ったら実はBとか、逆にどう考えてもBだと思ったのにAだったとか、まあそういうことも多いということだ。
とりあえずスキュラたちは魔物で俺の従魔だけど、俺としてはほぼ家族のように扱っている。でも彼女たちは自分たちは従魔だからと住む場所だけは別にしていた。まあ体の幅があるからな。それがなければ屋敷で暮らしてもいいと俺は思うんだけどなあ。
彼らにはスラムに残るという選択肢もあった。でも自分でスラムを出るという選択をした。俺は強制したつもりはないし、まとめ役たちにも強制はしないようにと言った。それでも六〇〇〇人以上がスラムを出ることになった。全員がスラムの住人じゃないかもしれないけど、それでもかなりの人数だ。
最初は家もないし店もない。でも少しずつ増えるだろう。王都から半日でポテンシャルは高い。むしろポテンシャルしか感じられない。ゼロからの出発だ。上手くやればそれこそ金貨が溢れんばかりに集まるような場所になる。この町をどう育てるかは彼ら次第だ。もちろん俺も協力する。でも何かあれば必ず俺が助けてくれると思われたくはない。
家はないけど雨露をしのげるようにはなっている。素材はゴブリンとコボルドだ。イネスにある程度渡したけどあり過ぎる。それでどうしようかと思ったら【ストレージ】に不思議な機能が増えていた。
中に入れていたコボルドを取り出そうとしたら「解体しますか? ウィ/ノン」と出た。だからなんでそこだけフランス語なんだよ⁉ とりあえずウィを選んだら皮、骨、肉、内蔵と分かれた。それでさらにいじってたら、皮なら皮同士、骨なら骨同士で繋げることができた。魔物の骨はそこそこ硬いから、これを細く伸ばして骨格にして周りに皮を巻いて簡易的なテントを作らせた。足りない部分はボロ布を集めさせた。長期で暮らすのには向かないけど、家ができるまでなら大丈夫だ。どうせすぐに建つ。日本と違って魔法がある。そこは丸投げだ。俺が担当するのはその手前まで。英雄待望論という言葉があるからだ。
事態が行き詰まった時には英雄が現れて解決してくれることを期待しやすい。ただ多くの場合、その先にあるのが独裁だということを忘れられがちだ。
◆◆◆
「どうしようもないな」
「申し訳ない」
「いやいや、アドニス殿が頭を下げるようなことじゃないだろう」
俺はアドニス王と話し合っている。この国の経済状況についてだ。俺は財務大臣じゃないんだけど、まあ頼まれれば話くらいは聞く。そして聞いたところ、さっきのような言葉がつい出てしまった。
フレージュ王国の面積は他の三国と同程度。いや、むしろ東西の国よりはやや広めかもしれない。でも経済基盤が弱い。
南のクロド王国は温暖な気候で作物もよく育つ。そして東の方にある大陸とは船で交易をしている。東のカロシュ王国と西のテシェル王国もクロド王国とよく似たようなものだった。フレージュ王国だけが置いていかれた状態だ。
たしかに言われてみればそうだ。例えば砂糖。この国ではサトウキビは育ちにくい。だからテンサイから砂糖を作っている。他の三国はサトウキビがメインでテンサイも作っている。だから生産量が何倍も違った。
塩も同じだ。高いなとは思った。それもそのはず、この大陸では岩塩は採れない。地球なら年間に生産される塩のうち、海水から作られるのは四分の一程度だと聞いたことがある。それ以外は岩塩や塩湖の塩を元にしていると。フレージュ王国には、ていうかこの大陸には岩塩が採れる場所や塩湖はない。そうなると塩は海水から作るしかない。でも塩田を作る場所は温暖で晴天が多い方が向いている。つまりフレージュ王国は塩田向きじゃない。そもそも北の海岸線は砂浜じゃないから塩田が作りにくい。
海水を煮詰めて作る方法もやっているそうだけど、大規模な塩田ほどたくさんはできない。
「でも立地が悪すぎるな」
「それを言われるとどうしようもない」
「地形に文句を言ってもどうしようもないな」
ケチばかり付けても仕方がない。とりあえず一つずつでも何か案を出せないか……ん?
「交易の話だけど、他の国にはできてこの国にできないのはどうしてだ?」
「北の海は荒れやすいのだ。特に海岸近くは。そうなると何日も海に出られない」
「海岸から離れるとどうなる?」
「あまり荒れることはない。海の中の地形に関係があると言われている」
「それならこうしたらどうだ?」
俺は海岸から突き出た防波堤のある港を描いた。
「ここに防波堤があればこちら側は波が穏やかになる。極端な話、ここからここまで長い防波堤を作ればかなり穏やかになると思うぞ」
「かなり大掛かりになるのではないか? 石を上手く沈めるのは難しいと思うのだが」
「そこは水棲人を雇えばいいんじゃないか?」
「は⁉ そ、そうか‼」
水の中や水辺で暮らす種族がいるならその時期だけでも雇えばいい。
「しかしだな、石を沈めると横に崩れないか? 水中で魔法を使うのはかなり難しいのだが」
「そこはケーソンというものがある」
石を運んで積むと積んでいる間に崩れることもある。それならあらかじめ大きな箱を作って運んで海に置く。その前に置く場所の土台は水棲族に作ってもらえば安定するだろう。
「なるほど。それならたしかに作りやすい」
「水棲人の中で土属性の魔法が使える者を高給で雇えばいいだろう。その後は他の港の整備もやってもらえばいい。そういう港は二つ三つあっていいと思うぞ」
「そうだな。傾聴に値する意見だった。感謝する」
「いや、俺は自分が知っていることを言っただけだ。実際にやったことはない。この世界の技術でできるかどうか分からないことが多すぎる」
◆◆◆
アドニス王は特に差別主義者というわけじゃない。でもこの国の多くは人間と獣人で、それ以外は少ない。もちろんエルフもドワーフもフェアリーもいるし、彼らはそれぞれの分野で活躍していると言ってもいい。ただ大陸の外にある国との取り引きがないのが原因かどうか分からないけど、それ以外の種族を一段階下に見るのはわりと一般的なことだ。それ以外の種族ってのは、要するに亜人のことだ。
俺は日本語で考えてしまうけど、亜という漢字は主たる者に次ぐとか準じるとか、そういう意味になる。デミヒューマンのデミは半分とか部分的という意味で、同じくフランス語のドゥミも半分やほとんど、あるいは不完全という意味で使われる。
例えば上半身が人間で下半身が馬のケンタウロス、立派な体格をした人間の頭に大きな角が生えているミノタウロス、人間の上半身に山羊の下半身と角を持つパーン、腕の代わりに翼が生えているハーピー、上半身が人間で下半身が魚のマーマンとマーメイド、二足歩行のトカゲのような姿をしたリーザードマンなどは有名だろう。
ミノタウロスは人間の顔に角がある種族だけじゃなく、牛の頭を持つ者もいるそうだ。それはもう別種族じゃないかと思うけど、どちらもミノタウロスで間違いないらしい。
そうやって考えると、うちにいるスキュラたちはカテゴリー的には魔物だけど魔物っぽくない。日報紙の記事を読んだ魔法省の役人が確認に来たけど、どうも彼女たちは普通のスキュラじゃないらしい。おそらく新種だろうと。ステータス上はスキュラだけど、ミノタウロスに二種類あるように、彼女たちも別なのではないかと。だから魔物ではなく亜人にしてもいいのかも知れないけど、今のところスキュラは魔物ということになっているから魔物にしておいてほしいと頭を下げられた。
俺としてはあの五人が亜人になった方がいいのは間違いないけど、いきなり魔物を亜人にするのが難しいことくらいは理解できる。例え言葉が通じたとしても、いきなりゴブリンを亜人だ、人に近い種族だと考えるのは難しい。せめてもう少し見た目が人間に近くなったらなあ。
ゴブリンはよく小鬼とか呼ばれることもある魔物で、尖った耳を持っている。この尖った耳というのは妖精族に共通するポイントで、エルフやドワーフ、フェアリーなども同じだ。でもゴブリンはいわゆる闇落ちした種族なので、言葉は話せないし知能も低い。
何を言いたいのかというと、分け方というのは人や地域や時代によって変わるので、Aだと思ったら実はBとか、逆にどう考えてもBだと思ったのにAだったとか、まあそういうことも多いということだ。
とりあえずスキュラたちは魔物で俺の従魔だけど、俺としてはほぼ家族のように扱っている。でも彼女たちは自分たちは従魔だからと住む場所だけは別にしていた。まあ体の幅があるからな。それがなければ屋敷で暮らしてもいいと俺は思うんだけどなあ。
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