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第十部:家族を持つこと
支店長の悩み
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「これほど好かれるとは思わなかったですね」
開店間近の支店の建物を見上げながらフェルナンは呟いた。隣にはアリアとマガリという、この村で数少ない読み書き計算ができる少女のうちの二人が、彼に熱い視線を向けながら立っていた。
彼は真面目で落ち着いた性格だ。子供の頃から地面に文字や数字を書いて勉強していた。他の子供たちと遊ぶこともあるにはあったが、一人で本を読む方が好きな少年だった。人嫌いとか人付き合いが苦手というわけではなく、少々内気などこにでもいそうな少年だった。
フェルナンが偶然ボンの町にあるクレマン商会で働けるようになったのはやはり読み書きができたからだった。さらに高度な計算までできるとあって、一二歳で即戦力として迎えられた。そこから五年、問題なく自分の仕事をやってきた。
そんな彼に王都から呼び出しがかかったのは少し前のこと。クレマン商会の会長の母親で、現在ラヴァル公爵家の経営するコワレ商会の会長をしているアンナからの連絡だった。新しく支店を作るから支店長をしてみないかと。真面目なフェルナンは、そこまで期待されれば受けないわけにはいかないと引き受けることにした。その結果がオープン前に両手に花状態だ。
彼の補佐役として一緒に来たアンドレとエリックの隣にも、それぞれ同じように少女が一人ずつ立っていた。ジャネットとジョアンヌの双子姉妹。
お分かりのように、四人の少女は王都からやって来た三人にガンガンとアタックし、支店のオープンを前にしてフェルナンは陥落目前、アンドレとエリックは陥落済みだった。ここまで早いとはシュウジですら予想していなかっただろう。
アンドレはフェルナンよりも二つ年上で、彼と同じように真面目な性格だったが、フェルナン以上に人当たりが良く、嫌われる要素は少ない。ただし数年前、できたばかりの恋人に対していい人であろうとするあまり、「女をリードすらできないの?」とこっ酷く振られてしまい、恋愛にやや消極的になっていた。
彼の同僚のエリックはアンドレと同い年。アンドレに比べればもう少し融通の利く性格だろう。ボンではなかなかいい相手が見つからなかったが、王都なら見つかるかもしれないと思ってアンナの誘いでクレマン商会からコワレ商会に移籍することにした。そして今回はフェルナンをベックの女性と結婚させるという極秘任務を受けた。そこには「もしかしたら自分にも相手が見つかるかもしれない」という打算もあった。そしてアッサリと見つけた。いや、見つけたというよりも見つけられた。
エリックの相手のジョアンヌはジャネットの双子の妹だ。双子は双子でも、二人は性格が全然違った。やや消極的な姉のジャネットとかなり積極的な妹のジョアンヌ。それもあってジョアンヌの方が先にエリックと恋人同士になった。お互いの好みが完全に一致した形だ。
そうなるとジョアンヌとしては今度は姉にアンドレと仲良くなってもらおうとした。それはジャネットとしては余計なお世話だったが、妹に物理的に背中を押される形でアンドレの寝室に全裸で飛び込む羽目になった。
「アンドレさんって奥手よ。姉さんの方がガンガン行かないと絶対に無理だって」
「そんな……。私には無理よ」
「大丈夫大丈夫。エリックが教えてくれたから。アンドレさんは押せば大丈夫だって。だからほら!」
「ちょ、ちょっと。な、なんでこの格好?」
「ガンガン行くためでしょ?」
「ちょちょちょ……」
口八丁手八丁な妹に唆されてジャネットは下着まで脱がされた。そしてジョアンヌはジャネットの上でを引っ張ってアンドレの寝室の前まで行くとドアを開けて姉を中に突き飛ばした。「おっとっと」と勢い余って椅子に座っていたアンドレのすぐ手前まで進んでしまったジャネット。二人の視線が絡まる。
アンドレは二人がドアの向こうで何かを話していたことには気づいていたが、まさかジャネットが全裸で飛び込んでくるとは想像できなかった。そしてアンドレはかなり奥手だった。
「あ、あのあのあの、これは違うの!」
「……」
アンドレはいきなりの状況に固まってしまった。
「あのあの、ジョアンヌに押されて、それで……」
全裸のまま必死に言い訳をするジャネット。
「そういうわけで、裸なのには特に意味はなくて……あの……あれ? アンドレさん? アンドレさん?」
[…………」
アンドレの反応が薄いと思ったら、彼は目を開いたまま気絶していた。
ジャネットは振り返って入ってきた扉を見ると、そこからジョアンヌが覗き込んでいた。
(ええっと、気絶してるんだけど、ここからどうすれば?)
ジャネットは小声で妹に助けを求める。
(ヤっちゃえ)
親指と人差し指と中指を使った下品なフィグサインで姉の質問に答えた。
(どうやって?)
(とりあえず脱がす。そしたら抱きつく)
(それで?)
(後は勢い。頑張って!)
ジョアンヌは両手でガッツポーズではなく両手でフィグサインをすると扉から頭を引っ込めた。
(ええっ⁉)
ジョアンヌの顔が引っ込んで扉が閉まった。そこに残されたのは気を失ったままのアンドレと全裸のままのジョアンヌ。ジョアンヌは部屋の中を一度見回し、唾を飲み込むと足を踏み出した。
開店間近の支店の建物を見上げながらフェルナンは呟いた。隣にはアリアとマガリという、この村で数少ない読み書き計算ができる少女のうちの二人が、彼に熱い視線を向けながら立っていた。
彼は真面目で落ち着いた性格だ。子供の頃から地面に文字や数字を書いて勉強していた。他の子供たちと遊ぶこともあるにはあったが、一人で本を読む方が好きな少年だった。人嫌いとか人付き合いが苦手というわけではなく、少々内気などこにでもいそうな少年だった。
フェルナンが偶然ボンの町にあるクレマン商会で働けるようになったのはやはり読み書きができたからだった。さらに高度な計算までできるとあって、一二歳で即戦力として迎えられた。そこから五年、問題なく自分の仕事をやってきた。
そんな彼に王都から呼び出しがかかったのは少し前のこと。クレマン商会の会長の母親で、現在ラヴァル公爵家の経営するコワレ商会の会長をしているアンナからの連絡だった。新しく支店を作るから支店長をしてみないかと。真面目なフェルナンは、そこまで期待されれば受けないわけにはいかないと引き受けることにした。その結果がオープン前に両手に花状態だ。
彼の補佐役として一緒に来たアンドレとエリックの隣にも、それぞれ同じように少女が一人ずつ立っていた。ジャネットとジョアンヌの双子姉妹。
お分かりのように、四人の少女は王都からやって来た三人にガンガンとアタックし、支店のオープンを前にしてフェルナンは陥落目前、アンドレとエリックは陥落済みだった。ここまで早いとはシュウジですら予想していなかっただろう。
アンドレはフェルナンよりも二つ年上で、彼と同じように真面目な性格だったが、フェルナン以上に人当たりが良く、嫌われる要素は少ない。ただし数年前、できたばかりの恋人に対していい人であろうとするあまり、「女をリードすらできないの?」とこっ酷く振られてしまい、恋愛にやや消極的になっていた。
彼の同僚のエリックはアンドレと同い年。アンドレに比べればもう少し融通の利く性格だろう。ボンではなかなかいい相手が見つからなかったが、王都なら見つかるかもしれないと思ってアンナの誘いでクレマン商会からコワレ商会に移籍することにした。そして今回はフェルナンをベックの女性と結婚させるという極秘任務を受けた。そこには「もしかしたら自分にも相手が見つかるかもしれない」という打算もあった。そしてアッサリと見つけた。いや、見つけたというよりも見つけられた。
エリックの相手のジョアンヌはジャネットの双子の妹だ。双子は双子でも、二人は性格が全然違った。やや消極的な姉のジャネットとかなり積極的な妹のジョアンヌ。それもあってジョアンヌの方が先にエリックと恋人同士になった。お互いの好みが完全に一致した形だ。
そうなるとジョアンヌとしては今度は姉にアンドレと仲良くなってもらおうとした。それはジャネットとしては余計なお世話だったが、妹に物理的に背中を押される形でアンドレの寝室に全裸で飛び込む羽目になった。
「アンドレさんって奥手よ。姉さんの方がガンガン行かないと絶対に無理だって」
「そんな……。私には無理よ」
「大丈夫大丈夫。エリックが教えてくれたから。アンドレさんは押せば大丈夫だって。だからほら!」
「ちょ、ちょっと。な、なんでこの格好?」
「ガンガン行くためでしょ?」
「ちょちょちょ……」
口八丁手八丁な妹に唆されてジャネットは下着まで脱がされた。そしてジョアンヌはジャネットの上でを引っ張ってアンドレの寝室の前まで行くとドアを開けて姉を中に突き飛ばした。「おっとっと」と勢い余って椅子に座っていたアンドレのすぐ手前まで進んでしまったジャネット。二人の視線が絡まる。
アンドレは二人がドアの向こうで何かを話していたことには気づいていたが、まさかジャネットが全裸で飛び込んでくるとは想像できなかった。そしてアンドレはかなり奥手だった。
「あ、あのあのあの、これは違うの!」
「……」
アンドレはいきなりの状況に固まってしまった。
「あのあの、ジョアンヌに押されて、それで……」
全裸のまま必死に言い訳をするジャネット。
「そういうわけで、裸なのには特に意味はなくて……あの……あれ? アンドレさん? アンドレさん?」
[…………」
アンドレの反応が薄いと思ったら、彼は目を開いたまま気絶していた。
ジャネットは振り返って入ってきた扉を見ると、そこからジョアンヌが覗き込んでいた。
(ええっと、気絶してるんだけど、ここからどうすれば?)
ジャネットは小声で妹に助けを求める。
(ヤっちゃえ)
親指と人差し指と中指を使った下品なフィグサインで姉の質問に答えた。
(どうやって?)
(とりあえず脱がす。そしたら抱きつく)
(それで?)
(後は勢い。頑張って!)
ジョアンヌは両手でガッツポーズではなく両手でフィグサインをすると扉から頭を引っ込めた。
(ええっ⁉)
ジョアンヌの顔が引っ込んで扉が閉まった。そこに残されたのは気を失ったままのアンドレと全裸のままのジョアンヌ。ジョアンヌは部屋の中を一度見回し、唾を飲み込むと足を踏み出した。
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