元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十四部:それぞれの思惑

正室選び(一)

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「シュウジさん、少し相談してもいいですか?」
「もちろんいいぞ。何かあったのか?」
 ミレーヌから相談を持ちかけられるのは珍しい。あえて言えば俺から相談する方が多いだろう。
「実は正室のことです」
「正室? 俺はお前を正室にするつもりだぞ」
 最初からそのつもりだったからな。でも今さらそれを口に出すということは、違う方がいいのか?
「シュウジさんは最初からそう言ってくれていましたし、私もそれでいいと思っていました。でも私以外を選んでもらえないかと思ったんです」
「昨日の話で何か気になることがあったのか?」
 その質問にミレーヌは首を横に振った。パトリス殿からベックの話を聞いてジゼルに伝えた時にはみんなそれを横で聞いていた。昨日までミレーヌも正室になることを当たり前のように受け止めていたはずだ。それが昨日の今日だからな。
「いえ、直接関係はないんです……あ、いえ、でも少しはあるかも」
 どう言ったらいいのか悩んでいるような表情だな。
「気になることがあるなら言ってくれればいい。今さら遠慮するような関係じゃないだろう」
「そうですね……」
 ミレーヌは一度目を伏せてから俺をじっと見た。
「大きな問題はありませんけど、子供の種族でややこしいことになりそうで」
「子供の種族……ん? あ、神になるからか」
「そうです。神と人との間ならほとんどの場合は人が生まれます。ですが神と神の間なら間違いなく神になりますので」
「ステータスを見たら驚かれるということか」
「はい。自分でステータスの書き換えを覚えるまでは誰でも見ることができます」
「それはちょっとマズいな」
 ミレーヌは神の使徒である天使だという扱いになっているけど、中身は神だ。そして俺もステータス的には人間だけど中身は神。子供が神になれば明らかにおかしい。それで迫害はされることはないと思うけど、崇められることはありそうだ。公爵になった勇者の息子が神だった。まあ普通じゃないな。
 そうするとステータスの書き換えを覚えるまでは他人の目に触れないようにしなければならない。でも俺の子供だ。絶対に顔を見たがる人は多いはず。間違いなくステータスは見られるだろう。
「私もシュウジさんと一緒にいることが嬉しくてうっかり忘れていました。フランシーヌさんからこのことを言われて、それで思い出したと言うべきか今さら気づいたと言うべきか」
「そうか。ミレーヌが一番だと思ったけど、子供が面倒ごとに巻き込まれるのを考えれば誰か他を選んだ方がいいのか」
「はい。残念ですけど」
 ステータスは【鑑定】のスキルがあれば他人のものを見ることができる。でも【偽装】があれば見た目だけは誤魔化すこともできる。誤魔化されたステータスをきちんと見れるかどうかは見る側と見られる側のスキルのレベル次第になる。ちなみに神は人が使う【偽装】を使わなくてもステータスを変えられる。これはフランも使っていた。そして人には絶対に見破れないそうだ。
 ここで問題なのは、神の力を使おうが【偽装】を使おうが、他人のステータスは変えられないということだ。いくら俺やミレーヌが神でも、生まれた赤ん坊のステータスをいじくることはできない。だから赤ん坊の種族が神になっていれば俺かミレーヌが神だと思われる。実際には二人とも神だけど。
 ミレーヌによると、神が人との間に作る子供はほぼ人になるそうだ。神が地上に降りてちょっととしてもポコポコと新しい神が生まれないようになっているらしい。それは天使でも同じで、天使が人と子供を作っても人しかできないそうだ。ただし地上の使は違う。天使族というのは神を目指すことをやめた天使が地上に降り、いつの間にか力を失って人になった種族のことだ。天使族は人なので、人との間には天使族が生まれることもあれば人が生まれることもある。
 話を戻すと、俺が抱いた相手には注記のところに【愛の男神シュウジの妻】と【愛の男神シュウジの眷属】という言葉が入るけど、中二病っぽいからそれは隠すか、せめて【偽装】で表記を変えるようにと言っている。
 ミレーヌが正室でなくても、俺たちの間に生まれた子供は神になる。でも跡取りは常に人目に触れるということだ。俺もそんなことを忘れてたとは……。
「それならミレーヌは誰がいいと思う?」
 ミレーヌがダメならフランもダメだろう。
「シュウジさんと付き合いの長いマルティーヌさんはどうですか?」
「ワンコか。まあ日本でも結婚を考えたことがなかったわけじゃないからな。平民だけどそれはどうとでもなるか。問題は性格だけど」
 貴族の妻に平民がいないというのはある意味では正しくて、ある意味では正しくない。平民の娘を平民のまま妻にすることはほとんどないということだ。どうしてもというなら知り合いの貴族の養女にしてから妻にする。その貴族と縁を作るためにもその手法が使われることがある。
 例えばワンコをピトル伯爵、つまりケントさんの養女にしてもらい、それから結婚するわけだ。こうするとワンコは伯爵家の娘ということになり、全く問題なくなる。そしてケントさんは俺の義父ということになり、ラヴァル公爵家とピトル伯爵家の結びつきが強くなるということだ。だから政略結婚の一種にもなり得る。
 側室ならそんな小細工はしなくてもいいけど、正室となると色々とあるからな。
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