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第七部:商会と今後のこと
冒険者ギルド
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俺は冒険者ギルドに手紙を出した。依頼を出したいから訪問すると。そしてその時間にギルドに到着すると、入り口の前には職員たちが二本の列を作って待機していた。真ん中を通れと? まあ訪問することをあらかじめ伝えていたらこうなるか。
普通にギルドにやって来た冒険者たちが少し迷惑そうな顔をしてるけど、俺のせいじゃないからな。いきなり来ても問題ないんだろうけど冒険者じゃなくて依頼者として利用するから、訪問を伝えてから馬車で来たらこうなった。
これ以上邪魔にならないように頭を下げる職員たちの間を通ってギルドの建物に入った。
「盛大な出迎えだな」
「それはもう公爵様直々のご訪問ということですので。もしお好みの受付嬢がいらっしゃるならすぐに用意いたしますが」
いきなりそんなことを言ったのはギルド長のパスカル・ボードワン・エロー子爵。エローはAyraultだ。Eroじゃない。
「お好みも何も、初めて来たから顔も名前も知らないぞ」
俺の言葉を聞いたからか、受付嬢たちが髪型や胸元を気にし始めた。ああ、そこの二人、胸元のボタンは外さなくてもいいぞ。ブラチラは気になるけど今は仕事中だろ……って、それはうちの商会の新製品か? でも着用が適当だな。それじゃ意味がない。
ほんの一瞬しか見えなかったけど、俺の動体視力はそれを見逃さなかった。ていうか【カメラ】が自動的に撮影していた。お色気シーンはもう自動的に録画されるようだ。このスキルにはレベルとかないんだけどな。
◆◆◆
俺は貴賓室に招かれることになった。正面にいるのはパスカル殿、その横にはモイーズという名前の職員が座っている。記録を取ったり契約書類を作成したりするためだそうだ。うちの門衛にも同じ名前がいるな。
「それで公爵様、本日は依頼を出されるということですが、どのような内容でございますか?」
「ゴブリンを集めてもらいたい。ゴブリンでなくてもいいが、全く活用されていないゴブリンが素材として使えるならそれが一番だろうと思ってね」
商会で作る商品にゴブリンが使えそうだという説明をした。
「ゴブリンでございますか。討伐の証明としては右の耳を切り落として持ち帰りますが、それ以外は捨てますね」
そうなんだよなあ。証拠となる右耳を切り落としたら、残りは穴を掘って焼くか埋める。場所が森ならそのまま放置すればいつの間にか他の生き物のエサになる。
「コボルドやオークはそれぞれ使い道があるそうだからな」
「たしかにゴブリンなら駆け出しでも問題ないでしょう。油断さえしなければですが。そうやって少しずつ冒険者として腕を磨いていけば、若くして命を落とす冒険者も減るでしょう」
そういう見方もあるのか。訓練になるなら……。
「パスカル殿、若手には訓練のための実習のようなものがあると聞いたが」
「はい。ベテラン冒険者たちが若手たちを率いて二泊三日か三泊四日で森の方へ出かけるというのを二か月に一度ほど行っております。そこで集めさせましょう」
「そうだな。運ぶのも大変だろうから、運ぶ手段がある時の方がいいな。マジックバッグはこちらで用意しよう。それに入れてギルドに保管してほしい。商会の者が回収に来るだろう」
その実習とは、ベテランが若手の引率を行う。安全な野営の方法、食べられる食材の見つけ方、それを使った食事の作り方、討伐や採集の方法、素材の剥ぎ取り方などを教えるそうだ。そこで一通りの技術が身に付くらしい。
でも参加は必須じゃないし金になるわけじゃないからそこまで希望者は多くはないそうだ。そこに俺がスポンサーになって、頑張ってゴブリンを駆除したら少ないけど報酬を支払うという条件を加える。とりあえずこの一年はそれでやってみて、問題なさそうなら来年以降も続ければいい。
定期的に集めてもらう分はそれでいいとして、すぐに必要な分に関しては常時依頼を出してもらうことになった。
「こちらも丸ごとで問題ありませんか?」
「ああ、それはこちらで解体するから問題ない。その保存用にマジックバッグを渡すから、それに入れてくれると助かる」
捌いてもらうのは迷惑だろうからな。それにコラーゲンがどの部位からよく取り出せるかはやってみないと分からない。しばらくはテストを繰り返すことになるだろう。
イネスは魔物の解体ができるそうだ。田舎で狩ったり捌いたりしたらしい。他にも何人かいるそうだ。足りないようなら必要に応じて捌くための要員を雇う必要はあるけど、それはいくらでも集まるだろう。場合によっては冒険者に声をかけてもいい。
「それにしてもゴブリンが素材として活用される時代になるのですか」
「耳を譲ってもらってテストした結果としては問題なく使えそうだということだ」
煮込んで固まったのをチェックしたところ、〔ゴブリンの皮膚から抽出したゼラチン〕と出た。口にするのを躊躇いそうになるけど、オークはよくてゴブリンはダメってのはおかしい。ゴブリンも大丈夫なはずだ。
そこからさらに精製したら〔錬金術師イネスが加工したコラーゲン〕となった。偽装工作じゃないぞ。そういうものだ。そもそも【鑑定】のレベルが低いとゼラチンは〔ぷるぷるした物体〕としか出ないし、コラーゲンは〔謎の物質〕になるそうだ。要するに、それをどれだけ知っているかということが【鑑定】で出るだけだ。
「それでしたら冒険者にとっても助かりますね。ゴブリンはどこにでも現れますから」
「収入源は多いに越したことはないからな」
軍の兵士たちは国から給料を貰っている。もし仕事中に死んだ場合は家族に弔慰金が支払われることになる。でも冒険者にはそんなものはない。稼げようが稼げなかろうが、生き残ろうが死のうが、全ては自己責任。それでも誰でも死にたくはないし、食い扶持は稼がなきゃならない。
田舎から出てきた駆け出し冒険者が受ける依頼としては薬草の採集がある。でも意外に難しいそうだ。
「薬草の採集は基本さえ押さえればそこまで難しくはありません。ですが話を聞かずに集めに出かけて、意味のないものばかり持ち帰る若手が多いのが現状です」
「それは必要な部分じゃないってことだな?」
「そういうことです。葉が必要なものもあれば根が必要なものもあります。場合によっては花の部分が必要なんてものもあります。間違った部分を集めても四分の一小銅貨一枚にもなりませんが、それで受付に暴言を吐いたり暴力を振るおうとする者もいまして、なかなかギルドは大変なのです」
そりゃ依頼内容と違うから仕方ないよな。
「説明はするんだよな?」
「もちろんです。ですが説明しても覚えているとは限りません。それに読み書きができなければ書き留めておくのも無理ですから。先ほどの実習を受ければ問題ないはずですが、なかなか受けてくれませんので」
「それならこれで少しくらいはマシになるかな?」
「すぐには無理かもしれませんが、いずれそうなってくれれば助かりますね」
◆◆◆
「とりあえず話はそんなところ……ああ、そうだ」
話が一段落した時、俺は最初に気になったことを思い出したからその話をすることにした。
「先ほどいたネリーとサビーという二人に会わせてもらいたい。手が空いているようならここに連れてきてくれないか?」
「分かりました。すぐに呼んでまいりましょう」
そう言うとパスカル殿は自分で貴賓室を出た。しかも小走りに。
「ひょっとしてフットワークが軽い人か?」
モイーズにそう聞いてみた。
「若い頃は冒険者になりたかったそうで、体を動かすのが好きな方です。跡継ぎだったので冒険者にはなれず、せめてギルド長にということだと聞いています」
「苦労するんだな」
冒険者が冒険中に死んでも死んだと証明できないことがある。遺体が残らない場合があるからだ。だから貴族の当主や跡取り普通は冒険者にはならない。
「そういうことですので、たまに参加する新人の実習くらいしか冒険者らしいことはできないとのことです。あれは安全ですから」
「もしかして、毎回参加するつもりかな?」
「おそらく嬉々として参加するでしょう。笑顔で剣を振り回す姿が想像できます」
「まあストレス発散になればいいか」
普通にギルドにやって来た冒険者たちが少し迷惑そうな顔をしてるけど、俺のせいじゃないからな。いきなり来ても問題ないんだろうけど冒険者じゃなくて依頼者として利用するから、訪問を伝えてから馬車で来たらこうなった。
これ以上邪魔にならないように頭を下げる職員たちの間を通ってギルドの建物に入った。
「盛大な出迎えだな」
「それはもう公爵様直々のご訪問ということですので。もしお好みの受付嬢がいらっしゃるならすぐに用意いたしますが」
いきなりそんなことを言ったのはギルド長のパスカル・ボードワン・エロー子爵。エローはAyraultだ。Eroじゃない。
「お好みも何も、初めて来たから顔も名前も知らないぞ」
俺の言葉を聞いたからか、受付嬢たちが髪型や胸元を気にし始めた。ああ、そこの二人、胸元のボタンは外さなくてもいいぞ。ブラチラは気になるけど今は仕事中だろ……って、それはうちの商会の新製品か? でも着用が適当だな。それじゃ意味がない。
ほんの一瞬しか見えなかったけど、俺の動体視力はそれを見逃さなかった。ていうか【カメラ】が自動的に撮影していた。お色気シーンはもう自動的に録画されるようだ。このスキルにはレベルとかないんだけどな。
◆◆◆
俺は貴賓室に招かれることになった。正面にいるのはパスカル殿、その横にはモイーズという名前の職員が座っている。記録を取ったり契約書類を作成したりするためだそうだ。うちの門衛にも同じ名前がいるな。
「それで公爵様、本日は依頼を出されるということですが、どのような内容でございますか?」
「ゴブリンを集めてもらいたい。ゴブリンでなくてもいいが、全く活用されていないゴブリンが素材として使えるならそれが一番だろうと思ってね」
商会で作る商品にゴブリンが使えそうだという説明をした。
「ゴブリンでございますか。討伐の証明としては右の耳を切り落として持ち帰りますが、それ以外は捨てますね」
そうなんだよなあ。証拠となる右耳を切り落としたら、残りは穴を掘って焼くか埋める。場所が森ならそのまま放置すればいつの間にか他の生き物のエサになる。
「コボルドやオークはそれぞれ使い道があるそうだからな」
「たしかにゴブリンなら駆け出しでも問題ないでしょう。油断さえしなければですが。そうやって少しずつ冒険者として腕を磨いていけば、若くして命を落とす冒険者も減るでしょう」
そういう見方もあるのか。訓練になるなら……。
「パスカル殿、若手には訓練のための実習のようなものがあると聞いたが」
「はい。ベテラン冒険者たちが若手たちを率いて二泊三日か三泊四日で森の方へ出かけるというのを二か月に一度ほど行っております。そこで集めさせましょう」
「そうだな。運ぶのも大変だろうから、運ぶ手段がある時の方がいいな。マジックバッグはこちらで用意しよう。それに入れてギルドに保管してほしい。商会の者が回収に来るだろう」
その実習とは、ベテランが若手の引率を行う。安全な野営の方法、食べられる食材の見つけ方、それを使った食事の作り方、討伐や採集の方法、素材の剥ぎ取り方などを教えるそうだ。そこで一通りの技術が身に付くらしい。
でも参加は必須じゃないし金になるわけじゃないからそこまで希望者は多くはないそうだ。そこに俺がスポンサーになって、頑張ってゴブリンを駆除したら少ないけど報酬を支払うという条件を加える。とりあえずこの一年はそれでやってみて、問題なさそうなら来年以降も続ければいい。
定期的に集めてもらう分はそれでいいとして、すぐに必要な分に関しては常時依頼を出してもらうことになった。
「こちらも丸ごとで問題ありませんか?」
「ああ、それはこちらで解体するから問題ない。その保存用にマジックバッグを渡すから、それに入れてくれると助かる」
捌いてもらうのは迷惑だろうからな。それにコラーゲンがどの部位からよく取り出せるかはやってみないと分からない。しばらくはテストを繰り返すことになるだろう。
イネスは魔物の解体ができるそうだ。田舎で狩ったり捌いたりしたらしい。他にも何人かいるそうだ。足りないようなら必要に応じて捌くための要員を雇う必要はあるけど、それはいくらでも集まるだろう。場合によっては冒険者に声をかけてもいい。
「それにしてもゴブリンが素材として活用される時代になるのですか」
「耳を譲ってもらってテストした結果としては問題なく使えそうだということだ」
煮込んで固まったのをチェックしたところ、〔ゴブリンの皮膚から抽出したゼラチン〕と出た。口にするのを躊躇いそうになるけど、オークはよくてゴブリンはダメってのはおかしい。ゴブリンも大丈夫なはずだ。
そこからさらに精製したら〔錬金術師イネスが加工したコラーゲン〕となった。偽装工作じゃないぞ。そういうものだ。そもそも【鑑定】のレベルが低いとゼラチンは〔ぷるぷるした物体〕としか出ないし、コラーゲンは〔謎の物質〕になるそうだ。要するに、それをどれだけ知っているかということが【鑑定】で出るだけだ。
「それでしたら冒険者にとっても助かりますね。ゴブリンはどこにでも現れますから」
「収入源は多いに越したことはないからな」
軍の兵士たちは国から給料を貰っている。もし仕事中に死んだ場合は家族に弔慰金が支払われることになる。でも冒険者にはそんなものはない。稼げようが稼げなかろうが、生き残ろうが死のうが、全ては自己責任。それでも誰でも死にたくはないし、食い扶持は稼がなきゃならない。
田舎から出てきた駆け出し冒険者が受ける依頼としては薬草の採集がある。でも意外に難しいそうだ。
「薬草の採集は基本さえ押さえればそこまで難しくはありません。ですが話を聞かずに集めに出かけて、意味のないものばかり持ち帰る若手が多いのが現状です」
「それは必要な部分じゃないってことだな?」
「そういうことです。葉が必要なものもあれば根が必要なものもあります。場合によっては花の部分が必要なんてものもあります。間違った部分を集めても四分の一小銅貨一枚にもなりませんが、それで受付に暴言を吐いたり暴力を振るおうとする者もいまして、なかなかギルドは大変なのです」
そりゃ依頼内容と違うから仕方ないよな。
「説明はするんだよな?」
「もちろんです。ですが説明しても覚えているとは限りません。それに読み書きができなければ書き留めておくのも無理ですから。先ほどの実習を受ければ問題ないはずですが、なかなか受けてくれませんので」
「それならこれで少しくらいはマシになるかな?」
「すぐには無理かもしれませんが、いずれそうなってくれれば助かりますね」
◆◆◆
「とりあえず話はそんなところ……ああ、そうだ」
話が一段落した時、俺は最初に気になったことを思い出したからその話をすることにした。
「先ほどいたネリーとサビーという二人に会わせてもらいたい。手が空いているようならここに連れてきてくれないか?」
「分かりました。すぐに呼んでまいりましょう」
そう言うとパスカル殿は自分で貴賓室を出た。しかも小走りに。
「ひょっとしてフットワークが軽い人か?」
モイーズにそう聞いてみた。
「若い頃は冒険者になりたかったそうで、体を動かすのが好きな方です。跡継ぎだったので冒険者にはなれず、せめてギルド長にということだと聞いています」
「苦労するんだな」
冒険者が冒険中に死んでも死んだと証明できないことがある。遺体が残らない場合があるからだ。だから貴族の当主や跡取り普通は冒険者にはならない。
「そういうことですので、たまに参加する新人の実習くらいしか冒険者らしいことはできないとのことです。あれは安全ですから」
「もしかして、毎回参加するつもりかな?」
「おそらく嬉々として参加するでしょう。笑顔で剣を振り回す姿が想像できます」
「まあストレス発散になればいいか」
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