元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第八部:なすべきこと

集会所で寝泊まりと雑談

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 俺とマルクとアルバンの三人は村の集会所を借りて寝泊まりすることにした。ジゼルは実家で両親の看病だ。
「ここは領主様ぎ来られた時にお泊まりいただく場所になります」
「ああ、立派じゃないか。ありがたく使わせてもらう」
「本当に世話役はよろしいのですか?」
「大丈夫だ。村は村で忙しいだろう。俺たちはいないものとして扱ってくれていい」
「そういうわけにはまいりませんが、何かあればいつでもご連絡ください」
 この建物は稀に領主が来た際に泊まるための場所だそうだ。普通の家よりも広く、話し合いなどで集まる時にも使われる。
 普通なら村長の家で歓待を受けるもんだと思うけど、それほど広くないらしい。それに村長の家族も結核にかかっていたからここの方がいいという配慮だろう。もう大丈夫なんだけどな。
 最初は世話役を付けようかと聞かれたけど、漁村なら朝も夜も早いだろう。俺たちは様子見で泊まるだけだから世話役は遠慮した。女を充てがわれても困るからな。

「旦那様、飲み屋もありませんから世話役を用意してもらってもよかったのでは?」
 村長が去るとマルクが念の為という感じで確認してきた。
「礼をしたいというのは分かるけど、そこで女を充てがわれるというのもな」
「旦那様が満足できるような女はなかなかいないとは思いますが、夜の相手としては十分でしょう」
 村人を集めて【殺菌】をかけまくったから一通り顔は見た。美人もいたぞ。人妻だったけどな。俺は家庭を壊したいわけじゃないからな。
「おいおいマルク、俺は種播きに来たわけじゃないぞ。まあ二、三日くらいは男三人でノンビリするのも悪くないだろう」
 ここに来るまでかなり急ぎ気味に馬車を飛ばして五泊した。おかげで馬たちも俺たちも疲れた。特に御者席にいたマルクとアルバンはずっと外だったから大変だっただろう。だから町に着くとそれぞれ個室を取らせて金も渡した。夜はそれぞれ好きにしろと。飲もうが何をしようが好きにしろと。二人は夜の街に繰り出してそれなりに楽しんだようだ。
 そのマルクが言うには、村長の性格を考えれば、俺に媚を売りたいから女を充てがうというより、貴族が泊まるなら女を充てがうのが当然だという考えことかもしれないと。田舎ではよくある習慣だそうだ。
 例えば領主がやって来たので村一番の美女を充てがって喜んでもらう。村に対してもう少し配慮してもらおうっていう意図だ。それも繰り返されればそういう文化になる。俺にはそんな気がした。
 ただ普段から屋敷で好き勝手やってる俺でも、外で好き勝手やれるかというとそうでもない。抱いた女のステータスに【愛の男神シュウジの妻】って付くかもしれないからだ。
 他人のステータスは全部見えないこともあるけど、自分のステータスなら見える。見た瞬間に「はあ⁉」ってなるだろう。そういうわけで外では大人しくする。女抜きでゆっくりするのも嫌いじゃない。

 さて、台所もあるから料理は作れる。俺が作ってもいいけどマルクとアルバンが気にしそうだから、【ストレージ】に入れていた料理を出す。これはオーブリーとジスランだけじゃなく、ジョアキムとセザールも加わってあれやこれやと意見を交換しつつ作った料理やお菓子などだ。なぜかここに従者のセザールが入っていた。実はセザールはお菓子作りが好きだった。俺がいない間は好きにしたらいいと言っている。ジョアキムに教わっているだろう。
「まだまだ酒も肴もあるからな。食べて飲んで、数日の休養ってことにしたらいい」
「体が鈍らないように素振りくらいはしておきます」
「アルバン殿は真面目ですね」
「そうかな?」
 この二人は夜に飲みに行ってたからな。おそらく他の使用人たちよりも仲良くなってるだろう。
「まあマルク殿のように飲んだ後に女性を——」
「おっと、旦那様の前でそういう話はナシにしましょう」
「いやいや、マルク、アルバン。俺は別に使用人が女を引っかけようが抱こうが何も言わないぞ。そういえば、うちで結婚してるのは一人もいないな」
 ダヴィドを含め、家庭持ちはいない。
「ダヴィド殿だけですね」
「……え? ダヴィドは結婚してたのか⁉」
「はい。隠しているわけではないそうです。子供たちも独り立ちしたので奥さんと二人だと聞きました。町中に家があるはずです」
 アルバンの言葉に驚いた。いや、俺は使用人について細かく詮索する趣味はない。ジゼルについては色々あったから調べただけだ。契約書は履歴書じゃないから、既婚か未婚かを書く欄なんてない。
「屋敷に来てからダヴィドは屋敷を離れたことがあったか? 俺がいない間とか」
「いえ、一度もないはずです」
「……一度ゆっくりと話すか」
 使用人に家族ができると主人が一番でなくなるわけで、それで使用人が結婚するのを好まない主人は多いと聞いた。でも人道的にはちょっとな。
「マルクもアルバンも、相手がいるなら結婚したらいいし、敷地内に家を建てて暮らせばいい」
「敷地内に家ですか?」
 マルクが驚く。そんなに変か? そういう話は聞いたことがある。ああ、あれは領地の方かな?
「俺のいた世界では、領地の方の話だと思うけど、執事ブティエなどの上級使用人が結婚すると、離れを用意してそこに住まわせるとも聞いた」
「たしかに、領地の方なら土地はあるでしょうね」
「今の屋敷も広いだろう。いくらでも離れは建てられるぞ。それに使ってない方の別館を家族持ちの使用人の集合住宅にしてもいいんだけどな」
 使用人たちは別館で暮らしている。かつてのラヴァル公爵は王都の屋敷にも、そして領地の屋敷にも一〇〇人を超える使用人を雇い、社交の際には大人数を引き連れて移動したそうだ。だから別館が二つもある。
 今は片方だけを使用人棟として使っていて、片方は閉鎖している。そっちをマンションのようにしてもいいだろう。どうせ使い道がない。
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