元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
49 / 273
第五部:勉強と試験

合格祝いとメイドの躾

しおりを挟む
 合格祝いということで、なぜかストレージにあったロマネ・コンティで乾杯して、それから男神と女神の夫婦として初めての共同作業をした。無茶はせずにゆっくりと愛を確かめた感じだ。ミレーヌは甘々な言葉が好きだから、俺は自分でも歯が浮くと思うような言葉をひたすらかけた。
 それからシャワーを浴びてのんびり寛いでいる。このシャワーがあってよかったな。意外によく使う。いや、控えめに言ってしまった。必ず毎日使う。
「俺が神様っぽくなったのには気づいてたんだよな?」
「はい、比較的最初の頃に。でもシュウジさんは嫌がっているようだったので、ちょっと言い出しにくくて。本人が気づくまではそのままにしようと」
 ミレーヌはちょっとうつむき加減にそう言った。嫌がるねえ……。面倒が増えそうだと言ったか?
「嫌だったわけじゃなくてトラブルが増えそうだと思っただけだ。ちなみにどのタイミングだったんだ?」
「最初に胸を揉まれた後です。あの時キスしましたよね?」
「ああ、目が合った時な。一番最初か」
 嫌がるかと思えばそういう顔でもなかった。誘ってる感じだったな。だから俺としては勢いでやってやれ、できれば最後までって感じだった。
「あの時にシュウジさんならいいかなってちょっと思ったんです。その時には人じゃなくなってたからそんな風に感じたんだと思うんです。それで着替えてから調べてみたらシュウジさんが【愛の神(下級神見習い)】ってなってたので、もう流れに身を任せようかと」
「もしかしたら俺も同じだったのかもな」
「同じとは?」
「最初が最初だっただろ? あの時はメチャクチャ腹が立ったのに、ミレーヌが着替えて戻ってきた時には、何て言ったらいいのか、『こいつ可愛いな、危なっかしいから俺がずっと面倒を見てやらないとな』って思ったなあ」
 喉が潰れそうなくらい怒鳴ったのは初めてだった。そもそも俺は女に怒鳴ったりしない。怒鳴るくらいなら捨てる。それが普通だった。
「あの時はごめんなさい」
「そうやって謝ればよかったのにな。それなら今の状況にはなってないか」
「謝り方はしっかり仕込まれましたから」
「別のものもか?」
「いや~ん♡」
 ベッドから出るにはもう少し時間がかかりそうだ。

 もうこの時点で俺がこの国でしなければならないこと一つは終わった。でも爵位と屋敷を貰ったからには、この国を発展させるという目的は何らかの形で果たしたい。ミレーヌが合格したからといってもうこの世界に用はないと思うほど薄情じゃない。エミリアもリュシエンヌもいるからな。

 ◆◆◆

「シュウジ様、おはようございます」
 部屋の前でリュシエンヌと会った。昨日の今日だから顔が赤い。やはり朝一で美女や美少女たちの顔を見ると気分がいい。思わず小柄なリュシエンヌを抱きしめてしまった。明け方までミレーヌとヤってたけど、それは別だ。
「おはよう。食後に少し今後のことについて話がしたい」
「はい、今後とも末永くよろしくお願いいたします」
「本当にいいんだな?」
「はい、シュウジ様と添い遂げとうございます」
 その言い方からリュシエンヌが言いたいことは分かった。抱いたのは一晩だけとはいえ、俺は彼女を離すつもりはないし、彼女も俺から離れるつもりはないようだ。これも【神の愛】の影響だろうか。未だにどんな力があるのかよく分かってないけど、女を落として惹きつけるだけじゃない気もする。それくらいなら神じゃなくてもできるだろう。

 食堂に着くとすでに朝食のための食器類が用意されていた。用意したのはジゼルか。頑張ってアピールしてるけど成功する気配はない。気配はないも何も、俺にそのつもりがないからな。どうみても頑張って大人として扱ってもらおうとしている子供にしか思えない。胸以外は。胸だけは立派だ。
 ジゼルはフィンガーボウルを並べ終えると俺の横に立った。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「お楽しみ? だぞ。なあ、リュシエンヌ」
「はい、使でございます」
 昨日の夜番はジゼルだったか。
 屋敷の中には一人、朝まで寝ずの番をする担当がいる。その夜番は夕食の後に数時間の仮眠を取ると夜中はずっと起きている。そして俺たちの朝食が終わり、自分たちの朝食が終わればまた仮眠を取る。
「…………今朝もお楽しみでしたね」
「ああ、お楽しみだったな。なあミレーヌ」
「はい。朝までしっかりと愛していただきました」
「…………」
 しれっと澄ました顔でリュシエンヌとミレーヌは答えた。そう言われればジゼルは何も言えない。準備が終わると少し悔しそうな顔で後ろに下がった。すると向こうで「パン!」と大きな音が鳴った。そして「旦那様に向かって失礼な口を利いてはいけません」というシュザンヌの声も聞こえた。
 ああ、この国では部下が失敗や失言をしたりすると上司が殴る蹴る、あるいはビンタするなんてことはザラにある。体罰がどうとか暴力がどうとか、そんな細かなことはこの国にはない。
 ここは上下関係がギッチギチの国だ。女性使用人は家政婦長には逆らえない。家政婦長が白だと言えば、それが黒でもメイドたちにとっては白になる。主人が右を向けと言えば、向きたくなくても右を向く。それがこの国の当たり前だ。
 メイドたちが俺に下着をちらつかせてるのは、あれは俺が掃除をしているところを通りかかり、俺がそれを見てしまっただけなので失敗とまでは言えない。これは微妙なラインで、色目を使ったとして契約違反で首にすることはできるけど、目の保養になるから大目に見ている。ミレーヌとエミリアとリュシエンヌをメインの肉料理だとすれば、メイドたちのパンチラは前菜かスープあたりだ。
 しばらく小言が続き、シュザンヌが俺のところにやって来た。
「旦那様、ジゼルが大変失礼なことを口にしました。夜番でしたので、これで下がらせますが」
「今後は気をつけるように言っておいてくれ」
「ありがとうございます。しっかり命じておきます」
 監督不行き届きだ。ヘタをすればシュザンヌ自身が罰せられることになる。
「それで、叩いた感じはどうだ?」
「手も痛くありませんので助かります。顔を叩きたいわけではありませんので」
 そう言ってシュザンヌが取り出したのはハリセンだ。俺のお手製。さっきの大きな音はハリセンでジゼルの尻を叩いた音だ。上司か部下に暴力を振るうのが当たり前の社会とはいえ、屋敷の中でそういうことが頻繁にあると思うと落ち着かない。だから作った。
 男性使用人たちは、執事ブティエのダヴィドが明らかに年長だから、みんな彼の指示にきっちりと従う。女性使用人の方は、オレリーは妻たちの身の回りをする世話役だから別枠になる。そうすると一〇代の若いメイドたちを監督するのが三〇代のシュザンヌのみ。
 シュザンヌがもっと年上なら割り切ることもできるんだろうけど、そこまで割り切れていないのでつい手が出そうになる。先日セリーヌとドミニクを叩きそうになったところに出くわしたから手を掴んで止めたんだけど、それでは示しがつかないということでハリセンを作った。
「叩かれた者は叩いた者を恨む。叩かれた者はそれを忘れない。恨みも溜まれば取り返しがつかなくなることだってある。それにその手は部下を叩くためにあるんじゃない。俺を支えるためにあるんだろう。叱るなら叱るでいい。でも俺はお前に他人を叩いてほしくはない」
 俺はそう言ってシュザンヌの手を握りながらハリセンを渡した。
 それ以降シュザンヌはハリセンを持ち、メイドたちに目に余るような行動があれば尻を突き出させてハリセンで叩くようになった。ちなみにスカートをめくってパンツを下げてから叩くそうだ。
 素材は厚紙で、音のわりには痛くない。特に肌に当たる部分はきちんと処理をした。そうしないと端が当たって時に肌が切れることがある。紙って薄くても厚くても切れるからな。メイドの尻が切り傷だらけじゃ可哀想だから、そこは気合いを入れて作った。
 子供のしつけの一環として尻を叩くというのがあると聞いた。子供時代の非常に恥ずかしい記憶として残るらしいからそれを利用することにした。意味なく叩くわけじゃなく、どうしてそれが悪いことなのかを理解させた上で、罰として他の使用人の前で一つ一つ叩くそうだ。
 ちなみにメイドたちは「せめて旦那様の前でお願いします」とか「旦那様の手で叩いてください」とか言ってたけど却下した。それじゃ別のプレイになってしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...