元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
45 / 273
第五部:勉強と試験

簡単な歓迎会

しおりを挟む
「ではリュシエンヌがここに来たことを祝って、乾杯!」
「「「乾杯」」」
 夕食をリュシエンヌの歓迎会に充てることにした。歓迎会といってもこうやって乾杯するくらいだ。これで三人だった食事が四人になった。増やせばいいというわけじゃないけど、これでもまだ寂しい。でも使用人は主人たちとは一緒に食事をしない。これはダヴィドでもそうだ。
 ダヴィドは子爵家の出身らしいけど、父親はガッチガチの国家主義者、権威主義者だったらしい。おかげで彼も貴族と庶民、上級貴族と下級貴族、主人と使用人という、完全に身分を分けた考え方しかしない。だからこそ俺に理想的な主人像を当てはめたがる。俺を理想の主人として敬い、そして自分たちは理想の使用人として仕える。それが彼の生き様だ。
 だからこそ使用人の食事は主人たちの食べ残しらしい。食べ残しだぞ? 俺からするとあり得ないけど、この国ではそれほどおかしくないらしい。残っている肉をありがたく頂くのが使用人だと。大皿に残った料理だけの話だけどな。
 それでもいつの時代だ? 残った肉にパンとチーズを足せば十分、その程度らしい。だから俺とミレーヌとエミリアしかいなければ、使用人の食事は量的にメチャクチャ寂しくなる。そもそも普段から用意される食事は多くない。俺が不必要に多くするなと言ったからだ。
 この屋敷の披露パーティーに備えて、余裕がある時にはオーブリーとジスランが料理を作って、俺の【ストレージ】にストックするようにしている。だから披露パーティーが終わるまでは無駄に料理は作らないのが二人に伝えた方針だった。でもこの世界は俺の想像とはちょっと違った。
 例えば休憩の時に飲むお茶ですら使用人は自分で買わないといけないそうだ。そのために給料を支払っているというのが理由だ。飲みたければ自分で買えと。でも茶葉って庶民にとっては意外と高い。
 俺たちが口にする料理やお茶は主人とその家族のために用意されたものであって、ここで働く使用人のためのものじゃない。だから出涸らしの茶葉ですら勝手に使ってはいけないんだそうだ。出涸らしの茶葉ですら、勝手に自分のために使えば窃盗になる。本来はそれくらい厳しいそうだ。だから実際には俺が「これはもう捨ててくれ」と言われたものしか勝手に使えないそうだ。
 でも俺はそこまで厳しくしたいわけじゃない。そりゃ毎日酒樽が一つずつ消えれば問題になるけど、しっかり食べてしっかり働くのが基本だろう。お茶くらい好きに飲んだらいいじゃないか。酒ばっかり飲んで俺みたいに体を壊して死にかけてほしくないからな。だからそれぞれの立場に応じて、酒、砂糖、茶葉、果物は毎週一定量は口にできるようにした。それは厨房係のレイモンにしっかり言っている。そこはケチるなと。
 よく「ヨーロッパでは生水は口にできなかった」とか言われるけど、この国は魔道具で水を出しているから生水でも飲める。魔道具の水が生水かどうかは横に置いとくけど。王都なら井戸の代わりに水汲み場があちこちにあって、誰でもそこで水が汲める。水の代わりにエールやワインを口にするなんてことはない。だから酒も配ることにした。飲み過ぎは毒だけど、量を守って飲めば問題にはならない。
 砂糖は紅茶に使ってもいいしジャムを作ってもいい。砂糖もメイド一人分なら大した量じゃないけど、七人分の砂糖を合わせればジャムを作るのに十分だろう。
 そのあたり、シュザンヌから「メイドたちを甘やかせすぎではありませんか?」と言われたけど、をさせてもらってるからそのお返しだ。うん、たまに目の前で紐パンの紐がほどけて外れたり、その結果として本来他人に見せるべきでない部分が俺の目に入ったり、まあ大変なことになったりする。
 最近メイドたちの行動に節操がなくなった。それでも俺に抱きついたりベッドに忍び込んだりとかはしないから、俺としては引き続き目の保養になってるわけだ。もちろん【カメラ】で全て記録している。最近は意識しなくても常に記録されてるのが不思議だ。
 その結果として、盗撮まがいの動画や写真が溜まり続ける日々になっている。何かに使うつもりもないけど、ざっと流し見するとそれぞれの傾向が分かって面白い。ああ、アネットは下から見られるのが好きなんだなってな。最近アネットは下着を着けないことも増えてきた。俺としてはをしっかりと見ることができて嬉しいけど、本当に腹を壊さないかが気になる。無理しなくていいからもう少し待てと言いたい。そのうち何とかするから。
 ちなみにシュザンヌ自身も最近は俺と話をする時に少し距離が近づいた。その意図も分かるけど、今のところは誤魔化している。
「かなり量が多うございますね」
「気を抜くとエミリアが全部食べてしまうからな」
「シュ、シュウジ様⁉」
 エミリアには取り分ける料理は残すものだということを教えた。使用人のために残すのが貴族のすべきことだと。まあ俺自身ダヴィドから教えられたことなんだけどな。飲み会で皿に残った最後の一切れに手を出さないようなものだ。
「エミリアさんは迎賓館でもよく食べていましたね」
「ミレーヌ様まで……」
 エミリアはよく食べるけど、これはあくまで冗談だ。俺も含めて三人とも冗談だと分かった上でのやり取りだ。
「エミリアがよく食べるのは分かる。でもそれ以上にエミリアが綺麗なのは分かってるからな。しっかり食べてしっかり体を動かすのが健康を保つ秘訣だ」
「シュ、シュウジ様……」
 エミリアが教会というか修道院では、食事が質素だったのは知っている。食事量はあまり多くなかったそうだ。だから出されたものは全部きれいに食べるのがマナーだと教わっていた。そのエミリアに残せというのは酷なことだとは分かってるけど、そこは貴族の妻として、オレリーから教わったことを実践しているようだ。
 正直なところ、残すくらいなら最初から減らせばいいと思うけど、主人の食事を減らして自分たちが食事を得るのは間違いだというのがダヴィドの考えだ。それも理解できる。それなら使用人のために俺が肉を用意したらいんじゃないかと思うけど、それは毎日するべきことじゃないと。結局は多めに作って俺たちが残すしかない。
「リュシエンヌは食事についてはどうだ?」
「そうでございますね……」
 彼女はそう言いながら俺の顔をじっと見た。
わたくしは残すべきものは残すようにと教わっておりますので、特に違和感はございません」
「やっぱりそうか」
 さすがは伯爵家というところか。若いけど俺とは貴族としての年期が違う」
「ですが、どうしても欲しいものは積極的に自分から掴み取るように、とも教わっております」
「それはそうだろうな。まごまごしていれば欲しいものも手に入らないだろう」
「はい。ですので攻めるべき時は何も考えずに攻めるというのが後悔しないための手段でもあるかと存じます」
 おっ。テーマを少し変えてきたな。頭の切り替えが早い女は嫌いじゃない。俺の顔を見て、俺が聞きたいことが分かったみたいだ。
「要は頭の切り替えが重要だということだな」
「どのようなことでも同じでしょう。一本調子では相手だけではなく自分も飽きてしまいます。マンネリにならないためには手を変え品を変え、時にはゆったりと、時には風のごとく素早く、常に一歩先を考えて積極的に動くことが重要かと。それで最終的に相手を満足させられればそれが一番だと存じます」
 ちょっと話がズレなかったか? まあリュシエンヌが言ったことは、ある意味では真理だとは思うけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...