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第十三部:勇者とダンジョンと魔物(二)
奇跡の石
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ダンジョンから戻ってしばらく経った。フランの件も落ち着いたので久しぶりにコワレ商会に顔を出してみると、会長のアンナさんからおかしな報告があった。
「公爵様、奇跡の石と呼ばれるものがサン=フォアの町を中心に出回っているそうです」
そう聞いた時には怪しい宗教か何かかと思った。壺とかな。
「どんな石なんだ?」
「特別便でサンプルが送られてきました。これです」
特別便というのは通常の輸送ルートとは違ってとにかく急ぐ馬車だ。馬には疲労軽減の魔道具を付け、御者たちも馬車を走らせながら睡眠を取る。揺れる馬車の中で寝るなんて簡単にできるものではなく寝不足になるそうだけど、その分だけ早く着く。だから御者たちには特別報酬も出る。
「これって……ああ、あの時の【石の玉】でできたやつか」
ビックリするような丸い石。なぜか【石の玉】を使うと丸い石ができる。実際その威力を抑えようと魔力を絞れば指の先くらいの玉砂利もできる。実は庭の砂利の一部には魔法の練習ついでに【石の玉】を使って敷いた部分もある。今さらだけど、この石はどこから来るんだろうな? やっぱり魔力で無から有が生じるのか? 黒パンと水で死なない世界だからな。
「サン=フォアでご活躍なさった時のものかと。縁起物として町の外で拾う者が現れたそうです」
それ自体は単なる硬い石のはずだけどな。何千何万もばら撒いたぞ。
「それでどうしてここに?」
「公爵様に縁のある石でしたらここでお守り代わりに飾ってもよろしいかと」
「そこまで有り難くもないと思うけどな」
何の変哲もない丸い石だな。まん丸っていうのは珍しいか。
====================
【石】
二酸化ケイ素でできた石。生物由来ではないものの、チャートの一種。非常に硬い。勇者シュウジが【石の玉】を使った際に生み出されたものであり、価値があるとすればその一点に限られるだろう。
====================
その一点に限られるだろうって余計なお世話だ。でも単なる石だからな。
「間違いない。俺がサン=フォアの北で使った【石の玉】だ。数え切れないほどばら撒いたからいくらでもあるはずだ」
「それでしたら問題ありませんね」
「問題?」
「はい。高値で取り引きされていて、偽物も出回っているとか」
高値って、町の外で拾って売るのか? まあそれなりにばら撒いたからなあ。
「欲しいならいくらでも作るから無駄に高いものには手を出すなと俺が言っていたと話を広めてくれ。落ち着くだろう」
「畏まりました。問い合わせも来ていますので、そのように返事をします」
そう言うとアンナさんは連絡のためか一度後ろに下がった。
しかし俺が使った【石の玉】か。あれが売れるとはなあ。誰が最初に気づいたのかは分からないけど、抜け目ないのか意地汚いのか。
魔法で作り出したものは実はそこに残る。例えば【石の玉】は文字通り石の玉を放つ魔法だから石でできた玉が残る。【石の矢】は紡錘形の石の矢が残る。威力のない【水の玉】を使えば飲み水が得られるし、火事の時には【水の壁】や【氷の壁】で延焼を防ぐこともできる。
攻撃に関しては、みんながみんなハイレベルの魔法が使えるわけではないので、威力を考えれば【風の刃】や【石の矢】が効果的だ。確実に魔物にダメージを与えられる。前に練兵場で兵士や魔術師たちと話をしたけど、魔法は遠距離だと空気抵抗で効き目が落ちる。だから狙いを定めて撃つんじゃなくて、ある程度の距離に近づいて適当に撃って当たるのを祈るらしい。ホーミング誘導じゃないからな。魔物だって動く。
おそらくだけど、普通【石の玉】を使っても、その石の玉を持って帰ろうとは思わない。単なる石だからだ。ただサン=フォアでは何千匹もいる魔物に向かってただひたすら撃ち続けた。あまりにも石の玉が多かったから目立ったんだろう。
試しに威力ゼロで大きな【石の玉】を撃ってみる。直径五〇センチくらいの特大弾だ。こんなものが飛んできて直撃したらとんでもないことになるな。
威力がゼロだからそのままカウンターの上を少し転がって止まった。持ってみるとかなり重い。二〇〇キロくらいあるか? さて、これをどこに飾るか。
「シュウジ様、それは?」
「ああ、ネリーか。久しぶりだな。元気か?」
「はい、お陰様で。ところでその石は何ですか?」
「どうやら俺が先日サン=フォアで戦った時の石が縁起物として取り引きされているという話を聞いたから、こういうのもどうかと思っただけだ」
ネリーと話しながら石の球にサインを彫り込む。『寄贈:シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵』でいいか。
「そのあたりに置いたら縁起物っぽく見えないか?」
適当な石で少し窪んだ土台を作り、その上に巨大な石の玉を置く。ちょっとしたオブジェだな。大理石でこういうのを見たことがある。田舎にある立派な家の床の間とかにありそうだ。
「何となくありがたみがありますね」
「こういうのはそれっぽく飾るだけで目を引くからな」
◆◆◆
「公爵様、このオブジェについて少しお伝えしたいのですが」
「問題でもあったか?」
「いえ、そうではございませんが」
二日後にもう一度顔を出すとアンナさんからそんなことを言われた。見た感じは何もない。
「公爵様があの石を設置されてからうちの店員たちが縁起を担いで触りまして、やって来た商人たちもそれを見て撫でるようになりまして」
「ああ、そういう縁起物があるからな」
撫でると病気が治るとかそういうやつだ。
「それで、窪みに乗せてあっただけでしたので玉が動いてしまいまして、それで軽く固定させていただきました」
「ああ、なるほど」
窪みに乗せたけど、みんなが触るから回ってしまったと。そのうちに落ちるんじゃないかと気になったから接着したらしい。摩擦がなさすぎたか。
「俺が勝手に置いただけだから落ちようが割れようが誰にも怪我がなければいい」
「ありがとうございます」
重さ的には二〇〇キロくらいありそうだから、足の上に落ちたら落ちたら怪我じゃ済まないだろう。
「そしてもう一つ、やはり購入希望の話があります。合計で六件です」
「買ってどうするんだ?」
いやまあ俺が作ったものなら欲しがる人がいてもおかしくはないけど、単なるオブジェだぞ。でも美術品と考えれば欲しがってもおかしくはないのか。値付けは……俺には無理だな。
「購入希望額は分かるのか?」
「全員ではありませんが伺っています。小金貨一枚から三枚の範囲です」
「そうか、それなら制作日とサインを入れよう。販売は小金貨一枚で。土台も作っておく。今後希望者があればその都度作ることにする」
「よろしくお願いします」
さて、それなら作るか。
空き部屋を一つ借りてそこを作業部屋にする。【石の玉】で玉を作るのは前と同じだけど、今回は土台も一から作る。土台は【石の壁】を使って文字通り石の壁を作り、それを【石工】スキルで加工する。土台にも日付とサインを入れ、上に玉を乗せて完成だ。
しかしそのままでは持ち運びがしにくい。上下に分けた上でそれぞれ大きめの木箱に入れて運びやすくしておく。これなら数人で運ぶことができるだろう。とりあえず一〇セット。世の中何が売れるか分からないな。
「公爵様、奇跡の石と呼ばれるものがサン=フォアの町を中心に出回っているそうです」
そう聞いた時には怪しい宗教か何かかと思った。壺とかな。
「どんな石なんだ?」
「特別便でサンプルが送られてきました。これです」
特別便というのは通常の輸送ルートとは違ってとにかく急ぐ馬車だ。馬には疲労軽減の魔道具を付け、御者たちも馬車を走らせながら睡眠を取る。揺れる馬車の中で寝るなんて簡単にできるものではなく寝不足になるそうだけど、その分だけ早く着く。だから御者たちには特別報酬も出る。
「これって……ああ、あの時の【石の玉】でできたやつか」
ビックリするような丸い石。なぜか【石の玉】を使うと丸い石ができる。実際その威力を抑えようと魔力を絞れば指の先くらいの玉砂利もできる。実は庭の砂利の一部には魔法の練習ついでに【石の玉】を使って敷いた部分もある。今さらだけど、この石はどこから来るんだろうな? やっぱり魔力で無から有が生じるのか? 黒パンと水で死なない世界だからな。
「サン=フォアでご活躍なさった時のものかと。縁起物として町の外で拾う者が現れたそうです」
それ自体は単なる硬い石のはずだけどな。何千何万もばら撒いたぞ。
「それでどうしてここに?」
「公爵様に縁のある石でしたらここでお守り代わりに飾ってもよろしいかと」
「そこまで有り難くもないと思うけどな」
何の変哲もない丸い石だな。まん丸っていうのは珍しいか。
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【石】
二酸化ケイ素でできた石。生物由来ではないものの、チャートの一種。非常に硬い。勇者シュウジが【石の玉】を使った際に生み出されたものであり、価値があるとすればその一点に限られるだろう。
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その一点に限られるだろうって余計なお世話だ。でも単なる石だからな。
「間違いない。俺がサン=フォアの北で使った【石の玉】だ。数え切れないほどばら撒いたからいくらでもあるはずだ」
「それでしたら問題ありませんね」
「問題?」
「はい。高値で取り引きされていて、偽物も出回っているとか」
高値って、町の外で拾って売るのか? まあそれなりにばら撒いたからなあ。
「欲しいならいくらでも作るから無駄に高いものには手を出すなと俺が言っていたと話を広めてくれ。落ち着くだろう」
「畏まりました。問い合わせも来ていますので、そのように返事をします」
そう言うとアンナさんは連絡のためか一度後ろに下がった。
しかし俺が使った【石の玉】か。あれが売れるとはなあ。誰が最初に気づいたのかは分からないけど、抜け目ないのか意地汚いのか。
魔法で作り出したものは実はそこに残る。例えば【石の玉】は文字通り石の玉を放つ魔法だから石でできた玉が残る。【石の矢】は紡錘形の石の矢が残る。威力のない【水の玉】を使えば飲み水が得られるし、火事の時には【水の壁】や【氷の壁】で延焼を防ぐこともできる。
攻撃に関しては、みんながみんなハイレベルの魔法が使えるわけではないので、威力を考えれば【風の刃】や【石の矢】が効果的だ。確実に魔物にダメージを与えられる。前に練兵場で兵士や魔術師たちと話をしたけど、魔法は遠距離だと空気抵抗で効き目が落ちる。だから狙いを定めて撃つんじゃなくて、ある程度の距離に近づいて適当に撃って当たるのを祈るらしい。ホーミング誘導じゃないからな。魔物だって動く。
おそらくだけど、普通【石の玉】を使っても、その石の玉を持って帰ろうとは思わない。単なる石だからだ。ただサン=フォアでは何千匹もいる魔物に向かってただひたすら撃ち続けた。あまりにも石の玉が多かったから目立ったんだろう。
試しに威力ゼロで大きな【石の玉】を撃ってみる。直径五〇センチくらいの特大弾だ。こんなものが飛んできて直撃したらとんでもないことになるな。
威力がゼロだからそのままカウンターの上を少し転がって止まった。持ってみるとかなり重い。二〇〇キロくらいあるか? さて、これをどこに飾るか。
「シュウジ様、それは?」
「ああ、ネリーか。久しぶりだな。元気か?」
「はい、お陰様で。ところでその石は何ですか?」
「どうやら俺が先日サン=フォアで戦った時の石が縁起物として取り引きされているという話を聞いたから、こういうのもどうかと思っただけだ」
ネリーと話しながら石の球にサインを彫り込む。『寄贈:シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵』でいいか。
「そのあたりに置いたら縁起物っぽく見えないか?」
適当な石で少し窪んだ土台を作り、その上に巨大な石の玉を置く。ちょっとしたオブジェだな。大理石でこういうのを見たことがある。田舎にある立派な家の床の間とかにありそうだ。
「何となくありがたみがありますね」
「こういうのはそれっぽく飾るだけで目を引くからな」
◆◆◆
「公爵様、このオブジェについて少しお伝えしたいのですが」
「問題でもあったか?」
「いえ、そうではございませんが」
二日後にもう一度顔を出すとアンナさんからそんなことを言われた。見た感じは何もない。
「公爵様があの石を設置されてからうちの店員たちが縁起を担いで触りまして、やって来た商人たちもそれを見て撫でるようになりまして」
「ああ、そういう縁起物があるからな」
撫でると病気が治るとかそういうやつだ。
「それで、窪みに乗せてあっただけでしたので玉が動いてしまいまして、それで軽く固定させていただきました」
「ああ、なるほど」
窪みに乗せたけど、みんなが触るから回ってしまったと。そのうちに落ちるんじゃないかと気になったから接着したらしい。摩擦がなさすぎたか。
「俺が勝手に置いただけだから落ちようが割れようが誰にも怪我がなければいい」
「ありがとうございます」
重さ的には二〇〇キロくらいありそうだから、足の上に落ちたら落ちたら怪我じゃ済まないだろう。
「そしてもう一つ、やはり購入希望の話があります。合計で六件です」
「買ってどうするんだ?」
いやまあ俺が作ったものなら欲しがる人がいてもおかしくはないけど、単なるオブジェだぞ。でも美術品と考えれば欲しがってもおかしくはないのか。値付けは……俺には無理だな。
「購入希望額は分かるのか?」
「全員ではありませんが伺っています。小金貨一枚から三枚の範囲です」
「そうか、それなら制作日とサインを入れよう。販売は小金貨一枚で。土台も作っておく。今後希望者があればその都度作ることにする」
「よろしくお願いします」
さて、それなら作るか。
空き部屋を一つ借りてそこを作業部屋にする。【石の玉】で玉を作るのは前と同じだけど、今回は土台も一から作る。土台は【石の壁】を使って文字通り石の壁を作り、それを【石工】スキルで加工する。土台にも日付とサインを入れ、上に玉を乗せて完成だ。
しかしそのままでは持ち運びがしにくい。上下に分けた上でそれぞれ大きめの木箱に入れて運びやすくしておく。これなら数人で運ぶことができるだろう。とりあえず一〇セット。世の中何が売れるか分からないな。
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