元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十三部:勇者とダンジョンと魔物(二)

超デレ

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「あ・な・た・さ・まっ♡」
 誰だお前は、ってくらい人柄が変わった。まあツンツンしてるよりはいいけど、知り合いが見たらビックリするだろうな。
「フラン、どうした?」
 途中でフランと呼んでほしいと頼まれたからそう呼ぶようにした。
「いえ、ミレーヌさんは少し前からこのような気分を経験されていたのかと思いまして。私ももっと早く行動すべきでしたわ」
「さっき上になった時の動きは速かったと思うけどな」
「も、もうっ♪ そちらの動きではありませんわっ」
 フランが俺の胸をペシッと叩いた。もちろん分かって口にしたんだけどな。オリエもそうだけど、ちょっと困った顔が綺麗に見える。
「あ、ありがとうございます……」
「まだ頭の中を読むんだな」
「癖になっておりますの。読まない方がよろしいですか?」
「悪くはないけど、俺はこうやって体を重ねながら話す方が好きだぞ」
 フランを抱きしめる。こうすると安心するみたいだな。

 しばらく抱き合っていたけど、またベッドに寝転び直してフランから話を聞く。
「天使には昇進試験はないということはご存知ですか?」
「ああ、経験と実績だと聞いた」
ワタクシは同期の中ではかなり優秀な方でした。ですので途中でワタクシの方がみなさんよりも数百年は早く下級神になりましたの」
「かなり優秀だったのか。でもそれを口にするということは、それで苦労があったんだろ?」
「はい。ワタクシには他のみなさんを見下すつもりはなかったのですが、どうしてもこう……余計なことを口にしてしまうことがあるようで、よく思われていなかったような気がしておりました」
 やっぱり「あなたのためを思って言ってあげたのに」ってやつだ。ありがた迷惑ってことにもなるからな。
「それで自分で居心地を悪くしてしまいまして、できることなら早めに下級神になろうと」
 居心地が悪くなったから先に進んだのか。でもその場にいても居心地が悪かった。どうしようもないな。でもその場を離れるというのは間違いじゃないはずだ。
「ミレーヌさんとはそこまで仲が悪かったわけではない……と思いたいところです。彼女は少々要領が悪くても努力家でしたので、少し気にかけていたのです」
「それでこの世界に来た……のはタイミングとしてはおかしいよな?」
「それは本当に偶然です。ワタクシが趣味で出入りしている世界がミレーヌさんの試験の場所になりまして、それでどのような勇者を用意したのだろうかと、つい興味が出てしまいました」
「それで覗いてみたら俺がいたと」
「ええ、そうですの。ワタクシは堅実な勇者を作り、その勇者は無難に成すべきことを成し遂げました。それで正式な神になったのはよかったのですが、終わったという実感もなく、物足りなさを感じておりました」
 ミレーヌが昇進試験に合格したと知った瞬間の俺だな。まだ何もしてないのにいいのかって怖くなったくらいだ。
「ミレーヌさんが用意した勇者は非常に魅力的で羨ましくて、気になってしまいました」
 ミレーヌを気にかけて見ていたら、人間とはいえ夫ができて組んず解れつ。しかも今回はあっという間に試験に合格し、しかもその相手が神になった。それでうらやましくて近くで見てみようと魔物の暴走スタンピードの時には俺に付いてきたと。
 ちなみに迎賓館には入ったけど、さすがにベッドには近づかなかったらしい。【カメラ】の劣化版のような、日報紙向けの写真撮影に使うスキルで壁の向こうから覗き見したらしい。あまり近づくとミレーヌにバレるかもと思ったそうだ。
「他人をうらやんでもさげすんでもいいことなんてない。自分が余計に惨めになるだけだ」
 上を見てねたみ、下を見て安心する。そうすれば楽だけどその先には何もない。向上心がなくなるだけだ。上を見てねたむんじゃなくて超えるつもりで努力しろ。下を見て安心するんじゃなくてそうならないために努力しろ。それは父親のように面倒を見てくれたレストランのオーナーの教えだ。でもそれで頑張りすぎて体を壊したんだから世話はないよな。
「もううらやましがるのはやめることにいたします。今後はあなた様にお世話になりますわ。ずっと可愛がってくださいませ」
「ああ、もちろんだ」
 神としてのステータスにも【美の女神フランシーヌの夫】って表示が付いた。フランの方にも【愛の男神シュウジの妻】がある。ステータスのログを見たら人としてのフランに【神の愛】が使われた形跡があった。
「神として夫婦になったってことだから手放すつもりはないぞ」
「はい、ワタクシも離れるつもりはございませんわ」
「それなら今後はどうする? 仕事は辞めるか?」
「一つ考えがございまして」
 神域と印刷所とこの屋敷と、さすがに忙しいだろうと思ったら、フランシーヌは化身アバターを増やすつもりらしい。
 今は本体が俺の目の前にいるけど、普段は神域にいて、化身アバターのシーヌを印刷所で働かせている。そのシーヌに双子の姉がいたという設定を作り出すそうだ。例えば彼女が王都とサン=フォアでほぼ同時に活動できたのも、実は二人の間で意思疎通ができるスキルがあるということにしてしまえばいい。実際に【意思疎通】というスキルがあるそうだ。そもそもスキルの数は膨大だから、世界にはどんなスキルが存在するのか実はよく分かっていない。一覧のようなものはないからだ。
 ちなみにミレーヌにはこの芸当はできない。ミレーヌはまだ王都から出たことがないからだ。神だって万能じゃない。行ったことのない場所には化身アバターは送れない。フランの場合はずいぶん前から活動してたから、好きな場所に化身アバターを送ることができる。フランにとってはこの大陸はちょっとした庭だった。
「このように化身アバターを二体作ってしまえば問題ありませんわ」
「見た目も中身も全く同じです」
「ミレーヌさんと同じように、髪を少しだけ変えました。いかがですか?」
 目の前でフランシーヌ(本体)とフラン(化身アバター)とシーヌ(化身アバター)が同じ声で話をする。フランシーヌ当人は金髪だけど、フランは右のもみあげが一房だけ銀色、シーヌは左のもみあげが一房だけ銀色になった。
「シーヌの方は姉が来たので分かりやすいように少し髪を染めたということにします」
 目の前で美女が三人になった。そしてここはベッドだ。それならすることは一つだろう。三人相手か。望むところだ。

 ◆◆◆

「もの凄い経験をいたしましたわ。あなた様の発想には目から鱗です」
化身アバターの分も感覚も上乗せされるとは思わなかったな」
「フランシーヌさんの乱れ具合は凄いですね。これで媚薬なしですか。私も頑張って二体作れるようにしますね」
「これをぉ人間が身に付けるのはぁ無理ですかぁ?」
 先ほどのシーンを四人で見ている。
「これは神が地上世界で何かをする際に使う能力ですので、そのままでは無理ですわ。ですが人が使えるスキルには近いものもあります。【複体】や【分身】なら使えると思います」
 化身アバターとは感覚や記憶を共有してそのまま受け取ることができると聞いていたから、それならフラン本体と化身アバター二体を一緒に相手をしたらどうなるかと思ったら、フラン曰く「もの凄い」そうだ。男に抱かれたのは初めてだそうだからはっきりとは分からないけど、化身アバターの分が上乗せされたようだと。要するに刺激が三倍になった。
「それなら俺も頑張って身に付けるか」
「やっぱりぃシュウジくんですねぇ」
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