元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第六部:公爵邸披露パーティー

今後のことについて考える

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 先日ケントさんからアドバイスを貰った。先達のアドバイスは貴重だ。好き勝手にやってこの国に悪影響を与えたりしないように抑え気味だと。悪影響があるかどうかは分からないけど、あるのを前提で動いた方がいい。それがケントさんの考えだった。
 俺もそれは正しいと思う。この世界を良くしたいと思って行動したとしても、本当に良くなるのかどうかは分からない。横から見ていて余計なことを口にするお節介のようになってしまうんじゃないかと思ってしまうんだよな。
 俺はあくまで小市民だったし、善人でもなかった。それが外に出れば勇者様と呼ばれ、日報紙に写真付きで記事にされる。場違いなところに来たという気分は今でも抜けない。
 結局のところ、ミレーヌの試験が終わったことで、俺にはしなければならないことが何もない。ミレーヌを抱いてエミリアを抱いてリュシエンヌを抱いて、さらにメイドたちのスカートの中を見せてもらう毎日。気分はいいのに満足し切れていないっていうことなんだろうか。
 今の生活を変えるとすれば、パーティーを終えてからだろう。それからは商会を持ち、社交を始め、この国の貴族として普通の生活を始めるはずだ。
 しかし商会なあ……。
 ケントさんと被らないようにするにはアダルトグッズは避けるべき。希少性を煽りすぎるのも避けた方がいい。比較的手に入りやすい値段で、かつこれまでにこの国にないもの、あるいは競合しすぎないものを探さなければならない。スキルをフル活用して、しかもやりすぎないようにする必要がある。
 俺の場合は貴族、しかも公爵という一番上の爵位をもらったから動きやすい上に、困った時のミレーヌ頼みができる。こっちにいる時にはあまり力は使えないらしいけど、持っている知識は膨大だ。これでもし平民としてやって来てたら、できることなんてないだろう。
 そこまで考えると、あの時無理をしてでもミレーヌを落としたのが正解だったんだろう。
「ミレーヌ、お前がいてくれてよかった」
 廊下でついミレーヌを抱きしめてしまった。いつものように抱き心地がいい。
「いきなり何の話か分かりませんけど、喜んでもらえて嬉しいです。それで何をしていたんですか?」
 いきなり抱きつかれて感謝されても意味が分からないよな。
 とりあえず廊下で抱き合ってても邪魔になるから居間に移った。ジゼルの視線が気になるからな。
「ああ、商会をどうしようかとか、これから何をしようかとか考えててな。この国の発展に役立ち、かつ影響が大きすぎないことが何かないかって考えていたんだ」
「影響があまり大きくないことですか。美の女神としては美容や服飾関係はどうかなと思います」
「個人的にはそのあたりを中心にしたい。でもそれが売れるかどうかは微妙なんだよな」
 日本でもそうだったけど、化粧品、ヘアケア用品、ネイルケア用品、香水、何でも上質なものは高い。高いと客層は限られる。イネスの作った美容液がそうだ。庶民は高すぎて手が出しにくい。
 服飾関係もよく似た状況だ。天然素材ばかりだけど布はある。でも染めると高くつくから生成りが多い。濃ければ濃いほど何度も染める必要があるから高くなる。
 おそらくミレーヌも分かってはいると思うけど、値段が下がらないことには庶民はファッションには手が出せない。それをどうするか。
「美容液は素材が手に入りにくいという根本的な問題がなあ」
「素材を仕入れるためのルートを開拓する必要がありそうですね」
「ああ、そこも含めてだな」
 美容液を作るための素材は、一部は貴重な薬草も使われてるけど、大半は山の方で手に入る。でも山に行けばあるとは限らない。早い者勝ちだからだ。他の人のために少し残しておこうなんて謙虚な冒険者はいない。生活のためなら採るべきものは採る。それなら人がいない場所で探すか、それとも栽培するかだな。
 作るのは錬金術師や薬剤師だ。そんなにたくさん人数がいるわけじゃない。それに冒険に必要なポーションの作成ならともかく、必ずしも必要とは言えない美容液を作ろうという者がどれくらいいるか。作るなら儲かる方ってなる。
 そう考えると美容液は貴族にコネがないとなかなか売れないだろうな。
「一つ考えたのがこういうのだ」
 俺は【ストレージ】から布と糸でできたものを取り出した。
「それはアップリケですか?」
「ああ。試しに作ってみた」
 アップリケ、もしくはワッペン。子供向けの可愛いデザインじゃなくて、部屋の装飾にも使えそうなものだ。花や鳥、植物などをモチーフにしたもの、幾何学模様のものなど、何種類か用意した。
「この国で売れますか? そこまで安くはできないと思いますけど」
「そのままじゃ売れないだろうな。だがやり方次第では売れるはずだ」
 最初は布で何かできないかと思って作ってみただけだった。でも意外にシャツやブラウス、スカート、エプロンにも映えると思った。カーテンでもOKだな。
 貴族の女性の着るドレスは派手だ。でも使用人はそうじゃない。侍女なら女主人からお古を貰うことはあるそうだけど、メイドたちは地味なメイド服とエプロンを着ている。質が高いのは分かるけど、アクセントがあってもいいんじゃないかと思ったわけだ。
 世の中にはメイド服に手を加えるなんてとんでもないと怒るヤツもいるかもしれないけど、それはそれだ。女は華やかな方がいい。
 ざっと見たところ、仕事着をオシャレにすることはほとんどない。執事ブティエのダヴィドや従僕のエドのように、いつも主人の側にいるなら見栄えのする服装をする。でも下働きが仕事着でオシャレをすることはほとんどない。首元にスカーフを巻くことはあるらしいけど、せいぜいそれくらいだ。
「今度のパーティーの時に、余裕があれば使用人たちのドレスやエプロンに付けたい。みんな針仕事はできるし、刺繍じゃないからそこまで時間はかからないはずだ」
「シュウジさんからのプレゼントということにすれば誰でも喜んで——」
⦅ガチャッ⦆
 俺とミレーヌが話をしていると扉が開いた。
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