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第七部:商会と今後のこと
先輩勇者の子孫
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「ようこそおいでくださいました」
今日は俺の前に来た勇者の子孫、モラクス公爵のところに来ている。現当主のピエール・アランさんは俺と同世代。人懐っこそうな顔つきだ。その彼が俺に向かって深々と頭を下げる。
「お邪魔する。それよりも、もっとくだけた話し方でもいいぞ。ピトル伯爵に相談したそうじゃないか。それに普段はもっと気楽な話し方だろ?」
「ははは、バレてましたか。それならシュウジさんでいい?」
「ああ、いいぞ。爵位も同じで年も同じくらいだろう」
ピトル伯爵のケントさんは俺と同じ日本生まれ。その彼に俺のことで相談したらしい。どう話せばいいかとか。ピトル伯爵は「同い年の友人くらいで大丈夫ですよと言っておきました」と言っていた。
正直に言って、それくらいで十分。俺としてはあまり下手に出られると疲れる。ほどほどでいい。だからピエールさんにも同世代として、気楽に話ができればいいと思っていた。
◆◆◆
「フィリップ様は最初の頃は思っていたのとは違って大変戸惑ったそうでね」
「なるほどなあ」
俺は先代勇者であるフィリップ殿の手記を読ませてもらった。フィリップ殿はアメリカ人だったらしい。彼はこの国に来てかなり苦労したそうだ。
俺はミレーヌに全体的にステータスを上げてもらった。人間が鍛えに鍛えて到達できる一番先あたりだ。でもフィリップ殿はそれこそ世界を救うヒーローのような勇者だった。召喚に関わった女神にそうされたらしい。でも邪神も魔王もいない時代にはその力を持て余した。肉体労働だと思ったら頭脳労働だったってとこだろう。しかも後戻りもできない。
そんなフィリップ殿が目指したのは魔物を狩る冒険者を鍛えること。彼が単独で一番奥まで進んで全ての魔物を狩ってしまえば、しばらく暴走が起きなかったらしい。でもさすがに勇者とはいえ、連日連夜ダンジョンに潜ることはできない。勇者が強いからって睡眠や食事が不要ってわけにはいかない。だから冒険者たちを鍛えることにしたそうだ。
そしてフレージュ王国だけじゃなく、他の三か国、そして間にある都市国家群の冒険者たちもまとめて鍛えることで魔物の暴走による被害を減らそうとしたらしい。
兵士たちを鍛えてもよかったけど、他国の兵士を鍛えるのは筋が違うと思ったらしい。そのあたりはかなりドライだったようで、日本人の俺と少し感覚が違うか。俺なら四か国合同で訓練でもしてまとめて鍛えるというのをやったかもしれない。もちろん他の三国と話し合いをしてもらった上でだ。
そしてどうやら一口に勇者と言ってもタイプは色々とあるらしい。性格とかの話じゃなくて、派遣元の設定っていうのか、そういうことだ。俺が今いるこの世界のこの惑星に来るためのルートは一つじゃないことは分かっている。そしてルートが違えば勇者であっても全てのスキルでも使えるわけじゃないらしい。
勇者を作るのも大変なんだろう。神に直接頼む方法から召喚陣を使う方式に変えたくらいだからな。だから言い方は悪いけど勇者のテンプレートのようなものがあるらしい。職業を【勇者】にしてステータスはこれくらい、この魔法とこのスキルを使えるようにして、はい行ってらっしゃい、って感じでロクに説明もされず放り出されることもあるそうだ。フィリップ殿はそうやって来たらしい。だから俺が見せてもらっているこの手記の最初数ページには女神に対する恨み辛みが書かれていて、f**k、s**t、d**n、c**t、b***h、w***e、a*****eがない文章がないくらいだ。アメリカ人が悪態をつきながら書いてるのが簡単に想像できる。
「どうしても理解できない単語があって、そこは読んでないけど、シュウジさんなら分かる?」
そう言ってピエールさんが俺に渡した紙には、ほぼ英語のNGワードしか書かれてなかった。それ以外にはMacとか書かれていた。あのコンピューターだ。フィリップ殿が来たのはもっと前のはずだから、時間がズレてるんだな。
「分かるけど、ほとんどが罵り言葉だぞ。俺のいた国じゃなくてフィリップ殿のいたアメリカという国のだ」
「やっぱり国が違っても分かるものなの?」
「いや、文法や単語どころか文字も全然違うけど、多くの国で話されてるから勉強はさせられた。片言なら分かるって程度かな」
一応は俺でも勉強した。授業は受けてたぞ。大半は寝てたけどな。おかげで大人になって苦労した。もうちょっと真面目にやればよかったな。いいか、若いうちは勉強しとけよ。大人になったら時間がないぞ。
他の大陸は知らないけど、この大陸の四つの国ではアルファベットが使われている。国によって微妙に単語や表現は違うけど、方言みたいなものと考えられてるそうだ。
「そこに書いてあるのをそのアメリカという国で口にしたら、その場で殺されても不思議じゃない。元の意味は違うけど、全部クソッタレって意味で使う単語だ」
「やっぱりね。こんなにあるからそうだろうとは思ってたけど」
「この手記って出版されたんだったか?」
「もちろんその部分は無視して、恥ずかしくないようにしたけどね」
出版された手記は後で読ませてもらおう。
今日は俺の前に来た勇者の子孫、モラクス公爵のところに来ている。現当主のピエール・アランさんは俺と同世代。人懐っこそうな顔つきだ。その彼が俺に向かって深々と頭を下げる。
「お邪魔する。それよりも、もっとくだけた話し方でもいいぞ。ピトル伯爵に相談したそうじゃないか。それに普段はもっと気楽な話し方だろ?」
「ははは、バレてましたか。それならシュウジさんでいい?」
「ああ、いいぞ。爵位も同じで年も同じくらいだろう」
ピトル伯爵のケントさんは俺と同じ日本生まれ。その彼に俺のことで相談したらしい。どう話せばいいかとか。ピトル伯爵は「同い年の友人くらいで大丈夫ですよと言っておきました」と言っていた。
正直に言って、それくらいで十分。俺としてはあまり下手に出られると疲れる。ほどほどでいい。だからピエールさんにも同世代として、気楽に話ができればいいと思っていた。
◆◆◆
「フィリップ様は最初の頃は思っていたのとは違って大変戸惑ったそうでね」
「なるほどなあ」
俺は先代勇者であるフィリップ殿の手記を読ませてもらった。フィリップ殿はアメリカ人だったらしい。彼はこの国に来てかなり苦労したそうだ。
俺はミレーヌに全体的にステータスを上げてもらった。人間が鍛えに鍛えて到達できる一番先あたりだ。でもフィリップ殿はそれこそ世界を救うヒーローのような勇者だった。召喚に関わった女神にそうされたらしい。でも邪神も魔王もいない時代にはその力を持て余した。肉体労働だと思ったら頭脳労働だったってとこだろう。しかも後戻りもできない。
そんなフィリップ殿が目指したのは魔物を狩る冒険者を鍛えること。彼が単独で一番奥まで進んで全ての魔物を狩ってしまえば、しばらく暴走が起きなかったらしい。でもさすがに勇者とはいえ、連日連夜ダンジョンに潜ることはできない。勇者が強いからって睡眠や食事が不要ってわけにはいかない。だから冒険者たちを鍛えることにしたそうだ。
そしてフレージュ王国だけじゃなく、他の三か国、そして間にある都市国家群の冒険者たちもまとめて鍛えることで魔物の暴走による被害を減らそうとしたらしい。
兵士たちを鍛えてもよかったけど、他国の兵士を鍛えるのは筋が違うと思ったらしい。そのあたりはかなりドライだったようで、日本人の俺と少し感覚が違うか。俺なら四か国合同で訓練でもしてまとめて鍛えるというのをやったかもしれない。もちろん他の三国と話し合いをしてもらった上でだ。
そしてどうやら一口に勇者と言ってもタイプは色々とあるらしい。性格とかの話じゃなくて、派遣元の設定っていうのか、そういうことだ。俺が今いるこの世界のこの惑星に来るためのルートは一つじゃないことは分かっている。そしてルートが違えば勇者であっても全てのスキルでも使えるわけじゃないらしい。
勇者を作るのも大変なんだろう。神に直接頼む方法から召喚陣を使う方式に変えたくらいだからな。だから言い方は悪いけど勇者のテンプレートのようなものがあるらしい。職業を【勇者】にしてステータスはこれくらい、この魔法とこのスキルを使えるようにして、はい行ってらっしゃい、って感じでロクに説明もされず放り出されることもあるそうだ。フィリップ殿はそうやって来たらしい。だから俺が見せてもらっているこの手記の最初数ページには女神に対する恨み辛みが書かれていて、f**k、s**t、d**n、c**t、b***h、w***e、a*****eがない文章がないくらいだ。アメリカ人が悪態をつきながら書いてるのが簡単に想像できる。
「どうしても理解できない単語があって、そこは読んでないけど、シュウジさんなら分かる?」
そう言ってピエールさんが俺に渡した紙には、ほぼ英語のNGワードしか書かれてなかった。それ以外にはMacとか書かれていた。あのコンピューターだ。フィリップ殿が来たのはもっと前のはずだから、時間がズレてるんだな。
「分かるけど、ほとんどが罵り言葉だぞ。俺のいた国じゃなくてフィリップ殿のいたアメリカという国のだ」
「やっぱり国が違っても分かるものなの?」
「いや、文法や単語どころか文字も全然違うけど、多くの国で話されてるから勉強はさせられた。片言なら分かるって程度かな」
一応は俺でも勉強した。授業は受けてたぞ。大半は寝てたけどな。おかげで大人になって苦労した。もうちょっと真面目にやればよかったな。いいか、若いうちは勉強しとけよ。大人になったら時間がないぞ。
他の大陸は知らないけど、この大陸の四つの国ではアルファベットが使われている。国によって微妙に単語や表現は違うけど、方言みたいなものと考えられてるそうだ。
「そこに書いてあるのをそのアメリカという国で口にしたら、その場で殺されても不思議じゃない。元の意味は違うけど、全部クソッタレって意味で使う単語だ」
「やっぱりね。こんなにあるからそうだろうとは思ってたけど」
「この手記って出版されたんだったか?」
「もちろんその部分は無視して、恥ずかしくないようにしたけどね」
出版された手記は後で読ませてもらおう。
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