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第十二部:勇者とダンジョンと魔物(一)
サン=フォアに向かって
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俺たちはサン=フォアの町より少し北、オーリックという小さな町に着いた。そこから南下し、町を囲んでいる魔物を狩るのが仕事だ。
このオーリックの町は転移門を管理するだけの町になっている。町というよりも砦だ。魔獣に囲まれたサン=フォアの町の中に移動しても何もできないからだ。だからここで集合して、それから南下してサン=フォアを解放する。
ただし転移門の制限があるので、そこまで大人数の兵は送れない。ここにいるのは七〇〇人ほど。守備兵一〇〇人と増援が六〇〇人。魔物は軽くその一〇倍は超えるそうだ。
◆◆◆
「これは多いな」
丸一日かけてサン=フォアの町を見下ろす丘の上に移動して陣を張ると、魔物が町を取り囲んでいるのが見えた。双眼鏡を覗くと、城壁の上から魔法や矢で魔獣を攻撃しているのが見える。ダンジョンから出てくるくらいだから、空を飛ぶのは少なそうだ。
あいつらが共食いでもすれば楽なのに、そうはならないのが不思議だ。森で生まれた獣が魔素の影響で魔獣になると共食いもあるらしい。でもダンジョン生まれの魔物にはないそうだ。
「最初に出てくる魔物は数は多いですが、一体一体の強さはそれほどではありません」
「それでも一般人には危険なレベルなんだよな?」
「そうですね。武器を持った大人が一対一で戦うなら対処はできます。ですが二対一や三対一になればまず勝てません」
そりゃケンカでもそうだ。一対一なら何とかできても、後ろに回り込まれたらマズい。カンフー映画じゃないんだから、壁を走って逃げるのは不可能だ。
「それなら減らすか。ちなみに国としては、あそこにいる魔物は素材として回収できた方がいいのか? それとも燃やしてもいいのか?」
領地によっては魔物の素材が生命線というところもある。全部燃やして恨まれるのも嫌だからな。金になるならその方がいい。
「コボルドは毛皮が利用できます。穴だらけでも問題ありません。ゴブリンは素材としては価値はほとんどありません。最近はコワレ商会では買い取りをしていましたね」
「ああ、あれでも使える部分はあるからな。ゴブリンは俺が正規の値段で買い取る。コボルドは町か国に任せるから、とりあえず焼かずに潰すか。一度試射するから落ちた場所を見ておいてくれ」
「はい」
今回の作戦は作戦と呼べるほどのものじゃない。俺が一キロくらいまで近づいて【石の玉】を魔物の中に撃ち込む。当たって死ぬかどうかは微妙だけど、戦闘能力はかなり奪えるだろう。魔物が近寄ってくれば兵士たちが倒し、近寄ってこなければそのまま【石の玉】を撃ち込み続ける。
俺はステータスを過信していない。でもコボルドやゴブリンに後れを取ることはないはずだ。一般人でも対処できる程度らしいからな。ただ数が多すぎる。向こうは通常なら五〇〇〇は超える。しかもダンジョンから増援があるかもしれない。こっちは転移門経由でやって来た六〇〇。守備兵の一〇〇は動かせない。数日間はそれ以上増える見込みはない。増援はサン=フォアの町の中にいる。魔物の数が減れば、サン=フォアの町から兵士や冒険者が出ることができる。
「町の東に向けて撃つ。これくらいかな……っと!」
試しに俺は四〇度くらいの角度で【石の玉】を撃ち込んだ。拳くらいの丸い石が放物線を描いて飛び……。
「命中しましたが、やや奥寄りです。正面に撃てば城壁に当たります」
双眼鏡を覗いていた従卒から報告があった。
「それならもう少し角度を下げるか」
今度はもう一、二度くらい下げて三つ撃ち込んだ。
「命中しました。この距離でしたら城壁には届きません」
「ならこの角度にするか」
魔法は右手でも左手でも使える。そして俺には【無詠唱】がある。俺はキリストのように両手を開くと、そこから大量の【石の玉】を撃ち込み、サン=フォアの町の北側にいる魔物たちの駆除を始めた。
◆◆◆
上空にガトリング砲を撃つように一分ほど遠慮なくばら撒いたら、町のこちら側にいる魔物がある程度倒れた。死んだかどうかは分からないけど、動けなくなったのは多そうだ。人間なら拳くらいの石が一キロ先から飛んできて頭に当たれば、良くて重体、悪けりゃ即あの世行きだ。魔物がどれだけ頑丈かは分からないけど、ダメージはゼロじゃないだろう。
しばらくすると魔物の一部が俺たちに気づいてこちらへ移動を始めた。
「勇者様、魔力の残りは大丈夫ですか?」
「そうだなあ……」
====================
【名前:シュウジ】
【魔力:五五五/三〇二五】
====================
「二割を切ったな」
初歩の魔法でも壊れた蛇口状態だから回復が追いついてないが、それは仕方ない。
「下がって休憩を取られてはいかがですか?」
「もう少し減らせればなあ……」
俺の持っている【魔力回復】は自分には効かない。そりゃ当然だ。自然回復を待つかポーションを使うか。魔力回復のためのポーションもあることはあるけど、そんなに回復量は多くない。
魔力は魔素が体内で魔力に変換されたもの。それなら魔素が濃い場所なら回復も早くなるはず。いや、魔素があったな。
俺はストレージを漁って干し肉(魔素製)を取り出した。
「これでどれだけ回復するかだな」
俺は干し肉を一切れ口に放り込んだ。柔らかいジャーキーだ。
「勇者様、それは?」
俺が取り出した干し肉をじっと見た。
「これは魔素だ」
「魔素とは、あの魔素でございますか?」
「干し肉っぽく見えるけどな。食べてみるか?」
従卒に中金貨くらいの大きさの魔素を一切れ渡し、俺は自分のステータスを確認する。
====================
【名前:シュウジ】
【魔力:二五七五/三〇二五】
====================
「非常に柔らかい干し肉ですね。ですが力が溢れるようです」
「魔素の塊だ。あれくらいで二〇〇〇ほど回復したか。もう少し石をばら撒くから、それが止んだら突入するように将軍に伝えてくれ」
「はっ」
従卒が連絡に行かせると、俺は引き続き攻撃をする準備をした。
もう一枚干し肉(魔素製)を口に放り込み、さらに二枚を口に咥え、少し角度を下げて【石の玉】をばら撒いた。魔力が減ったら咥えている干し肉(魔素製)を噛んで飲み込み、もう一度ばら撒く。さらにもう一度。そこまでやれば俺の仕事は一段落だ。そこからは兵士たちの仕事になる。俺は彼らが死なないように回復させる。できれば蘇生魔法は使いたくないな。
俺一人で全部倒すことは多分できるだろう。でも俺が全部倒すのはあまり褒められたことじゃない。ケントさんにも言われたけど、何ごともやりすぎはよくない。今回だってそうだ。
そもそも俺が来た理由は、もちろん戦力として求められたのが一番なのは間違いないけど、二番目は広告塔になるためだ。これは陛下からの手紙にも書いてあった。兵士としてこの国を守ろうという、ある意味ではプロパガンダだな。「勇者様と共に戦おう」というチラシが町中に貼られるかもしれない。
この国は徴兵制じゃなくて志願制らしい。だから集めようと思えば広告塔が必要だ。いずれ俺がサン=フォアで戦ったことが日報紙の一面になるだろう。
兵士たちが魔物の先頭部隊を斬り始めた頃には、戦場はサン=フォアの町の北側に移動していた。剣で斬りつけ槍で突き刺す。魔法と矢が飛んで遠方の魔物がバタバタと倒れる。
魔物はそれほど頭が良くないようだ。俺たちが北から攻撃を始めると、それに釣られるように俺たちに向かってきた。もう少しすれば町を包囲している魔物も減るだろう。そうすればサン=フォアの——
「「「うおおおおぉぉぉ‼‼」」」
サン=フォアの城門が開けられるだろうと思ったら城門が開いて、これまで待機していた兵士や冒険者たちが魔物に攻撃を始めた。
このオーリックの町は転移門を管理するだけの町になっている。町というよりも砦だ。魔獣に囲まれたサン=フォアの町の中に移動しても何もできないからだ。だからここで集合して、それから南下してサン=フォアを解放する。
ただし転移門の制限があるので、そこまで大人数の兵は送れない。ここにいるのは七〇〇人ほど。守備兵一〇〇人と増援が六〇〇人。魔物は軽くその一〇倍は超えるそうだ。
◆◆◆
「これは多いな」
丸一日かけてサン=フォアの町を見下ろす丘の上に移動して陣を張ると、魔物が町を取り囲んでいるのが見えた。双眼鏡を覗くと、城壁の上から魔法や矢で魔獣を攻撃しているのが見える。ダンジョンから出てくるくらいだから、空を飛ぶのは少なそうだ。
あいつらが共食いでもすれば楽なのに、そうはならないのが不思議だ。森で生まれた獣が魔素の影響で魔獣になると共食いもあるらしい。でもダンジョン生まれの魔物にはないそうだ。
「最初に出てくる魔物は数は多いですが、一体一体の強さはそれほどではありません」
「それでも一般人には危険なレベルなんだよな?」
「そうですね。武器を持った大人が一対一で戦うなら対処はできます。ですが二対一や三対一になればまず勝てません」
そりゃケンカでもそうだ。一対一なら何とかできても、後ろに回り込まれたらマズい。カンフー映画じゃないんだから、壁を走って逃げるのは不可能だ。
「それなら減らすか。ちなみに国としては、あそこにいる魔物は素材として回収できた方がいいのか? それとも燃やしてもいいのか?」
領地によっては魔物の素材が生命線というところもある。全部燃やして恨まれるのも嫌だからな。金になるならその方がいい。
「コボルドは毛皮が利用できます。穴だらけでも問題ありません。ゴブリンは素材としては価値はほとんどありません。最近はコワレ商会では買い取りをしていましたね」
「ああ、あれでも使える部分はあるからな。ゴブリンは俺が正規の値段で買い取る。コボルドは町か国に任せるから、とりあえず焼かずに潰すか。一度試射するから落ちた場所を見ておいてくれ」
「はい」
今回の作戦は作戦と呼べるほどのものじゃない。俺が一キロくらいまで近づいて【石の玉】を魔物の中に撃ち込む。当たって死ぬかどうかは微妙だけど、戦闘能力はかなり奪えるだろう。魔物が近寄ってくれば兵士たちが倒し、近寄ってこなければそのまま【石の玉】を撃ち込み続ける。
俺はステータスを過信していない。でもコボルドやゴブリンに後れを取ることはないはずだ。一般人でも対処できる程度らしいからな。ただ数が多すぎる。向こうは通常なら五〇〇〇は超える。しかもダンジョンから増援があるかもしれない。こっちは転移門経由でやって来た六〇〇。守備兵の一〇〇は動かせない。数日間はそれ以上増える見込みはない。増援はサン=フォアの町の中にいる。魔物の数が減れば、サン=フォアの町から兵士や冒険者が出ることができる。
「町の東に向けて撃つ。これくらいかな……っと!」
試しに俺は四〇度くらいの角度で【石の玉】を撃ち込んだ。拳くらいの丸い石が放物線を描いて飛び……。
「命中しましたが、やや奥寄りです。正面に撃てば城壁に当たります」
双眼鏡を覗いていた従卒から報告があった。
「それならもう少し角度を下げるか」
今度はもう一、二度くらい下げて三つ撃ち込んだ。
「命中しました。この距離でしたら城壁には届きません」
「ならこの角度にするか」
魔法は右手でも左手でも使える。そして俺には【無詠唱】がある。俺はキリストのように両手を開くと、そこから大量の【石の玉】を撃ち込み、サン=フォアの町の北側にいる魔物たちの駆除を始めた。
◆◆◆
上空にガトリング砲を撃つように一分ほど遠慮なくばら撒いたら、町のこちら側にいる魔物がある程度倒れた。死んだかどうかは分からないけど、動けなくなったのは多そうだ。人間なら拳くらいの石が一キロ先から飛んできて頭に当たれば、良くて重体、悪けりゃ即あの世行きだ。魔物がどれだけ頑丈かは分からないけど、ダメージはゼロじゃないだろう。
しばらくすると魔物の一部が俺たちに気づいてこちらへ移動を始めた。
「勇者様、魔力の残りは大丈夫ですか?」
「そうだなあ……」
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【名前:シュウジ】
【魔力:五五五/三〇二五】
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「二割を切ったな」
初歩の魔法でも壊れた蛇口状態だから回復が追いついてないが、それは仕方ない。
「下がって休憩を取られてはいかがですか?」
「もう少し減らせればなあ……」
俺の持っている【魔力回復】は自分には効かない。そりゃ当然だ。自然回復を待つかポーションを使うか。魔力回復のためのポーションもあることはあるけど、そんなに回復量は多くない。
魔力は魔素が体内で魔力に変換されたもの。それなら魔素が濃い場所なら回復も早くなるはず。いや、魔素があったな。
俺はストレージを漁って干し肉(魔素製)を取り出した。
「これでどれだけ回復するかだな」
俺は干し肉を一切れ口に放り込んだ。柔らかいジャーキーだ。
「勇者様、それは?」
俺が取り出した干し肉をじっと見た。
「これは魔素だ」
「魔素とは、あの魔素でございますか?」
「干し肉っぽく見えるけどな。食べてみるか?」
従卒に中金貨くらいの大きさの魔素を一切れ渡し、俺は自分のステータスを確認する。
====================
【名前:シュウジ】
【魔力:二五七五/三〇二五】
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「非常に柔らかい干し肉ですね。ですが力が溢れるようです」
「魔素の塊だ。あれくらいで二〇〇〇ほど回復したか。もう少し石をばら撒くから、それが止んだら突入するように将軍に伝えてくれ」
「はっ」
従卒が連絡に行かせると、俺は引き続き攻撃をする準備をした。
もう一枚干し肉(魔素製)を口に放り込み、さらに二枚を口に咥え、少し角度を下げて【石の玉】をばら撒いた。魔力が減ったら咥えている干し肉(魔素製)を噛んで飲み込み、もう一度ばら撒く。さらにもう一度。そこまでやれば俺の仕事は一段落だ。そこからは兵士たちの仕事になる。俺は彼らが死なないように回復させる。できれば蘇生魔法は使いたくないな。
俺一人で全部倒すことは多分できるだろう。でも俺が全部倒すのはあまり褒められたことじゃない。ケントさんにも言われたけど、何ごともやりすぎはよくない。今回だってそうだ。
そもそも俺が来た理由は、もちろん戦力として求められたのが一番なのは間違いないけど、二番目は広告塔になるためだ。これは陛下からの手紙にも書いてあった。兵士としてこの国を守ろうという、ある意味ではプロパガンダだな。「勇者様と共に戦おう」というチラシが町中に貼られるかもしれない。
この国は徴兵制じゃなくて志願制らしい。だから集めようと思えば広告塔が必要だ。いずれ俺がサン=フォアで戦ったことが日報紙の一面になるだろう。
兵士たちが魔物の先頭部隊を斬り始めた頃には、戦場はサン=フォアの町の北側に移動していた。剣で斬りつけ槍で突き刺す。魔法と矢が飛んで遠方の魔物がバタバタと倒れる。
魔物はそれほど頭が良くないようだ。俺たちが北から攻撃を始めると、それに釣られるように俺たちに向かってきた。もう少しすれば町を包囲している魔物も減るだろう。そうすればサン=フォアの——
「「「うおおおおぉぉぉ‼‼」」」
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