元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第二部:勇者と呼ばれて

事情説明と設定作り

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「とりあえずミレーヌがこっちに来れることは分かった。少し今後のことを話すか」
「それならシュウジさん、エミリアさんにも一部は話してしまいますね」
「それは問題にはならないのか?」
 ミレーヌはエミリアにも一部の裏事情を話すつもりらしい。俺としてはミレーヌが不利にならないのならそれでいい。
「はい、他人に話さなければまず大丈夫です。バレても大事おおごとにはなりません。結果は変わりませんから」
「ええっ⁉」
 俺とミレーヌのやり取りを聞いたエミリアがギョッとしたような顔をした。
「あのー、シュウジ様。私はそんな問題になりそうなことを聞かされるのですか?」
「いやいや、そこまでじゃない。ちょっとした裏事情だ」
「いえ、裏事情って、普通は問題になるものではないのですか?」
 バレたからって何かが変わるわけじゃないはずだ。俺が勇者として結果を出すかどうかだけの話だからな。それにエミリアがバラさなければ問題にはならないだろう。
「でもいずれはエミリアも知ることだ。早いか遅いかの違いだけだろう」
 その前にエミリアに最後の確認だ。
「そうだ、エミリア、貴族と平民の結婚は問題ないそうだぞ」
「え? そうなのですか?」
「ああ、アドニス王から直接聞いたから間違いない」
 俺はエミリアに簡単に説明した。要は妻の実家からの持参金の問題でそんな傾向にあっただけだと。俺は金は必要ないから心配なことは何もないと。
「国王と宰相のお墨付きだ。だからここを出る時には連れていく」
「わざわざ私のためにありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」
「ああ」
 エミリアは丁寧に頭を下げた。
「それじゃミレーヌ、試験の説明を頼む」
「はい。エミリアさん、これはそこまで大したことではないんですけど、一応秘密にしてください。それくらいの話です」
「は、はいっ」
 エミリアは急に真剣な表情になった。ミレーヌの方はいつもと変わらない。
「エミリアさんの召喚魔法は実は私の神としての昇進試験を兼ねています」
「昇進試験ですか?」
「はい。簡単に言いますと、【勇者】の召喚依頼が来たらそれを行い、地上世界に送ります。その【勇者】が地上で成すべきことを成せば合格ということになります。そうすると私は晴れて正式な神になれます。試験が終わればシュウジさんに妻にしてもらうことになっています」
「はえーっ」
 エミリアがおかしな声を上げる。まさか自分の召喚儀式が神の試験と関係していたとは想像もできなかっただろう。でもその呆けた顔も可愛いな。つい写真を撮ってしまった。スマホのように操作をしなくても、頭で考えるだけで写真も動画も撮影できてしまう。
「私は神ですけど、のように役職のない、駆け出しの立場なんです。ということで、私は試験が終わらないとシュウジさんとは結婚しませんので、もし早くしたいのなら先にしてくれてもいいですよ」
「いえいえいえ、私はずーっと後で結構でございます」
 エミリアは恐縮しまくっていた。まさか自分が神より先に結婚するとは言えないだろう。そもそもエミリアは俺と一緒にいられればいいと言っていた。形はどうでもいいらしい。それこそきちんと相手をしてもらえるのであれば使用人でもいいと。
 俺が公爵になれば平民の自分なんて相手にされないだろうと思ったそうだからなあ。でもさすがに使用人扱いはしないぞ。
「そうだ、ミレーヌ。屋敷を貰ったらこっちで暮らさないか?」
「そうですね……。試験中は大きな仕事はありませんけど、向こうの管理もあります。力も使いますから、さすがに毎日は無理です。二、三日に一度、丸一日くらいならなんとか」
「それでもいい。一緒にいてくれるだけでな」
 たまに顔を見せてくれるだけでもいいか。やっぱり頭の中で声だけのやり取りをするよりも、顔を見ながら話した方が楽しい。
「ところでシュウジ様、ミレーヌ様をどのような立場の方としてお招きするのですか?」
「俺の正室……ってそうか、俺に知り合いがいるのはおかしいか」
「はい。いくらでも誤魔化すことはできると思いますが、ミレーヌ様を正室になさるのでしたら何かしらの話を作っておく方がいいと思います」
 あらためて考えると、召喚された俺に知り合いがいるのはあり得ない。いつの間に引っかけたのかという話だ。しかも誰も見たことがない女を。
 その女を正室にするのは俺としては問題ないけど、他の貴族たちがどう思うかということだ。平民の妻を貰うことは問題なさそうだけど、俺が召喚されてすぐに町娘を引っかけたというのも説明としてはやや苦しい。何らかの魔法で誤魔化してもらうしかないか?
 エミリアは召喚の聖女と呼ばれていたから、身分は平民でもどこの誰かは知られている。素性が怪しいのとは違うからな。
「ミレーヌを女神だというのを隠すとなると……」
「そうですね。神であることを誤魔化して地上に降りる神はたまにいます。【偽装】を使えば問題ないと思いますよ。【欺瞞】もありますし」
 うーん、女神に天使の真似ってどうなんだ?
「俺とエミリア以外はミレーヌの名前を知らない。ミレーヌを仮に女神が宿った存在とか、女神から使わされた天使とか、そんな感じで紹介するのはどうだ?」
「そうですね。天使時代もありましたから問題ないですよ。ちょっと変更してみますね」
 そう言うとミレーヌは何かを操作した。
「はい、これでどうですか?」
「それじゃ【鑑定】を使うぞ」

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【名前:ミレーヌ】
【職業:守護天使(化身アバター)】

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 この二つしか見えていない。他は隠されたのか。
「名前と守護天使(化身アバター)というのしか見えなくなったな」
「はい、それでどうでしょうか。神である私の力の一部を抜き出して、守護天使としてシュウジさんを見守る化身アバターを作ったという扱いです。私であって私でないという感じになります。人知を超えた存在なので、名前と職業以外は見えないということで」
「【鑑定】で暴かれたりしないか?」
「最高レベルの【欺瞞】と【偽装】を使っています。ステータスの違いもありますから、人の【鑑定】でどうにかなるものでもありません」
「それならこれでいこう」
 俺はもう少ししたらパーティーに呼ばれる。エミリアはここにいるから、その間にミレーヌと話し合って仲良くなってくれればいい。
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