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第二部:勇者と呼ばれて
召喚の理由
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さてさて、どんな困ったことが起きて俺を召喚をしたのかと聞いたら、首を横に振られた。どう受け取ったらいい? 問題がないのか言えないのか。
「問題は起きていないのか?」
「はい……起きておりません。そのことについて説明させていただきます」
エミリアはオドオドした様子のまま説明を始めた。深呼吸くらいでは落ち着かなかったようだ。
「そんなに怖がらなくてもいい」
「も、申し訳ございません」
エミリアは紅茶を口にすると、もう一度深呼吸した。
「フレージュ王国では、今ではおよそ五年ごとに召喚の儀式を行っております。あまり成功してはおりませんが」
「今では五年ごとか。以前は違ったのか?」
「はい。かつてはこの大陸に邪神が降臨したこともあれば、魔王と呼ばれるような存在が暴れたこともあったそうです。当時は神に祈りを捧げることによって勇者様にお越しいただいたそうです」
邪神とか魔王とか、いるところにはいるんだなあ。さすが異世界。でもかつてはか。
「それが召喚の儀式に変わったのか」
「そのようです。何百年か前に神託があり、召喚陣に魔力を込めるという方法が神から伝えられたそうです」
「五年というのは理由があるのか?」
「先ほどの召喚陣に魔力が溜まって召喚を行えるようになるのに、およそ五年かかります」
以前は神に頼んで勇者に来てもらった。今は召喚陣に魔力を込めて召喚の儀式を行う。魔力が溜まるのに五年かかる。誰が来るか、そもそも成功するかはやってみなければ分からない。
五年ごとねえ。神の側も色々と大変だったんじゃないか? あちこちから勇者を送ってくれと言われたら困るだろう。魔力を込めさせて、それを仲介料にしてるのかもしれないな。おひねりみたいに。
「それに近隣諸国との戦争が続いた時代もかつてはありました。現在はそれほど関係は悪くはなく、先王陛下の時代にはすでに戦争はなくなっていたそうです」
「それなら俺に戦ってほしいのではないと」
「……はい。その……目的ですが……勇者様にお越しいただくことが目的になっております」
「ん? 何かがあったから呼ぶのではなく、呼ぶことが目的なのか?」
「はい、そうなります」
勇者召喚って、普通なら国の危機に勇者に助けを求めることだよな? エミリアの様子を見て、この国がどれほど困った状態なのかと思えば、そういうことでもなさそうだ。
「現在では国の発展のために定期的に召喚の儀式を行い、異世界の知識をご教授願うことが目的となっております」
「異世界の知識……か。召喚陣の都合もあるかもしれないが、それなら【賢者】の方が相応しいのではないか?」
知識が欲しいなら【勇者】よりも【賢者】だよな? 【学者】とか【教師】でもいいと思うぞ。あるかどうかは知らないけど。
「質問に質問で返すようで申し訳ございませんが、シュウジ様にとっての勇者像とはどのようなものでしょうか?」
「勇者か……」
勇者なんてファンタジーの世界にしかいなかったからな。ヒーローならテレビにもいたか。ミレーヌが銭形平次って言ってたけど、時代劇でもヒーローといえばヒーローだよな。他には戦隊ものとかライダーとか。
「悪を倒す。その一言だな」
正義がどうとかは言わない。正義はどちら側にもある。ヒーローにはヒーローなりの正義があるなら、悪役にも悪役なりの正義がある。要は正義と正義のぶつかり合いだ。
自分だけが正しいわけじゃない。たまにいるよな、自分だけが正しいと思い込んで他人の言葉を全然聞かないヤツが。そういう頭の中がガチガチなのを相手にするのが一番疲れる。
そういうヤツの主張ってみんなのためを思って言ってあげたってことがほとんどで、それこそ小さな親切、大きなお世話だ。「お前が大人しくしてりゃこの場は丸く収まるんだよ」ってみんなの顔が言ってるからな。
もちろん他人に親切にすることが間違ってるわけじゃないけど、やり方や言い方を一つ間違えるとウザい。しかも本人はそのことに気づいてないからイタい。ついでにそれを指摘すると逆ギレするところまでがセットだ。そんな客は基本的にはノーサンキュー。
でも実際の世の中は声の小さい誠実で真面目なヤツよりも、声と態度が大きくて面の皮が厚いバカの意見の方が通りやすいことが多い。だから正しいから勝つんじゃなくて、目立ったから正しいと勘違いされる。
それでもテレビでヒーローが必ず勝つのは、正しい方が勝つと思わせなければ救いがないからだろうな。
「この国では、勇者様は全ての人の上に立つお方だと考えられております」
「全ての人の上?」
「はい。その心は騎士よりも誇り高く、戦えば戦士よりも強く、使う魔法はあらゆる魔術師よりも強大で、司祭のように人を救い、世界のあらゆることを知り尽くしている崇高なお方、それが勇者様だと教わっております」
……。
…………。
いきなりハードルをガン上げされたな。そりゃステータスはかなり上げてもらったし魔法も使えるけど。五年に一回だけできるガチャでSSRを狙うみたいなもんか。
「時代が変わった今、勇者様を国の発展という目的のためだけにお呼びしてもいいのかという葛藤が上の方々にはあるようです」
「そうか、知識を授かるだけなら、来てくれるのはさっき言っていたように【賢者】でも問題ないということだな?」
「そうなります。この迎賓館で使われている魔道具の多くはピトル伯爵の工房で作られているはずです」
なるほどなあ。勇者は力があるだけじゃなくて誇り高く、さらに優しくて知識がある崇高な人物だと。崇高ねえ……。俺みたいな女好きが来てしまって悪いな。
もちろんミレーヌの昇進試験のために来てるわけだから、好き勝手女を抱いてやりたい放題なんてことを考えてたわけじゃない。ただチャンスがあれば美味しく頂くのは当然だろう。でもやりすぎるとちょっとマズいことになりそうだ。
これが魔王を倒すために呼ばれたのなら「体を張ってくれるんだから多少の女癖の悪さには目をつむろう」ってなるかもしれない。でも崇高なお方と思われてるのに女好き全開なら、「あれ、何か違うんじゃね?」ってなるだろう。どうしたもんかなあ。
「問題は起きていないのか?」
「はい……起きておりません。そのことについて説明させていただきます」
エミリアはオドオドした様子のまま説明を始めた。深呼吸くらいでは落ち着かなかったようだ。
「そんなに怖がらなくてもいい」
「も、申し訳ございません」
エミリアは紅茶を口にすると、もう一度深呼吸した。
「フレージュ王国では、今ではおよそ五年ごとに召喚の儀式を行っております。あまり成功してはおりませんが」
「今では五年ごとか。以前は違ったのか?」
「はい。かつてはこの大陸に邪神が降臨したこともあれば、魔王と呼ばれるような存在が暴れたこともあったそうです。当時は神に祈りを捧げることによって勇者様にお越しいただいたそうです」
邪神とか魔王とか、いるところにはいるんだなあ。さすが異世界。でもかつてはか。
「それが召喚の儀式に変わったのか」
「そのようです。何百年か前に神託があり、召喚陣に魔力を込めるという方法が神から伝えられたそうです」
「五年というのは理由があるのか?」
「先ほどの召喚陣に魔力が溜まって召喚を行えるようになるのに、およそ五年かかります」
以前は神に頼んで勇者に来てもらった。今は召喚陣に魔力を込めて召喚の儀式を行う。魔力が溜まるのに五年かかる。誰が来るか、そもそも成功するかはやってみなければ分からない。
五年ごとねえ。神の側も色々と大変だったんじゃないか? あちこちから勇者を送ってくれと言われたら困るだろう。魔力を込めさせて、それを仲介料にしてるのかもしれないな。おひねりみたいに。
「それに近隣諸国との戦争が続いた時代もかつてはありました。現在はそれほど関係は悪くはなく、先王陛下の時代にはすでに戦争はなくなっていたそうです」
「それなら俺に戦ってほしいのではないと」
「……はい。その……目的ですが……勇者様にお越しいただくことが目的になっております」
「ん? 何かがあったから呼ぶのではなく、呼ぶことが目的なのか?」
「はい、そうなります」
勇者召喚って、普通なら国の危機に勇者に助けを求めることだよな? エミリアの様子を見て、この国がどれほど困った状態なのかと思えば、そういうことでもなさそうだ。
「現在では国の発展のために定期的に召喚の儀式を行い、異世界の知識をご教授願うことが目的となっております」
「異世界の知識……か。召喚陣の都合もあるかもしれないが、それなら【賢者】の方が相応しいのではないか?」
知識が欲しいなら【勇者】よりも【賢者】だよな? 【学者】とか【教師】でもいいと思うぞ。あるかどうかは知らないけど。
「質問に質問で返すようで申し訳ございませんが、シュウジ様にとっての勇者像とはどのようなものでしょうか?」
「勇者か……」
勇者なんてファンタジーの世界にしかいなかったからな。ヒーローならテレビにもいたか。ミレーヌが銭形平次って言ってたけど、時代劇でもヒーローといえばヒーローだよな。他には戦隊ものとかライダーとか。
「悪を倒す。その一言だな」
正義がどうとかは言わない。正義はどちら側にもある。ヒーローにはヒーローなりの正義があるなら、悪役にも悪役なりの正義がある。要は正義と正義のぶつかり合いだ。
自分だけが正しいわけじゃない。たまにいるよな、自分だけが正しいと思い込んで他人の言葉を全然聞かないヤツが。そういう頭の中がガチガチなのを相手にするのが一番疲れる。
そういうヤツの主張ってみんなのためを思って言ってあげたってことがほとんどで、それこそ小さな親切、大きなお世話だ。「お前が大人しくしてりゃこの場は丸く収まるんだよ」ってみんなの顔が言ってるからな。
もちろん他人に親切にすることが間違ってるわけじゃないけど、やり方や言い方を一つ間違えるとウザい。しかも本人はそのことに気づいてないからイタい。ついでにそれを指摘すると逆ギレするところまでがセットだ。そんな客は基本的にはノーサンキュー。
でも実際の世の中は声の小さい誠実で真面目なヤツよりも、声と態度が大きくて面の皮が厚いバカの意見の方が通りやすいことが多い。だから正しいから勝つんじゃなくて、目立ったから正しいと勘違いされる。
それでもテレビでヒーローが必ず勝つのは、正しい方が勝つと思わせなければ救いがないからだろうな。
「この国では、勇者様は全ての人の上に立つお方だと考えられております」
「全ての人の上?」
「はい。その心は騎士よりも誇り高く、戦えば戦士よりも強く、使う魔法はあらゆる魔術師よりも強大で、司祭のように人を救い、世界のあらゆることを知り尽くしている崇高なお方、それが勇者様だと教わっております」
……。
…………。
いきなりハードルをガン上げされたな。そりゃステータスはかなり上げてもらったし魔法も使えるけど。五年に一回だけできるガチャでSSRを狙うみたいなもんか。
「時代が変わった今、勇者様を国の発展という目的のためだけにお呼びしてもいいのかという葛藤が上の方々にはあるようです」
「そうか、知識を授かるだけなら、来てくれるのはさっき言っていたように【賢者】でも問題ないということだな?」
「そうなります。この迎賓館で使われている魔道具の多くはピトル伯爵の工房で作られているはずです」
なるほどなあ。勇者は力があるだけじゃなくて誇り高く、さらに優しくて知識がある崇高な人物だと。崇高ねえ……。俺みたいな女好きが来てしまって悪いな。
もちろんミレーヌの昇進試験のために来てるわけだから、好き勝手女を抱いてやりたい放題なんてことを考えてたわけじゃない。ただチャンスがあれば美味しく頂くのは当然だろう。でもやりすぎるとちょっとマズいことになりそうだ。
これが魔王を倒すために呼ばれたのなら「体を張ってくれるんだから多少の女癖の悪さには目をつむろう」ってなるかもしれない。でも崇高なお方と思われてるのに女好き全開なら、「あれ、何か違うんじゃね?」ってなるだろう。どうしたもんかなあ。
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