元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十一部:家族がいるということ

再び図書室へ

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 一人で図書室に来た。王宮には何度も来てるけど、なかなかゆっくり図書室で過ごす時間がなかった。図書室は王宮の中にはあるけど場所が全然違うからなあ。駅ビルの西口と東口くらいは違う。
 大臣として王宮にいると、場合によっては資料が必要になる。だから顔を見たことはあったし図書室に来たここともあったけど、一人で来たことはなかった。
 今日ここに来たのはあの豹人っぽい猫人の司書に会うためじゃなく、政治関係や社会関係のものに目を通すためだ。他には土地や税に関する資料も必要だ。でも今日は時間があるから、も考えてなくはない。向こうにまだその気があるなら。
 先日ワンコが屋敷に来た。ワンコは人間じゃなくてマルチーズの犬人だった。犬人なので当然尻尾がある。尻尾が揺れてるのを見ると、「おいでおいで」と誘われてるような気分になった。当然誘われた。ベッドに。
 人は自分にないものを求めるのかもしれない。人間には尻尾はない。エミリアやリュシエンヌの尻に尻尾を生やしてみたこともあるけど、あれは偽物でしかない。
 いや、あれはあれで楽しかったし二人とも感じてたからいいんだけど、どうせなら本物を楽しみたい。まあそういうことだ。
 それにうちの妻たちはみんな愛嬌があって可愛い。贅沢と言われればそれまでだけど、たまには背筋に寒気が走るような緊張感が欲しい。それがオリエンヌだ。
 あの表情を思い出すと、どっちが捕食者か分からない。でも俺はそう簡単に食われるつもりはない。することは同じだけどな。

「ラヴァル公爵様、お待ちしておりました」
「オリエンヌ、また世話になる」
「ごゆっくりなさってください(じゅるっ)」
 相変わらず丁寧な言葉遣いを表情が裏切っていた。いいぞ、こういうキャラは嫌いじゃない。気の強そうな女がいい声で鳴くのは好物の一つだ。もちろん無理やりはない。
 そういえば俺への呼びかけが変わったか。庶民に対しては求めないけど、王宮内ではラヴァル公爵の方で呼んでもらえるように頼んだからかもしれない。
 別に勇者様と呼ばれて嫌とは思わないけど、まだ勇者と呼ばれるようなことは何もしてないんだよな。だからくすぐったいし気恥ずかしい。爵位の方ならそういうものだと割り切ることができる。
 それはそうと読書だ。
 前回は創造神話を読み始め、気がついたら二時間以上経過していた。学校の勉強って全然面白いとは思わなかったのに、興味があることはすらすらと頭に入るからな。【知力】がメチャクチャ高いのが関係してるんだろうけど。
「ところで、今日はそれなりに長い時間いることになりそうだ。休憩や食事に小部屋を使いたいが、あの中で飲食をしても大丈夫か?」
「はい。防音もしっかりしております。問題ございません」
 オリエンヌはわざわざ言葉の一部を強調して目を細めた。口角も少し上がったか。そしれ唇を舐めたな。それならご馳走になろうか。彼女はご馳走したがっていて、俺はそれを頂くつもりだ。何の問題もない。
「そうか。その時になったらお前に用意をしてもらうことはできるか?」
「畏まりました。満足いただけるように準備をいたします。少し前になりましたらお申しつけください」
「頼むよ」
 それから二時間ほどこの国の歴史と政治について読書を続けた。歴史ってのは名前がややこしくて覚えにくいけど、目を通せば頭にスッと入る。覚えるんじゃなく取り込む感じか。一つ一つの出来事がバラバラじゃなくて、繋がりのあることとして、最初から知っていたかのように頭の中に入ってきた。

 昼を少し回って小腹が空いた。そろそろか。俺は本を閉じるとカウンターのところに行ってオリエンヌに声をかけた。
「オリエンヌ、そろそろ昼食を取ろうと思う。を用意してほしい」
「畏まりました。すぐに用意いたします。五分経ちましたらお入りください」
「分かった」
 彼女は頭を下げると小部屋に入っていった。
 俺は扉の前できっちり五分待ってから扉を開けて中に入った。すると目の前には眼福が存在した。
「ほう……」
「いかがでございますか?」
 オリエンヌが真面目な表情で俺を見た。その目はすぐ目の前にある獲物、つまり俺を狙っていた。
「素晴らしいな。今から楽しみだ」
「ありがとうございます。本日はお楽しみください」
 オリエンヌはエプロンを着けて食事の準備をしていた。エプロンを着けていた。エプロンのみ着けていた。……こんなの誰が広めたんだ?
 いや裸エプロンが嫌なんて言わない。男のロマンだ。やったことのある女性はほんの数パーセントだと言われてたはずだ。つまり大半の男は未経験ということになる。
 油が飛んで火傷をする可能性もあるから料理をするのには向かないけど、すでにできているものを配膳するだけのようだから問題なさそうだ。
 眺めは素晴らしい。後ろを向いた時にわざわざ腰をクイッと動かすのがいいアクセントになっている。しかも長い尻尾の先を矢印ような形にして、「カモン‼」と言わんばかりに自分の股間を指していた。
「では準備が整いましたので、これより順番にお召し上がりいただきます。メインはでございます」
「ああ、それじゃ頼むよ」
「はい」

 ◆◆◆

 本人が初物と言ったように、間違いなく初物だった。でもあの目線と腰使いはけっして初物のレベルじゃなかった。種族特性とかあるのか? 最初の最初から搾り取る気満々だった。
 うちの妻たちは積極的だし、頼めば大抵のことはしてくれる。でもこういう野生的な荒々しさはなかった。ワンコは犬人だから近いものがあるけど、張り付いてくる感じだからちょっと違う。
「……う……う~ん……んんっ、う~んっ」
 ベッドサイドテーブルに手を伸ばしてグラスを取ると、隣で寝ていたオリエンヌが色っぽく身じろぎした。それから目を開けるとぼーっとした目で周りを見て、水を飲んでいる俺をぼーっと見て、そしてコテンと首をかしげた。俺より年上のはずなのに、何となく子供っぽく感じる。
「あ、あれ? ん~~~?」
 状況が飲み込めてないのか? 激しかったから意識が飛んでたのかもしれない。オリエンヌはそのままぼーっと俺の顔を見つめていたけど、両目を大きく開くと俺の顔を両手で挟んだ。
「⁉ ちょっ、ちょっと待ってちょっと待って‼ アンタ‼」
 それほど大きくないこの部屋にオリエンヌの絶叫が響き渡った。
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