元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十一部:家族がいるということ

神についての諸々

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「ミレーヌ、俺のことを母さんに話した方がいいか?」
「神になったことですか?」
「ああ、バレたからな。知られてどうなるものでもないけど、黙っておくのも意味がないし」
 母さんがやって来たことは問題ない。近々礼拝堂ができるから、できればそこで朝晩と祈るんだろう。エミリアも一緒かもしれない。そこで色々と問題が出てくる。
 これまで使用人たちにはミレーヌのことを「神でもあり俺の守護天使でもある存在」だと伝えている。妻たちにはミレーヌは神で、俺もその影響で神になりかけていると伝えた。俺のことは使用人たちには言っていない。問題は母さんだ。
 母さんがこの屋敷にいる以上、俺や妻たちと接する機会も増えるだろう。そうなると俺のことが母さんに伝わるかもしれない。まあ伝わったから何かあるわけでもないけど、どうせ伝わるなら最初に伝えた方がいいんじゃないかとミレーヌと話をした。
「それにあのこともみんなに話した方がいいんじゃないかと思ってなあ」
「そうですね。このままだとジゼルさんは影響が出ますからね。それなら一度説明の場を設けましょうか。私が説明しますので」
「頼めるか?」
「はい、もちろんです」

 ◆◆◆

 二日後、ミレーヌにこれまでの諸々を説明してもらうことにした。
「今まで有耶無耶にしてきましたけど、神についてのレクチャーをしますね」
「ああ、よろしく頼む」
「はい」
 ミレーヌはどこからともなくホワイトボードを出した。ジゼルが黙々と給仕をしている。
 まだ細かいことまでは説明していない妻たちに、一度きちんと話をする必要があった。
「なんでオリエが来てるんだ?」
「アタシが来たらダメなの?」
 ツンデレなオリエらしい、ちょっと拗ねた言い方だ。お姉さんぶろうとして失敗する、残念可愛い女だ。ちなみに俺が「なんで」と言ったのは、誰が教えたのかということを知りたかっただけだ。どうやらベラが教えたらしい。
「そんなことはないさ」
 拗ねたから抱き寄せてキスをする。
「シュウジ、あんた落としてから上げるのが上手いわね」
「別に落としてはないだろう」
 母さんのツッコミが入ったけど、落としたつもりはない。そのうち個別に話そうと思っただけだ。
 そう、オリエにも【愛の男神シュウジの妻】と【愛の男神シュウジの眷属】が付いた。妻にすると言ったことはないんだけど、抱いたからなあ。
 でもこいつはどうするつもりなんだ?
「なあ、オリエ。お前もここに来ないか?」
 俺が抱いた相手の中で屋敷にいないのはイネスだけだ。彼女は仕事が好きだから商会の寮にいる。
 オリエは元々は東の方の出身で、王都に出てきて職を探したそうだ。それで司書になれるって運も実力もあったんだろうな。
「いいの?」
「嫌か?」
「ううん。それならもう帰らないわ」
「いや、荷物くらいは取りに帰れよ」
 王宮には使用人たちの宿泊する寮があるようで、そこにいるらしい。仕事もあるから、いきなり消えたら問題だろう。

 ◆◆◆

「まず人から神になるのはそう簡単ではありません」
 レクチャーが始まった。まずは当たり前だけど最初は人。いきなり神や天使が生まれるわけじゃない。
「これは誰でもいいわけではありません。ある程度の素質が必要です。それを見極めるのが神や天使の仕事です」
「お前が俺を選んで勇者にしたとか、そういう感じで選ぶのか?」
「基準は違いますけど、多くの人を見て選ぶのは同じですね」
 次に天使。要するに神の使い。
「天使にも階級があって、下級、中級、上級と上がります。これは試験があるわけではなくて、一定の期間と評価で次に上がれるようになります」
 その次が下級神見習い。
「これは天使から神への移行期間で、それほどは長くはありません。せいぜい二〇〇〇年くらいです」
「長いわ」
「神としての試用期間も兼ねていますので、それくらいは必要です。投げ出したりしないとか、性格面も重要ですから」
「たしかに投げ出されたらたまったもんじゃないか」
 そして仕事なしの下級神。
「下級神はとなる前の段階の神と、なった後の神の二種類が存在します。この仕事が得られるかどうかという試験が私が受けていた試験です。神が力を行使するのは、簡単に言えば奇跡を起こすことです。きちんと地上世界に奇跡を起こせるか、という試験です」
 さらに仕事ありの下級神がいる。
「昇進試験に合格すると仕事が与えられることになります。私の場合は【美の女神】ですから、地上世界に美しさを広めるのが仕事です」
 ここから先は中級神、上級神と進むけど、まずは俺の話だ。
「俺もやっぱり修行ってのをしてから試験を受けるのか?」
「いえ、シュウジさんは珍しいパターンで、試験は不要です」
「え? そうなのか?」
 試験なしなんて、そんな調子のいいことがあるのか。
「はい。すでに【愛の神】だと決まっていますから。私が受けた試験は、下級神で仕事が決まっていない神が仕事を得るための試験です」
「就職試験みたいなものか。でも仕事は決まってるけど、見習いって出てるよな?」
 表示の上では【愛の神(下級神見習い)】だからな。
「そうですね。シュウジさんは厳密には違いますけど、現人神あらひとがみに近い形ですので、このまま地上で修行をしてください。それで問題ないそうです」
「修行って、内容は愛を広めるってやつか」
「はい。その間に私がシュウジさんのための神域を用意することになっています」
「あ、俺も貰えるの?」
「もちろんです。夫婦ですので私の隣になります♪」
 どうやらミレーヌはここしばらくその手続きをしてくれてたらしい。
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