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第四部:貴族になること
屋敷の内覧
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面接が終わると、ダヴィドの案内で屋敷の中を見て回ることになった。
「ここは本館ということになります。裏手には使用人のための別館が二棟ございますが、旦那様が出入りすることはないと思いますので省略させていただきます」
屋敷は俺たちが使うための本館と二つの別館の合計三つが通路で繋がっている。別館が二つあるのは、普段からこの屋敷で働く使用人たちに加え、社交シーズンに領地からやって来た使用人たちを泊らせる必要もあったかららしい。以前はそれだけ使用人が多かったようだ。
「私も含めて使用人は別館の方を使わせていただきます。ですが急な用事に備えて、交代で一人はこの本館内で待機いたします」
「一人では寂しいだろうが……余裕がないか」
「はい、人が増えれば増やしていただければと」
使用人たちは普段はその別館で寝泊まりするけど、夜に俺が何かを指示するかもしれないので、一人は本館で待機するらしい。もし俺が「食事を用意しろ」と夜中に言えば、その時間からでも用意するそうだ。そんなことは言わないけどな。そんな無茶を言われる辛さは分かっている。
◆◆◆
「このあたりは旦那様がお使いになると思います」
「男の社交のためか」
俺が普段の仕事に使う執務室や遊戯室、応接室などがあった。執務室といっても仕事はないので、使い道があるかどうかだ。
遊戯室にはビリヤードテーブルが置かれていた。それ以外にはチェスや将棋、トランプなどもできるようになっている。
応接室は俺への来客があれば使うけど、パーティー以外では来客は少ないんじゃないか?
◆◆◆
「奥様方の社交の場はあちらになります」
この先にはお茶会などで使用する部屋があるそうだ。
「日当たりがいいですね」
「座るのがもったいないような椅子ばかりなのですが」
「使っても使わなくてもいずれは傷むから、使ってやるのが椅子のためだ」
「そうなのですか?」
もったいないと使わないままで痛んだり汚れたりするのが一番もったいない。家具は使ってこそ家具だ。飾りじゃない。
「お茶会は午後の日の高いうちに行いますので、日当たりが一番いい部屋を使うことになっております」
◆◆◆
「裏手には食堂、居間、風呂、トイレなどがございます」
食堂はそのままの意味だけど、細長いテーブルが中央に置かれていた。居間にはソファやテーブルがある。
風呂場は日本の銭湯のような感じだ。手前に脱衣所があって扉の向こうに洗い場と湯船が見えた。
「お風呂場につきましては後ほど説明いたします」
「説明が必要なものなのか?」
「習慣のようなものだとお考えください」
「それならその時に聞こう」
風呂の習慣か。パッと見た感じならサウナとかはなかったはずだ。体を洗ってから入るとか、そういうことか?
◆◆◆
「旦那様や奥様方の寝室は三階にございます。三階は二階とほぼ同じでございますので、三階にご案内いたします」
二階は通過して三階に向かう。天井が高いから階段の段数もそれなりにある。部屋に行くだけでいい運動になるな。
「そちらの部屋を旦那様の寝室とさせていただきました」
「何か理由でもあるのか?」
「南向きで、この階で一番広い部屋になっております」
「シュウジ様の部屋が一番広いのは当然でしょうね」
「どうせ集まることになりますからね」
「そうだな」
いつ何のために集まるかは口にしない。言わぬが花だ。
「家具はすでに運び込んでおります」
「立派なものばかりだなあ……ってスイートか?」
「はい、こちらが居間部分、向こう側にベッドがございます」
寝室という言葉だけを聞くと寝るだけの部屋と勘違いしそうだけど、ベッドがじゃなくてベッドもある部屋なので、他にも色々な家具などがある。この部屋の場合、入り口の方はリビングに近く、奥がベッドのある空間になっているスイートに近い。机と椅子、本棚、ソファ、テーブル、タンスなど、一通り揃っている。魔道具のコンロもあるのでお湯を沸かすこともできる。
机や本棚もあるなら執務室なんて必要ない……いや、俺がミレーヌやエミリアとアレコレしてる時にダヴィドが仕事を持ってきたらお互いに気まずいか。そうだな。分けた方がいい。
◆◆◆
「ミレーヌ様とエミリア様のお部屋はこちらかこちらということになります。旦那様のお部屋よりも少し小さめという以外は違いはほとんどございません」
「エミリアさんはどちらがいいですか?」
「ミレーヌ様が先に決めてください。お願いします。私は残った方で結構です」
俺の部屋のすぐ近くの二部屋がミレーヌとエミリアの寝室になった。どちらも中は同じで、場所が右か左かの違いしかない。
エミリアの荷物はこの後にでも入れよう。今は俺の【ストレージ】にある。
「お風呂は一階にしかございませんが、その代わりにシャワー室は各階にございます」
「汗を流せるのは楽でいいな」
「ここがシャワー室でございます」
シャワー室がある場所は、俺の寝室の隣だった。いつ誰がそこにシャワー室を付けたのかは分からないけど、よく分かっているなあ。
◆◆◆
二階は三階と同じらしいので、また一階に戻り、最後にホールの方へ回った。
「こちらが小ホールでございます。小さな催しならこちらです」
「小さな催しか。パーティーだよな?」
「はい。数十人程度の小規模な晩餐会などはこちらでしょう。そしてこの隣が大ホールでございます」
「数十人で小規模か。この大ホールは何百人くらい入れるんだ?」
そこにはホテルのバンケットホールような煌びやかなホールがあった。
「五〇〇人程度は入れます。お屋敷の披露パーティーではここを使うことになります」
「ここかあ」
王宮で歓迎パーティーのあったホールよりは狭いけど、これでもかなりの広さだ。豪華な体育館かって思うくらいだ。
「大ホールを使う際は、小ホールは何に使うんだ?」
「コートなどをお預かりする場所にする予定です」
ダヴィドによると、玄関の馬車回しに乗り付けて、玄関ホールを通ったら小ホールでコートを預けて大ホールに、という流れらしい。
晩餐会でも同じらしいけど、ゲストは時間に余裕を持ってやって来て、待合室で談笑して待つのがいいそうだ。遅れそうだと慌てて駆け込むのはマナー違反らしい。最低でも三〇分、できれば一時間前には会場入りし、場の雰囲気を使うことが必要だと。急がなくてもいいというのが貴族としては大切なんだそうだ。
そういえば時間がどうなっているのかというと、時計台がある。針には魔道具が組み込まれていてぼんやりと光るから、時計台さえ見えれば時間が分かる。
そして午前七時から午後八時までは一五分刻みで鐘が鳴る。大きい鐘は毎時〇分、小さな鐘が一五分、三〇分、四五分に鳴る。それくらいで十分なんだそうだ。鐘を鳴らす専門の役人がいるそうだ。俺の【時計】と近いスキルがあるんだろう。俺の【時計】はストップウォッチやタイマー、目覚まし機能がある。
この世界にも時計はあるけど、個人で持つことは少ない。貴族の家になら振り子時計は必ずあり、執事が毎朝時間を合わせるそうだ。懐中時計もあるけど非常に高価らしい。そのあたりも魔道具化できそうなんだけどな。
「俺はゲストの相手で手一杯になるだろう。進行の差配はよろしく頼む」
「お任せください」
「ここは本館ということになります。裏手には使用人のための別館が二棟ございますが、旦那様が出入りすることはないと思いますので省略させていただきます」
屋敷は俺たちが使うための本館と二つの別館の合計三つが通路で繋がっている。別館が二つあるのは、普段からこの屋敷で働く使用人たちに加え、社交シーズンに領地からやって来た使用人たちを泊らせる必要もあったかららしい。以前はそれだけ使用人が多かったようだ。
「私も含めて使用人は別館の方を使わせていただきます。ですが急な用事に備えて、交代で一人はこの本館内で待機いたします」
「一人では寂しいだろうが……余裕がないか」
「はい、人が増えれば増やしていただければと」
使用人たちは普段はその別館で寝泊まりするけど、夜に俺が何かを指示するかもしれないので、一人は本館で待機するらしい。もし俺が「食事を用意しろ」と夜中に言えば、その時間からでも用意するそうだ。そんなことは言わないけどな。そんな無茶を言われる辛さは分かっている。
◆◆◆
「このあたりは旦那様がお使いになると思います」
「男の社交のためか」
俺が普段の仕事に使う執務室や遊戯室、応接室などがあった。執務室といっても仕事はないので、使い道があるかどうかだ。
遊戯室にはビリヤードテーブルが置かれていた。それ以外にはチェスや将棋、トランプなどもできるようになっている。
応接室は俺への来客があれば使うけど、パーティー以外では来客は少ないんじゃないか?
◆◆◆
「奥様方の社交の場はあちらになります」
この先にはお茶会などで使用する部屋があるそうだ。
「日当たりがいいですね」
「座るのがもったいないような椅子ばかりなのですが」
「使っても使わなくてもいずれは傷むから、使ってやるのが椅子のためだ」
「そうなのですか?」
もったいないと使わないままで痛んだり汚れたりするのが一番もったいない。家具は使ってこそ家具だ。飾りじゃない。
「お茶会は午後の日の高いうちに行いますので、日当たりが一番いい部屋を使うことになっております」
◆◆◆
「裏手には食堂、居間、風呂、トイレなどがございます」
食堂はそのままの意味だけど、細長いテーブルが中央に置かれていた。居間にはソファやテーブルがある。
風呂場は日本の銭湯のような感じだ。手前に脱衣所があって扉の向こうに洗い場と湯船が見えた。
「お風呂場につきましては後ほど説明いたします」
「説明が必要なものなのか?」
「習慣のようなものだとお考えください」
「それならその時に聞こう」
風呂の習慣か。パッと見た感じならサウナとかはなかったはずだ。体を洗ってから入るとか、そういうことか?
◆◆◆
「旦那様や奥様方の寝室は三階にございます。三階は二階とほぼ同じでございますので、三階にご案内いたします」
二階は通過して三階に向かう。天井が高いから階段の段数もそれなりにある。部屋に行くだけでいい運動になるな。
「そちらの部屋を旦那様の寝室とさせていただきました」
「何か理由でもあるのか?」
「南向きで、この階で一番広い部屋になっております」
「シュウジ様の部屋が一番広いのは当然でしょうね」
「どうせ集まることになりますからね」
「そうだな」
いつ何のために集まるかは口にしない。言わぬが花だ。
「家具はすでに運び込んでおります」
「立派なものばかりだなあ……ってスイートか?」
「はい、こちらが居間部分、向こう側にベッドがございます」
寝室という言葉だけを聞くと寝るだけの部屋と勘違いしそうだけど、ベッドがじゃなくてベッドもある部屋なので、他にも色々な家具などがある。この部屋の場合、入り口の方はリビングに近く、奥がベッドのある空間になっているスイートに近い。机と椅子、本棚、ソファ、テーブル、タンスなど、一通り揃っている。魔道具のコンロもあるのでお湯を沸かすこともできる。
机や本棚もあるなら執務室なんて必要ない……いや、俺がミレーヌやエミリアとアレコレしてる時にダヴィドが仕事を持ってきたらお互いに気まずいか。そうだな。分けた方がいい。
◆◆◆
「ミレーヌ様とエミリア様のお部屋はこちらかこちらということになります。旦那様のお部屋よりも少し小さめという以外は違いはほとんどございません」
「エミリアさんはどちらがいいですか?」
「ミレーヌ様が先に決めてください。お願いします。私は残った方で結構です」
俺の部屋のすぐ近くの二部屋がミレーヌとエミリアの寝室になった。どちらも中は同じで、場所が右か左かの違いしかない。
エミリアの荷物はこの後にでも入れよう。今は俺の【ストレージ】にある。
「お風呂は一階にしかございませんが、その代わりにシャワー室は各階にございます」
「汗を流せるのは楽でいいな」
「ここがシャワー室でございます」
シャワー室がある場所は、俺の寝室の隣だった。いつ誰がそこにシャワー室を付けたのかは分からないけど、よく分かっているなあ。
◆◆◆
二階は三階と同じらしいので、また一階に戻り、最後にホールの方へ回った。
「こちらが小ホールでございます。小さな催しならこちらです」
「小さな催しか。パーティーだよな?」
「はい。数十人程度の小規模な晩餐会などはこちらでしょう。そしてこの隣が大ホールでございます」
「数十人で小規模か。この大ホールは何百人くらい入れるんだ?」
そこにはホテルのバンケットホールような煌びやかなホールがあった。
「五〇〇人程度は入れます。お屋敷の披露パーティーではここを使うことになります」
「ここかあ」
王宮で歓迎パーティーのあったホールよりは狭いけど、これでもかなりの広さだ。豪華な体育館かって思うくらいだ。
「大ホールを使う際は、小ホールは何に使うんだ?」
「コートなどをお預かりする場所にする予定です」
ダヴィドによると、玄関の馬車回しに乗り付けて、玄関ホールを通ったら小ホールでコートを預けて大ホールに、という流れらしい。
晩餐会でも同じらしいけど、ゲストは時間に余裕を持ってやって来て、待合室で談笑して待つのがいいそうだ。遅れそうだと慌てて駆け込むのはマナー違反らしい。最低でも三〇分、できれば一時間前には会場入りし、場の雰囲気を使うことが必要だと。急がなくてもいいというのが貴族としては大切なんだそうだ。
そういえば時間がどうなっているのかというと、時計台がある。針には魔道具が組み込まれていてぼんやりと光るから、時計台さえ見えれば時間が分かる。
そして午前七時から午後八時までは一五分刻みで鐘が鳴る。大きい鐘は毎時〇分、小さな鐘が一五分、三〇分、四五分に鳴る。それくらいで十分なんだそうだ。鐘を鳴らす専門の役人がいるそうだ。俺の【時計】と近いスキルがあるんだろう。俺の【時計】はストップウォッチやタイマー、目覚まし機能がある。
この世界にも時計はあるけど、個人で持つことは少ない。貴族の家になら振り子時計は必ずあり、執事が毎朝時間を合わせるそうだ。懐中時計もあるけど非常に高価らしい。そのあたりも魔道具化できそうなんだけどな。
「俺はゲストの相手で手一杯になるだろう。進行の差配はよろしく頼む」
「お任せください」
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