元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
33 / 273
第四部:貴族になること

屋敷の内覧

しおりを挟む
 面接が終わると、ダヴィドの案内で屋敷の中を見て回ることになった。
「ここは本館ということになります。裏手には使用人のための別館が二棟ございますが、旦那様が出入りすることはないと思いますので省略させていただきます」
 屋敷は俺たちが使うための本館と二つの別館の合計三つが通路で繋がっている。別館が二つあるのは、普段からこの屋敷で働く使用人たちに加え、社交シーズンに領地からやって来た使用人たちを泊らせる必要もあったかららしい。以前はそれだけ使用人が多かったようだ。
「私も含めて使用人は別館の方を使わせていただきます。ですが急な用事に備えて、交代で一人はこの本館内で待機いたします」
「一人では寂しいだろうが……余裕がないか」
「はい、人が増えれば増やしていただければと」
 使用人たちは普段はその別館で寝泊まりするけど、夜に俺が何かを指示するかもしれないので、一人は本館で待機するらしい。もし俺が「食事を用意しろ」と夜中に言えば、その時間からでも用意するそうだ。そんなことは言わないけどな。そんな無茶を言われる辛さは分かっている。

 ◆◆◆

「このあたりは旦那様がお使いになると思います」
「男の社交のためか」
 俺が普段の仕事に使う執務室や遊戯室、応接室などがあった。執務室といっても仕事はないので、使い道があるかどうかだ。
 遊戯室にはビリヤードテーブルが置かれていた。それ以外にはチェスや将棋、トランプなどもできるようになっている。
 応接室は俺への来客があれば使うけど、パーティー以外では来客は少ないんじゃないか?

 ◆◆◆

「奥様方の社交の場はあちらになります」
 この先にはお茶会などで使用する部屋があるそうだ。
「日当たりがいいですね」
「座るのがもったいないような椅子ばかりなのですが」
「使っても使わなくてもいずれは傷むから、使ってやるのが椅子のためだ」
「そうなのですか?」
 もったいないと使わないままで痛んだり汚れたりするのが一番もったいない。家具は使ってこそ家具だ。飾りじゃない。
「お茶会は午後の日の高いうちに行いますので、日当たりが一番いい部屋を使うことになっております」

 ◆◆◆

「裏手には食堂、居間、風呂、トイレなどがございます」
 食堂はそのままの意味だけど、細長いテーブルが中央に置かれていた。居間にはソファやテーブルがある。
 風呂場は日本の銭湯のような感じだ。手前に脱衣所があって扉の向こうに洗い場と湯船が見えた。
「お風呂場につきましては後ほど説明いたします」
「説明が必要なものなのか?」
「習慣のようなものだとお考えください」
「それならその時に聞こう」
 風呂の習慣か。パッと見た感じならサウナとかはなかったはずだ。体を洗ってから入るとか、そういうことか?

 ◆◆◆

「旦那様や奥様方の寝室は三階にございます。三階は二階とほぼ同じでございますので、三階にご案内いたします」
 二階は通過して三階に向かう。天井が高いから階段の段数もそれなりにある。部屋に行くだけでいい運動になるな。
「そちらの部屋を旦那様の寝室とさせていただきました」
「何か理由でもあるのか?」
「南向きで、この階で一番広い部屋になっております」
「シュウジ様の部屋が一番広いのは当然でしょうね」
「どうせ集まることになりますからね」
「そうだな」
 いつ何のために集まるかは口にしない。言わぬが花だ。
「家具はすでに運び込んでおります」
「立派なものばかりだなあ……ってスイートか?」
「はい、こちらが居間部分、向こう側にベッドがございます」
 寝室という言葉だけを聞くと寝るだけの部屋と勘違いしそうだけど、じゃなくてある部屋なので、他にも色々な家具などがある。この部屋の場合、入り口の方はリビングに近く、奥がベッドのある空間になっているスイートに近い。机と椅子、本棚、ソファ、テーブル、タンスなど、一通り揃っている。魔道具のコンロもあるのでお湯を沸かすこともできる。
 机や本棚もあるなら執務室なんて必要ない……いや、俺がミレーヌやエミリアとアレコレしてる時にダヴィドが仕事を持ってきたらお互いに気まずいか。そうだな。分けた方がいい。

 ◆◆◆

「ミレーヌ様とエミリア様のお部屋はこちらかこちらということになります。旦那様のお部屋よりも少し小さめという以外は違いはほとんどございません」
「エミリアさんはどちらがいいですか?」
「ミレーヌ様が先に決めてください。お願いします。私は残った方で結構です」
 俺の部屋のすぐ近くの二部屋がミレーヌとエミリアの寝室になった。どちらも中は同じで、場所が右か左かの違いしかない。
 エミリアの荷物はこの後にでも入れよう。今は俺の【ストレージ】にある。
「お風呂は一階にしかございませんが、その代わりにシャワー室は各階にございます」
「汗を流せるのは楽でいいな」
「ここがシャワー室でございます」
 シャワー室がある場所は、俺の寝室の隣だった。いつ誰がそこにシャワー室を付けたのかは分からないけど、よく分かっているなあ。

 ◆◆◆

 二階は三階と同じらしいので、また一階に戻り、最後にホールの方へ回った。
「こちらが小ホールでございます。小さな催しならこちらです」
「小さな催しか。パーティーだよな?」
「はい。数十人程度の小規模な晩餐会などはこちらでしょう。そしてこの隣が大ホールでございます」
「数十人で小規模か。この大ホールは何百人くらい入れるんだ?」
 そこにはホテルのバンケットホールような煌びやかなホールがあった。
「五〇〇人程度は入れます。お屋敷の披露パーティーではここを使うことになります」
「ここかあ」
 王宮で歓迎パーティーのあったホールよりは狭いけど、これでもかなりの広さだ。豪華な体育館かって思うくらいだ。
「大ホールを使う際は、小ホールは何に使うんだ?」
「コートなどをお預かりする場所にする予定です」
 ダヴィドによると、玄関の馬車回しに乗り付けて、玄関ホールを通ったら小ホールでコートを預けて大ホールに、という流れらしい。
 晩餐会でも同じらしいけど、ゲストは時間に余裕を持ってやって来て、待合室で談笑して待つのがいいそうだ。遅れそうだと慌てて駆け込むのはマナー違反らしい。最低でも三〇分、できれば一時間前には会場入りし、場の雰囲気を使うことが必要だと。急がなくてもいいというのが貴族としては大切なんだそうだ。
 そういえば時間がどうなっているのかというと、時計台がある。針には魔道具が組み込まれていてぼんやりと光るから、時計台さえ見えれば時間が分かる。
 そして午前七時から午後八時までは一五分刻みで鐘が鳴る。大きい鐘は毎時〇分、小さな鐘が一五分、三〇分、四五分に鳴る。それくらいで十分なんだそうだ。鐘を鳴らす専門の役人がいるそうだ。俺の【時計】と近いスキルがあるんだろう。俺の【時計】はストップウォッチやタイマー、目覚まし機能がある。
 この世界にも時計はあるけど、個人で持つことは少ない。貴族の家になら振り子時計は必ずあり、執事ブティエが毎朝時間を合わせるそうだ。懐中時計もあるけど非常に高価らしい。そのあたりも魔道具化できそうなんだけどな。
「俺はゲストの相手で手一杯になるだろう。進行の差配はよろしく頼む」
「お任せください」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...