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第三部:勇者デビュー
歓迎パーティーでのスピーチ
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今から俺の歓迎パーティーがある。これは貴族に対する顔見せが目的だ。前回の謁見は国王との対面がメインだった。スピーチもするそうなので、一応話す内容は頭に入れておいた。
パーティー会場は、てっきりコース料理的なものかと思ったら、ビュッフェボードがそこかしこに並べられ、その周辺にテーブルと椅子が並べられるという、かなり盛大なシッティング・ビュッフェ形式だった。ビュッフェだけど席が決まっている形式のことだ。
さすがに王族のテーブルは違うみたいで、アドニス王と家族たちは一番いい席に座っていた。使用人が料理を運ぶんだろうな。
「女性は料理に口を付けないことも多く、食べ残しが相当量出ます。残ったものは使用人たちが口にしますが、それでも多すぎますので、大人数のパーティーは今ではこのような形式になりました」
疑問が顔にでも出たのだろうか、ルブラン侯爵が小さな声で教えてくれた。
「シュウジ様には後ほど、それぞれのテーブルを回って、そこにいる者たちに一言二言話しかけていただければと思います」
なるほど。結婚式のキャンドルサービスに近いのか。今後はよろしくという意味で、各テーブルに挨拶して回る。テーブルは……一〇〇はあるか?
「テーブルの数はかなりあるよな?」
「この国で最も大きな式典を行う会場ですので。全部で一二四家、七六四人が参加しております。予定をかなりオーバーいたしました」
「挨拶ついでにワインを注いで回った方がいいか?」
そういうマナーがあるかどうかは分からないけど、それもコミュニケーションの一つだろう。
「必ずしも必要はございませんが、その方がより親しみやすさは出せるかと思います。ですが人数が人数ですのでシュウジ様が大変なことになるかと」
一声かけるだけでもかなりの時間になるか。でも敵よりは味方が多い方がいい。
「了解。一家族一分で二時間。もっとかかるか。まあ上手くやるよ」
「よろしくお願いします」
◆◆◆
「まず、勇者であるシュウジ殿には、今後はラヴァル公爵を名乗っていただくことになった。この名前は聞いたことのある者もいるだろうが、かつては文武のどちらにも秀でた家柄である。そして家名はコワレを選ばれた」
まず国王から俺がラヴァル公爵になったことが伝えられた。
「またシュウジ殿はあまり仰々しく勇者様と呼ばれることを望まれていない。庶民からはまだしも、我々の間ではシュウジ・コワレ・ラヴァル公爵の方で呼んでいただきたいそうだ」
頷いている者も首を傾げている者もいる。勇者の方がステータス的には上だろうと思ったんだろう。あ、強さを表すステータスじゃなくて、社会的地位の方だ。
勇者は国王よりも上だとされている。でも爵位をもらえばフレージュ王国の一員になる。貴族ではなく勇者のままというのも考えたけど、あまりにも国王から勇者様勇者様と呼ばれるとむず痒くなる。
「そしてもう一つ、昼の謁見の際にも話を聞いた者は多いと思うが、シュウジ殿は『神は人の上に人を作らず』と仰った。彼はそれを実践すべく、召喚の聖女エミリアをいずれ妻に迎えたいと仰っている」
今回の立役者であるエミリアがいずれ俺に嫁ぐことが発表された。
エミリアが平民出身だということはそれなりに知られているようで、貴族たちからは「ほう」と「えっ?」という二種類の声が上がった。そりゃ納得する者もいれば驚く者もいるだろう。驚く方が多いかもしれないな。
でも俺はそれほど性格が良くない。もし自分の娘を押し込むためにエミリアをどうにかしようと思うなら覚悟をしてもらおう。この時はそんなことを考えていた。
俺の紹介が終わると、簡単にスピーチをすることになった。
「シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵だ。昼に俺の顔を見た者は多いと思う。あれからアドニス殿と話をし、できる限り対等な存在として扱ってもらうことにした」
まずはここで一呼吸おく。
「この国にはすでに異世界から何人もの先達がやって来ていると聞く。その中にはこの国のような貴族社会ではない政治形態の国から来た者もいたはずだ。俺もその一人になる。そうは言ってもこの国をどうこうしようというつもりはない。あくまで俺の心の持ちようの問題だ」
そう言って少し微笑む。「貴族社会が嫌なわけじゃないぞ、俺が慣れていないだけだぞ」という意味だ。勇者が貴族社会をぶっ壊すつもりだと勘違いされたら大変だ。
「アドニス殿から俺が公爵になると聞いた時、勇者としての立場は国王よりも上になり、そして貴族としての立場は国王よりも下になるという、この二つをどのように自分の中で納得させるか、それに悩んだ」
これも本当だ。「国王以上? ラッキー‼」ってふんぞり返って豪遊の日々を送るほど神経は図太くない。
「そして自分の中で出した結論だが、アドニス殿には俺の相談役になってもらうことにした。理由は簡単で、俺はこの国についてあまりにも知らなさすぎる。この国のことを知らないのに国の発展に貢献するというのは不可能だ。だから勇者と国王という立場を超え、できる限り対等な立場で意見を交わせればいい、俺はそう考えている」
全員にペコペコされると、聞きたいことも簡単には聞けなくなる。「え? こんなことも知らないの?」とか思われるのも嫌だ。プライドはゼロじゃない。
「最後になったが、このような機会を与えてくれたアドニス殿、そして集まってくれた皆には感謝したい。ではこれから各テーブルを回るので、短い時間にはなるが少しでも話をさせてもらいたい」
そのように話を終えると拍手が起きた。
パーティー会場は、てっきりコース料理的なものかと思ったら、ビュッフェボードがそこかしこに並べられ、その周辺にテーブルと椅子が並べられるという、かなり盛大なシッティング・ビュッフェ形式だった。ビュッフェだけど席が決まっている形式のことだ。
さすがに王族のテーブルは違うみたいで、アドニス王と家族たちは一番いい席に座っていた。使用人が料理を運ぶんだろうな。
「女性は料理に口を付けないことも多く、食べ残しが相当量出ます。残ったものは使用人たちが口にしますが、それでも多すぎますので、大人数のパーティーは今ではこのような形式になりました」
疑問が顔にでも出たのだろうか、ルブラン侯爵が小さな声で教えてくれた。
「シュウジ様には後ほど、それぞれのテーブルを回って、そこにいる者たちに一言二言話しかけていただければと思います」
なるほど。結婚式のキャンドルサービスに近いのか。今後はよろしくという意味で、各テーブルに挨拶して回る。テーブルは……一〇〇はあるか?
「テーブルの数はかなりあるよな?」
「この国で最も大きな式典を行う会場ですので。全部で一二四家、七六四人が参加しております。予定をかなりオーバーいたしました」
「挨拶ついでにワインを注いで回った方がいいか?」
そういうマナーがあるかどうかは分からないけど、それもコミュニケーションの一つだろう。
「必ずしも必要はございませんが、その方がより親しみやすさは出せるかと思います。ですが人数が人数ですのでシュウジ様が大変なことになるかと」
一声かけるだけでもかなりの時間になるか。でも敵よりは味方が多い方がいい。
「了解。一家族一分で二時間。もっとかかるか。まあ上手くやるよ」
「よろしくお願いします」
◆◆◆
「まず、勇者であるシュウジ殿には、今後はラヴァル公爵を名乗っていただくことになった。この名前は聞いたことのある者もいるだろうが、かつては文武のどちらにも秀でた家柄である。そして家名はコワレを選ばれた」
まず国王から俺がラヴァル公爵になったことが伝えられた。
「またシュウジ殿はあまり仰々しく勇者様と呼ばれることを望まれていない。庶民からはまだしも、我々の間ではシュウジ・コワレ・ラヴァル公爵の方で呼んでいただきたいそうだ」
頷いている者も首を傾げている者もいる。勇者の方がステータス的には上だろうと思ったんだろう。あ、強さを表すステータスじゃなくて、社会的地位の方だ。
勇者は国王よりも上だとされている。でも爵位をもらえばフレージュ王国の一員になる。貴族ではなく勇者のままというのも考えたけど、あまりにも国王から勇者様勇者様と呼ばれるとむず痒くなる。
「そしてもう一つ、昼の謁見の際にも話を聞いた者は多いと思うが、シュウジ殿は『神は人の上に人を作らず』と仰った。彼はそれを実践すべく、召喚の聖女エミリアをいずれ妻に迎えたいと仰っている」
今回の立役者であるエミリアがいずれ俺に嫁ぐことが発表された。
エミリアが平民出身だということはそれなりに知られているようで、貴族たちからは「ほう」と「えっ?」という二種類の声が上がった。そりゃ納得する者もいれば驚く者もいるだろう。驚く方が多いかもしれないな。
でも俺はそれほど性格が良くない。もし自分の娘を押し込むためにエミリアをどうにかしようと思うなら覚悟をしてもらおう。この時はそんなことを考えていた。
俺の紹介が終わると、簡単にスピーチをすることになった。
「シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵だ。昼に俺の顔を見た者は多いと思う。あれからアドニス殿と話をし、できる限り対等な存在として扱ってもらうことにした」
まずはここで一呼吸おく。
「この国にはすでに異世界から何人もの先達がやって来ていると聞く。その中にはこの国のような貴族社会ではない政治形態の国から来た者もいたはずだ。俺もその一人になる。そうは言ってもこの国をどうこうしようというつもりはない。あくまで俺の心の持ちようの問題だ」
そう言って少し微笑む。「貴族社会が嫌なわけじゃないぞ、俺が慣れていないだけだぞ」という意味だ。勇者が貴族社会をぶっ壊すつもりだと勘違いされたら大変だ。
「アドニス殿から俺が公爵になると聞いた時、勇者としての立場は国王よりも上になり、そして貴族としての立場は国王よりも下になるという、この二つをどのように自分の中で納得させるか、それに悩んだ」
これも本当だ。「国王以上? ラッキー‼」ってふんぞり返って豪遊の日々を送るほど神経は図太くない。
「そして自分の中で出した結論だが、アドニス殿には俺の相談役になってもらうことにした。理由は簡単で、俺はこの国についてあまりにも知らなさすぎる。この国のことを知らないのに国の発展に貢献するというのは不可能だ。だから勇者と国王という立場を超え、できる限り対等な立場で意見を交わせればいい、俺はそう考えている」
全員にペコペコされると、聞きたいことも簡単には聞けなくなる。「え? こんなことも知らないの?」とか思われるのも嫌だ。プライドはゼロじゃない。
「最後になったが、このような機会を与えてくれたアドニス殿、そして集まってくれた皆には感謝したい。ではこれから各テーブルを回るので、短い時間にはなるが少しでも話をさせてもらいたい」
そのように話を終えると拍手が起きた。
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