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第六章:領主三年目、さらに遠くへ
引っ越し
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「これが噂のドラゴネット建築術ですか。見ると聞くでは大違いですね」
「噂ですか? しかもその名前は何ですか?」
「噂になっていますよ。どんな屋敷でも一日で建つと。しかも特別な魔法は使わずに普通の職人が作業をしているだけだと」
目の前ではデニス殿の家がすでに完成されつつある。残すは屋根の部分だけだろうか。いつものように親方や職人たちが集まってきて、一気に組み上げて最後に屋根を組む。昔からハイデでやっていたやり方だ。
ドラゴネットになってからもそれは同じで、ギルド長になったフランツたちも結局はこのやり方を踏襲することになった。最初は一般的なやり方で建てようとしたらしいが、結局はこの町のやり方の方がある意味で楽だということが分かったそうだ。とりあえず資材と人が集まれば家が建つんだから、細かいことを考える手間が省けるだろう。
「そう言えば、他の職員はまだ来ないのですか?」
「そうですね。もう一人ディルクというのが来ますが、もう少し後になりそうですね。彼は家族連れですが、向こうの家を処分してからこちらに来るということです。彼の家も用意してもらえますか?」
「ええ、では住宅地に建てておきましょうか」
冒険者ギルドのハインリヒとロミーは単身用の家で暮らしている。家族用の家とは街区が違っている。。
「しかしこれなら明日にでも家具を入れられますね」
「大丈夫でしょう。ギルドの建物も明日にはできます」
「では近いうちに作業をすることにしましょう」
そこまで話をして、デニス殿に荷物がないことに気づいた。エクセンを通って来たのだから当然かもしれないが、屋敷の方に置いてきたのだろう。
「ところでデニス殿はエクセンの屋敷に一度戻りますか?」
「ええ、王都の屋敷を使うことはなくなりますので、全部エクセンの方に持ってきています。元々使用人は置いていませんでしたので、使っていないのも同じようなものでしたが」
あまり中央にいたくないというのがデニス殿とニコラ殿に共通する考えだったので、屋敷は彼が爵位を継いでからほとんど使っていなかったそうだ。それでも年に一度は王都に行って、屋敷が大丈夫かどうかを確認していたそうだ。
デニス殿は魔法が得意だから、掃除なども魔法を使ってある程度は済ませたそうだ。食事は外で取ればいい。そもそもそれほど長居しないのでそれで十分だったと。
「ようやくあの屋敷を使うことになったのにもったいないでしょう」
王都のマーロー男爵邸はうちの実家とは違ってきちんとした屋敷があった。だが使用人がいなかった。あの時もデニス殿が玄関で俺を出迎えてくれた。貴族の屋敷としてはかなり小さいな。
「それがですね、屋敷を探している人が現れたので譲ることにしました」
「譲るって……売ったのですか?」
「ええ、使わないなら使ってくる方に譲った方が屋敷も喜ぶというものです」
「まあそれはそうですね」
俺は屋敷を売ろうなんて考えなかったけど、デニス殿の場合は王都から離れすぎていたということがあるのかもしれないな。それに今でもニコラ殿は王都には行きたがらないらしい。よほど嫌な思い出があるんだろう。
「自分のせいかもしれませんが、貴族が減って増えましたからね。今でも屋敷の売買が活発に行われているようで」
新しい屋敷を買ったらそこを手直しして引っ越しして前の屋敷を売る。順番になるからなかなか空きがないのが現状だ。
「そのようですね。私の屋敷は狭いですが静かな場所にありますので、そこそこの値段で買い取ってもらえました」
「たしかに、うちとは違って静かな場所ですね」
うちは少し前までは貧民街の近くだった。その貧民街が解体されて新しい街区ができ、以前とは違って賑やかないなったのは間違いない。以前は悪い意味で静かだった。まともな人間は近づかなかったからな。
「ちなみに誰が買い取ったのか聞いてもいいですか?」
「もちろん大丈夫です。エルマー殿に縁のある方ですよ」
「私に縁のある?」
というとあのあたりかこのあたりか。
「タント準男爵かギュンスター準男爵か、そのあたりですか?」
「当たりです。ギュンスター準男爵です。なかなか屋敷が手に入らずに困っていたところ、ユリアーナから話を聞きましてね」
「ああ、ヴァルターからでしたか」
ヴァルターは俺の部下としては一足先に貴族になった。リンデンシュタール準男爵だ。それからロルフはタント準男爵、ハインツはギュンスター準男爵になった。ヴァルターが先になったのは、殿下を守って怪我をしたのが名誉の負傷ということで配慮されたようだ。
ロルフとハインツは二人とも去年の冬まで授爵がずれ込み、屋敷もなかなか見つからなかった。ロルフの方は何とかなったそうだが、ハインツの方は無理だった。より多く金を払ったとかそういうことではなく、本当にタイミングの問題のようだ。
そういう話を父親から聞いたユリアーナはそれをデニス殿に話し、ハインツが俺の知り合いだからということで屋敷を譲ることになった。その話が年末のことで、年末はニコラ殿とそのことを話し合い、つい先日屋敷を売ることが決まったそうだ。
「そういうことで、私はエクセンにいないのであればドラゴネットにいるしかなくなったわけです」
「断っておきますが、追い返したいとかそういうことではありませんからね? 驚いただけで」
デニス殿は変わり者だが魔法使いとしては一流だと言われている。逆に魔法使いで一流だから変わり者だと思われているというのもあるだろう。いずれにせよ魔道具を作るのであれば魔法の知識が必要で、デニス殿の知識がかなり役に立つのは間違いない。俺には大した魔法の知識はないから元から魔道具に関しては丸投げなわけだが、これでダニエルの負担が減ってくれれば言うことはないな。
「噂ですか? しかもその名前は何ですか?」
「噂になっていますよ。どんな屋敷でも一日で建つと。しかも特別な魔法は使わずに普通の職人が作業をしているだけだと」
目の前ではデニス殿の家がすでに完成されつつある。残すは屋根の部分だけだろうか。いつものように親方や職人たちが集まってきて、一気に組み上げて最後に屋根を組む。昔からハイデでやっていたやり方だ。
ドラゴネットになってからもそれは同じで、ギルド長になったフランツたちも結局はこのやり方を踏襲することになった。最初は一般的なやり方で建てようとしたらしいが、結局はこの町のやり方の方がある意味で楽だということが分かったそうだ。とりあえず資材と人が集まれば家が建つんだから、細かいことを考える手間が省けるだろう。
「そう言えば、他の職員はまだ来ないのですか?」
「そうですね。もう一人ディルクというのが来ますが、もう少し後になりそうですね。彼は家族連れですが、向こうの家を処分してからこちらに来るということです。彼の家も用意してもらえますか?」
「ええ、では住宅地に建てておきましょうか」
冒険者ギルドのハインリヒとロミーは単身用の家で暮らしている。家族用の家とは街区が違っている。。
「しかしこれなら明日にでも家具を入れられますね」
「大丈夫でしょう。ギルドの建物も明日にはできます」
「では近いうちに作業をすることにしましょう」
そこまで話をして、デニス殿に荷物がないことに気づいた。エクセンを通って来たのだから当然かもしれないが、屋敷の方に置いてきたのだろう。
「ところでデニス殿はエクセンの屋敷に一度戻りますか?」
「ええ、王都の屋敷を使うことはなくなりますので、全部エクセンの方に持ってきています。元々使用人は置いていませんでしたので、使っていないのも同じようなものでしたが」
あまり中央にいたくないというのがデニス殿とニコラ殿に共通する考えだったので、屋敷は彼が爵位を継いでからほとんど使っていなかったそうだ。それでも年に一度は王都に行って、屋敷が大丈夫かどうかを確認していたそうだ。
デニス殿は魔法が得意だから、掃除なども魔法を使ってある程度は済ませたそうだ。食事は外で取ればいい。そもそもそれほど長居しないのでそれで十分だったと。
「ようやくあの屋敷を使うことになったのにもったいないでしょう」
王都のマーロー男爵邸はうちの実家とは違ってきちんとした屋敷があった。だが使用人がいなかった。あの時もデニス殿が玄関で俺を出迎えてくれた。貴族の屋敷としてはかなり小さいな。
「それがですね、屋敷を探している人が現れたので譲ることにしました」
「譲るって……売ったのですか?」
「ええ、使わないなら使ってくる方に譲った方が屋敷も喜ぶというものです」
「まあそれはそうですね」
俺は屋敷を売ろうなんて考えなかったけど、デニス殿の場合は王都から離れすぎていたということがあるのかもしれないな。それに今でもニコラ殿は王都には行きたがらないらしい。よほど嫌な思い出があるんだろう。
「自分のせいかもしれませんが、貴族が減って増えましたからね。今でも屋敷の売買が活発に行われているようで」
新しい屋敷を買ったらそこを手直しして引っ越しして前の屋敷を売る。順番になるからなかなか空きがないのが現状だ。
「そのようですね。私の屋敷は狭いですが静かな場所にありますので、そこそこの値段で買い取ってもらえました」
「たしかに、うちとは違って静かな場所ですね」
うちは少し前までは貧民街の近くだった。その貧民街が解体されて新しい街区ができ、以前とは違って賑やかないなったのは間違いない。以前は悪い意味で静かだった。まともな人間は近づかなかったからな。
「ちなみに誰が買い取ったのか聞いてもいいですか?」
「もちろん大丈夫です。エルマー殿に縁のある方ですよ」
「私に縁のある?」
というとあのあたりかこのあたりか。
「タント準男爵かギュンスター準男爵か、そのあたりですか?」
「当たりです。ギュンスター準男爵です。なかなか屋敷が手に入らずに困っていたところ、ユリアーナから話を聞きましてね」
「ああ、ヴァルターからでしたか」
ヴァルターは俺の部下としては一足先に貴族になった。リンデンシュタール準男爵だ。それからロルフはタント準男爵、ハインツはギュンスター準男爵になった。ヴァルターが先になったのは、殿下を守って怪我をしたのが名誉の負傷ということで配慮されたようだ。
ロルフとハインツは二人とも去年の冬まで授爵がずれ込み、屋敷もなかなか見つからなかった。ロルフの方は何とかなったそうだが、ハインツの方は無理だった。より多く金を払ったとかそういうことではなく、本当にタイミングの問題のようだ。
そういう話を父親から聞いたユリアーナはそれをデニス殿に話し、ハインツが俺の知り合いだからということで屋敷を譲ることになった。その話が年末のことで、年末はニコラ殿とそのことを話し合い、つい先日屋敷を売ることが決まったそうだ。
「そういうことで、私はエクセンにいないのであればドラゴネットにいるしかなくなったわけです」
「断っておきますが、追い返したいとかそういうことではありませんからね? 驚いただけで」
デニス殿は変わり者だが魔法使いとしては一流だと言われている。逆に魔法使いで一流だから変わり者だと思われているというのもあるだろう。いずれにせよ魔道具を作るのであれば魔法の知識が必要で、デニス殿の知識がかなり役に立つのは間違いない。俺には大した魔法の知識はないから元から魔道具に関しては丸投げなわけだが、これでダニエルの負担が減ってくれれば言うことはないな。
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