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第六章:領主三年目、さらに遠くへ
王子と王女
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「カミル殿、随分と久しぶりだな」
「エヴシェン殿、壮健で何よりだ」
国王同士が挨拶をしている。一方でマルツェル王子はビアンカ殿下を見て固まっていた。
「それで今回、ノルト辺境伯のおかげでこのように対面できたわけだが、うちのビアンカとそちらのマルツェル王子には好きに話しをさせればいいだろうか?」
「そうだな。我々はこっちで話をしよう。マルツェル、ビアンカ王女と少し話をしてきたらどうだ?」
「は、はいっ」
「大使殿、二人の世話を任せてもいいだろうか?」
「はい、お任せください」
マルツェル王子は転移ドアで隣国に来たことにも驚いているが、ビアンカ殿下に会ったことで緊張しているらしい。王女はレオナルト殿下に似て美人だからな。
「マルツェル殿下、ビアンカ殿下、中庭に場所を用意しております。ご案内いたします」
「お願いします」
マルツェル殿下が俺に頭を下げる。俺はあくまで一貴族だから頭を下げられても困るんだが。まあむやみやたらと偉ぶるよりもいいか。
王城の中庭に向かうと椅子やテーブルが用意されていた。そしてそこにレオナルト殿下もいた。殿下がマルツェル王子に近づく。
「マルツェル殿、私はビアンカの兄でレオナルトという」
「王太子殿下ですね。同じくシエスカ王国王太子のマルツェルです」
「年も近いこと、今後はお互いに仲良くしていきたい。ビアンカを頼みます」
「もちろんです。先ほど初めてお会いしましたが、彼女の美しさに心を奪われました。彼女を生涯大切にすると誓いましょう」
「それは安心した。ビアンカ、ここを離れるのはもう少し先になるが、幸せにな?」
「はい」
俺とレオナルト殿下はこの場を女官たちに任せると静かに離れた。
「エルマー、お前から見てマルツェル王子はどうだ?」
「そうですね。性格は善良。ビアンカ殿下を大切になさることは間違いないでしょう」
「では国王としては?」
「おそらくですが……暴君にはならないと思います。エヴシェン王とのやり取りを見れば」
生真面目そうだという印象を受けた。ただ君主としての才能までは俺には分からない。優秀な補佐がいれば大丈夫だろうとは思うが。
「そうか。それなら頼もしい隣国が一つ増えたと思っておこう」
「何かお困りなことでも?」
今さらゴール王国と揉めることはない。揉めるとすればそれ以外か。
「いや、アルマン王国、ゴール王国、シエスカ王国、とりあえずこの三国は仲良くできるはずだ。だがその向こうとなるとよく分からない」
「ゴール王国も西側は微妙だそうですね」
「まあな。平和とは戦争と戦争の間のわずかな期間を表すそうだ」
救いがたい言葉だが真実なのだろう。ずっと平和など理想でしかない。
「この大陸を誰かが統一するとか、そのために各地で戦争が起きるとか、そういうことは考えたくない」
「平和が一番です」
「だがもしそうなった場合、我が国としてはゴール王国とシエスカ王国が盾になってくれる。いや、盾にせざるを得ない」
「はい」
アルマン王国は大陸の北側にある。国境を接しているのはゴール王国とシエスカ王国のみ。シエスカ王国の東にあるポウラスカ王国との間にはこの国をぐるっと取り囲む山があるので簡単には越えられない。
仮にこの大陸の外から攻め込まれたとしても、アルマン王国に到達する前に敵は兵力を消耗しているだろう。だからアルマン王国よりも大きな二国が南にあるのは好ましい。もし北の海側から攻められたとしても、あの盆地を簡単に抜けられるとは思わない。そういう意味でアルマン王国は国そのものが天然の要害となっている。
「できる限り両国とは良好な関係を保ちたい。その際だが……十分世話になっているお前にこれ以上迷惑はかけたくないところだが……もし他国から助力を求められた時、お前の家族の力を借りることはできるか?」
「家族の力ということは竜たちに協力を頼むということですか?」
殿下は申し訳なさそうな顔で頷いた。答える俺も申し訳ないと思うが、一番大切なのは家族だ。
「カレンとローサに関しては私の妻になりましたので無理のない範囲で頼むことは可能です。クラースとパウラはカレンが私の妻になったので協力してくれますが、この国に対しては特に思い入れがあるわけではありません」
「それは当然だな」
「それとローサの故郷から四人来ていますが、彼女たちもローサからドラゴネットの話を聞いて来ただけで、この国のために働いてくれるかというと微妙です。機嫌を損ねれば離れるだけでしょう」
あの四人は人と竜が一緒に暮らす場所が気になると言って来たわけだから微妙に違うかもしれないが、人の側に立ってくれるわけでもないだろう。
「まああまり頼りにしない方がいいということだな」
「はい。私も妻以外には無理は言えません。ですがもし他に手段がないということになれば頼むことだけはしてみます」
「その時は頼む。いまはその言葉だけでいい」
◆ ◆ ◆
そのようなことがあったのが先日のこと。それからエヴシェン王とマルツェル王子は国に戻った。俺もシエスカ王国に一緒に戻り、その後のことは役人たちに任せて帰国した。俺は結婚式そのものには関わらないからだ。俺が担当するのはビアンカ殿下がシエスカ王国に向かう道中での安全確保。護衛の兵士も多く同行するし、途中に領地を持つ貴族たちも努力はするだろうが、それでも絶対に安全とは言えないだろう。何もないのが一番だが。
「エヴシェン殿、壮健で何よりだ」
国王同士が挨拶をしている。一方でマルツェル王子はビアンカ殿下を見て固まっていた。
「それで今回、ノルト辺境伯のおかげでこのように対面できたわけだが、うちのビアンカとそちらのマルツェル王子には好きに話しをさせればいいだろうか?」
「そうだな。我々はこっちで話をしよう。マルツェル、ビアンカ王女と少し話をしてきたらどうだ?」
「は、はいっ」
「大使殿、二人の世話を任せてもいいだろうか?」
「はい、お任せください」
マルツェル王子は転移ドアで隣国に来たことにも驚いているが、ビアンカ殿下に会ったことで緊張しているらしい。王女はレオナルト殿下に似て美人だからな。
「マルツェル殿下、ビアンカ殿下、中庭に場所を用意しております。ご案内いたします」
「お願いします」
マルツェル殿下が俺に頭を下げる。俺はあくまで一貴族だから頭を下げられても困るんだが。まあむやみやたらと偉ぶるよりもいいか。
王城の中庭に向かうと椅子やテーブルが用意されていた。そしてそこにレオナルト殿下もいた。殿下がマルツェル王子に近づく。
「マルツェル殿、私はビアンカの兄でレオナルトという」
「王太子殿下ですね。同じくシエスカ王国王太子のマルツェルです」
「年も近いこと、今後はお互いに仲良くしていきたい。ビアンカを頼みます」
「もちろんです。先ほど初めてお会いしましたが、彼女の美しさに心を奪われました。彼女を生涯大切にすると誓いましょう」
「それは安心した。ビアンカ、ここを離れるのはもう少し先になるが、幸せにな?」
「はい」
俺とレオナルト殿下はこの場を女官たちに任せると静かに離れた。
「エルマー、お前から見てマルツェル王子はどうだ?」
「そうですね。性格は善良。ビアンカ殿下を大切になさることは間違いないでしょう」
「では国王としては?」
「おそらくですが……暴君にはならないと思います。エヴシェン王とのやり取りを見れば」
生真面目そうだという印象を受けた。ただ君主としての才能までは俺には分からない。優秀な補佐がいれば大丈夫だろうとは思うが。
「そうか。それなら頼もしい隣国が一つ増えたと思っておこう」
「何かお困りなことでも?」
今さらゴール王国と揉めることはない。揉めるとすればそれ以外か。
「いや、アルマン王国、ゴール王国、シエスカ王国、とりあえずこの三国は仲良くできるはずだ。だがその向こうとなるとよく分からない」
「ゴール王国も西側は微妙だそうですね」
「まあな。平和とは戦争と戦争の間のわずかな期間を表すそうだ」
救いがたい言葉だが真実なのだろう。ずっと平和など理想でしかない。
「この大陸を誰かが統一するとか、そのために各地で戦争が起きるとか、そういうことは考えたくない」
「平和が一番です」
「だがもしそうなった場合、我が国としてはゴール王国とシエスカ王国が盾になってくれる。いや、盾にせざるを得ない」
「はい」
アルマン王国は大陸の北側にある。国境を接しているのはゴール王国とシエスカ王国のみ。シエスカ王国の東にあるポウラスカ王国との間にはこの国をぐるっと取り囲む山があるので簡単には越えられない。
仮にこの大陸の外から攻め込まれたとしても、アルマン王国に到達する前に敵は兵力を消耗しているだろう。だからアルマン王国よりも大きな二国が南にあるのは好ましい。もし北の海側から攻められたとしても、あの盆地を簡単に抜けられるとは思わない。そういう意味でアルマン王国は国そのものが天然の要害となっている。
「できる限り両国とは良好な関係を保ちたい。その際だが……十分世話になっているお前にこれ以上迷惑はかけたくないところだが……もし他国から助力を求められた時、お前の家族の力を借りることはできるか?」
「家族の力ということは竜たちに協力を頼むということですか?」
殿下は申し訳なさそうな顔で頷いた。答える俺も申し訳ないと思うが、一番大切なのは家族だ。
「カレンとローサに関しては私の妻になりましたので無理のない範囲で頼むことは可能です。クラースとパウラはカレンが私の妻になったので協力してくれますが、この国に対しては特に思い入れがあるわけではありません」
「それは当然だな」
「それとローサの故郷から四人来ていますが、彼女たちもローサからドラゴネットの話を聞いて来ただけで、この国のために働いてくれるかというと微妙です。機嫌を損ねれば離れるだけでしょう」
あの四人は人と竜が一緒に暮らす場所が気になると言って来たわけだから微妙に違うかもしれないが、人の側に立ってくれるわけでもないだろう。
「まああまり頼りにしない方がいいということだな」
「はい。私も妻以外には無理は言えません。ですがもし他に手段がないということになれば頼むことだけはしてみます」
「その時は頼む。いまはその言葉だけでいい」
◆ ◆ ◆
そのようなことがあったのが先日のこと。それからエヴシェン王とマルツェル王子は国に戻った。俺もシエスカ王国に一緒に戻り、その後のことは役人たちに任せて帰国した。俺は結婚式そのものには関わらないからだ。俺が担当するのはビアンカ殿下がシエスカ王国に向かう道中での安全確保。護衛の兵士も多く同行するし、途中に領地を持つ貴族たちも努力はするだろうが、それでも絶対に安全とは言えないだろう。何もないのが一番だが。
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