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第五章:領主二年目第四部
年末の最後の仕事(一)
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今年も無事に終わりを迎えられそうだ。年末年始は大騒ぎだろう。
去年はとにかく形だけでも領地を整えるのが大変だった。今年は順調だったとは思わないが、去年に比べれば穏やかだったか。俺個人ではなく町の方はな。俺の方は最後の最後に大きな問題がやって来た。問題の深刻さのわりには賑やかさと慌ただしさが目立ったな。
◆ ◆ ◆
「旦那様~、お得なお話で~す」
「今ならオマケが付きますよ~」
カリンナとコリンナがミリヤムを連れていきなり来た。この二人はいきなりやって来る。二人はアンゲリカの酒場からカフェの方に移ったが、そちらはそれほど客は多くない。たまに暇を持て余して遊びに来る。ああ、まだ二人を抱いてはいない。何となくはぐらかしたまま、手を付けずにそのままだ。
「オマケなんていないから、その分だけ値下げしてくれ」
「正論を言われました~」
「強敵ですね~」
「それはいいから本題を話せ。ミリヤムが関係あるのか?」
ミリヤムは髪の毛をバッサリ短くした男の子のような髪型をしていた。聞けば自分で適当に切っていたらしい。あまりにもひどかったのでエルザに整えてもらったら少しはマシになった。
「はい~。実はミリヤムさんは~旦那様のような~逞しい男性になりたいそうです~」
「でも~、旦那様のような~逞しい男性に抱いてもらえるような~女性らしい女性になりたいそうです~」
「意味が分からないぞ」
逞しい男になりたいのに逞しい男性に抱かれたい?
「ミリヤム、どういうことだ?」
「ははははい、事情を説明しますと~」
ミリヤムは大公派の貴族の娘で、隔離されていた修道院から逃げてきたと。
「逃げてきた時点で大罪なんだが」
「そそそそれにも理由がありまして~」
ミリヤムは最初は修道院にいることに耐えきれずに逃げ出したらしい。逃げることが目的だった。だが逃亡生活に間に色々と考えることもあった。
生きていくというのは大変で、以前どれだけ自分が恵まれた生活をしていたのかが分かったと。ロクに外を歩いたことのない足で荒れた山道を歩いて足の裏をボロボロにした。雨の日に坂道を歩いて転び、ドロドロになった。他にも衣食住、それを得るだけでも大変だと分かった。
次に自分の父が大公派で、処刑されたことは納得しているらしい。父親がそれだけのことをしたのだろうというくらいは理解できているそうだ。でも原因となった俺の顔を一度見たかったそうだ。俺を殺したいとか、そういうことではないらしい。
そしてとりあえず過去はなかったことにして、安定して仕事ができる場所を考え、たまたまコジマたちの移民団と合流したのでこちらへ働きに来た。
「反省したからといって逃亡が許される理由にはならないが……」
俺がカリンナとコリンナを見ると、助けてあげてというお願いポーズをしていた。だがおやつが欲しい時もこのポーズをする。俺は子供の懇願には弱い。
「最終的に俺の一存ではどうにもならないんだが……。ちなみに父親は誰なんだ?」
「ノイフィーア伯爵ディーター・ベルツです」
「……ノイフィーア伯爵か。少し待ってくれ」
俺は急いで王都に行くことにした。もちろん博物館にいるアグネスを連れてくるためだ。
博物館のレストランにはラーエルとアグネスがいる。それぞれプレボルン大公、ノイフィーア伯爵という、大逆を企てた貴族のところで働いていた。
ラーエルやアグネスには罪はないが、主人がこの世から去ったので、それに巻き込まれるような形で路頭に迷いかけた。それからドラゴネットの城で働く使用人として雇われることになり、今は交互に王都の博物館のレストランにやって来ている。昨日から城にはラーエルがいるから、アグネスは王都だ。
◆ ◆ ◆
王都に[転移]で移動してレストランに入ると、アグネスが料理人たちを指導していた。この料理人たちは俺の使用人ではなく、知り合いになった貴族の屋敷で働く料理人たちだ。今は二人は料理人たちの指導を受け持っていた。
彼女たちが作る料理は純粋な貴族向けの料理ではない。アンゲリカの酒場も同じだったが、ドラゴネットには色々な地域の料理が集まっている。あの町はこの国のあちこちから集まった移民たちでできあがっているからだ。主に北東部の旧エクディン準男爵領の料理が多いが、それ以外にも様々な地域から集まっている。しかも貴族も平民も入り交じって。
貴族は珍しい料理をありがたがる。しかもうちの料理人であるラーエルとアグネスが作っているとなれば、仮に元が貴族向けの料理でなくても十分な質だ。レオナルト殿下も二人の腕を褒めた。博物館が開館する前には陛下たちを招いて内部を案内してレストランで食事もしてもらった。それも大きかった。
「アグネス、少し手を離せるか?」
「はい、お待ちください」
その場を部下の料理人に任せると、アグネスは俺に付いてきた。
「アグネス、今さら以前のことを思い出させるのも申し訳ないが、ノイフィーア伯爵の屋敷にいたミリヤムという娘の名前に聞き覚えはあるか?」
「はい、側室のレギーナ様のお嬢様ですが、それが……。もしかして?」
アグネスは今さら何をという顔をしたが、話すうちに何かに気づいたらしい。
「ああ。俺を頼ってというわけではないがドラゴネットに現れた。顔を確認してもらってもいいか?」
「はい。すぐに準備します」
急がせて申し訳ないが、博物館にいるアグネスを連れてドラゴネットの執務室に戻った。
「お、お嬢様⁉」
「ア、アグネス⁉」
この反応なら間違いないか。
「旦那様、こちらはミリヤム様で間違いありません」
「まだ社交を始めるかどうかという年齢だな?」
「はい。私が務めていた頃は、正式な社交の前に顔見せのためにいくつかの貴族のお屋敷に挨拶に出かけていたと記憶しています」
「そうか……。ミリヤム、アグネスが言ったことは間違いないか?」
「はははい。間違いありません」
「お嬢様、それにしてもどうしてそのようなお姿に……」
かつて仕えていた貴族の娘が、少年だと見間違いそうなくらいに髪を短くし、しかも平民以下の格好をしているとなれば、さすがに気になるだろう。
それからミリヤムはあらためて修道院に入ってからこれまでのことを俺たちに話してくれた。
去年はとにかく形だけでも領地を整えるのが大変だった。今年は順調だったとは思わないが、去年に比べれば穏やかだったか。俺個人ではなく町の方はな。俺の方は最後の最後に大きな問題がやって来た。問題の深刻さのわりには賑やかさと慌ただしさが目立ったな。
◆ ◆ ◆
「旦那様~、お得なお話で~す」
「今ならオマケが付きますよ~」
カリンナとコリンナがミリヤムを連れていきなり来た。この二人はいきなりやって来る。二人はアンゲリカの酒場からカフェの方に移ったが、そちらはそれほど客は多くない。たまに暇を持て余して遊びに来る。ああ、まだ二人を抱いてはいない。何となくはぐらかしたまま、手を付けずにそのままだ。
「オマケなんていないから、その分だけ値下げしてくれ」
「正論を言われました~」
「強敵ですね~」
「それはいいから本題を話せ。ミリヤムが関係あるのか?」
ミリヤムは髪の毛をバッサリ短くした男の子のような髪型をしていた。聞けば自分で適当に切っていたらしい。あまりにもひどかったのでエルザに整えてもらったら少しはマシになった。
「はい~。実はミリヤムさんは~旦那様のような~逞しい男性になりたいそうです~」
「でも~、旦那様のような~逞しい男性に抱いてもらえるような~女性らしい女性になりたいそうです~」
「意味が分からないぞ」
逞しい男になりたいのに逞しい男性に抱かれたい?
「ミリヤム、どういうことだ?」
「ははははい、事情を説明しますと~」
ミリヤムは大公派の貴族の娘で、隔離されていた修道院から逃げてきたと。
「逃げてきた時点で大罪なんだが」
「そそそそれにも理由がありまして~」
ミリヤムは最初は修道院にいることに耐えきれずに逃げ出したらしい。逃げることが目的だった。だが逃亡生活に間に色々と考えることもあった。
生きていくというのは大変で、以前どれだけ自分が恵まれた生活をしていたのかが分かったと。ロクに外を歩いたことのない足で荒れた山道を歩いて足の裏をボロボロにした。雨の日に坂道を歩いて転び、ドロドロになった。他にも衣食住、それを得るだけでも大変だと分かった。
次に自分の父が大公派で、処刑されたことは納得しているらしい。父親がそれだけのことをしたのだろうというくらいは理解できているそうだ。でも原因となった俺の顔を一度見たかったそうだ。俺を殺したいとか、そういうことではないらしい。
そしてとりあえず過去はなかったことにして、安定して仕事ができる場所を考え、たまたまコジマたちの移民団と合流したのでこちらへ働きに来た。
「反省したからといって逃亡が許される理由にはならないが……」
俺がカリンナとコリンナを見ると、助けてあげてというお願いポーズをしていた。だがおやつが欲しい時もこのポーズをする。俺は子供の懇願には弱い。
「最終的に俺の一存ではどうにもならないんだが……。ちなみに父親は誰なんだ?」
「ノイフィーア伯爵ディーター・ベルツです」
「……ノイフィーア伯爵か。少し待ってくれ」
俺は急いで王都に行くことにした。もちろん博物館にいるアグネスを連れてくるためだ。
博物館のレストランにはラーエルとアグネスがいる。それぞれプレボルン大公、ノイフィーア伯爵という、大逆を企てた貴族のところで働いていた。
ラーエルやアグネスには罪はないが、主人がこの世から去ったので、それに巻き込まれるような形で路頭に迷いかけた。それからドラゴネットの城で働く使用人として雇われることになり、今は交互に王都の博物館のレストランにやって来ている。昨日から城にはラーエルがいるから、アグネスは王都だ。
◆ ◆ ◆
王都に[転移]で移動してレストランに入ると、アグネスが料理人たちを指導していた。この料理人たちは俺の使用人ではなく、知り合いになった貴族の屋敷で働く料理人たちだ。今は二人は料理人たちの指導を受け持っていた。
彼女たちが作る料理は純粋な貴族向けの料理ではない。アンゲリカの酒場も同じだったが、ドラゴネットには色々な地域の料理が集まっている。あの町はこの国のあちこちから集まった移民たちでできあがっているからだ。主に北東部の旧エクディン準男爵領の料理が多いが、それ以外にも様々な地域から集まっている。しかも貴族も平民も入り交じって。
貴族は珍しい料理をありがたがる。しかもうちの料理人であるラーエルとアグネスが作っているとなれば、仮に元が貴族向けの料理でなくても十分な質だ。レオナルト殿下も二人の腕を褒めた。博物館が開館する前には陛下たちを招いて内部を案内してレストランで食事もしてもらった。それも大きかった。
「アグネス、少し手を離せるか?」
「はい、お待ちください」
その場を部下の料理人に任せると、アグネスは俺に付いてきた。
「アグネス、今さら以前のことを思い出させるのも申し訳ないが、ノイフィーア伯爵の屋敷にいたミリヤムという娘の名前に聞き覚えはあるか?」
「はい、側室のレギーナ様のお嬢様ですが、それが……。もしかして?」
アグネスは今さら何をという顔をしたが、話すうちに何かに気づいたらしい。
「ああ。俺を頼ってというわけではないがドラゴネットに現れた。顔を確認してもらってもいいか?」
「はい。すぐに準備します」
急がせて申し訳ないが、博物館にいるアグネスを連れてドラゴネットの執務室に戻った。
「お、お嬢様⁉」
「ア、アグネス⁉」
この反応なら間違いないか。
「旦那様、こちらはミリヤム様で間違いありません」
「まだ社交を始めるかどうかという年齢だな?」
「はい。私が務めていた頃は、正式な社交の前に顔見せのためにいくつかの貴族のお屋敷に挨拶に出かけていたと記憶しています」
「そうか……。ミリヤム、アグネスが言ったことは間違いないか?」
「はははい。間違いありません」
「お嬢様、それにしてもどうしてそのようなお姿に……」
かつて仕えていた貴族の娘が、少年だと見間違いそうなくらいに髪を短くし、しかも平民以下の格好をしているとなれば、さすがに気になるだろう。
それからミリヤムはあらためて修道院に入ってからこれまでのことを俺たちに話してくれた。
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