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第五章:領主二年目第四部
シビラと家族の諸々
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「私も乗ってみたいです」
「今のところは荷物だけだぞ」
「私のことはエルマー様の私物とでも考えてください。どのように扱われてもかまいません」
うちの領地から飛び立つペガサスを見てそう言ったのはシビラだった。ペガサス便を使ってヴァイスドルフ男爵領のバーランとの間で物資の輸送をすることに決まったからだ。
「そのうち乗せてやるからもう少し待ってくれ」
「絶対ですよ? 妻に嘘はつきませんよね?」
「ああ、嘘はつかない……って、まだ仮の婚約の段階だろう」
「近日中に正式に婚約者になると母から聞きました」
「……」
シビラについては母親のニコラ殿から先日手紙を受け取った。「そろそろ頃合いではありませんか? 夫もそう申しております」という催促の手紙が届いた。
シビラとは仮の婚約をしている。これは婚約者がいるということを周囲に知らしめるだけのもので、法的な拘束力などはない。両家が仲がいいということをアピールするためだけのものだ。場合によっては生まれる前から仮の婚約者がいる場合もある。
シビラの場合は父であるマーロー男爵のデニス殿がおかしな貴族に近寄られないようにと配慮して俺の仮の婚約者になったが、すでに一端の妻のような発言が増えてきた。
「シビラ、俺の周りが賑やかになったのは事実だが、それでお前を蔑ろにするつもりはない。焦らなくてもいいんだ」
「……それは……分かってはいるのですが……」
シビラはまだ九歳。何も焦る必要はないが、俺の妻がここしばらくで一気に増えた。シビラはいつの間にか城に部屋を持っていて、普段は料理や針仕事を学んでいて俺の前には姿を現さないが、週の半分はこちらにいる。場内の雰囲気を感じているのだろう。
「いずれ俺の妻になるつもりがあるなら目を閉じてくれ。俺がお前を蔑ろにしていないという証拠を見せよう」
「はい」
目を閉じたシビラの両肩に手を置くと、俺は彼女に口づけをした。しばらく唇を重ねたままにして、それから彼女を両腕で抱きしめた。
「エルマー様……」
「俺はお前をいずれは妻として迎え入れる。それまで正式な婚約者としてここにいてもいい。だが妻となるにはもう少し待ってくれ。その若さでは子供を作ることはできない。万が一できたとしても出産の時に命を落とす可能性もある。俺はお前にそんな危険なことはさせたくない」
社交に出れば大人扱いされる。シビラは社交にでは出ていないが、すでにその年齢だ。だが子供を産むには早すぎる。
「……分かりました。その時を楽しみにしています」
「ああ。その頃にはリーヌスも成人するだろう。それにデニス殿も一息つけるはずだ」
俺がそう言うと、シビラは微妙な顔をした。
「あの件はどうなるのでしょうか?」
「まあ問題ないだろう。二人とも現状を受け入れているようだからな」
「そう考えるとエルマー様はとても大変なのではないでしょうか?」
ようやく分かったか?
「ああ、何も気にしていないように見えるかもしれないが、実は大変なんだ。今この瞬間にも一人増えたからな」
「申し訳ありません」
シビラが頭を下げるが、彼女が悪いことをしたわけじゃない。俺が悪いのでもないはずだ。強いて言えば状況のせいか?
彼女が色々と考えてしまったのは、俺にここしばらくで何人も妻が増えたこと、そして父親に側室ができたこと、そんな大きな出来事があったからだ。
彼女の父親であるマーロー男爵のデニス殿は魔法省の部長をしている。おそらく数年後には局長あたりになるだろうとの噂だ。
魔法省は魔法や魔道具について分析して、その知識を広めるのが役割だ。うちにはダニエル、ヨーゼフ、ブリギッタという三人の魔道具職人がいる。その三人によって領地の様々な場所に魔道具が設置されている。魔道具に関してはかなり進んだ領地だと言えるだろう。
魔道具作りで必要になる魔石、あるいは竜の鱗、爪、牙などの素材は豊富にある。一度に放出するのと危険だから絶対にしないようにと陛下とレオナルト殿下に言われているから少しずつ販売している。魔法省にも一部を納入しているはずだ。
俺にはデニス殿の昇進を後押しするつもりはないが、俺と縁があるというだけで自然とそうなる可能性があった。そして実際にそうなった。
デニス殿は穏やかな女性が好みだった。だからニコラ殿に惚れた。ニコラ殿は上昇志向のある貴族は嫌だった。だから穏やかなデニス殿に惚れた。この二人の利害と性格が恐ろしいほどの確立で一致して結婚したわけだ。
そして二人は結婚するとマーロー男爵領に引きこもった。先代のマーロー男爵が中央から嫌われて領地替えをされたこともあり、デニス殿は中央には近寄らないでおこうと考えたからだ。その間にシビラとリーヌスが生まれた。だが魔法省の人手不足でデニス殿は王都で仕事をすることになった。
デニス殿は魔法使いとしては優秀で温厚だが魔法使いだ。つまり魔法馬鹿だ。彼は俺と縁を持つことで子供たちが危険な目に遭わないようにと思ったようだが、自分については二の次だったのかもしれないし、もしかしたら想像していなかったのかもしれない。先日側室の話が舞い込んでしまった。
デニス殿は側室なんて欲しくない。だが周囲からは側室を持つようにと言われる。男爵以上なら持たない方が少ないと言われる。それに地位も地位だ。
デニス殿は自分の一存では決められないとニコラ殿に相談した。そのニコラ殿は問題ないと言った。リーヌスが跡継ぎであるならという条件で。
先日俺は王都でデニス殿とその側室に会ったが、彼女の名前を聞いて俺は何らかの意図を感じた。もちろん計画したのは陛下かレオナルト殿下のどちらかだろう。彼女はリンデンシュタール準男爵の娘のユリアーナだった。リンデンシュタール準男爵、つまりかつて俺の部下だったヴァルターの娘だった。
「今のところは荷物だけだぞ」
「私のことはエルマー様の私物とでも考えてください。どのように扱われてもかまいません」
うちの領地から飛び立つペガサスを見てそう言ったのはシビラだった。ペガサス便を使ってヴァイスドルフ男爵領のバーランとの間で物資の輸送をすることに決まったからだ。
「そのうち乗せてやるからもう少し待ってくれ」
「絶対ですよ? 妻に嘘はつきませんよね?」
「ああ、嘘はつかない……って、まだ仮の婚約の段階だろう」
「近日中に正式に婚約者になると母から聞きました」
「……」
シビラについては母親のニコラ殿から先日手紙を受け取った。「そろそろ頃合いではありませんか? 夫もそう申しております」という催促の手紙が届いた。
シビラとは仮の婚約をしている。これは婚約者がいるということを周囲に知らしめるだけのもので、法的な拘束力などはない。両家が仲がいいということをアピールするためだけのものだ。場合によっては生まれる前から仮の婚約者がいる場合もある。
シビラの場合は父であるマーロー男爵のデニス殿がおかしな貴族に近寄られないようにと配慮して俺の仮の婚約者になったが、すでに一端の妻のような発言が増えてきた。
「シビラ、俺の周りが賑やかになったのは事実だが、それでお前を蔑ろにするつもりはない。焦らなくてもいいんだ」
「……それは……分かってはいるのですが……」
シビラはまだ九歳。何も焦る必要はないが、俺の妻がここしばらくで一気に増えた。シビラはいつの間にか城に部屋を持っていて、普段は料理や針仕事を学んでいて俺の前には姿を現さないが、週の半分はこちらにいる。場内の雰囲気を感じているのだろう。
「いずれ俺の妻になるつもりがあるなら目を閉じてくれ。俺がお前を蔑ろにしていないという証拠を見せよう」
「はい」
目を閉じたシビラの両肩に手を置くと、俺は彼女に口づけをした。しばらく唇を重ねたままにして、それから彼女を両腕で抱きしめた。
「エルマー様……」
「俺はお前をいずれは妻として迎え入れる。それまで正式な婚約者としてここにいてもいい。だが妻となるにはもう少し待ってくれ。その若さでは子供を作ることはできない。万が一できたとしても出産の時に命を落とす可能性もある。俺はお前にそんな危険なことはさせたくない」
社交に出れば大人扱いされる。シビラは社交にでは出ていないが、すでにその年齢だ。だが子供を産むには早すぎる。
「……分かりました。その時を楽しみにしています」
「ああ。その頃にはリーヌスも成人するだろう。それにデニス殿も一息つけるはずだ」
俺がそう言うと、シビラは微妙な顔をした。
「あの件はどうなるのでしょうか?」
「まあ問題ないだろう。二人とも現状を受け入れているようだからな」
「そう考えるとエルマー様はとても大変なのではないでしょうか?」
ようやく分かったか?
「ああ、何も気にしていないように見えるかもしれないが、実は大変なんだ。今この瞬間にも一人増えたからな」
「申し訳ありません」
シビラが頭を下げるが、彼女が悪いことをしたわけじゃない。俺が悪いのでもないはずだ。強いて言えば状況のせいか?
彼女が色々と考えてしまったのは、俺にここしばらくで何人も妻が増えたこと、そして父親に側室ができたこと、そんな大きな出来事があったからだ。
彼女の父親であるマーロー男爵のデニス殿は魔法省の部長をしている。おそらく数年後には局長あたりになるだろうとの噂だ。
魔法省は魔法や魔道具について分析して、その知識を広めるのが役割だ。うちにはダニエル、ヨーゼフ、ブリギッタという三人の魔道具職人がいる。その三人によって領地の様々な場所に魔道具が設置されている。魔道具に関してはかなり進んだ領地だと言えるだろう。
魔道具作りで必要になる魔石、あるいは竜の鱗、爪、牙などの素材は豊富にある。一度に放出するのと危険だから絶対にしないようにと陛下とレオナルト殿下に言われているから少しずつ販売している。魔法省にも一部を納入しているはずだ。
俺にはデニス殿の昇進を後押しするつもりはないが、俺と縁があるというだけで自然とそうなる可能性があった。そして実際にそうなった。
デニス殿は穏やかな女性が好みだった。だからニコラ殿に惚れた。ニコラ殿は上昇志向のある貴族は嫌だった。だから穏やかなデニス殿に惚れた。この二人の利害と性格が恐ろしいほどの確立で一致して結婚したわけだ。
そして二人は結婚するとマーロー男爵領に引きこもった。先代のマーロー男爵が中央から嫌われて領地替えをされたこともあり、デニス殿は中央には近寄らないでおこうと考えたからだ。その間にシビラとリーヌスが生まれた。だが魔法省の人手不足でデニス殿は王都で仕事をすることになった。
デニス殿は魔法使いとしては優秀で温厚だが魔法使いだ。つまり魔法馬鹿だ。彼は俺と縁を持つことで子供たちが危険な目に遭わないようにと思ったようだが、自分については二の次だったのかもしれないし、もしかしたら想像していなかったのかもしれない。先日側室の話が舞い込んでしまった。
デニス殿は側室なんて欲しくない。だが周囲からは側室を持つようにと言われる。男爵以上なら持たない方が少ないと言われる。それに地位も地位だ。
デニス殿は自分の一存では決められないとニコラ殿に相談した。そのニコラ殿は問題ないと言った。リーヌスが跡継ぎであるならという条件で。
先日俺は王都でデニス殿とその側室に会ったが、彼女の名前を聞いて俺は何らかの意図を感じた。もちろん計画したのは陛下かレオナルト殿下のどちらかだろう。彼女はリンデンシュタール準男爵の娘のユリアーナだった。リンデンシュタール準男爵、つまりかつて俺の部下だったヴァルターの娘だった。
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