ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
274 / 345
第五章:領主二年目第四部

手合わせ

しおりを挟む
「はあっ……はあっ……。さすがは竜騎士と呼ばれるお方。感服いたしました」
「なかなかいい腕だな……って、そんな言い方は初めて聞いたぞ」

 コジマが俺と手合わせをしたいと言ったので、三〇分ほど木剣を使って剣を打ち合わせた。彼女は俺の話を父から聞いて俺に興味を持ったが実際に俺が戦ったのを見たことはなかったので、一度見てみたいということだった。

 とりあえず太刀筋を見た限りでは、一通りの技術は身に付けているようだ。姿勢がいいのでバランスを崩すことは少なく、足運びも問題ない。体力もそこそこある。

 それにしても竜騎士か。俺が戦場にクラースの頭に乗って駆けつけた、あの時の状況だろうな。ちなみにその元となっているのは竜騎兵だろう。

 竜騎兵というのは、火属性の魔法を付与した剣や槍や杖など、貴重な魔道具を装備した部隊のことだ。竜騎兵という名前だが、騎兵のこともあれば歩兵のこともある。武器から火炎が噴き出す様子を竜に例えて竜騎兵と呼ぶようだ。そこから竜に乗る騎士のことを竜騎士だと勘違いするんだろう。だが今はそこに触れるのは辞めるか。

「太刀筋は悪くはないが、素直すぎるな」

 コジマの剣は重い。当たれば敵を一撃で打ち倒せるだろう。当たればな。

よこしまは捨てて正道を旨とすべしと教わったのですが」
「それはクリストフ殿の教えだな?」
「はい。私の師は父になります」

 マルクブルク辺境伯クリストフ・ヘルツフェルト。一言で言えば老練で剛毅。ただしここまで真っ直ぐじゃない。正道だけではゴール王国軍を防ぎきることはできなかっただろう。

「俺にはクリストフ殿がどう教えていたのかは分からないが、それはおそらく基礎の話だろう。お前の剣はもう基礎の段階じゃない。そろそろ実践的な段階に進んでもいいだろう」
「そうなのですか?」
「ああ。今のままでは騎士とは打ち合えるだろうが、傭兵や冒険者が相手では足元をすくわれる可能性もある。正道は重要だが、それにこだわりすぎては意味がない。死んだらそれで終わりだ」
「はい。肝に銘じます。指導の続きはベッドの中でお願いします」
「それはこの場で言わなくてもいいんじゃないか?」

 ここには他の兵士たちもいる。俺と二人きりってわけじゃない。

 先日コジマを受け入れることに決めて抱いた。そしてマルクブルク辺境伯に宛てて手紙を送った。返事はまだ来ていないが、おそらく文面は予想できる。

 俺も男なので、それなりに欲求はある。話に聞く限り、普通の男よりもかなり精力が強いようだ。だが際限なく妻を迎え入れられるかといえばそんなことはない。精力が強いのと懐が大きいのとは関係がないだろう。だから困っている。

 コジマが率いてきたゴール王国の貴族の娘たちだ。七人はヘルガに向かって暴言を吐いた婦人の娘たち。残りは希望者らしい。最初はなぜここまで来ようと思ったのかは分からなかったが、希望者が二八人もいた。合計三五人。

 これが妻や愛人が増えて手放しで喜べるような性格ならいいが、残念ながら俺はそこまで厚顔じゃない。だから基本的には役人のように働いてもらうことになったが、オデットのように俺個人に興味があってやって来た娘も多い。それをどうするかだ。

 一応一人一人話は聞いた。その結果、四つの組があることが分かった。

 まず一つ目は身内の罪を償う娘たちだ。ここに来なければならなかった七人のことだから分かりやすい。来なければ実家や親戚の家が潰される。だから来るしかなかった。だが来てみたら意外に過ごしやすいというのが彼女たちの感想だ。

 ゴール王国はアルマン王国に比べて伝統がある。伝統があるということは全てが格式張っているということで、何をするにも礼儀を煩く言われる。身分の上下にも厳しい。当然ながら権力闘争もあり、自分たちは所詮は手駒の一つだと子供の頃から考えていた。

 彼女たちは母親や叔母や従姉妹の失態を償うためにここにやって来たわけだが、ここには面倒な上下関係はほとんどない。貴族の娘としては扱ってもらえなくなるが、それでも扱いは役人と同じになる。数日も経てばかなり顔色は良くなった。

 まあ少々気が緩みすぎかもしれないが、たまに俺に色目を使いつつも真面目に自分たちのなすべきことをしている。

 二つ目は強制はされなかったものの、ここへ来るようにと言われた娘たちだ。実家の役に立てと言われたわけだ。

 彼女の親たちはドラゴネットに来れば鱗などの素材が手に入り安くなるのではないかと考えたわけだ。それは間違いじゃないだろう。鱗はまだ高価だが、買おうと思えば買える。さすがにゴール王国まで売りに行くことはないから、金を貯めて買ってもいいだろう。

 彼女たちは強制されたわけではないが、親の指示に逆らうのは難しいだろう。そういう娘も役人として扱うことにした。

 その中に一人、アナイスという令嬢がいる。どうもオデットと仲がいいようで、今でも二人揃って声を出しながら、向こうの方を走っている。体を動かすのが好きなようだな。

 三つ目は親には強制されなかったものの、ここに来て俺と実家との繋ぎ役になることが実家のためになると応募した娘たちだ。気持ちとしては二番目の娘たちとほぼ同じ。自主的かそうでないかの違いだけで、最終的な目的は同じだ。

 残った四つ目は俺に興味があってやって来た娘たちで、これが少々厄介だ。側室であれ愛人であれ、俺と関係を持つことを目的としているので、俺に積極的にアピールしてくる。そのアピールの仕方もゴール王国風なのかやや遠回しだから、俺としても一瞬どう受け止めるべきか困ることがある。その点ではオデットは分かりやすくていい。

「私の体は我が君のために存在します。いかようにもお使いください。いかに激しくされようがそれに耐えられるように自らを鍛えております。アナイスさんも同じはずです」

 そう言ってボタンに手をかけるから始末が悪い。文字通り真っ直ぐだ。ちなみに横にいたアナイスは「仝仝⁉」とおかしな声を上げた。

 オデットに「これ以上相手は必要ない」と言いかけたら地獄の底を覗いたかのような顔をしかけたので、あまり拒否するわけにもいかない。「今は不要だがその時になれば頼む」と誤魔化しつつ過ごしているが、どうなるか。

 年齢のわりには小柄で、カレンよりも頭半分くらい低いだろう。俺としては子供を抱くように思えてしまう。これでヒキガエルフロッシュゲロー伯爵のような小児性愛の傾向があるなら喜んで抱いたんだろうけど、俺にはその趣味はない。

 コジマだけじゃなくゴール王国から来た娘たちの対処が難しい。人を使うのは難しいと思ってはいたが、これほど厄介な状況になるとは思ってもみなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
25歳の春、転生者クルシュは祖国を出奔する。 彼の前世はしがない書店経営者。バトル漫画を何よりも愛する、どこにでもいる最強厨おじさんだった。 幼い頃の夢はスーパーヒーロー。おじさんは転生した今でも最強になりたかった。 その夢を叶えるために、クルシュは大陸最大の都キョウを訪れる。 キョウではちょうど、大陸最強の戦士を決める竜将大会が開かれていた。 クルシュは剣を教わったこともないシロウトだったが、大会に出場することを決める。 常識的に考えれば、未経験者が勝ち上がれるはずがない。 だがクルシュは信じていた。今からでも最強の座を狙えると。 事実、彼の肉体は千を超える不活性スキルが眠る、最強の男となりうる器だった。 スタートに出遅れた、絶対に夢を諦めないおじさんの常勝伝説が始まる。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

処理中です...