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第四章:領主二年目第三部
カレンの出産
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先日からカレンが腹に違和感を感じ始めたそうなので、間もなく出産かと城の中が慌ただしくなった。
「痛くはないけど、何となく落ち着かないわね」
「お婆様も人の姿でしか産んだことがないらしいけど、意外にすんなり産まれるそうよ。スルッとだって。私もそうやって母から生まれたそうだから大丈夫よ」
「ありがとう。それならいいんだけど」
ローサがカレンに付いてくれている。ローサは出産経験はないそうだが、身内に竜はたくさんいたそうなので、話には聞いているそうだ。竜は概ね安産だと。
「私にアドバイスできればよかったのですが」
「産み方が二種類あるから、そればっかりはどうしようもないよなあ」
パウラはカレンを産んでいるが卵で産んでいるので今回は勝手が違って分からないそうだ。
「エルマー様、カレン様なら大丈夫ですよ。そもそも体力も丈夫さも人とは違いますから」
「まあそうは言うけどな」
そうカサンドラが保証してくれるが、だからと言って「はいそうですか」と安心できるものではない。
こういう時に男はダメだと言われるそうだが、本当にそうだな。何をしていいのか全然分からない。何もしなくてもいいのかもしれないが、何かをしていないと落ち着かない。
「旦那様~、向こうで新しく仕込みませんか~?」
「出る分を入れましょ~」
「悪いがお前たちの相手をしている心の余裕がなくてな。うっかりその尻尾を掴んで引き抜くかもしれないぞ」
「そ、それは痛いかな~」
「大人しくしてま~す」
ダメだな。冷静に返す余裕がない。
「旦那様、少しよろしいですか?」
「どうした?」
「エルザ様とアルマ様も陣痛を感じ始めました」
「こっちもか」
陣痛が始まったからといってすぐに出産するわけではないそうだ。俺にはそのあたりは分からないから産婆たちに任せるしかない。
隣の部屋にエルザがいるので、今度はそちらに顔を出す。
「エルザ、どうだ?」
「はい、何となくお腹を押されるような感じが少しずつ強くなっています」
「お姉様、私が付いています。さあ、元気な赤ちゃんをお産みになってください」
「レティシア、お前は産婆じゃないだろう。その場所を空けろ。横に回って手を握るくらいにしておけ」
「ああん、お義兄様」
レティシアの首根っこを掴んで移動させた。この義妹はエルザの双子の妹だけあって似たところが多いが、育ちのせいで全く違うこともある。ここに来てからは特にそれが顕著だ。俺がゴール王国でのレティシアをほとんど知らないからかもしれないが……どう言ったらいいのか……チヤホヤされたくない傾向がある。要するに王女扱いしてほしくないようだ。だからそれなりにぞんざいな扱いになっている。
ぞんざいな扱いをすればするほど喜ぶので、俺としてもどう扱っていいのかまだよく分かっていない。とりあえず邪魔者扱いすると「ああん」と喜ぶ変態だった。
アルマの部屋も覗いてみたが、エルザほどはつらい顔はしていない。
「アルマ、具合はどうだ?」
「痛いわけじゃないですけど、違和感が強くなってきました」
「俺には何もできないから、産婆たちに頼ってくれ。俺は外にいるから」
「はいっ、頑張ります」
俺はお産の邪魔になるので部屋を出る。出たからと言って何かすることがある訳でもない。だがウロウロと歩き回ってもみんなの邪魔になるだけだろうから大人しく座っておく。
「エルマー様、こういう時には男は邪魔をしないようにじっとしているものです」
ハンスが茶を渡してくれた。これは香草を使ったものか。大きく息を吸い込むとスッと落ち着かせてくれるようだ。
「頭では分かっているんだが。ままならないものだな」
「トビアス様も同じようなご様子でした。落ち着かなさそうに部屋を歩き回ってミヒャエラ様に怒られていましたよ」
「父ならそうだろうなあ」
父は豪胆な性格だったが、愛妻家だったという話だ。オロオロウロウロして叱られた姿が頭に浮かぶ。こう言っている俺も似たようなものだろうが。
◆ ◆ ◆
最初の赤ん坊の声が聞こえたのはカレンの顔を見てから二時間ほど経ってからだった。俺は部屋に入れないので別室で茶を飲んでいる。そろそろ腹がチャプチャプし始めた頃だ。
部屋に入ると産湯を使った赤ん坊をカレンが抱いていた。男児らしい。
「うーん、本当にスルッと出たわ」
「無事に生まれてお前も問題ないならそれが一番だ」
「体調は全然問題ないわね」
「でも無理はするな。何があるか分からないからな」
「うん」
俺よりも頭二つくらい小さいのに赤ん坊がずっと腹の中にいたのかと思うと、母親というのは大変だ。体を動かすのが好きなカレンだから、注意はしても明日くらいから動き回るだろう。おそらく竜の姿で空を飛んだり子供たちを手に乗せたり、そんなことをするんじゃないかと思う。やりすぎなければいいけどな。
「そうだ、ヨアヒム」
「はい、ここに」
「跡取りが生まれたことを領内に告知してくれ。明日から無料で肉と酒を振る舞うと。仕事を休める者は休み、そうでないなら交代で参加するようにと」
「畏まりました。予定通り、三日でよろしいですか?」
「そうだな。今後のこと次第ではもう少し長引かせるかもしれない」
「ではそのように伝えます」
その後のことというのはエルザとアルマのことだ。その間に二人にも生まれれば、そのお祭り騒ぎを伸ばしてもいい。まだまだ暑い日が続く。酔って外で寝ても風邪も引かないだろう。
「痛くはないけど、何となく落ち着かないわね」
「お婆様も人の姿でしか産んだことがないらしいけど、意外にすんなり産まれるそうよ。スルッとだって。私もそうやって母から生まれたそうだから大丈夫よ」
「ありがとう。それならいいんだけど」
ローサがカレンに付いてくれている。ローサは出産経験はないそうだが、身内に竜はたくさんいたそうなので、話には聞いているそうだ。竜は概ね安産だと。
「私にアドバイスできればよかったのですが」
「産み方が二種類あるから、そればっかりはどうしようもないよなあ」
パウラはカレンを産んでいるが卵で産んでいるので今回は勝手が違って分からないそうだ。
「エルマー様、カレン様なら大丈夫ですよ。そもそも体力も丈夫さも人とは違いますから」
「まあそうは言うけどな」
そうカサンドラが保証してくれるが、だからと言って「はいそうですか」と安心できるものではない。
こういう時に男はダメだと言われるそうだが、本当にそうだな。何をしていいのか全然分からない。何もしなくてもいいのかもしれないが、何かをしていないと落ち着かない。
「旦那様~、向こうで新しく仕込みませんか~?」
「出る分を入れましょ~」
「悪いがお前たちの相手をしている心の余裕がなくてな。うっかりその尻尾を掴んで引き抜くかもしれないぞ」
「そ、それは痛いかな~」
「大人しくしてま~す」
ダメだな。冷静に返す余裕がない。
「旦那様、少しよろしいですか?」
「どうした?」
「エルザ様とアルマ様も陣痛を感じ始めました」
「こっちもか」
陣痛が始まったからといってすぐに出産するわけではないそうだ。俺にはそのあたりは分からないから産婆たちに任せるしかない。
隣の部屋にエルザがいるので、今度はそちらに顔を出す。
「エルザ、どうだ?」
「はい、何となくお腹を押されるような感じが少しずつ強くなっています」
「お姉様、私が付いています。さあ、元気な赤ちゃんをお産みになってください」
「レティシア、お前は産婆じゃないだろう。その場所を空けろ。横に回って手を握るくらいにしておけ」
「ああん、お義兄様」
レティシアの首根っこを掴んで移動させた。この義妹はエルザの双子の妹だけあって似たところが多いが、育ちのせいで全く違うこともある。ここに来てからは特にそれが顕著だ。俺がゴール王国でのレティシアをほとんど知らないからかもしれないが……どう言ったらいいのか……チヤホヤされたくない傾向がある。要するに王女扱いしてほしくないようだ。だからそれなりにぞんざいな扱いになっている。
ぞんざいな扱いをすればするほど喜ぶので、俺としてもどう扱っていいのかまだよく分かっていない。とりあえず邪魔者扱いすると「ああん」と喜ぶ変態だった。
アルマの部屋も覗いてみたが、エルザほどはつらい顔はしていない。
「アルマ、具合はどうだ?」
「痛いわけじゃないですけど、違和感が強くなってきました」
「俺には何もできないから、産婆たちに頼ってくれ。俺は外にいるから」
「はいっ、頑張ります」
俺はお産の邪魔になるので部屋を出る。出たからと言って何かすることがある訳でもない。だがウロウロと歩き回ってもみんなの邪魔になるだけだろうから大人しく座っておく。
「エルマー様、こういう時には男は邪魔をしないようにじっとしているものです」
ハンスが茶を渡してくれた。これは香草を使ったものか。大きく息を吸い込むとスッと落ち着かせてくれるようだ。
「頭では分かっているんだが。ままならないものだな」
「トビアス様も同じようなご様子でした。落ち着かなさそうに部屋を歩き回ってミヒャエラ様に怒られていましたよ」
「父ならそうだろうなあ」
父は豪胆な性格だったが、愛妻家だったという話だ。オロオロウロウロして叱られた姿が頭に浮かぶ。こう言っている俺も似たようなものだろうが。
◆ ◆ ◆
最初の赤ん坊の声が聞こえたのはカレンの顔を見てから二時間ほど経ってからだった。俺は部屋に入れないので別室で茶を飲んでいる。そろそろ腹がチャプチャプし始めた頃だ。
部屋に入ると産湯を使った赤ん坊をカレンが抱いていた。男児らしい。
「うーん、本当にスルッと出たわ」
「無事に生まれてお前も問題ないならそれが一番だ」
「体調は全然問題ないわね」
「でも無理はするな。何があるか分からないからな」
「うん」
俺よりも頭二つくらい小さいのに赤ん坊がずっと腹の中にいたのかと思うと、母親というのは大変だ。体を動かすのが好きなカレンだから、注意はしても明日くらいから動き回るだろう。おそらく竜の姿で空を飛んだり子供たちを手に乗せたり、そんなことをするんじゃないかと思う。やりすぎなければいいけどな。
「そうだ、ヨアヒム」
「はい、ここに」
「跡取りが生まれたことを領内に告知してくれ。明日から無料で肉と酒を振る舞うと。仕事を休める者は休み、そうでないなら交代で参加するようにと」
「畏まりました。予定通り、三日でよろしいですか?」
「そうだな。今後のこと次第ではもう少し長引かせるかもしれない」
「ではそのように伝えます」
その後のことというのはエルザとアルマのことだ。その間に二人にも生まれれば、そのお祭り騒ぎを伸ばしてもいい。まだまだ暑い日が続く。酔って外で寝ても風邪も引かないだろう。
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