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第四章:領主二年目第三部
冒険者ギルド
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「領主様、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく頼む」
ドラゴネットに正式な冒険者ギルドが設立されることになった。王都の冒険者ギルドで幹部の一人だったハインリヒという男で、一〇代半ばから三〇歳まで冒険者をし、それから職員となり、少し前までは会計担当をしていた。
先日双子の件で王都に行った際に冒険者ギルドに顔を出したところ、快く引き受けてくれることになった。むしろ俺が話をしにくるのを待っていた様子だった。
◆ ◆ ◆
「ノルト男爵エルマー・アーレントだ。ギルド長と少し話がしたのだが、今日はここにいるだろうか?」
「はい、暇をしていると思いますのでご案内します。こちらへどうぞ」
急な来訪だったが、すぐに取り次いでもらえた。ギルド長って暇なのか? そんな俺の心配をよそに、受付嬢はスタスタと廊下を歩いて階段を上って、ある部屋の前まで来た。そしてノックもせずに扉を開けた。
「ギルド長、ノルト男爵様がお見えです」
「ロミー、来客の場合はまず先に伝えろ。それに入る時はノックをしろといつも言っているだろう。客がいたらどうする」
ギルド長の反応を見る限り、どうやら何の確認をせず俺を連れてきたようだった。
「おお、ノルト男爵様、お待ちしておりました。ギルド長のユルゲンと申します」
「ノルト男爵エルマー・アーレントだ。お待ちしていましたとはどういうことだ?」
「最近王都ではノルト男爵領産の魔獣の素材が出回り始めました」
「商会が販売を始めたからな」
今は麦と魔獣の素材が主力商品だ。最近は王都方面から商人が来ることも増え、領内で金を落としてくれるようになった。
「はい。それでいずれはノルト男爵領にも冒険者ギルドをと考えておりましたが、ギルドは北部にはあまり支部がなく、今後どのようにして北部に支部を増やすかと考えていたところです」
「そうだったか。うちは最近になって冒険者がやって来るようになったが、彼らが活動して稼ぐための知識がない。冒険者ギルドを設立したいので、ギルド長ができる人材を斡旋してもらえないかと思って訪問させてもらった」
「それでしたらちょうどピッタリの男を紹介できます。ロミー、ハインリヒを連れてきてくれ」
「分かりました」
ロミーと呼ばれた受付は、扉を開けると開けっぱなしにして出ていった。うむ。
「男爵、すみません。ロミーは愛想はいいのですが、どうもやることなすこと空気を読まずに大雑把なところがありまして」
「いや、俺は細かなことは気にしないから大丈夫だ」
俺はロミーがハインリヒを連れてくる間、俺は領主として気をつけるべきことをギルド長のユルゲンから教わった。
冒険者ギルドは国の組織ではあるが、運営はそれぞれの領地の責任で行うことになっている。国からの助成金はあるが、それだけでは足りないことがほとんどだから、ある程度の運営費を出すことが求められる。他にもいくつか注意点はあったが、まあ普通にしていれば問題ないことばかりだった。
数分ほどでロミーが一人の男を連れて戻ってきた。これがハインリヒか。
「男爵様、ハインリヒと言います。冒険者上がりなので言葉が悪いことがありますがご容赦を」
「言葉遣いは気にしない。俺もそれほどいいわけではない」
ハインリヒはその場でノルト男爵領行きを了承し、こちらの仕事が片付き次第やって来ることになったが……。
◆ ◆ ◆
「私もよろしくお願いします」
なぜかロミーもいた。受付嬢が来てくれれば助かるのは間違いない。
「ロミーが来るとは聞いていなかったが」
「男爵様、ユルゲンさんってひどくありませんか? 私たちをこんなところに飛ばしたんですよ?」
こんなところに飛ばした、ときたか。
「ロミー! 言葉に気をつけろ!」
「まあ実際にこんなところだからなあ」
「いえ、領主様、さすがにコイツのは問題発言です」
ハインリヒはロミーの頭を掴んで頭を下げさせたが、この国の一番端なのは間違いない。
「正直に聞くが、二人は左遷されたってことになるのか?」
「いえ、私は出世ということになります。会計担当の一番上からギルド長ですので」
「それならロミーは?」
「コイツはたまにやらかしますので左遷です」
「ええっ?」
ロミーはハインリヒの言葉に大げさに驚いた。どう考えても栄転ではないわな。
「私って左遷だったんですか? 出世じゃなくて?」
「オメエのどこに出世するだけの要素があるんだ? クビじゃないだけマシだと考えろ。ギルド長から『頼むから連れていってくれ。便宜は図るから』ってメチャクチャ頭を下げられたんだぞ」
「でも冒険者ギルドのマスコットだったんですよ?」
「マスコットっていうか単なる置き物だろう。しかも置き場に困って邪魔なだけの」
「真面目にお仕事をしてたじゃないですか?」
「オメエは他人に迷惑になることしかしてねえよ」
「『他人が嫌がることを進んでやりなさい』って教わったんです」
「その『嫌がる』じゃねえ。『するのを嫌がること』だ。『されるのを嫌がること』じゃねえよ」
「冗談に決まってるじゃないですか。何を怒ってるんです? ハインリヒさんは笑いが分かっていませんね」
「…………」
…………濃いな。それしか出てこない。おそらくロミーは自分のペースでしか仕事ができないんだろう。パッと見た感じは悪い子には見えないから、問題発言と問題行動だけ気をつけておけば大丈夫……か?
「ということで男爵様、面白みのないギルド長と職員ですが、よろしくお願いします」
「勝手に面白みがないとか言うなよ」
「まあハインリヒ、上手く使ってやってくれ」
「……はい」
さて、真面目な上司とちょっと問題のある部下か。どれだけ持つかな?
「こちらこそよろしく頼む」
ドラゴネットに正式な冒険者ギルドが設立されることになった。王都の冒険者ギルドで幹部の一人だったハインリヒという男で、一〇代半ばから三〇歳まで冒険者をし、それから職員となり、少し前までは会計担当をしていた。
先日双子の件で王都に行った際に冒険者ギルドに顔を出したところ、快く引き受けてくれることになった。むしろ俺が話をしにくるのを待っていた様子だった。
◆ ◆ ◆
「ノルト男爵エルマー・アーレントだ。ギルド長と少し話がしたのだが、今日はここにいるだろうか?」
「はい、暇をしていると思いますのでご案内します。こちらへどうぞ」
急な来訪だったが、すぐに取り次いでもらえた。ギルド長って暇なのか? そんな俺の心配をよそに、受付嬢はスタスタと廊下を歩いて階段を上って、ある部屋の前まで来た。そしてノックもせずに扉を開けた。
「ギルド長、ノルト男爵様がお見えです」
「ロミー、来客の場合はまず先に伝えろ。それに入る時はノックをしろといつも言っているだろう。客がいたらどうする」
ギルド長の反応を見る限り、どうやら何の確認をせず俺を連れてきたようだった。
「おお、ノルト男爵様、お待ちしておりました。ギルド長のユルゲンと申します」
「ノルト男爵エルマー・アーレントだ。お待ちしていましたとはどういうことだ?」
「最近王都ではノルト男爵領産の魔獣の素材が出回り始めました」
「商会が販売を始めたからな」
今は麦と魔獣の素材が主力商品だ。最近は王都方面から商人が来ることも増え、領内で金を落としてくれるようになった。
「はい。それでいずれはノルト男爵領にも冒険者ギルドをと考えておりましたが、ギルドは北部にはあまり支部がなく、今後どのようにして北部に支部を増やすかと考えていたところです」
「そうだったか。うちは最近になって冒険者がやって来るようになったが、彼らが活動して稼ぐための知識がない。冒険者ギルドを設立したいので、ギルド長ができる人材を斡旋してもらえないかと思って訪問させてもらった」
「それでしたらちょうどピッタリの男を紹介できます。ロミー、ハインリヒを連れてきてくれ」
「分かりました」
ロミーと呼ばれた受付は、扉を開けると開けっぱなしにして出ていった。うむ。
「男爵、すみません。ロミーは愛想はいいのですが、どうもやることなすこと空気を読まずに大雑把なところがありまして」
「いや、俺は細かなことは気にしないから大丈夫だ」
俺はロミーがハインリヒを連れてくる間、俺は領主として気をつけるべきことをギルド長のユルゲンから教わった。
冒険者ギルドは国の組織ではあるが、運営はそれぞれの領地の責任で行うことになっている。国からの助成金はあるが、それだけでは足りないことがほとんどだから、ある程度の運営費を出すことが求められる。他にもいくつか注意点はあったが、まあ普通にしていれば問題ないことばかりだった。
数分ほどでロミーが一人の男を連れて戻ってきた。これがハインリヒか。
「男爵様、ハインリヒと言います。冒険者上がりなので言葉が悪いことがありますがご容赦を」
「言葉遣いは気にしない。俺もそれほどいいわけではない」
ハインリヒはその場でノルト男爵領行きを了承し、こちらの仕事が片付き次第やって来ることになったが……。
◆ ◆ ◆
「私もよろしくお願いします」
なぜかロミーもいた。受付嬢が来てくれれば助かるのは間違いない。
「ロミーが来るとは聞いていなかったが」
「男爵様、ユルゲンさんってひどくありませんか? 私たちをこんなところに飛ばしたんですよ?」
こんなところに飛ばした、ときたか。
「ロミー! 言葉に気をつけろ!」
「まあ実際にこんなところだからなあ」
「いえ、領主様、さすがにコイツのは問題発言です」
ハインリヒはロミーの頭を掴んで頭を下げさせたが、この国の一番端なのは間違いない。
「正直に聞くが、二人は左遷されたってことになるのか?」
「いえ、私は出世ということになります。会計担当の一番上からギルド長ですので」
「それならロミーは?」
「コイツはたまにやらかしますので左遷です」
「ええっ?」
ロミーはハインリヒの言葉に大げさに驚いた。どう考えても栄転ではないわな。
「私って左遷だったんですか? 出世じゃなくて?」
「オメエのどこに出世するだけの要素があるんだ? クビじゃないだけマシだと考えろ。ギルド長から『頼むから連れていってくれ。便宜は図るから』ってメチャクチャ頭を下げられたんだぞ」
「でも冒険者ギルドのマスコットだったんですよ?」
「マスコットっていうか単なる置き物だろう。しかも置き場に困って邪魔なだけの」
「真面目にお仕事をしてたじゃないですか?」
「オメエは他人に迷惑になることしかしてねえよ」
「『他人が嫌がることを進んでやりなさい』って教わったんです」
「その『嫌がる』じゃねえ。『するのを嫌がること』だ。『されるのを嫌がること』じゃねえよ」
「冗談に決まってるじゃないですか。何を怒ってるんです? ハインリヒさんは笑いが分かっていませんね」
「…………」
…………濃いな。それしか出てこない。おそらくロミーは自分のペースでしか仕事ができないんだろう。パッと見た感じは悪い子には見えないから、問題発言と問題行動だけ気をつけておけば大丈夫……か?
「ということで男爵様、面白みのないギルド長と職員ですが、よろしくお願いします」
「勝手に面白みがないとか言うなよ」
「まあハインリヒ、上手く使ってやってくれ」
「……はい」
さて、真面目な上司とちょっと問題のある部下か。どれだけ持つかな?
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