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第三章:領主二年目第二部
人違い?(二)
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殿下? まあ王女とその姉がいるな、目の前に。
「ナターリエ、知り合いだったのか?」
「いえ、存じ上げませんわ」
「それならアルマか?」
「いえいえっ」
「カレンは違うよな?」
「もちろん違うわ」
それなら残すは一人……。
「ひょっとして私ですか?」
「あの、レティシア殿下ではないのですか?」
「どうして私が殿下と呼ばれるのですか?」
「え? いえ……あまりにも……そっくりすぎて……」
…………
エルザとレティシア殿下という方がそっくりか……。単なる他人の空似か面倒な案件か、どちらだ?
「ジョゼフィーヌ、念のために一つ聞くが、そのレティシア殿下とはゴール王国の王女で間違いないか?」
「はい。第四王女のレティシア殿下です」
「お前の前にいるのは俺の妻の一人でエルザという名前だ。エルザがそのレティシア殿下に似ているので間違いないのか?」
「瓜二つと言ってもいいと思います。よく見ればエルザ殿はお腹が大きいようですが、それを除けば見た目には違いが分かりません」
「声に関してはどうだ?」
「話し方は少し違いますが、声は同じに聞こえます」
見た目だけではなく声もか。
「お前は男爵の次女だと言っていたが、それで王女の顔を覚えられるほど親しかったのか?」
「はい。私の本来の職務はレティシア殿下の近衛騎士です。普段はレティシア殿下の側に控えていますが、今回は後詰めの隊長を任されました。私は殿下と生まれた時期が近かったので、幼い頃から一緒にいることがよくありました。ですので実の兄姉以上によく知っていると言っても過言ではありません」
「ふむ。色々と聞くようで申し訳ないが、レティシア殿下の年齢は?」
「今年で一九になりました」
俺と同い年。つまりはエルザともおそらく同い年。エルザが聞いている記録が正しければという話だが。
「おかしなことを聞くが、王女でその年齢ならすでに結婚していてもおかしくないか?」
俺やレオナルト殿下の一つ年下になるビアンカ王女も結婚していないから、極端に遅くはないかもしれないが。ビアンカ王女の場合は大公派に手を出されないように陛下がひたすら断っていたそうだが。
「まだ結婚しないと陛下にも言っておられました。何か考えがおありのようです、そこまでは私には分かりません」
あえてまだしないと言うなら、するつもりはあるがその時期ではないということか。直接聞いたわけじゃないから、考えても分からないな。
「殿下について、何か他の王子や王女と違うところはあるか?」
「違うところですか?」
「ああ。例えば……親子の仲とか兄弟姉妹の仲が極端に良いとか悪いとか、身内や親しい人しか知らないようなことだ。俺たちに言える範囲でいい」
「そうですね……私の知っているところでは、王妃殿下の行啓中にお生まれになりました。ちょうど私の実家に滞在中だったそうですが、私も生まれて数か月でしたのでさすがに覚えていません」
「すまない、ゴール王国の地理には詳しくないが、ヴァジ男爵領はどのあたりにある?」
「今回の戦場となった場所を通って国境を越えるとエルザス辺境伯領に入ります。そこを抜けて王都方面に向かうとすぐにあります」
エルザス辺境伯領から国境を越えたこちら側がマルクブルク辺境伯領。その東隣にはバーレン辺境伯領。要するにこの国の南部地域だ。エルザはバーレン辺境伯領育ち。
…………
「なあ、エルザ」
「何ですか?」
「ものすごく嫌な予想をしてもいいか?」
「はい」
「この国の南部には『双子は災いの元』という言葉がある」
「ありますね」
この言葉はかなり勘違いされているが、元はと言えば貴族の跡取りの話だ。
「エルマー殿、ゴール王国の北部にも同じような言葉があります。王都まで行くと聞くことはほとんどありませんが」
「国境を挟んで隣同士と言えば隣同士だからな。俺が知っている限り、この言葉は元々は貴族の長男と次男が双子だった場合の話だ。家督を継ぐ際に揉めることが多いからな。扱いに差を付ければ揉める原因になるが、爵位は一人しか継げない。だから双子が成人するまでにしっかりとどうすべきかを考えて準備をしなさいという意味だ。だが今では単に双子が不運の象徴のように思われて、関係ない時に使われることも多い」
「その嫌な予感が分かりました」
「同じくっ」
「さすがに私でも分かったわ」
「私もです」
だから貴族の跡取りでなくても、双子が生まれると片方は捨てられるか別の家に預けられることもあるそうだ。場合によってはこっそりと処分されることもあると聞いたこともある。
「そうなると、私が教会に預けられたのは……」
「まあ、この場で推測だけで話をしても意味がないかもしれないが……」
どうして王妃殿下がそんな時期に地方に行啓に出かけたかまでは分からない。地方を順に回るというのはないとは限らない。そしてたまたま行啓中にジョゼフィーヌの実家で出産したとする。そして偶然にも双子だったとしよう。赤ん坊を取り上げた産婆か誰か知らないが、たまたま『双子は災いの元』という言葉の間違った意味を口にしてしまったとしたらどうなるか。
耳に入っても気にしなければそれで問題ない。だがもしそれを聞いた王妃殿下がそれを本気で受け止め、姉か妹かは分からないが、生まれたばかりの双子の片方を他人に預けたとしたらどうなるか。
どうしてその赤ん坊が国境を越えてアルマン王国側の孤児院に預けられることになったかまでは分からない。もしかしたら片方を国外に出してしまえば災いが去るとでも考えたのかもしれない。
だが気になるのは、それでエルザが孤児院に預けられたとしても、王妃殿下が戦争を主導しているという話には繋がらない。それはまた別か?
「今の情報で想像できるのはそれくらいだな」
「あの、あなた、私がこちらに来た時、エルザさんもどこか尊い家柄の方ですかとお聞きしたことがありましたが、ひょっとして当たりでしたか?」
「まだ分からないが、その可能性もゼロではないということだ。確認も何もしていないから推論に推論を重ねただけだけ、実は大ハズレということもあるかもしれないが…………なあ、ジョゼフィーヌ。どうしたらいいと思う?」
どうして面倒ごとばかりやって来る?
「いや、私に聞かれましても。もう何が何やら」
「そうだな。早いうちに陛下に話をして、それからどうするかを考えるしかないな」
「エルマー殿、そもそもこの城にはどうして王女様がこんなにいらっしゃるのですか?」
「俺に聞くな。王女を集めたかったわけじゃない」
正妻はこの地で暮らす竜の娘であるカレン。第二夫人は隣国の第四王女の双子の姉か妹の可能性があるエルザ。第三夫人は国王陛下の落胤であり、もし認知されていたら第二王女になっていた可能性があるアルマ。第四夫人は実際に第二王女だったナターリエ。
「私が一番特徴が地味ですね。これでも王女ですのに……」
「ナターリエ、出自で競っても良いことはないぞ。普通が一番だ」
「ナターリエ、知り合いだったのか?」
「いえ、存じ上げませんわ」
「それならアルマか?」
「いえいえっ」
「カレンは違うよな?」
「もちろん違うわ」
それなら残すは一人……。
「ひょっとして私ですか?」
「あの、レティシア殿下ではないのですか?」
「どうして私が殿下と呼ばれるのですか?」
「え? いえ……あまりにも……そっくりすぎて……」
…………
エルザとレティシア殿下という方がそっくりか……。単なる他人の空似か面倒な案件か、どちらだ?
「ジョゼフィーヌ、念のために一つ聞くが、そのレティシア殿下とはゴール王国の王女で間違いないか?」
「はい。第四王女のレティシア殿下です」
「お前の前にいるのは俺の妻の一人でエルザという名前だ。エルザがそのレティシア殿下に似ているので間違いないのか?」
「瓜二つと言ってもいいと思います。よく見ればエルザ殿はお腹が大きいようですが、それを除けば見た目には違いが分かりません」
「声に関してはどうだ?」
「話し方は少し違いますが、声は同じに聞こえます」
見た目だけではなく声もか。
「お前は男爵の次女だと言っていたが、それで王女の顔を覚えられるほど親しかったのか?」
「はい。私の本来の職務はレティシア殿下の近衛騎士です。普段はレティシア殿下の側に控えていますが、今回は後詰めの隊長を任されました。私は殿下と生まれた時期が近かったので、幼い頃から一緒にいることがよくありました。ですので実の兄姉以上によく知っていると言っても過言ではありません」
「ふむ。色々と聞くようで申し訳ないが、レティシア殿下の年齢は?」
「今年で一九になりました」
俺と同い年。つまりはエルザともおそらく同い年。エルザが聞いている記録が正しければという話だが。
「おかしなことを聞くが、王女でその年齢ならすでに結婚していてもおかしくないか?」
俺やレオナルト殿下の一つ年下になるビアンカ王女も結婚していないから、極端に遅くはないかもしれないが。ビアンカ王女の場合は大公派に手を出されないように陛下がひたすら断っていたそうだが。
「まだ結婚しないと陛下にも言っておられました。何か考えがおありのようです、そこまでは私には分かりません」
あえてまだしないと言うなら、するつもりはあるがその時期ではないということか。直接聞いたわけじゃないから、考えても分からないな。
「殿下について、何か他の王子や王女と違うところはあるか?」
「違うところですか?」
「ああ。例えば……親子の仲とか兄弟姉妹の仲が極端に良いとか悪いとか、身内や親しい人しか知らないようなことだ。俺たちに言える範囲でいい」
「そうですね……私の知っているところでは、王妃殿下の行啓中にお生まれになりました。ちょうど私の実家に滞在中だったそうですが、私も生まれて数か月でしたのでさすがに覚えていません」
「すまない、ゴール王国の地理には詳しくないが、ヴァジ男爵領はどのあたりにある?」
「今回の戦場となった場所を通って国境を越えるとエルザス辺境伯領に入ります。そこを抜けて王都方面に向かうとすぐにあります」
エルザス辺境伯領から国境を越えたこちら側がマルクブルク辺境伯領。その東隣にはバーレン辺境伯領。要するにこの国の南部地域だ。エルザはバーレン辺境伯領育ち。
…………
「なあ、エルザ」
「何ですか?」
「ものすごく嫌な予想をしてもいいか?」
「はい」
「この国の南部には『双子は災いの元』という言葉がある」
「ありますね」
この言葉はかなり勘違いされているが、元はと言えば貴族の跡取りの話だ。
「エルマー殿、ゴール王国の北部にも同じような言葉があります。王都まで行くと聞くことはほとんどありませんが」
「国境を挟んで隣同士と言えば隣同士だからな。俺が知っている限り、この言葉は元々は貴族の長男と次男が双子だった場合の話だ。家督を継ぐ際に揉めることが多いからな。扱いに差を付ければ揉める原因になるが、爵位は一人しか継げない。だから双子が成人するまでにしっかりとどうすべきかを考えて準備をしなさいという意味だ。だが今では単に双子が不運の象徴のように思われて、関係ない時に使われることも多い」
「その嫌な予感が分かりました」
「同じくっ」
「さすがに私でも分かったわ」
「私もです」
だから貴族の跡取りでなくても、双子が生まれると片方は捨てられるか別の家に預けられることもあるそうだ。場合によってはこっそりと処分されることもあると聞いたこともある。
「そうなると、私が教会に預けられたのは……」
「まあ、この場で推測だけで話をしても意味がないかもしれないが……」
どうして王妃殿下がそんな時期に地方に行啓に出かけたかまでは分からない。地方を順に回るというのはないとは限らない。そしてたまたま行啓中にジョゼフィーヌの実家で出産したとする。そして偶然にも双子だったとしよう。赤ん坊を取り上げた産婆か誰か知らないが、たまたま『双子は災いの元』という言葉の間違った意味を口にしてしまったとしたらどうなるか。
耳に入っても気にしなければそれで問題ない。だがもしそれを聞いた王妃殿下がそれを本気で受け止め、姉か妹かは分からないが、生まれたばかりの双子の片方を他人に預けたとしたらどうなるか。
どうしてその赤ん坊が国境を越えてアルマン王国側の孤児院に預けられることになったかまでは分からない。もしかしたら片方を国外に出してしまえば災いが去るとでも考えたのかもしれない。
だが気になるのは、それでエルザが孤児院に預けられたとしても、王妃殿下が戦争を主導しているという話には繋がらない。それはまた別か?
「今の情報で想像できるのはそれくらいだな」
「あの、あなた、私がこちらに来た時、エルザさんもどこか尊い家柄の方ですかとお聞きしたことがありましたが、ひょっとして当たりでしたか?」
「まだ分からないが、その可能性もゼロではないということだ。確認も何もしていないから推論に推論を重ねただけだけ、実は大ハズレということもあるかもしれないが…………なあ、ジョゼフィーヌ。どうしたらいいと思う?」
どうして面倒ごとばかりやって来る?
「いや、私に聞かれましても。もう何が何やら」
「そうだな。早いうちに陛下に話をして、それからどうするかを考えるしかないな」
「エルマー殿、そもそもこの城にはどうして王女様がこんなにいらっしゃるのですか?」
「俺に聞くな。王女を集めたかったわけじゃない」
正妻はこの地で暮らす竜の娘であるカレン。第二夫人は隣国の第四王女の双子の姉か妹の可能性があるエルザ。第三夫人は国王陛下の落胤であり、もし認知されていたら第二王女になっていた可能性があるアルマ。第四夫人は実際に第二王女だったナターリエ。
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