ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

骨董品の扱い(四)

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「エルマー、このあたりも年代物が多い。展示するなら全部持って行ってくれ」
「ありがたいが、こんなにもいいのか?」
「正直なところ、なかなかここは使わないからな。ここしばらく人として暮らしてみて人とは面白い存在だと再確認した」

 クラースたちが山の家に来ている。戻って来てからは結局ここは全く使っていないらしく、中の物を全て運んでしまおうということになった。

 ボロボロになった布などは廃棄せざるを得ないが、持って行ける物は全て城の方へ運び、ここは空き家としておくことになった。

「我々は今ある物で十分だからすべてエルマーに任せる。放っておいても誰にも気づかれずに朽ちた物が多いだろう。焼き物もそうだが、それなら誰かに使ってもらえる方が物も喜ぶ」
「こちらも同じことを言うが、ありがたく管理させてもらう。とりあえず博物館を建てる前に専門家に一度見てもらうことになるだろう」

 異空間に入れられるだけ入れ、それから城に持ち帰ることにしたが、物が物だけに蹴飛ばしたりしない場所に置いておく方がいい。踏もうが割ろうがクラースは何も言わないだろうが、割った者の心が心配になるからだ。

 ちなみにラーエルやアグネスを始めとした上級使用人たちはハイメンダールの名前を知っていたが、意識しないようにしていたそうだ。

「意識したら絶対に手が震えます」
「料理を落とすだけならまだマシです」
「そんなにか」

 価値を知らないというのは恐ろしい。俺は普通に異空間に放り込んだら城に持ち帰って厨房で出し、一度洗っておいてくれとみんなに言っていた。

「ヘッダとイザベルとヨハンナの三人は泣きそうな顔をしていました」
「これは何かの罰かと異口同音に口にしていました」

 行啓の時に使っていた食器などは今は片付けてあるが、あの皿は一枚あたり金貨四〇枚が相場だそうだ。一般的には六枚一揃いが多いが、貴族の場合は一二枚や二四枚を希望する人もいる。

 ツェーデン子爵に聞いたが、ハイメンダールの作品が揃いで残っていることはほとんどなく、枚数以上の価値があるとか。金貨四〇枚の皿が六枚なら金貨三六〇枚から四八〇枚になると彼は言っていた。

「割ったら絶対に弁償できませんので、旦那様にこの身を差し出すことで勘弁していただくしかありません」
「二人でそれも考えましたが、他の使用人が真似ると大変ですのでやめることにしました」
「ああ、それでいいと思うぞ。それにしても最近かなり遠慮がなくなったな」
「気を遣っていただいていると分かりましたので」
「もう一押しではないかと」
「さすがに一押しでは無理だぞ」

 さすがに半年以上も経てば距離も近くなる。そう簡単に手を出そうとは思わないが。



◆ ◆ ◆



「なるほど、それでしたら詳しい者を紹介しましょう」

 ツェーデン子爵に美術品に詳しい人を紹介してもらうことにした。クラースも集めることは集めたが、特に詳しくはないらしい。おそらくだが「ふむ、これはなかなか」とか言いながら適当に買い集めたのだろう。

「助かります。私はそのあたりには全く詳しくありませんので」
「私個人としてはノルト男爵が詳しくなくてよかったと思います。愛好家は秘匿してしまいますからなあ」

 子爵曰く、好きすぎる愛好家はけっして他人には見せず、一人で眺めて悦に入るのだとか。そうなるとその持ち主が亡くなるまではその美術品は他人の目に触れることがなくなってしまう。それは大いなる損失だと子爵は言う。

「このバルナバスとマルクスは若いですが目利きの点ではここの一番上でしょう」
「主任のバルナバスです。焼き物や彫刻を肴にいくらでも酒が飲めます」
「同じく主任のマルクスです。主に家具を好物にしています」
「二人とも発言がややおかしいことがありますが、財務省から流れてきた家財道具などを調べていたのはこの二人です」
「ありがとうございます。では二人には分類などをお願いします」

 話をしてその日に向こうでは慌ただしすぎる。二日後に屋敷の方へ来てもらうことにし、その間に城の三階を一度きちんと掃除することにした。



◆ ◆ ◆



「これはまた……」
「思った以上ですね……」

 二人には王城での仕事もあるので、こちらで何日か調査をしたらまた向こうに戻るという、かつてダニエルにやってもらっていたように調査をしてもらうことになった。場合によっては王都の方にある資料が必要かもしれないからだ。

 そのための作業場として城の三階を使うことになった。さすがに三階まで部外者は入ってこないので、ここに骨董品を並べても問題ないだろうと。女中たちに掃除してもらい、クラースたちの家から持って来た食器やら家具やら武具やらを、俺の分かる範囲でざっくりと分類して放り込んだ。

「俺は詳しくないので、とりあえず見た目だけで判断して分けた。世話係を用意するので、食事などは彼女に伝えて欲しい。この階でも下でも大丈夫だ」
「ありがとうございます」
「ではさっそく取りかかります」
「よろしく頼む」

 世話係は交代で三階に常駐してもらうことにした。担当はアルマの家族のリンダ、カーヤ、ラーラの三人だ。カールは役人としてライナーの下で働き、その妻と娘たちは城で女中をしている。春までは王都にいたので、この二人とも話が合うだろう。



◆ ◆ ◆



 王都に建てる博物館だが、これは敷地の端に建てることにした。敷地が四角に近くなったおかげで、男爵の屋敷としてはかなり敷地が広くなり、屋敷を大きくしても十分な広さが残った。

 近くの街区が新しくなったので、そこの話が広まればこのあたりにも人が来るだろうと思っている。そうすれば博物館に入ろうとする者もいるだろう。

「博物館の見た目をどうするか……」
「展示物が豪華ですので、外観は大人しめでもいいのではないかと」
「確かに、外も飾り立てすぎると中が目立たないな」

 ヴェルナーの意見を聞きつつ、大まかに図面を引く。

「前にも思いましたが、旦那様は細かな絵が上手ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいな。以前は見様見真似でやっていたが、図面についてはシュタイナーとブルーノに教わるようになった」

 この屋敷も俺が設計して建てたが、細かな部分はブルーノに修正してもらった。石材に関しては俺が一人でやり、それ以外は他の者たちに頼んだ。自分で言うのも何だが、我ながらいい屋敷になったと思う。
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