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第二章:領主二年目第一部
新しい屋敷の準備(四):問題解決は遠く
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「それほど面白くもないと思うが」
「旦那様が何かをされると何かが起きるかもしれませんので」
増えた土地を調べようと思ったらアントンも一緒に来ることになった。
「それは期待しすぎだろう。俺としては何もない方がずっと楽でいい」
アントンもずいぶんと気安くなったものだ。最初の頃はガチガチになっていたからな。王都の地下を調べるのに付き合わせたのが良かったのかもしれない。
とりあえず建物はこの前と同じように解体し、地下室があればそれも埋める。上に屋敷を建ててから地下が崩れたら怖いからだ。
「地下室は……あるな」
「大きさはどれくらいですか?」
「それほど大きくはないな。やや大きめで、幅が四メートル、奥行きが六メートルくらいだな」
地下室というのは必ずしも掘って作るものではない。極端な話、全く掘らなくても地下室は作れる。これは嘘でも冗談ではない。一階部分を埋めればいいだけだ。
一階部分を作ってから土地全体を盛り土覆って土地全体を嵩上げし、玄関まで階段を付ければいい。そうすれば本来の一階部分が地下になり、二階が一階になる。
さすがに一階を丸々埋めることはないだろうが、そのようにして地下の部屋をいくつも用意することはある。
王都の土地は高いので、狭い土地でも広い家にしようと思えば、上に伸ばすか下に伸ばすかのどちらかになる。それなら最初に少し土地を上げてしまえばいい。だから王都には地下室のある家が多い訳だ。
「あれは箱か?」
「櫃でしょうか」
これまでと同じように建物を解体して地下室を日の光に晒してみれば、そこには一つの箱があった。衣装入れとしても使われるくらいの大きさの物だ。
あれが櫃なら地下室に置くのはおかしくはない。貴重品を入れるために使われることが多いからだ。だが、それならここに残っているのはおかしいだろう。今回受け取った両側の土地も、先日から更地にしていた土地と同じく、支払いが滞って差し押さえられた物件だからだ。すでに家財道具は持ち出されている。
ライマーに聞いたところ、去年の春にあった戦争の後で支払いが途絶えた物件がほとんどだそうだ。もちろん住人がいなくなったから支払いがされなかった訳だ。
巻き添えを食らわないように逃げたのか、それともゴール王国と繋がっていたので当然のように逃げたのか、それともまだどこかに潜伏しているのか、それとも単に捕まっただけなのか。
「この土地はすでに俺が受け取った訳だよな?」
「間違いありませんね」
「それなら中身を確認しよう。危険な物が出てきたら届け出ればいい」
屋敷の地下室に置かれている物なので、罠などはかかっていないはずだ。あっても鍵がかかっているくらいだろうと思ったが、それもない。
「旦那様、これは……」
「銀貨だが、よくこれだけ集めたなあ」
中には銀貨がぎっしりと詰まっていた。一〇〇〇枚どころではないだろう。数えるのは大変だが、必要があれば数えなければならないだろうな。
「そこのところに埋まっているのは箱か?」
「小物入れのようですね。丁寧な装飾が施されていますね」
「中身は……金貨か」
小箱の中は金貨が一〇枚だった。箱そのものには細かな装飾が施されている。
よく見れば銀貨には他の国の物も混じっていた。金貨は全てアルマン王国の物だ。
アルマン王国が国境を接しているのは南西のゴール王国と南のシエスカ王国の二つ。南東のポウラスカ王国も隣国と言えるが、間には山があるので、普通はシエスカ王国を経由する。西から北、そして南東までこの国を取り囲んでいる山の一番端がそこまで続いている。
少なくともこの四国の貨幣は重さと大きさが共通なので、国の違いに関係なく使用できる。滅多に見かけないが、価値が違う国の貨幣なら交換してからでないと使えない。
「それにしてもよく集めたものだな。だがどうしてここにあるのか……」
「隣の土地と関係があるのでしょうか?」
「地下通路を出てすぐ隣の土地だからな。一時的な保管場所として使われていた可能性はある。だが、中は調べられているはずだ。こんな普通の地下室が見つからない訳がない」
うちの土地から出た物ならうちのものだが、少々気味が悪い。とりあえず仕舞っておいて、後日確認するか。
もう一つ、反対側の土地も建物を解体すると地下室があった。そこには……
「同じですね」
「何が起きているんだ?」
やはり櫃が置かれていた。しかも全部で四つ。
「これも鍵はかかっていません」
「順番に開けてみてくれ」
「分かりました」
アントンが櫃の一つの蓋を開けると、色鮮やかな布地が見えた。
「女性用のドレスですね」
「全て新しいな」
中には様々なドレスがきちんと畳まれて収められていた。最後の櫃には装身具などが入っている。全て傷などなく、おそらく新品だろう。
「贈り物のつもりでしょうか?」
「これだけ新品を揃えるとなると、かなりの出費になるはずだ」
平民の服は亜麻や麻が多い。貴族の平服なら木綿や羊毛が多いが、上等な服なら絹になる。それが大量にある。ここにあるのはほとんどが絹だ。
「痛みがありませんね」
「ここに置かれてそれほど経っていないのだろう」
地下室はどうしても湿度が高い。俺はほとんど縁がなかったが、繊細な素材ほど傷みやすいだろう。
ん? これは手紙か? ああ、仕込んだのか。
「何かありましたか?」
「これを見てみろ」
「『K/Aのために。Kより』。これは暗号でしょうか?」
「心当たりがあり過ぎるから確認しておく。ここに置いておくこともできないから、これも仕舞っておこう」
「旦那様が何かをされると何かが起きるかもしれませんので」
増えた土地を調べようと思ったらアントンも一緒に来ることになった。
「それは期待しすぎだろう。俺としては何もない方がずっと楽でいい」
アントンもずいぶんと気安くなったものだ。最初の頃はガチガチになっていたからな。王都の地下を調べるのに付き合わせたのが良かったのかもしれない。
とりあえず建物はこの前と同じように解体し、地下室があればそれも埋める。上に屋敷を建ててから地下が崩れたら怖いからだ。
「地下室は……あるな」
「大きさはどれくらいですか?」
「それほど大きくはないな。やや大きめで、幅が四メートル、奥行きが六メートルくらいだな」
地下室というのは必ずしも掘って作るものではない。極端な話、全く掘らなくても地下室は作れる。これは嘘でも冗談ではない。一階部分を埋めればいいだけだ。
一階部分を作ってから土地全体を盛り土覆って土地全体を嵩上げし、玄関まで階段を付ければいい。そうすれば本来の一階部分が地下になり、二階が一階になる。
さすがに一階を丸々埋めることはないだろうが、そのようにして地下の部屋をいくつも用意することはある。
王都の土地は高いので、狭い土地でも広い家にしようと思えば、上に伸ばすか下に伸ばすかのどちらかになる。それなら最初に少し土地を上げてしまえばいい。だから王都には地下室のある家が多い訳だ。
「あれは箱か?」
「櫃でしょうか」
これまでと同じように建物を解体して地下室を日の光に晒してみれば、そこには一つの箱があった。衣装入れとしても使われるくらいの大きさの物だ。
あれが櫃なら地下室に置くのはおかしくはない。貴重品を入れるために使われることが多いからだ。だが、それならここに残っているのはおかしいだろう。今回受け取った両側の土地も、先日から更地にしていた土地と同じく、支払いが滞って差し押さえられた物件だからだ。すでに家財道具は持ち出されている。
ライマーに聞いたところ、去年の春にあった戦争の後で支払いが途絶えた物件がほとんどだそうだ。もちろん住人がいなくなったから支払いがされなかった訳だ。
巻き添えを食らわないように逃げたのか、それともゴール王国と繋がっていたので当然のように逃げたのか、それともまだどこかに潜伏しているのか、それとも単に捕まっただけなのか。
「この土地はすでに俺が受け取った訳だよな?」
「間違いありませんね」
「それなら中身を確認しよう。危険な物が出てきたら届け出ればいい」
屋敷の地下室に置かれている物なので、罠などはかかっていないはずだ。あっても鍵がかかっているくらいだろうと思ったが、それもない。
「旦那様、これは……」
「銀貨だが、よくこれだけ集めたなあ」
中には銀貨がぎっしりと詰まっていた。一〇〇〇枚どころではないだろう。数えるのは大変だが、必要があれば数えなければならないだろうな。
「そこのところに埋まっているのは箱か?」
「小物入れのようですね。丁寧な装飾が施されていますね」
「中身は……金貨か」
小箱の中は金貨が一〇枚だった。箱そのものには細かな装飾が施されている。
よく見れば銀貨には他の国の物も混じっていた。金貨は全てアルマン王国の物だ。
アルマン王国が国境を接しているのは南西のゴール王国と南のシエスカ王国の二つ。南東のポウラスカ王国も隣国と言えるが、間には山があるので、普通はシエスカ王国を経由する。西から北、そして南東までこの国を取り囲んでいる山の一番端がそこまで続いている。
少なくともこの四国の貨幣は重さと大きさが共通なので、国の違いに関係なく使用できる。滅多に見かけないが、価値が違う国の貨幣なら交換してからでないと使えない。
「それにしてもよく集めたものだな。だがどうしてここにあるのか……」
「隣の土地と関係があるのでしょうか?」
「地下通路を出てすぐ隣の土地だからな。一時的な保管場所として使われていた可能性はある。だが、中は調べられているはずだ。こんな普通の地下室が見つからない訳がない」
うちの土地から出た物ならうちのものだが、少々気味が悪い。とりあえず仕舞っておいて、後日確認するか。
もう一つ、反対側の土地も建物を解体すると地下室があった。そこには……
「同じですね」
「何が起きているんだ?」
やはり櫃が置かれていた。しかも全部で四つ。
「これも鍵はかかっていません」
「順番に開けてみてくれ」
「分かりました」
アントンが櫃の一つの蓋を開けると、色鮮やかな布地が見えた。
「女性用のドレスですね」
「全て新しいな」
中には様々なドレスがきちんと畳まれて収められていた。最後の櫃には装身具などが入っている。全て傷などなく、おそらく新品だろう。
「贈り物のつもりでしょうか?」
「これだけ新品を揃えるとなると、かなりの出費になるはずだ」
平民の服は亜麻や麻が多い。貴族の平服なら木綿や羊毛が多いが、上等な服なら絹になる。それが大量にある。ここにあるのはほとんどが絹だ。
「痛みがありませんね」
「ここに置かれてそれほど経っていないのだろう」
地下室はどうしても湿度が高い。俺はほとんど縁がなかったが、繊細な素材ほど傷みやすいだろう。
ん? これは手紙か? ああ、仕込んだのか。
「何かありましたか?」
「これを見てみろ」
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