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第二章:領主二年目第一部
提携その後
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デニス殿と木材の件で提携を始めた。始めたとは言っても契約をして動き始めたばかりで、今後の進展に期待というところだな。
決まったことは、うちで採れる重くて硬い木材を向こうに運び、うちの職人たちが向こうで技術を学びつつ共同で新しい商品を作るという程度だ。
場合によっては向こうから職人がこちらに来ることもあるだろうが、木材の加工については圧倒的にエクセンの方が進んでいる。こちらに来る利点は少ない。
とりあえずまずは木材について提携ということだが、提携できるなら木材でも琥珀でも何でもいいと思う。協力者ができたことが大きい。
あの重くて硬い木だが、あれは見た目はカシのようだがもっと色が濃いのでカシではないようだが、葉がカシなのでノルトガシと仮に呼ぶことにした。名前が売れればこの領地のことも広まるだろう。
そしてもう一つの新しい変化がある。
「おはようございます、エルマー様」
「おはよう、シビラ。今日も早いな」
「はい、時間は有限です」
シビラが遊びに来るようになった。
男女が遊ぶとなれば普通なら色恋沙汰になるが、この年齢差ならそのような話にはならない。それに遊びに来るとは言っても、ずっと俺と一緒にいる訳ではない。むしろカレンやエルザ、アルマたちと一緒に料理や縫い物を学んだりしていることがほとんどだ。
貴族の場合は料理や縫い物などは使用人にさせることがほとんどだが、たまに家族に料理を振る舞ったり、赤ん坊に自分の服を着せるために針仕事をすることはある。
ニコラ殿からはシビラが迷惑をかけて申し訳ないという手紙が届いている。そしてその中には、シビラが俺に嫁げばすぐ近くで暮らすことになるのでデニス殿は内心はかなり喜んでいるようだと書かれていた。
俺の方は、今のところは申し訳ないが妻として迎えるつもりはないと伝えた。隣の貴族の娘が遊びに来ているだけだとすれば可愛いものなんだが……。
◆ ◆ ◆
「今日はこれを焼きました。どうぞ」
「これは美味そうだな」
シビラは焼き菓子を作っていたようだ。思うところはあるが、わざわざ持ってきてくれたのに適当にあしらうようなことはしない。
「ラーエルさんとアグネスさんにも手伝ってもらいました」
一枚口にすると、ふわっと軽い歯触りがあり、すっと溶けたような感じがした。美味いな。
「二人からは何と言われている?」
「基本は問題ないそうです。ですがこれまで厨房に立った回数が少ないので、回数を重ねればもっと上達するだろうと言われました」
「あの二人の目は間違いないからな」
食材に対する目利きも一流だと思う。俺の味覚が一流でないから確実とは言えないが、たまに面白い食材を渡すと、確実に美味い料理に変わる。
「ところでこれは何という名前の焼き菓子だ? 今まで口にしたことがなかった気がするが」
「カッツェンツンゲという名前だそうです。南部やゴール王国ではラング・ド・シャと呼ぶそうです」
「カッツェンツンゲか……」
楕円形で少々ザラザラした手触りは確かに猫の舌だな。面白い名前を付けるものだ。
「そう言えば、あの二人はエルマー様の食事の好みなら何でも知っていると言っていました」
「まあ好みは伝えているし、いつもある二人の料理を口にしているからなあ」
王都にいる時は無理だが、こっちにいる時は朝晩は城で食べる。昼は外もある。
「他には、やはり見た目は重要なのだろうかと気にしているようでした。まだ美味しいうちに、ぜひエルマー様に夜にご賞味していただきたいとも言っていました」
話の前後が繋がっていないな。女性が集まればそのような話も出るだろうが、子供に聞かせる内容か? しかも一応は隣の貴族の令嬢だぞ。しかもまだ一〇歳にもなっていない。確か今年で九歳だ。
「シビラは意味が分かって言っているのか?」
「何がですか? 料理の話ではないのですか?」
分かってなさそうだ。それはそれで一安心だ。耳年増すぎても大変だろう。
詳しく聞いてみると、どうもシビラを相手にして話した訳ではなく、カレンたちと話しているのを聞いただけらしい。だから余計に話が繋がらないのは不思議ではない。
それからひとしきり俺に向かって頑張っているとアピールすると、カレンたちのところへ戻っていった。
◆ ◆ ◆
あの二人なあ。俺自身が全く美形ではないので他人の外見にどうこう言うのもおかしいが、平均以上だと思う。俺の美的感覚が正常かどうかは分からないが。
貴族が使用人を雇う場合、能力が同じなら最終的には見た目で選ぶと言われている。好色とかそのような意味ではなく、料理人は晩餐会などで他に貴族の前に出ることも多いので、主人としては見た目のいい者を揃えたいと思うそうだ。
料理人そのものは女性が多いが、どうも料理長は男性が多いらしい。男性が多いのはそれなりに大変な仕事だからだろう。朝早くから夜遅くまで仕事があり、それに晩餐会が多ければさらに大変だろうから。デニス殿のところはアンドレアスという男性の料理人らしい。
料理長は男性が多いが、その下で働く料理人は圧倒的に女性が多いようだ。うちの場合は料理長を任せられるのがラーエルとアグネスだけだったというのはあるが、任せてよかったと思っている。一応ラーエルを料理長、アグネスを副料理長にしているが待遇は全く同じだ。
その二人を好きとか嫌いとか考えたことはない。そもそも使用人に手を出すのは問題になることもある。それは彼女たちが来た頃にも考えたことだ。
うちは金を作ろうと思えば方法はいくつもある。だが一般的に男爵ならそれほど大人数は雇えないので使用人を増やすことを躊躇う。
特に料理人のように代わりのいない使用人は抜けられると困る。主人と関係を持って子供ができて働けなくなったとしても首を切る訳にはいかない。そうなると新しく料理人を雇うことになる。つまり一人増やさないといけなくなる。だから手を出さない。
「避妊薬はありますよ~」
「だからいつでもどこでも大丈夫ですよ~」
「本当に唐突に現れるな。そもそも俺の頭の中を読むな」
カリンナとコリンナの二人がいきなり後ろから現れた。
「それに子供ができなければ好き勝手やっていい訳じゃない」
「でも好きにやってもできないんですよ~」
「後腐れなしです~」
「お前らは絶対に後腐れがあるだろう」
一度手を出したら余計に絡んできそうだ。
「そもそもどうして二人は俺に寄ってくるんだ?」
「え~っとですね~。私たちはですね~…………あれ?」
「どうした?」
「え~っと……あれ?」
カリンナが首を傾げたまま固まった。悩むところか? ただ単に金が欲しい、貴族の愛人という安定した生活が欲しい、理由はいくらでも挙げられるだろう。
「おいカリンナ、どうした?」
「あれ~?」
「いや、あれ~って言われてもなあ」
カリンナは固まったままだ。
「コリンナ、カリンナはどうしたんだ?」
「え~っとですね~、やろうとしていたこととやっていたことがズレていたことに~、今さらですけど気がついたんでしょうね~」
「何がやりたかったのかは分からないが、適当に立ち直らせてやってくれ」
「旦那様が立てば目を覚ますと思いますよ~」
「いいから向こうに連れていけ」
「は~い」
コリンナはカリンナを担ぐようにして出ていった。何だったんだ?
決まったことは、うちで採れる重くて硬い木材を向こうに運び、うちの職人たちが向こうで技術を学びつつ共同で新しい商品を作るという程度だ。
場合によっては向こうから職人がこちらに来ることもあるだろうが、木材の加工については圧倒的にエクセンの方が進んでいる。こちらに来る利点は少ない。
とりあえずまずは木材について提携ということだが、提携できるなら木材でも琥珀でも何でもいいと思う。協力者ができたことが大きい。
あの重くて硬い木だが、あれは見た目はカシのようだがもっと色が濃いのでカシではないようだが、葉がカシなのでノルトガシと仮に呼ぶことにした。名前が売れればこの領地のことも広まるだろう。
そしてもう一つの新しい変化がある。
「おはようございます、エルマー様」
「おはよう、シビラ。今日も早いな」
「はい、時間は有限です」
シビラが遊びに来るようになった。
男女が遊ぶとなれば普通なら色恋沙汰になるが、この年齢差ならそのような話にはならない。それに遊びに来るとは言っても、ずっと俺と一緒にいる訳ではない。むしろカレンやエルザ、アルマたちと一緒に料理や縫い物を学んだりしていることがほとんどだ。
貴族の場合は料理や縫い物などは使用人にさせることがほとんどだが、たまに家族に料理を振る舞ったり、赤ん坊に自分の服を着せるために針仕事をすることはある。
ニコラ殿からはシビラが迷惑をかけて申し訳ないという手紙が届いている。そしてその中には、シビラが俺に嫁げばすぐ近くで暮らすことになるのでデニス殿は内心はかなり喜んでいるようだと書かれていた。
俺の方は、今のところは申し訳ないが妻として迎えるつもりはないと伝えた。隣の貴族の娘が遊びに来ているだけだとすれば可愛いものなんだが……。
◆ ◆ ◆
「今日はこれを焼きました。どうぞ」
「これは美味そうだな」
シビラは焼き菓子を作っていたようだ。思うところはあるが、わざわざ持ってきてくれたのに適当にあしらうようなことはしない。
「ラーエルさんとアグネスさんにも手伝ってもらいました」
一枚口にすると、ふわっと軽い歯触りがあり、すっと溶けたような感じがした。美味いな。
「二人からは何と言われている?」
「基本は問題ないそうです。ですがこれまで厨房に立った回数が少ないので、回数を重ねればもっと上達するだろうと言われました」
「あの二人の目は間違いないからな」
食材に対する目利きも一流だと思う。俺の味覚が一流でないから確実とは言えないが、たまに面白い食材を渡すと、確実に美味い料理に変わる。
「ところでこれは何という名前の焼き菓子だ? 今まで口にしたことがなかった気がするが」
「カッツェンツンゲという名前だそうです。南部やゴール王国ではラング・ド・シャと呼ぶそうです」
「カッツェンツンゲか……」
楕円形で少々ザラザラした手触りは確かに猫の舌だな。面白い名前を付けるものだ。
「そう言えば、あの二人はエルマー様の食事の好みなら何でも知っていると言っていました」
「まあ好みは伝えているし、いつもある二人の料理を口にしているからなあ」
王都にいる時は無理だが、こっちにいる時は朝晩は城で食べる。昼は外もある。
「他には、やはり見た目は重要なのだろうかと気にしているようでした。まだ美味しいうちに、ぜひエルマー様に夜にご賞味していただきたいとも言っていました」
話の前後が繋がっていないな。女性が集まればそのような話も出るだろうが、子供に聞かせる内容か? しかも一応は隣の貴族の令嬢だぞ。しかもまだ一〇歳にもなっていない。確か今年で九歳だ。
「シビラは意味が分かって言っているのか?」
「何がですか? 料理の話ではないのですか?」
分かってなさそうだ。それはそれで一安心だ。耳年増すぎても大変だろう。
詳しく聞いてみると、どうもシビラを相手にして話した訳ではなく、カレンたちと話しているのを聞いただけらしい。だから余計に話が繋がらないのは不思議ではない。
それからひとしきり俺に向かって頑張っているとアピールすると、カレンたちのところへ戻っていった。
◆ ◆ ◆
あの二人なあ。俺自身が全く美形ではないので他人の外見にどうこう言うのもおかしいが、平均以上だと思う。俺の美的感覚が正常かどうかは分からないが。
貴族が使用人を雇う場合、能力が同じなら最終的には見た目で選ぶと言われている。好色とかそのような意味ではなく、料理人は晩餐会などで他に貴族の前に出ることも多いので、主人としては見た目のいい者を揃えたいと思うそうだ。
料理人そのものは女性が多いが、どうも料理長は男性が多いらしい。男性が多いのはそれなりに大変な仕事だからだろう。朝早くから夜遅くまで仕事があり、それに晩餐会が多ければさらに大変だろうから。デニス殿のところはアンドレアスという男性の料理人らしい。
料理長は男性が多いが、その下で働く料理人は圧倒的に女性が多いようだ。うちの場合は料理長を任せられるのがラーエルとアグネスだけだったというのはあるが、任せてよかったと思っている。一応ラーエルを料理長、アグネスを副料理長にしているが待遇は全く同じだ。
その二人を好きとか嫌いとか考えたことはない。そもそも使用人に手を出すのは問題になることもある。それは彼女たちが来た頃にも考えたことだ。
うちは金を作ろうと思えば方法はいくつもある。だが一般的に男爵ならそれほど大人数は雇えないので使用人を増やすことを躊躇う。
特に料理人のように代わりのいない使用人は抜けられると困る。主人と関係を持って子供ができて働けなくなったとしても首を切る訳にはいかない。そうなると新しく料理人を雇うことになる。つまり一人増やさないといけなくなる。だから手を出さない。
「避妊薬はありますよ~」
「だからいつでもどこでも大丈夫ですよ~」
「本当に唐突に現れるな。そもそも俺の頭の中を読むな」
カリンナとコリンナの二人がいきなり後ろから現れた。
「それに子供ができなければ好き勝手やっていい訳じゃない」
「でも好きにやってもできないんですよ~」
「後腐れなしです~」
「お前らは絶対に後腐れがあるだろう」
一度手を出したら余計に絡んできそうだ。
「そもそもどうして二人は俺に寄ってくるんだ?」
「え~っとですね~。私たちはですね~…………あれ?」
「どうした?」
「え~っと……あれ?」
カリンナが首を傾げたまま固まった。悩むところか? ただ単に金が欲しい、貴族の愛人という安定した生活が欲しい、理由はいくらでも挙げられるだろう。
「おいカリンナ、どうした?」
「あれ~?」
「いや、あれ~って言われてもなあ」
カリンナは固まったままだ。
「コリンナ、カリンナはどうしたんだ?」
「え~っとですね~、やろうとしていたこととやっていたことがズレていたことに~、今さらですけど気がついたんでしょうね~」
「何がやりたかったのかは分からないが、適当に立ち直らせてやってくれ」
「旦那様が立てば目を覚ますと思いますよ~」
「いいから向こうに連れていけ」
「は~い」
コリンナはカリンナを担ぐようにして出ていった。何だったんだ?
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