ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

猫人とは

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 アメリアの家に来ている。ようやく二人で話ができる機会ができた。すべてカサンドラのおかげだ。王都時代から二人は知り合いだったから、彼女が間に立ってくれた。それでもこれまでかなりの時間がかかったが。

「本当にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いや、迷惑がかかったわけではないが、少し心配になっただけだ。二度と話しかけてくれないかと思った」
「そんなことはありません! 私としてもエルマー様とお話をしたいと思っておりました。ですが、頭ではそう思っても、体が逃げてしまいますので……」
「それは頭で考えているのとは違った行動をしてしまうということか?」
「はい。習性のようです。実家を出てから自分なりにいかに暮らすべきかを探しました。そして猫人の習性というものを知り、他人の言葉を聞いても反応しないようにと心がけていました」

 猫人の習性? アメリアにはそのようなものはなかったと思うが。ジルバーヴァインまたたびくらいか?

「猫人の習性とは?」
「まず、興味があることに積極的に関わるそうです。野次馬根性があるとも言われます」
「話に首を突っ込む感じだな」
「はい。ですので耳を押さえて、なるべく噂話などは聞かないようにしていました。そうすれば他人の言葉に惑わされにくくなりますから」

 たしかに以前は耳を押さえて髪の毛を乗せた上で髪飾りをしていた。その上で帽子をかぶっていた。

「それだと聞こえにくくならないか?」
「いえ、元がよく聞こえますので、押さえていても十分に聞こえます」

 聞こえすぎるのも問題だな。

「他の特徴として、やや気まぐれで天邪鬼あまのじゃくなところがあるようです。思っているのとは反対に行動したり口にしたりすることもあるようです」
「つまりはそのせいで俺から逃げてしまったと」
「はい。構ってほしいと頭では思っているのですが、恥ずかしさや気まぐれが原因で、つい逃げてしまいました」
「そうか」

 傷を持つ者同士と言うのは少し違うが、生まれ育った環境で苦労したということには多少の同情をしてしまう。苦労の度合いからすれば俺より彼女の方がはるかに上だろう。

「それなら今後は逃げないということでいいのか?」
「もちろんです。ですが逃げてしまわないように、一度しっかりと捕まえていただきたのですが」

 そう言うとアメリアは俺の方にグッと寄ってきた。

「今さら突き放したりすることはないが、本当にいいんだな?」
「はい。しっかりと抱きしめてください」

 それを断る理由は俺にはない。



◆ ◆ ◆



「それにしても、ものすごい変わりようですね。間に立ったとは言え、これほど変わるとは思っていませんでした」
「それは俺もだ」

 しばらくして様子を見に来たカサンドラと俺は、アメリアを見ながらそんな感想を言い合う。

 アメリアに懇願されて、あれからしっかりと抱きしめた。抱きしめたのはいいが、それまで俺を避けていたのは何だったのかというくらい俺にじゃれついている。今は俺の膝の上で丸まっている状態だ。

 猫人と猫はあくまで耳や尻尾が似ているだけという話だが、これを見れば猫人は猫だろう。喉を撫でればゴロゴロと言いそうだ。

「これまで溜まりに溜まっていたストレスが抜けた結果、おそらくアメリアさん本来の性格が出てきたのだと思います」
「これがか。令嬢然とした姿も悪くはなかったが、これが本来の姿ならこのままでいるのが一番だろうな」
「そうでしょうね。とりあえずアメリアさん、これが避妊薬です。今後エルマー様とされる場合には忘れずに飲んでくださいね」
「ありがとうございます」

 カサンドラは薬師をしながら妻や愛人たちの体長管理という仕事を任されている。その中には愛人たちに避妊薬を渡すことも含まれる。妻たちの出産が終わるまでは愛人とは赤ん坊を作らないということになっているからだ。

 愛人に赤ん坊ができて夜の生活ができないようになれば、さらに愛人が増えることにも繋がりかねない。子供を作らないというのは人としての摂理がどうとか言うつもりはない。作りたければ作ればいい、作りたくなければ作らなければいい。

 妻であるカレンとエルザとアルマが妊娠している今、俺の相手はアンゲリカ、ヘルガの二人で、そこにカサンドラとアメリアが入ることになる。

 まだカサンドラを抱いてはいない。そこまでがっついているわけではないし、焦る必要もない。お互いに一緒にいることを選んだだけだ。

 それに俺は女を抱かなければ死んでしまうとかそのようなことは全然ない。元から性欲が強かったとも思わない。軍学校時代は少々好き勝手やっていた感じはするが、卒業してからは王都でエルザと合うのは年に数回くらいで、その間は大人しくしていた。意図して大人しくしていたわけはもなく、自然とそうなっていた。

 あのころはエルザ一筋だった。今考えれば……青いな。そして今は、自分で言うのも嫌なものだが、気が多すぎる。

 いや、手当たり次第に手を出そうなんて絶対に思わないが、ついうっかりとそういう雰囲気になると流されているような気がする。カサンドラの時とか。それでもカリンナとコリンナには手を出すことはないだろう。あの雰囲気なら流されることはない。

 最初にカレン、エルザ、アルマと立て続けに妻にしてしまったが、それを後悔するわけではない。アルマの場合は多少は乗せられた感はあるが。

 カレンは比較的最初のころから、俺に妻や愛人をたくさん作るように勧めてきた。今は以前と違ってどんどん押し付けてくることはなくなったが、ちょうどいい相手がいるなら愛人にすべし、という態度は変わらない。

 前にその件で話し合ったが、男はたくさん女を抱くもの、たくさん子供を作るものと考えていたようだ。クラースから変なことを教わっていないか? 竜は子沢山というわけではないから、習性ではないだろう。

「それともう一つ、今すぐに必要という訳ではありませんが、猫人の気まぐれをどうかしておいた方がいいと思いますので、その方法をお伝えしますね。後日お二人でなさってください」



◆ ◆ ◆



「もげろ! ホントに!」
「お前の首がか?」
「まあまあ、僕の顔に免じて、せめて首を二二五度くらい捻るので許してやってください」
「ライナー、そうやってこっそりと自分に株を上げるのをやめない? それに半分以上回ってるよ?」

 どうも俺にまた愛人が増えたのをブルーノが小耳に挟んだらしく、それで一言言いに来たらしい。ライナーはブルーノをなだめつついじっている。

「そもそもブルーノの好みってどうなんだ? 俺についてあれこれ言う前にまずそこからだろう」
「僕も聞いたことがありませんね」
「俺の好み? やっぱり話をしていて面白くないとダメだね。性格が合うというのは一番じゃない?」

 それはそうだろうな。むすっと黙っていられてもお互いにやりにくいだろう。

「だからある程度は面白くて話しやすくて、それで一方的にこちらが合わせるんじゃなくて、向こうも自然と合わせてくれるようなら一番だね。金銭感覚とかも同じ方が揉めごとも起こらなさそうだから、条件としては入れたいかな。見た目は普通以上なら問題ないよ」

 難題だな。女性を相手に口にしたら殴られるんじゃないか?

「簡単なことのように言っていますが、どれもこれもなかなか難しいことですよね。それは振られますよ」
「それは俺が悪いんじゃないの。向こうの金遣いが荒かっただけ」
「ポンポン買い与えていただけじゃないですか。財布代わりだったのでは?」
「違うって」

 相手は商家の娘だったそうだが、出かけた時には色々と買わされていたそうだ。そして出費が気になって断ったら振られたと。

 こいつはノリはいいから、いい金づるだと思われただけだろう。ちょっと褒めたらいい気になって何でも買ってくれそうだと思われたに違いない。

「俺が話を聞いただけでも、財布代わりだと思われていただけって感じがするぞ。金の切れ目が縁の切れ目だったんだろう」
「……」
「心当たりがあるなら、次は気をつければいいだろう。それよりも、ブルーノの好みを考えれば、やっぱりエラじゃないか?」
「そうですね、エラ先生ですね」
「そう? そんな感じはしないけど」
「知らぬは亭主ばかりなり、だな」

 無理に二人をくっつけようとは思わないが、性格的にはちょうどいい二人だと思う。似すぎていて違和感があるのかもしれないが、このノリに合う相手はなかなかいないだろう。
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